暴動の芽を摘み取れ・1
暴動を防ぐために向かった先は、ビルの解体工事の現場だったこともあってか一般人の姿はないようだった。
この分なら、ミュータントとの戦いに専念できるだろう。
セイヴァーたちは来るべき戦いに備え、行動を起こし始めた。
【ロディニア華撃団】の前に現れたミュータントたちに、『告知天使』・
ヒルデガルド・ガードナーの持つ槍が向けられている。
「お伝えします。主を信じぬ者は前に出てきてください」
しかしヒルデガルドの言葉を無視し、マシンガンを手にしたミュータントが一斉に銃口を向ける。だが、彼らの銃撃が始まるより先に幻影の蝶が現れると、その鱗粉で視界を塞いでいった。
『紡姫』の
成神月 真奈美は同士討ちを避けようと動きを止めたミュータントたちにステッキを向けると、今度は星芒形の魔力の塊を撃ちつける。その攻撃で固まっていたミュータントたちは、視界を奪われながらも逃げ惑い散開状態となったが、その間に鱗粉で塞がれていた視力は回復したようで、再びマシンガンを向けると銃弾が撒いていく。
それを廃材の影に隠れることでやり過ごした真奈美は、再び魔力の塊を放っていくが、ミュータントは今度こそ攻撃を防ぎながら応戦してくる。
だが、そこへシングルチャリオットに乗り込んだ、『ゆうしゃ』・
私 叫の援護が入る。マシンガンの射程を見極めながら近づいた叫は、勇気の力で形成した拳銃から頭部への狙撃を試みる。距離が遠かったこともあって、頭部を正確に撃ち抜くことは叶わなかったようだが、叫の攻撃で真奈美に集中していた狙いは逸れたようだ。
叫はさらに自身の前に砂礫の柱を生み出すと、銃撃への盾にしながら、砂礫を利用した渾身の一撃をぶつけていく。そして今度は真奈美がそれを援護するべく、手元に形成した弓矢から攻撃していった。
真奈美と叫の連携に、ミュータントはその場に釘付けとなりながらも抵抗を続けていたが、やがて二人の手数に押し切られるように態勢を崩した。
そして、それを待っていたかのようにヒルデガルドが動き出す。
竜巻のような高速回転をしながらミュータントに突進したヒルデガルドは、その勢いを利用した蹴り込みをすると同時に、槍から刺突を繰り出す。単独で突出してきたヒルデガルドに、ミュータントも銃口を向け応戦しようとするが、すかさず真奈美と叫が遠距離から攻撃をするため、上手く狙いをつけられないでいる。
「愛を与えます。悔い改めて主への愛を感じでください……ぬぅん!」
その様子に微笑みを向けたヒルデガルドは、直後、存外に野性的な唸りを上げる。そしてブレイブアタック『この慈しみを貴女に』からの槍の投擲で、ミュータントを仕留めた。
その間に次の相手に狙いをつけていた真奈美は廃材の影から飛び出すと、斧を構えたミュータントに向けて矢を射るが、ミュータントは斧でそれを弾きながら真奈美に向かい走って来る。しかし真奈美は冷静にそれを見据えると、足を狙って弓に番えた槍を射出する。『一寸の槍は一射の矢なり』――真奈美の攻撃にミュータントは動きを鈍らせるが、戦いに支障はないと感じてか、なおも迫ろうとする。
だが、その後方にチャリオットで追いついた叫が、再び頭部を狙って拳銃を構える。放たれた弾丸が肩に当たったことでミュータントの動きがわずかに静止し、そこにヒルデガルドがもチャリオットを走らせた。
「さあ! 皆さん、争いなど止めて主への祈りを!」
ヒルデガルドは歌うように声を張り上げると、その車輪に付いたスパイクに巻き込むようにしてチャリオットを前進されていく。その直撃を受け、車輪に圧し潰されたミュータントはその場に動かなくなった。
敵の数は多くとも、1体ずつ相手にすることでミュータントの脅威を封じた【ロディニア華撃団】は、まだいる敵を探すようにして移動を始めた。
「ギャラクシーチェリー現着! ここから先の狼藉は見過ごしませんよ!」
