クリエイティブRPG

巌からの挑戦状!

リアクション公開中!

 0

巌からの挑戦状!
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last

 包囲を破って・2
 
(はわわ、同じ妖仲間さんがえらい事になってるのですぅ)
 土方 伊織は幼い瞳に深い同情を湛えると、フリッグ・フェンサリルと一緒に仲間を助けようと駆け出した。
 向かった先では既にブライアン・成田が戦闘を始めており、伊織とフリッグは過去の戦いから続く縁を感じて加勢に入る。ブライアンに向かって高速の体当たりを仕掛けてきた姥ヶ火を大太刀で受け止めた伊織は、そのまま受け流しを図り反撃へ転じようとする。そして大太刀を構え直すと、ブライアンが注意を引き付けている隙をついて岩石や金属をも断ち切る技で迫っていく。小柄な体から生まれたとは思えない重い一撃を受けた姥ヶ火はそれで力尽き、妖怪たちが逃げ出せる好機が作られた。
 そこでフリッグはすかさず妖怪たちに声をかけ、自力で動ける者たちを逃がしていく。持参した扶桑市全図から避難場所にふさわしい場所の目星を付けるつもりでいたが、妖怪の里から扶桑市まで駆け抜けるには距離がありすぎる。ひとまずは霊子端末壱号で他の隊士から聞き出した場所を伝えて急がせると、残った負傷者たちに駆け寄り治療に努めた。フリッグの手のひらから伝わる霊力はたちまち妖怪たちの傷を塞ぎ、移動に支障のある妖怪たちは見受けられなくなった。
 それでもフレッグは不測の事態に備えて妖怪たちと行動することに決め、残るマガカミたちの相手を伊織に任せることにした。
 包囲を崩され妖怪たちに逃げられたマガカミだが、それで引き下がるということはないようだ。なおも向かってくるマガカミと睨みあっていた伊織は、マガカミに関する基本知識から攻撃の予兆に気づきブライアンに注意を促す。その一方で風の刃を周囲に飛ばして牽制も仕掛けていくと、ブライアンが伊織に合わせてマガカミを殴り飛ばしていく。
 その内にマガカミの姿はまばらになっていき、やがて周囲にいたマガカミを倒し切った伊織は、フレッグたちの状況を確認するため再び走り出していった。
 
「もう! そんなに心配しなくても、大丈夫ですわよ」
 唐突に聞こえた声に【扶桑の光】の仲間として集った隊士たちが振り向くと、佐藤 一佐藤 花の姿があった。先ほど聞こえた声は、どうやら花の声らしい。隊士たちはそれで得心したようで、誰かの「どうぞ二人だけで話してください」という声をきっかけにしてバラバラと注意を逸らしていった。
 ちなみに花が声を少し荒げていた理由というのは、これから行う作戦の都合上、どうしても二人が別行動になってしまうことを一が非常に心配していたためだ。
「わたくしの分も頼みますわ。なるべく被害は出したくないですから」
 だが、花の言葉に応えてこその自分だという思いになったのか、一の気持ちは吹っ切れたようである。
 さて、そんな一幕を終えてからは、いよいよ作戦開始となる。小池 千津が仲間に自身の霊力を込めた霊符を手渡す中、ジェイク・ギデスの提案により、まずは避難場所を確定させてからマガカミの包囲を切り崩し、妖怪たちをそこへ誘導するという流れが決まった。
