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ヒロイックアース・サミット

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ヒロイックアース・サミット
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 アイドル達は、マナPの計画を阻止するために聖歌庁の特別聖堂へと集まった。
 客席には百人の人質と、最前列の中央にマナPが座っている。



「開始前に、ちょっといいか?」

 プロデューサーの夏輝・リドホルムが、マナPのもとを訪れた。
 マナPは笑って「どうぞ」と言い、隣の人質を立たせて席を勧める。

「お気遣い、感謝する」

 【令嬢の嗜み】で立ち居振る舞いに気を配りつつ、席へ着いた。
 スパイシーでタイトな黒の燕尾服『Grace』が、リドホルムをより紳士に見せている。

「まず、シヴァを知った経緯を訊いても構わないだろうか」
「やだ、いきなりそんな語らせたがりますかぁ?」

 マナPが頬に両手を当ててくねくねするが、そんな質問も想定済だというような余裕があった。

「そう、彼は私の光だったんです。
 なにもない空虚な暗闇のなかで、私の道標となってくれた尊い光……♪」
「成程……彼のどこに共感できるのか、ということも教えてくれないか」
「共感というか、ただただ好きなんですよ……顔も良いし!
 好きな人の活動は応援したいじゃないですか♪」
「そうか、マナPにとって、シヴァはとても大切な人なんだな」

 リドホルムは聴く姿勢に徹し、合いの手を入れつつシヴァの話を幾つか振った。
 なにか確信のような事柄を得ることはできなかったが、話せる雰囲気はできあがった。
 場が温まった処で、本題はここからである。

「マナPの気持ちは、なんとなくだが分かった気がするよ。
 だが、世界をプレゼントする、という考えは危ういな」
「危うい?」
「あぁ、危うい。
 シヴァの目的は、より良い世界の剪定だ。
 誰かにお膳立てされた物を渡され、喜ぶ男だろうか」
「ふーん……どうしてファンでもないあなたにそんなことが分かるのですか?」
「実際にシヴァと戦ったひとりだからこそ、分かるんだ。
 彼は自らの目で見極め、試し、育むことを良しとする傾向にある。
 本人の意向も確かめず統合して「完成」させてしまえば、それ以上の発展は望めない。
 それ以上どうにもならない世界を気に入るかは、大きな賭けになるだろう」

 そこまで言って、リドホルムは【高潔の夜霧】を発動させた。
 辺り一面が、凛と澄んだ夜闇に包まれる。

「これは元々、烏扇殿由来の技巧だ。
 しかしいまでは、誰でも体得可能となっている。
 さまざまな世界を経て、アイドル達が昇華したからだ」

 『【スタイル】インフルエンサー』と【ネゴシエーション】や【ダイレクトマーケティング】を活かし、
 マナPの関心を惹きつつ、具体例を示すリドホルム。
 頭の回転速度も『【スタイル】ウィザード』で速くなっているし、夜霧で言葉の重みも増している。

「完成を急がず、小世界ごとで研鑽させ熟成させた方が利口だろう。
 未来の可能性は、これから仲間達がライブで示します」
「可能性、ねぇ」
「貴女の計画は、推しに手編みのセーターを見繕うようなものです。
 何故、絶対に喜ばれると思えるのですか」
「そこまで言うなら、見せてもらいましょう。
 あなたの言う、可能性とやらを」

 マナPにたいして、リドホルムは敢えて挑発的に笑ってみせた。
 プロデューサーとして、仲間達を信じているから。
 仲間達のライブは素晴らしいと、自信を持っているから。

「時間をとっていただき、感謝する。
 キミも、席を貸してくれてありがとう」

 ライブへの期待値を高めた今回の交渉は、成功と言っていいだろう。
 丁寧に礼を述べて、リドホルムはステージ袖へと姿を消した。



 さぁ、ヒロイックアース・サミットの始まりだ。

「【拡散希望】【超・重大発表!】グランスタ現会長・マナPからの火の玉ストレート!」

 テンションの高い声が、特別聖堂に響き渡る。
 宙に浮かぶ立派な赤カーペットの上を、写楽屋・俳月が歩き始めた。

「『【スタイル】インフルエンサー』でお送りする、写楽屋俳月の生放送!」
「『【スタイル】ディーヴァ』の歌川響もいるぜ」

 地上では、歌川 響が人質達に手を振っている。

「『スタジオフェスタ』のみなさん、そして番組をご覧のみなさん!
 今日はここ、聖歌庁の特別聖堂でヒロイックアース・サミットが開催されるんだよ!」

 世界を越えての生放送はできないため、スタジオフェスタへの呼びかけは録画放送用だ。

「詳しい経緯はスタジオフェスタやボクのアカウントから配信中の、授業や仕事の内容をCheck it out!」

 面倒な説明は省きながら、カーペットの階段を下りてくる俳月。
 響と合流して、マナPにマイクを向ける。
 BGMは、俳月の持ち曲である『TO【愛の盆栽味】』だ。

「これからマナPに突撃インタビューしちゃいます!
 出逢った直後に即質問!
 ねぇマナPさん、フェスアイス【愛の盆栽味】って知ってる?」
「なんですか、いきなり……」