「同じくジュエルハーツ現着です! 大人しくお縄について下さい!」
八重崎 サクラと、その相棒として現場に赴いた
ジル・コーネリアスは、解体のメインとなっている建物を避けるように移動すると、そこでミュータントを迎え撃とうとしていた。そこは解体に使う道具や資材を保管している場所なのか、ビルに対してかなり小さめの作りとなっていた。
そこにいるサクラたちを見つけたミュータントは、獲物を見つけたとばかりに襲いかかろうとする。
「どうしても暴れるっていうなら力づくでも大人しくしてもらいます!」
その様子に言葉を返しながら、サクラは高速移動を繰り返して戦いに応じる。拳を振るっては距離を離し、また近づいて離脱といった動きを見せれば、自然とミュータントの注意がサクラに引き付けられていく。その間にもう1体のミュータントが出現したが、サクラは鋭敏な五感も利用して対処していた。
「これでも食らえー、です!」
それを援護するかのように、ジルも体内に仕込まれている機銃を乱射をし、ミュータントの動きを制限しようとする。その機銃が弾切れを起こすと、再装填するまでの時間を埋めるようにダーツマインを投げていく。しかし、それはミュータントのいる場所とはまるで違う場所へとぶつかっていき、ダーツは火薬量を増やしていたこともあり、壁や柱にぶつかると大きな音と煙を出しながら爆発を起こした。
これでジルの攻撃は的外れで脅威にならないと思ったか、ミュータントたちはますますサクラに狙いを定めていく。
だが、これはサクラとジルの作戦の一環に過ぎなかった。
(さーて……ジル、そろそろ行けそう?)
戦闘の合間に周囲に視線を巡らせ、他の味方がいないことを確認したサクラが通信すると、
(……大丈夫、他の人はいません、いつでも行けます!)
同じく周囲の確認と、ノーコンと見せかけてダーツマインで建物の構造にダメージを与えていく仕込みを終わらせたジルが、色よい返事をする。
「残念だけどそろそろタイムアップよ、鬼ごっこはもうおしまいにしましょうか」
そして通信を終えたサクラはその場で足を止め、ミュータントたちを見据える。ミュータントたちはそれに違和感を覚えるも、ようやく動きを止めたことを良いことに武器を構えた。
しかしその瞬間、
「吹き飛べっ! ”プレデター・アサルト”!」
サクラは叫びながら、前面に拳を突き出す。拳を食らったミュータントは吹き飛び、背後にあった柱にぶつかって倒れ込む。
「舞い上がれっ! ”フラッフ・フロート”!」
ジルもまた叫ぶと、ミュータントの懐に潜り込み天井まで体を打ち上げていく。
そして2体のミュータントが建物に衝撃を与えたことが契機となり、崩壊が始まった。
「解体料金はサービス、ですよ!」
サクラと予め目星をつけていた窓を開け放ったジルは、一足先に脱出を図る。
「やっぱり脳筋ね……インテリの上司なら多分気付いてたんでしょうけど」
サクラたちの演技や作戦を見抜けなかったことが敗因であると告げながら、その背を追うようにサクラも脱出した途端、建物はミュータントを内部に残したまま瓦礫となるのだった。
幾嶋 衛司は戦いに備え、
ブリギット・ヨハンソンのホライゾンキャリバーにメンテナンスを施している。
今回するべきことは、暴動を止めることではなく防ぐこと。作戦を請け負った立場からすれば、やることに大きな差はないとは言え、暴動を事前に阻止できるというのは最良の作戦だと衛司は思っている。
本当の意味で仕事のできる人間はトラブル自体を起こさないものだからと、冗談めかしてブリギットに伝えれば、ブリギットは笑顔でその言葉を肯定した。
武器のメンテナンスが終わると、二人はいよいよ戦いに赴く。衛司の作戦は至ってシンプルで、目についた手近の敵を標的にすること。