 既に瞬間記憶で周囲の地形や道のりを把握していたジェイクは、得られた情報を元に怪我人や身体的に不利な者でも辿りつけそうな地点を花に告げる。情報を受け取った花は一足先に仲間から離れると、周囲に音の反響を利用した警戒を向けながら目的地を目指していった。
 霊子端末壱号を通じて花の調査が順調に完了したことを伝えられたジェイクは、美空 蒼に斬り込むべき方向を示す。自分の働きがこの作戦の要となることを十分に理解していた蒼は、全力全開全霊を胸に刻んで清流刀・蒼空を握りしめる。そして霊力を自身の間合いに張り巡らせると、
「修祓隊ッ! 蒼ッ! とっつげき~~~っ!!」
 マガカミが群れを成す場所へと斬り込んだ。蒼の突撃を察知したマガカミたちは、気づいた個体から戦闘態勢を取り、行く手を阻もうとする。鈴彦姫が鈴を鳴らして蒼を気絶させようと企むが、それに気づいた蒼は旋風を纏った刃を突きつけて迎撃する。
「そこのけそこのけぇ~~!! おしとーーーーーーーっるぅぅ!!!」
 蒼の勢いは落ちるどころかさらに増し、蟹坊主や姥ヶ火の攻撃を刀や胸当てで受け流し、金属すら断ち切る斬撃で地面に転がしていく。そして、ついに包囲に囚われていた妖怪たちを見つけた蒼は、
「修祓隊が、助けに来たよ!!!」
 心に希望を灯すような笑顔を見せてそう告げるのだった。
 蒼の急襲を受けて、マガカミの包囲には突破口が開かれた。そこから攻め込んでいくのは、マガカミの退治を請け負った隊士たち。【扶桑の光】とともに別のチームも共闘することで一気に戦力は増え、久重サイダーで体力を回復した蒼も引き続いて足止めに加わる。また、彼らの助けとなるように、エスメラルダ・エステバンは神咒を唱えて加護を与えると、アンドレア・トルッファトーレを伴い花の待つ避難所へ先行した。
「手前ら……好き放題、やりやがって」
 足止め担当として戦場に立った一は低い声で呟き道着の帯を引き締めると、まずは精神に干渉しようとする鈴彦姫を倒そうと接近していく。一の接近に気づいた鈴彦姫は鈴の音で対抗しようとするが、一は気合で鈴の音を干渉を打ち破る。そして鈴を狙って烈閃籠手を嵌めた腕を振り上げると、霊力の噴射に合わせて思い切り殴りつけた。一の重い殴打と籠手に宿った清浄な霊力にあてられ、鈴彦姫は土ぼこりを立てて地面を滑る。そこへ蟹坊主が割って入ろうとするが、一は地面を踏み抜き岩を押し出すことで進路を遮っていく。そして身動きの取れなくなった蟹坊主へ、内部に伝わるほどの衝撃を与えて倒していった。
 そんな足止め班を後方から支えるのは、人見 三美。実戦経験が乏しいと判断したため補助に回ったと言うが、鈴彦姫の攻撃への対策を仲間に施し、自身に接近してきたマガカミ相手にも恐れることなく浄化の力を行使する姿からは、三美が戦い慣れていないようにはとても見えない。
 さらには赤足の綿に絡まれ集中攻撃されている仲間に気づくと、機巧霊時計を使って一気に駆け寄り、手のひらに集めた霊力で大怪我すら回復させるのだった。
(彼等に一筋、希望の光――扶桑の光を届かせるために私に出来る事を……!)
 三美の思いは、本人が思う以上に前線に立つ仲間の大きな支えとなっているようだった。
 一方で、前線にもまた自身を未熟と捉えながらも戦う者がいた。
(これ以上の犠牲者を増やさぬよう、皆が少しでも早く死の恐怖から逃れられるよう、全力で護ってみせるのです!)