 訊かれていることが分からなくて、マナPは眉を寄せた。

「端的に言うとね。
 今回のサミットをする上での準備不足が、もしかしたらマナPにもあるんじゃないかな、っていうことなんだけど……。
 そもそも、地球に残す価値ってある?」
「恋焦されたマナシジャさんよ。
 アンタが広報してくれた三千界統合機関とシヴァ「様」のこと。
 そんで、かの方が進めている「世界新秩序計画」について調べたんだ」

 今度は響が、マナPに話しかける。

「世界のために必要なもん使う、不要なもんを切る、アリじゃね?
 むしろ理に適ってる。
 目的の為のスクラップアンドビルドは物事の常。
 あたしの知ってる神話じゃ、乳海攪拌でブラフマーやビシュヌだってグルさ」

 マナPの行為に、一定の理解を示す響。

「ただ……」

 だが言葉を切って、マナPをまっすぐに見詰め直す。

「ただ、疑問がある。
 シヴァ様のトップヲタのアンタをして、芸能界の創世記に名を残すようなアンタをして、だ。
 現代でも世界の趨勢に関わった一勢力・グランスタの頂点ぶんどれるようなアンタがさ、
 なんで烏扇のオッサンの一言で
  「それは大変興味深いご意見です」?
  「少しだけ聞いてあげてもいいですよ」?
  「推しくんへのプレゼントに悩む時間って、愛にあふれていて何より幸せですもんね」
 ってなる?
 答えるまでに間あったよな?
 第一、悩むってどーゆー事だ?」

 他人の言葉で保留にするようなマナPの行為は、つまり。

「アンタさ、もしかして世界新秩序計画に沿う各世界の価値あるものの抜粋の仕方。
 つまるとこ、シヴァ様の好みわかんねぇんじゃねぇの?
 アンタが変える事で、価値あるものが、逆に価値をなくしちまう不安があるんじゃねぇの?
 「地球の人や資源は出来るだけ損なわず、より価値ある世界に高めようとしてる」んだろ?」
「マナPさんにとっての、というよりは、マナPさんが贈りたい相手のシヴァさんにとっての、
 価値ある世界・価値あるものってどんなものかな?」

 畳みかける響の言葉を、俳月がもう一度、ゆっくりと言い換える。

「そりゃあ、世界一格好いい彼に相応しい完璧な世界じゃないですかねぇ?」

 うっとりするマナP……だがやはり、いまいち要領を得ない。

「それぞれのままなら内在してる価値もそのままだけど、マナPが剪定する事で千国みたいな破壊すべき対象になったりしないの?」
「可能性は、否定できないかも知れませんね」
「なら、すべての世界をそっくりそのままあげた上で、シヴァさんに剪定をしてもらえばいいんじゃないかな?
 価値がなかったら残らないだろうし、地球の存在があって始めて機能する価値なら組み込まれる」
「そーゆーこった。
 いっそそっくりそのまま、選ばずぜーんぶ、シヴァ様にプレゼントしようぜ?」
「そうですね、これからの余興次第、でしょうか。
 駆け引きがしたいのなら、私を屁理屈で否定するよりも根拠を示して貰えます?」
「ま、いいけどな。
 あたしもシヴァ様に贈る世界をみてみてぇ」

 ひとしきり話した響と俳月は、会場を見渡せる場所からの生放送を続けることにした。



 ステージ袖に、最初に登場するアイドル達が揃った。

「マナシジャ、つまりはカーマデーヴァであり、マーラとも同一視される神性ですか。
 欲望を肯定する存在なら、仲良くなれそうなものですが。
 シヴァに与するものとあっては、あまり気楽に相対できる相手ではなさそうですね」

 エプロンの紐を背中でくくりながら、焔生 たまは告げる。

「「シヴァ」の名をまた聞くとは思わなんだ。
 しかも聞いたところじゃ、統合機関よろしく、世界の統一を図ろうとしてる、と。
 勘弁してくれっての。
 俺ら特異者がどんだけ命張ってケリつけようとした案件だ、って話だよ。
 しかもここフェスタじゃ、フェスタのルールに則らんと特異者も動けん」

 キョウ・イアハートも、不満を口にしながらエプロンを首から提げる。

「わたし達は、わたし達の全力を尽くすのみです。
 <蒼の鍵守派>、いきましょう」

 納屋 タヱ子の言葉を合図に、さんにんはステージへと姿を現した。
 中央で立ち止まったタヱ子は、マナPに向かって口を開いた。

「小世界を排してつくり上げた地球を差し上げ物にしようなど、愚かな事です。
 シヴァと相対して、その場でトドメが刺されるまでを見届けたわたしは知っています。
 貴女と同じく切り捨てようとした雑多の集まりに、自身の知らない力に、シヴァは敗れたのです。
 完全であるが故に不完全に負けた彼は、アイドルとして修業をし直しているのでしょう」