本来であればそのように安直な戦いはしないのだが、ミュータントの特性上、物陰から隙を伺うような戦い方は好まないだろうと考えた衛司は、目立つ敵を積極的に倒す作戦を選んでいた。
そして出現したミュータントたちの中で、最も近づいてきた1体に狙いを定めると、ブリギットは正面から堂々と走り込む。すかさず飛んできたマシンガンの弾を刀身で受け止めたブリギットは、練り込んだ気を纏わせ一息に斬りかかった。剣から繰り出される目にも留まらぬ連続攻撃でミュータントは一方的に圧されているように見えたが、実力はほぼ拮抗していたようで、次第に斬撃が見切られるようになってしまった。
だが、その間に側面へと回り込んでいた衛司が、冷静にミュータントの足や腕を狙った攻撃を仕掛け、援護に出る。衛司の行動に勢いを取り戻したブリギットは、纏った気で攻撃を無理やり封じ込めると、今度こそミュータントを圧倒し始める。
「おっと、いい感じにキマッたかな? これもハニーとの愛の賜物だね♪」
衛司がご機嫌にそう言えば、
「流石はダーリン! おかげでいつも戦いやすいよ!」
ブリギットも笑顔でそれに応じる。
だが、ミュータントには二人の愛に水を差さないという配慮などもちろん存在しないので、再び銃弾がブリギット向けて注がれた。それをまたも刀身で受け止めたブリギットは、衛司が銃から撃ちだした針でミュータントを縫いとめた隙を見計らい剣を構え直すと、『ヴァルハラソード』で武器ごと叩き壊すような渾身の斬撃を繰り出した。
ブリギットの一撃にミュータントは力尽き、衛司とブリギットは再び笑顔で見つめ合う。
だが、先ほど無茶を押した影響は大きく、ブリギットには連戦を戦い抜ける体力は残されていない。衛司はそれにすぐ気づくと、ブリギットを連れて戦線を離脱した。
『バスタースワロー』・
安藤 ツバメは、
マリア・ストライフの操縦するブルースピナーに乗ると、周囲の様子眺めていた。
「……あれかな?」
ツバメたちが見つけようとしているのは、陽動に紛れて人々を浚おうとするミュータント。まずミュータントらしき人影をツバメが見つけると、マリアがその行動をじっくり観察していたのだが、明確な役割分担がされているかどうかの判断はとうとうつけられなかった。
周囲に一般人がいないため行動予測が立てづらいということもあっただろうが、ミュータントは一様に同じ姿をしているので、仮に分担があったとしても見分けるのは難しかっただろう。
やむなく作戦を諦めたツバメは、
「バスタースワローはここに在り!」
ビーストセスタスを構えながら、ミュータントに挑みかかる。そこにマシンガンから反撃が加えられ、ツバメは物陰に身を潜ませ回避を図ろうとするが、「名乗った」分回避が遅れ、早くもハチの巣になる。それでも痛みに耐えて、銃撃がわずかに止んだ隙に、身体が立ち上る銃撃時の煙で分身を作り出し、別々の方向から追撃に出る。敵対者が急に増えたことに対応が遅れるも、ミュータントはすぐに持ち直して迎撃してくる。
「流石はミュータント、戦いにおいては結構厄介だねぇ!」
やがて分身が掻き消え一人になったツバメは、すかさず特殊な呼吸法を用いて身体能力を高めると、一段と素早い身のこなしで銃弾を避けていく。
それに気を取られているところにマリアがブルースピナーで接近していくと、すれ違いざまにシリンダーブローで一撃加え、離れてからは拳銃を作り出して銃撃を仕掛ける。
マリアの強襲によって敵が翻弄されたとみて取るや、ツバメもまた仕上げに取りかかろうとする。ミュータントからの銃弾を、遮蔽物も利用しながら避けていき、また至近まで迫ったツバメは、
「これならどうだ! ソニックスマッシュ!」
そう気合を込めると懐に飛び込み、炎を纏った拳を叩きこんだ。拳が直撃したミュータントはそれで倒れ、後には焦げ付くようなにおいが漂う。