 一人の力で全てのマガカミを相手取るのは厳しいと考えた星野 空兎は、赤足を標的として戦っていた。他のマガカミと違い、赤足は視覚でなく霊力で気配を感知しているだろうと考えた空兎は、厄除懐中合羽で霊力を隠蔽しながら赤足へと接近する。だが、一般人より圧倒的に強い霊力は隠蔽しきれなかったようで、接近途中で赤足に気づかれてしまった。空兎はすぐさま機巧霊時計の加速で踏みつけ攻撃を回避すると、刀に纏った炎で綿を斬りつけていく。それでも絡まってこようとする綿には、岩石で生み出した槌を振り下ろしていく。刀と違って切れ味というものがない鈍器は、さすがに綿が絡んだとしてもさしたる影響が出ないようだ。
「妖怪たちを護るため、この包囲網……押し通させてもらいましょうか」
 空兎は岩窟が剥がれるまで槌を振り回して接近に成功すると、赤足を溶断しようと刀を振り下ろす。溶断の影響か綿にまで炎が回った赤足は、戦意が失われたように逃げだそうとする。だが、動きを察していた空兎は、それより早く剣を振るい赤足を倒してみせた。
「卑劣なる怪異め、お前達の相手は私だ!」
 壬生 杏樹は姥ヶ火に向かって声を張り上げると、絣の祝詞をあげて異能の行使を妨げようとする。その間に、水瀬 茜各務原 麻衣が杏樹の前に立つ。そして麻衣が、姥ヶ火が行動するより早く凍結の印に包み込んだのに合わせて、杏樹が火の霊力を帯びた弓で狙い撃っていく。姥ヶ火は杏樹に射かけられながらも火の玉を引き出し対抗すると、自身は逃げるように高く飛び上がっていく。しかし、それが麻衣の突風を生み出す霊符に阻まれると、今度はそれまでの距離を利用した鋭い体当たりを仕掛けてきた。それを察知した茜は時がゆっくりと感じるほどの集中力で姥ヶ火の動きに注意すると、姥ヶ火を最大まで引き付けた瞬間に刀を振り下ろす。振り下ろした刀には霊力も纏っており、高速で動くはずの姥ヶ火ですら躱しきれない剣速がその体を斬り伏せた。
 続けて杏樹たちが狙うのは、鈴彦姫。神咒で備えを万全にしたところで挑みかかれば、鈴彦姫も杏樹たちが向かってきたことに気づいて迎撃に移ろうとする。そして頭の鈴をかき鳴らすが、麻衣の静寂のカツガが鈴の音を喰らって不発にさせる。音が消えた原因が麻衣にあると気づいた鈴彦姫は、麻衣を狙った直接攻撃に出るが、麻衣は術式で攻撃を跳ね返し、続けて仕掛けられた攻撃も仁科流で学んだ型で分散させていく。そして鈴彦姫を麻衣が引き付けている間に、杏樹の弓が鈴を狙い落し、霊子噴進靴で一息に迫った茜の刃が鈴彦姫を仕留めてみせた。
 そうした戦いが降り広げられていると、空から降り注ぐように、ミカファール・アルモニーの張り上げた声が聞こえる。空走下駄で上空に飛び上がりながら周囲を俯瞰したミカファールは、マガカミへの知識や観察眼から得られた注意点を周知しようとしているのだ。
 その情報を、端末を携帯している仲間にも送ることで、先に避難場所に向かった仲間たちの助けになるように手を打っていた。
 戦いに先駆け潜能解放し、ミカファールの声を聞いていたルーテンシア・ウォンは、その声が止むのと同時に童子酒を1杯飲み干すと、妖怪たちを苦しめるマガカミ――鈴彦姫を見据える。ルーテンシアの視線に気づいた鈴彦姫は鈴の音を鳴り響かせるが、今のルーテンシアにはその効果が及ばないようだ。とは言え、周りで他の隊士が聞いてしまえば支障が出るだろう。ルーテンシアは鈴彦姫の頭を飾る鈴を掴んで叩き壊すと、霊力で瞬間的に硬化させた拳で体を打ち抜き倒した。
