■プロローグ■
――ワラセア、ネオ・グランディレクタ共和国、宇宙要塞ラグランジュ近郊
“バナント・ベル”が所有する二隻のドレッドノート級エアロシップを中心に、エアロシップ艦隊がスフィアへの、バルティカ公国への落下軌道に乗って進んでいる
宇宙要塞ラグランジュに迫りつつあった。
「エーデル」
宰相
ナティスは秘匿回線で
エーデル・アバルトを呼び出した。
「私は特異者たちを信じているわ。でも、彼らも十全ではない。なまじ力があるだけに、どこかで慢心や油断が生じるでしょうね。格下と思い込んでいる相手なら、なおのことよ。キャシーやケヴィンがその隙を見逃すはずはないわ。彼らに頼る以上、私たちはそれを飲み込まなければならない。だから私は彼らが失敗したのなら、そのしんがりとして躊躇うことなくトランジッション・ハイパー・メガフォースキャノンを撃つわ」
「遺言は聞いたわ」
「話した通りよ。セリア様にバックアップは渡してあるわ」
「でも……」
「今となっては自分が滑稽でしかないわ。お父様もキャシーも気付いていたのでしょうね」
口ではそう言うが、エーデルの表情は真剣だった。
「生還したら、今度こそ三千界のいろんな世界をゆっくりと回りたいわね。ナティス、三千界は素敵よ、知識と技術の宝庫よ。ゴダムのサテライトパニッシャーにゼストのIF、ユーラメリカのフォーミュラーにアーキタイプの守護者! これらを研究すれば、ケヴィンやキャシーのメタルキャヴァルリィを超える、新しいメタルキャヴァルリィも夢ではないわ!」
「あなたは天才だもの……造れるわ。そのためにも、生きてこの戦いを終わらせましょう」
「ええ」
明るく言うエーデルに、ナティスはそれだけを絞り出すと、秘匿回線を閉じた。
部下の死、上司の死、仲間の死、民の死……テルスにおける命は軽い。戦場に居ようと居まいと、一般人だろうと貴族だろうと、死は常に隣り合わせだ。
だから慣れているはずなのに……どうして目の前が歪んで見えるのだろうか。敬愛するベンクマン宰相が亡くなった時も、こんなことはなかったのに。
ナティスには分かっていたが、今だけはもう少し分からない振りをすることにした。
“バナント・ベル”とネオ・グランディレクタ共和国軍の戦端は、もうすぐ開かれようとしていた。
■目次■
プロローグ・目次
【1】防衛線を突破する
【静から動へ】
【心理戦】
【恐るべき天才夫婦】
【届かぬ火砲】
【強行突入】
【それぞれの決断】
【ドレッドノートを守る為に】
【聖母、力尽く】
【2】宇宙要塞ラグランジュを内部から破壊する
Who will disembark from ...?
How long is left?
What do you want?
Why he fights?
Where are they?
When will the battle end?
【3】バルティカ公国に橋頭堡を造る
【橋頭保建築に向けて】
【敵を釣り出せ】
【計画遂行へ】
【死闘への予感】
【4】Gハイドを手に入れた遺跡の再調査
余蘊(ようん)の地
エピローグ1 信託
エピローグ2