人さらい役のミュータントを探し出すことはできなくても、こうして確実にミュータントを倒すことで阻止にはつながる。ツバメはまたパートナーのブルースピナーの後部座席に飛び乗ると、周囲の観察と分析を駆使して、既にミュータントのいそうな場所に目星をつけていたマリアとともに走り去った。
(暴動に隠れて誘拐をしていたとは……ミュータントらしからぬ計画性です)
ミュータントが人を攫おうとする理由にも思い当たるものが見つからないため、
スレイ・スプレイグの頭には、事件そのものへの疑問が多く浮かぶ。
とは言え、ここで行われる予定の暴動を防ぎきらない事には、疑問が氷解することはないだろう。
セレナ・スプレイグと物陰で変身したスレイは、それぞれに『アームドエヴォル』、『ブラスターステラ』という名のセイヴァーとなり行動を開始した。
現場はちょうど解体工事が行われているビル。となれば、その状況を活かさない手はないだろう。悪魔の力を借り、その翼を広げたスレイは、ビルの高層部へ向かうように舞い上がる。その姿は当然ミュータントにも見つけられることとなり、地上からマシンガンによる攻撃が行われる他に、ヒートアクスを構えたミュータントも飛翔して追いつこうとする。
スレイは地上からの銃撃を遮蔽物で封じつつ、追いかけてきたミュータントには高速回転からの蹴りで地上に落とすと、落ちた先で孤立したミュータントから倒そうと降下する。
セレナもそれを心得ているようで、マシンガンの射線に注意を払いつつ、ブレイクライナーで壁を走って落下地点に急行すると、星芒形の魔力をぶつけて切り刻もうとする。ミュータントは斧を構えて防御すると反撃を試みるが、ブレイクライナーで常に走り回っているセレナを捉えるのは難しいようだ。逆にセレナへ注意を向けているところをつかれ、スレイの拳をまともに受けてしまった。ミュータントは一撃によろめきながらも斧を振り下ろすが、スレイはエヴォスラッシュアームで高熱を帯びた斧を受け流していく。
だが、その間にマシンガンを構えたミュータントの接近を許してしまったようだ。それをいち早く悟ったセレナはブレイクライナーを素早く切り返すと、タイヤを滑らせるようにして足払いをかけて跳ね返した。
これで邪魔者はいなくなったと確信したスレイは、ミュータントが振り下ろした斧諸共壊す勢いの蹴り技を見舞った。純粋に威力のみを追求したスレイの『ブレイクダウン』は、ミュータントの胴体を貫くようにしてめり込むと、容赦なく倒してみせた。
そうしてスレイは、次にマシンガンを持っていた敵に狙いをつけようとするが、その姿は遮蔽物に潜り込んだのか見えなくなっている。しかし、セレナにははっきり居場所が捕捉できていたようで、誘導に従って居場所を暴き出す。物陰から飛び出たミュータントはセレナを狙い撃とうと銃を構えるが、スレイがその弾丸をことごとく受け流してみせた。さらにスレイは受け流す傍ら攻撃を加えることで、ミュータントの抜群の耐久力を徐々に削っていく。
やがて、ミュータントの顔に焦りが見え始めると、その時を待っていたかのようにセレナがブレイクライナーを急発進させる。そして加速をつけたままミュータントに肉薄したセレナは、スレイが体を逸らした一瞬でミュータントの頭上まで飛び上がると回し蹴りを食らわせた。ブレイクライナーの加速にも勢いをつけた『ジェットスラッシャー』は、さすがのミュータントの耐久力でも乗り切れるものではなかったようで、後方に弾き飛ばされるように転がった体はピクリとも動かなくなった。
弥久 ウォークスはビルの出入り口に、周辺にまとめられていた資材を利用してバリケードを構築すると、自らは上階を目指し階段を上がる。
またウォークスがバリケードを設置する間に、
弥久 佳宵も先んじて屋上まで来ていた。