 その狙いは、次に蟹坊主へ向けられる。横移動しかできない蟹坊主だが、以上速度を考えれば非常に厄介である。ルーテンシアはそれを霊力で高めた動体視力で把握すると、機巧霊時計を利用して正面に突っ込む。蟹坊主は対抗手段として鋏を射出するが、その動作を見てから対処することにしていたルーテンシアは、しなやかな動きで確実に鋏をいなす。そこへミカファールの術式が援護に回り、蟹坊主の体は冷気に包まれ動かなくなった。そしてがら空きになった胴体をめがけてルーテンシアの拳がめり込むと、蟹坊主の甲羅は容易く砕かれ地面に伏した。
 蒼の攻撃を皮切りに始まった足止め班の戦いも、どうやら順調に進行しているようだ。ジェイクは手にした端末で、避難場所に先行した花に撤退を始める旨を伝える。すると、花のいる方角から太陽のように輝く光が見えてきた。この光に向かって進めば避難場所が見えてくると理解したジェイクは、自身も含めた妖怪たちの護衛班の行動開始を宣言する。
「おっぱじめようか!」
 そして気合の声とともに潜能解放すると、周囲の隊士との戦闘の余波で弾き飛ばされてきたマガカミの腕を掴んで、地面に投げ落とした。
「邪魔だ!」
 さらに妖怪たちが逃げられそうな道を示すと、彼らの盾となるように立ち回りながら避難を促していった。
「皆! 聞いて!!」
 ジェイクとはまた別の場所では、囚われの妖怪たちに向け月音 留愛が叫んでいた。
「皆の安全は! 私達が守るから!! 絶っっ対に、諦めちゃダメ!!」
 小柄な体のどこにそんな声を出す力があるのかと思うほど留愛は懸命に声を張り上げ、それが妖怪たちを勇気づける。
「頑張ろ、皆!!」
 それは自分自身にも言い聞かせるような切実さも感じられるようで、妖怪たちは留愛の思いに応えようと脱出を目指し始めた。留愛は妖怪たちの護衛に先駆けて白の式神も召喚し、待機させる。その近くでは、ヴェリーヌス・マキュラが留愛の愛ある応援をサポートしようと位置取りしていた。そこへ、妖怪たちを逃がすまいと赤足が現れる。ヴェリーヌスがすぐさま周囲に視線を向けると、逃げ道を塞ぐかのように綿が絡みつこうとしているのが見えた。ヴェリーヌスは一織流の型を描き、刀に霊力を込めて赤熱させると、刀が乱した磁場に引き付けられた綿を焼き切ろうと一閃する。その斬撃で綿は愛のように燃え上がったかと思うと燃え尽き、留愛とヴェリーヌスは切り開かれた箇所から妖怪たちを次々逃がしていく。
 しかし、今度は蟹坊主まで現れ逃走を阻もうとする。射出された鋏をヴェリーヌスが赤蜻蛉で受け流していくと、留愛は灯狐の呼符から狐の式神を喚び出して援護に向かわせる。そしてその霊符自体から凍結の術式を発生させ動きを封じると、待ち構えていたヴェリーヌスが確実に止めを刺していった。
 こうして妖怪たちは次々脱出を図っていくが、負傷している者たちは動けず残ったままだ。その妖怪たちに危害が加えられそうになるのを式神と一緒に食い止めた留愛は、
「大丈夫、私達に任せて」
 そう言ってえがおのまほうを半分手渡し微笑むと、霊符で作り上げた窓を開放し、千津に預けていた霊符の元に送り出す。そして、その間は行動が制限されてしまう留愛を守るように、ヴェリーヌスがマガカミに立ちはだかり戦い続けた結果、負傷していた妖怪たちは全て送り出すことができたのだった。
 避難の道中で妖怪たちと行動をともにしていた千津は、負傷しているものの動けない程ではない妖怪たちを救急セットで手当てしていた。と、そこへ留愛の霊符を窓として送り込まれた妖怪が姿を現す。そうすることを予め伝えられていた千津は彼らを受け入れると、その体に手を触れてたちどころに癒していく。しかし、千津の力では完全に傷を治すことはできなかったようで、