屋上までの階段を途中まで上っていたウォークスは、その間にミュータントが近づいている様子を見つけると、わざとらしく設置されたバリケードに注目される瞬間を待とうとしたが、ミュータントの目的は破壊活動ではなかったためか、そこに視線が向けられるのはわずかだけで素通りされそうになる。
佳宵の方でもミュータントが近づきつつあるタイミングで、蓋を開けておいた栄光の小瓶を茂みに投げ込み注意を引こうとしていたのだが、それもまた失敗に終わっていたようだ。
ミュータントは戦闘民族である。花火程度の音で驚く者は皆無である。
やむなくウォークスは布を巻いて顔を隠すと、ハンドカノンを発砲してミュータントの注意を引くことにした。周囲では既に戦闘が始まっていることから、同じように待ち伏せしている仲間の妨害にはならないと判断したためだ。
そこでようやくウォークスの姿を認めたミュータントは、バリケードを斧で焼き切るようにして破壊すると、ウォークスの姿を追って階段を駆け上がる。それに対して一般人を装いながら、さらに階段を上っていたウォークスは、その途中、死角となる踊り場で変身した。
「皆の可愛いお友達、超犬ビッグ・ドッグ参上!」
しかし、その名乗りを待つミュータントではないため、その分だけ彼我の差を縮められてしまった。危うく屋上にたどり着く前に追い付かれそうになったウォークスは、残りの段差を一気に駆け上がると、予め作成しておいた火炎瓶を階下に投げつけミュータントの退路を塞ぐ。佳宵もそこに煙幕を張ることで火の回りが早いように錯覚させ、ミュータントを屋上へと急がせる。
そうしてウォークスとミュータントが屋上までたどり着く頃には、佳宵も『黒狐のフクス・アベント』と名乗るセイヴァーに変身し、物陰から様子をうかがっていた。だが、単に物陰に姿を潜ませていた行動は見破られていたらしく、真っ先に狙われたのは佳宵の方だった。
気配を消していないのだから、「私はここに隠れています」と自らアピールしているようなものである。
それに焦ったウォークスは、佳宵を庇うように攻撃を受けると、腕を振り上げて反撃に出た。だが、想定していなかったタイミングで受けたダメージに、ウォークスは窮地に立たされる。そこへ佳宵が『シュワシュワポーション(無味)』を発動、水球を生み出しウォークスへぶつけると、斧に斬りつけられた傷が治癒された。
それでようやく持ち直したウォークスはついに攻勢に乗り出すと、渾身の力で拳を振り上げた。お手本のように理想的な姿勢から繰り出されたパンチはミュータントの体にまっすぐ吸い込まれ、そこに『悪魔学エリアル』の力も添えられていたことから、まさしく『必倒の拳』としてミュータントを倒してみせた。
だが、ミュータントを侮っていた代償は大きい。傷は完全には癒えず、これ以上の戦闘は無理と判断すると、ウォークスは佳宵とその場を離れるのだった。
「ここが次のミュータントの発生場所なの? もっと人が集まりそうな場所になるのかと思ったわ」
白波 桃葉は、一般人のいる様子のない工事現場に視線を巡らせながら呟く。だが、拍子抜けした感じはあるものの、その方が戦いに集中できるため都合は良い。桃葉は内心で笑うと、
陸斗・ハーヴェル、
ピノ・クリスとともにミュータントを探し始めた。
桃葉たちはミュータントたちに気づかれることなく背後に回り込むことに成功する。
「魔法少女キララ、華麗に登場☆」
それを好機とばかりに、桃葉は華麗な名乗りを上げながら竜巻のような蹴りでミュータントに先制攻撃する。しかし、「名乗った」以上、ミュータントに気付かれてしまい、竜巻のような蹴りはあっさりかわされ、盛大に尻餅を付く。
スパッツ丸出しのM字開脚姿に、ミュータントたちはゲラゲラと声を大にして嘲笑う。
そんな桃葉に倣ってセイヴァー『エリック』――と名乗るようなことなく、桃葉に注意を向けた隙を狙うようにして、陸斗が淡々と散弾銃をミュータントへ撃ち放っていく。後方に控えた『ぴのっち』ことピノも特に名乗ることなく、むしろなるべく目立たぬようにマジカルボウで援護していたのだが、ピノの力量が最も下だと見抜かれたか、ミュータントの狙いが集中しそうになる。
「ピノは無理すんな。攻撃するとミュータントから狙われやすくなると思うぞ」
しかし、ピノが狙われるだろうことは陸斗も予想していたようで、ロングソードを形成すると銃弾を弾き、ピノを庇うような位置で応戦していく。その隙に
リトルレッドボーイがピノの回復を図り、体力を取り戻したピノは幻影の蝶の鱗粉でミュータントの視界を塞いで妨害する。
視界を塞がれたミュータントたちは一網打尽になることを防ごうと散開し、いち早く視力を取り戻したミュータントから再び攻撃に転じようとする。自身めがけて振り下ろされた斧を廃材を盾にし防いだ陸斗は、そのまま相手を続けようと剣を構える。
一方の桃葉は、遅れて視力を回復したミュータントを相手取ろうと、悪魔の翼で羽ばたきながらその銃弾を躱していく。地上に戻れば廃材を盾にし、上空に羽ばたけば華麗に回避を見せる。
「ほら、私が隙を作るから陸斗も弱らせるのに協力しなさいよ」
桃葉はそうしてミュータントの攪乱に徹し、それを利用する形で陸斗が斬撃や火の塊をぶつけることで、、まずはミュータントを弱らせようと戦っていた。
ピノも二人の戦いを見守りながら、時折、陸斗の側まで駆け寄ると、『ヒールウォーター』を使用して傷の回復を行っていく。
それぞれの役割分担を徹底し続けた成果か、いつしか桃葉や陸斗は受けたダメージが少ないまま、ミュータントをかなり消耗させていた。
そして桃葉は飛んできた弾丸を難なく避けてミュータントに迫ると、
「マジカル☆ ミラクル☆ キラルルル~☆ ミラクルクラーッシュ!!」
呪文を唱えながら渾身の蹴りを繰り出した。呪文を唱えたからには魔法なのだと言い張る桃葉の蹴りは、鳩尾を抉るように決まり、ミュータントはうめき声とともに倒れた。
そして地上で戦い続けていた陸斗も、とどめの一撃に取りかかろうとする。斧を弾き返して隙を生んだ陸斗は、その勢いのままに鋭く斬り返した。『フレイムスラッシュ』という名に由来する通り炎を纏う一撃だったため、金属を溶かそうとする斧の使い手に通用するかの懸念はあったがようだが、ミュータントの残り少ない体力では持たなかったようだ。前のめりに地面に倒れ動かなくなった様子を見て、陸斗は胸を撫で下ろした。
辺りに動ける敵がいなくなったところで、ピノも堂々と桃葉の元に駆け寄ると、『ヒールウォーター』で手当てをする。ひんやりとした感触が動き回った体に心地よかったか、桃葉は気持ち良さそうに笑った。
そうして一息ついた後、桃葉たちは新手を探すことにした。
暴動が起こるとわかっているなら、そこに向かわない理由などない。
「その目的がなんであるとしても、その理不尽で涙を流す人がいるのかもしれませんから。明日を笑顔で迎えるために、悪の敵として……さあ、いきましょうか!」
『パニッシャー・アルコル』――
砂原 秋良は明日の笑顔のためにミュータントを討ち取ろうと、ミュータントの動向を物陰から見つめていた。
大きな暴動が起こっていると見せかけるためだろうか、秋良が様子を見ている間にミュータントはどんどん数を増やそうとしている。集団を形成されるのは厄介だと考えた秋良は、今いる数だけでも相手にしようと物陰から飛び出した。するとバトルコートの見た目はやはり注意を引きやすいのか、ミュータントの視線が一気に秋良へ向けられる。
近づいてきたミュータントが振り下ろす斧を、その後ろから飛んでくる弾丸を、秋良は卓抜した回避で切り抜けると、ビーストセスタスを嵌めた腕に力を籠める。その一撃にミュータントが沈むまでにはならなかったが、秋良は気後れすることなく立ち向かっていく。
ミュータントもまた、秋良の素早さを封じようと包囲網を敷こうとするが、その背後に急接近する者がいた。