「すみません。私の力ではこの程度の事しか出来ません」
 気弱な表情を見せてうなだれた。それでも、すぐに気を取り直して妖怪たちを治療すると、
「これを食べて元気をだしてくださいね」
 子供の妖怪にぎうにうとあんぱんを差し出し元気づけ、避難場所まで送り届けるのだった。
 妖怪たちが辿り着いた避難場所には、端末で状況を把握していたエスメラルダが待ち受けていて、負傷の状態を確認しようとする。足止めや護衛をする仲間たちが戦っている間に、エスメラルダも八乙女舞で周囲を清めていたからだろうか、今のところはマガカミが寄ってくる様子は見受けられない。だが、そうは言っても油断しないに越したことはないと考えたアンドレアは、
「姐さんが確認していたから大丈夫だろうが念のため、ということもあるからな。余計なものが来ないように見ているぞ」
 姐さんと呼び慕っている花に敬意を示しながらも、周囲の警護に努めていた。
「よく頑張りましたね。里や千春様はきっとわたくしたちの仲間が取り戻してくれるはずですわ。まずは少しお休みになって里を建て直す力を蓄えましょう」
 エスメラルダはアンドレアの気遣いをありがたく受け取りながら、妖怪たちに巣くっていた不浄を取り除いていく。エスメラルダの癒しと言葉に救われた妖怪たちは、そこでようやく緊張から解き放たれた思いを味わった。
「平和に普通の暮らしを営む者たちをこのようにただ己の欲だけで壊してしまう。なぜ『七難会』と呼ばれる者たちはこのようなことが平気でできるのでしょう」
 エスメラルダが漏らした呟きは、きっと彼女だけが思う疑問ではないだろう。それでも、今この時だけだとしても、確かに【扶桑の光】はその脅威から妖怪たちを守る盾となっていた。
 
 時は少し遡る。
 【扶桑の光】がマガカミの足止めをしていた頃、【紫鷹隊】を名乗る隊士たちも戦いに協力していた。
 ただし作戦の方向性はやや異なり、妖怪たちが逃げ出すまでの足止めではなく、彼らが逃げやすいよう自分たちにマガカミを引き付けるというものだった。
「任せたわよ、二人とも」
 柳 綺朔は引き付けるための場所を見極め、誘導する役を担う篠田 櫻子――胡蝶と東雲 皐月にそう声をかけ肩を叩くと、その接触を通じて霊力の増強を促した。
 綺朔の言葉に、皐月がしっかり頷き走り去っていく。胡蝶もそれを追うように走り出そうとしたが、その足はふと止まり、綺朔の背後に建つ社に視線が注がれた。それは胡蝶が幼い頃、友と遊んだ記憶を象徴するものだった。長らく帰らなかった故郷ではあるが、それでも思い出の詰まったこの場所を、マガカミと戦う舞台にすること自体を決めたのは胡蝶自身である。そうする必要があったからと言っても、感傷が全くないはずなどなかった。それでも胡蝶はそれを振り払うように頭を振ると、皐月の姿を追いかけ立ち去った。
 皐月と胡蝶を見送った綺朔は、二人が戻ってくるまでにできることをしようと草薙 瑠璃に目配せする。そして瑠璃が周辺を警戒する中、神に捧げるための舞で社を中心とした場を清めていった。
 警戒を続けながらも主と仰ぐ綺朔の八乙女舞をちらりと見た瑠璃は、不慣れとは思えない動きに感心し、思わず側にいた畑中 凛に同意を求める。しかし、問われた凛は真面目な表情を崩そうともせずに警戒をしていたので、どうやら聞こえなかったようだと判断した瑠璃は追及を諦める。ただ、どことなくその耳や頬に赤みがさしているような気もしたが、わざわざ指摘することでもないだろうと考えてやめたのだった。
 その頃、皐月と胡蝶の方では、誘導の目標としていた姥ヶ火を見つけていた。誘導の主役を担う皐月に注意が向きやすいようにと、胡蝶が避縁の煙管を香炉のようにして焚いたのを見届けた皐月は、白の式神を召喚し姥ヶ火の注意を引こうとする。初めは香炉の香りを避けようとしてか、皐月たちを敬遠しそうになっていた姥ヶ火は、白の式神の性質に引き付けられたか徐々に皐月へ近づいていく。そこへ、びらびら簪を見せつけるように振ってみせると、姥ヶ火たちは今度は明確に皐月を狙い迫ってきた。活霊の面が霊力の消耗を抑えているので、式神がすぐに消滅することはないと考えた皐月は、まずは綺朔たちの待つ場所まで戻ることだけを考え走っていく。胡蝶もそれを助けるため、最短となる道筋を皐月に伝えながら併走し、二人はついに仲間の元まで帰還した。
 皐月と胡蝶を待っていた綺朔は、既に戦いに備えて矢を番えており、その矢は正確に姥ヶ火を貫いた。予め周囲を清浄な空気で満たしていたことも影響しているのだろう、姥ヶ火の動きには緩慢な様子が見られ、逆に【紫鷹隊】の隊士たちの動作は軽やかなものとなっている。
 それでも姥ヶ火の速さには油断ならないものがあり、皐月が召喚していた白の式神は火の玉に当たって弾けてしまう。だが、それで動きを封じられたところを狙って胡蝶が接近し、姥ヶ火の内部に衝撃を与えて撃破する。そして別の姥ヶ火からの攻撃を羅刹の歩行術で油断なく避けると、一転して全身の筋肉を弛緩させてから潜能解放をする。醜さを感じてしまい好きになれないという、背中から蜘蛛の足を生やした姿に変化した胡蝶は、その姿で力を振るうことが里の守りとなるならばと、体当たりを仕掛けてきた姥ヶ火を迎撃しようと煉獄を突き出す。胡蝶の振るった棍棒はその身を易々と貫通し、地面に叩き落した。
 状況は乱戦のようになってはいるが、簪の影響で狙いは相変わらず皐月へ大きく集中している。飛んできた火球を術式で反射した皐月は、自らの力が跳ね返され弱った姥ヶ火を、稲雀から発生させた冷気の中に包んで封じる。そこへ瑠璃が迫ると、刀に帯びた冷気で姥ヶ火を一気に斬りつけ退治した。
 そして瑠璃は空走下駄で姥ヶ火と同じ高さまで飛び上がると、体当たりを受け流して冷気を纏った刀で斬りつける。瑠璃によって地面に落ちた姥ヶ火は、なおも瑠璃へ攻撃を仕掛けるが、皐月が岩の術式で作り出した獣がそれを阻んで瑠璃に反撃の好機を作り出した。そこで瑠璃は姥ヶ火に向かって刀を振り下ろすと、その勢いと霊力に力を得た切り上げを食らわせる。避けるのが困難なほどの速さで振るわれた斬撃は確かに姥ヶ火を捉え、その体は力尽き動かなくなった。
 仲間の奮戦を見ていた凛も、それに触発されたように攻勢に出る。姥ヶ火の弱点を探ろうと意識を集中させ、大まかな性質を捉えた凛は、紫垣流の基礎となっている型をなぞって身体を頑強にすると、動物のように変化させた脚で火の玉を巧みに躱していく。そして空走下駄で上空にいた姥ヶ火の正面に出ると、拳での殴打と霊力による衝撃ををぶつけて姥ヶ火を地面に転がした。その姥ヶ火は凛の攻撃を喰らいながらもまだ歯向かう意思を見せ、火の玉を引き出そうとする。しかし、その気配を察した綺朔が矢を放ち、攻撃を相殺する。その隙に再び姥ヶ火の前に立った凛は、今度こそ止めを刺すのだった。
 こうして【紫鷹隊】に誘き出された姥ヶ火たちはその数を減らしていき、【扶桑の光】が妖怪たちを逃がす手助けをしていった。
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last