ランド・ライダーで一気に迫った
九曜 すばるは、投げナイフを周囲に放ってミュータントを地面に縫い付けようとする。数が多いこともあって、その場にいたミュータント全てに効果を与えることはできなかったが、一時的に動ける数が減っている間にさらに近づいたすばるは、秋良に立ちはだかっていたミュータントを背後から攻撃して怯ませた。
すばるの援護で最大のチャンスを得た秋良は拳を構えると、『メテオハンマー』を放つ。秋良が振るった拳は光を纏い、流星のような軌跡を描いてミュータントにぶつかった。悪を砕こうとする秋良の一撃にミュータントはあえなく倒れ、包囲がほころび始める。
すばるはミュータントたちが体勢を立て直す前にその場を離れると、その後を追うように放たれた銃弾を、ランド・ライダーを使って鉄筋を渡ったり壁を走ることで避けていき、集団の統率者がいないか観察する。
どうやら特別にそうした立場のミュータントはいないようだったが、代わりにひと際ダメージを受けている様子の個体を見つけたすばるは、そこまで一気に近づいて渾身の一撃を叩き込んだ。助走のついた一撃にミュータントはよろめくが、なおも応戦の構えを見せてすばるを狙ってくる。すばるは廃材を遮蔽にそれを躱しながら、またも重い一撃をぶつけていく。そして壁を蹴るように走ったり、周りに残る敵の間をくぐるように接近し、攪乱を加えながら幾度も攻撃を繰り返していけば、ついにミュータントは力尽きた。
秋良とすばるがそうして戦闘を続けている内に、ミュータントの数もまばらになっていく。だが、数を減らしたとは言え、ミュータントの戦闘能力は侮れない。その身にいくつか傷を抱えている秋良とは、ここからが本当の戦いとばかりに気を引き締めた。
秋良が踏み込んだのに合わせ、すばるも鉄筋を伝って高所に移動しナイフを投げていくが、仕留めきれなかったミュータントの弾丸がすばるを貫いてしまった。地上に落下したすばるはすぐに起き上がろうとするが、それより早くミュータントが追撃に移ろうとしていた。
だが、とどめを刺そうと突出したミュータントを狙ったかのように、廃材が倒れ込んでくる。それに勢いが削がれたところへ現れたのは、【紅焔の剣士】・
心美・フラウィア。
戦い続けてきた者の本能か、反射的にミュータントが繰り出した攻撃をクローシールドで受け止めた心美は、足元に転がる廃材を踏み台にその背後まで跳躍し回り込むと、ボイルドブレードから鋭い一撃を撃ち込んだ。さらに目にも留まらない連続攻撃を与えていくと、予め目星をつけておいた廃材に身を隠して攻撃をやり過ごす。
ミュータントは心美が潜り込んだ場所へ銃撃を繰り返してあぶり出そうとするが、心美が注意を引いている間にカーボネイテッドウォーターで力を取り戻したすばるが、投げナイフを操りミュータントの動きを封じた。
「一人も逃す気はないわ! 今までカディヤックヒルの人々へ与えた苦しみを、今度はあなたたちが味わう番よ!!」
それを見た心美は物陰から姿を現すと、剣を地面と水平に構え走り出す。裂帛の気合とともに放たれるのは、『クリムゾンスラスト』。熱帯びた刀身から放たれた刺突はミュータントの胴を貫き、見事に打倒すのだった。
勝利を手にしたすばると心美は、互いを称えあうように頷いてみせる。そこへ秋良が二人の名を伸びながら駆け寄ってくる。秋良もまた、仲間の加勢を得て戦いを切り抜けたようだ。
そして用意してたカーボネイテッドウォーターを心美にも分けると、しばしの休憩をするように座り込んだ。
「脳筋のミュータントどもに気の利いた企みがあるとも思えないけど……今回の件、引っ掛かるのよね。このまま放っておくのは危険かもしれないわ」
「応援を呼んだり自爆みたいな危険はなかったけど……まあそれは考えすぎかもしれないがな。何もなければそれでいい」