 たまとキョウは、いまのあいだにステージ上の道具や食材を整える。
 自分達のライブが滞りなく進むように、位置を変えたり、並べ替えたり。

「わたし達を「害悪ファン」と謗る……わかっていないようですね。
 あれはシヴァから予告して攻めてきた、いわゆる対バン。
 わたし達は<蒼の鍵守派>、おおまかに言えばアイドルグループです!
 所謂「箱」です!
 トップオタを名乗るなら情報収集はきっちりとしておくことですね!
 ――それと。
 小世界の生きとし生ける者達は生ものです。
 アイドルに生ものの差し入れはマナー違反ですよ」

 動機の口上をぶつけ、タヱ子はマナPの注意を一身に惹きつけた。
 『【スタイル】食皇』として、タヱ子はステージ中央の調理台の前に立つ。
 たまの【ライティング指示】で、タヱ子の手許がライトアップされた。

「わたし達のクッキングアイドルパフォーマンスをご覧あれ!」

 【万世大漁】を発動すれば、タヱ子の背後に大きな波の幻影が出現する。
 ざばーんと波が落ちて人質達やマナPの視界がひらけると、鯛やヒラメの幻影が泳いでいた。

「無駄ですよ、アルカ。
 料理に水を差す真似をしなければマナPが負ける、と思って妨害してるんですね?」

 イドラシクレシィであるタヱ子は、アルカへの牽制も忘れない。
 幻影のなかに、タヱ子はパスタと化した『フライング・タリアテッレ』を放る。
 【ハイ・ジャンプ】しながら、『妖包丁・國幸』での【ナイフディーリング】を披露。
 パスタと魚介が、直下の鍋とフライパンに落ちた。

「幻影の【万世大漁】では食材が落ちない?
 ごもっともなご指摘です。
 実は、演出の陰で『海鮮ドレス』からいくらやうにを瞬時に落としていたのです」

 フライパンには、あらかじめつくっておいたホワイトクリームが入っている。
 うにを潰しながら、濃厚なソースを炊きあげた。
 茹であがったパスタは、地球という料理を支える小世界。
 飾り付けに、天頂にうにといくらと彩りを足すチャービルを添えれば、完成だ。

「こちらもできましたよ」

 ステージ下手寄りの、たまの調理台には『禁断のアップルクレープ』が並んでいた。
 『デミ・ドラグリオン』を、熱を宿すペティナイフに創りかえたのは『【スタイル】ゴッドチャイルド』の能力だ。

「神話に曰く、知恵の実であるリンゴを、
 竜の熱と食皇の刃捌きでスライスすると同時に焼き上げ、
 しっとりとしつつも香ばしさを引きだした一品です」

 料理についても、【ダイレクトマーケティング】の話術で解説することを忘れない。

「食材と、それをもたらした全ての世界への感謝を込めて切り分け、焼きました。
 その至高の焼きリンゴを包むのは、カスタードクリームと焼きたてのクレープ生地。
 シナモンによって奥行きを増した香りが、食欲をそそるでしょう?」

 ステージ上手には、花柄の布がかかった机と、椅子がセッティングされている。
 キョウが着席すると、タヱ子の海鮮パスタとたまのアップルクレープが並べられた。

「濃厚なパスタの後、クレープが口の中でどのように味を変化させるのか……ご賞味下さい」

 勿論、マナP、人質、そしてアイドル達にも、料理が振る舞われた。

「……海鮮パスタか。さっそくひとくち」

 キョウは、フォークでくるくると巻いたパスタを、口へ運んだ。

「……!!」

 そして舌に載せた瞬間、【ハイ・ジャンプ】を発動して椅子からぶっ飛んだ。
 『【スタイル】アクター』として、演技に一切の妥協はなし。
 マナPの気をちょっとでも惹くために、違和感のない演技を見せつける。

「ええ……そこまでですか!?」
「これは!?」

 半信半疑ながら興味を示した様子のマナPにかまわず駆け戻ると、
 キョウは倒れた椅子には目もくれず、もう一口、パスタを食べる。

「麺はタリアテッレ、太めなタイプ。
 ラグーやミートソース系と合わせるのがいわゆる「無難」だが、
 ウニやイクラと、それぞれが「自己主張」する食材を合わせてきたか!」

 キョウなりの言葉で、世界がバラバラ「だからこそ」の可能性を伝えていく。
 そして感動を表現するように段々と声を大きくしてからの、【フレーズトゥユー】。

「まずなにより「くどくない」!」

 キーワードははっきりと、会場にいるすべての者の耳に届いた。
 料理の感想は【発破掛け】を用いて喋ることで、アイドル達を励ますことを試みる。

「濃いソースとタリアテッレを合わせるのはたしかに定石のひとつだが、ホワイトソースとウニの匙加減のよさよ!
 適当になんでも合わせただけじゃバランスもなにもなく、味にくどさが出てきちまう。
 イクラもその食感と風味をもって「個の存在感」を主張してる……ああ、これを欠いちゃ味の幅を欠いちまう。
 そして彩りのチャービルももってこのひとつの作品が「和」を生んでたわけだ」

 呑み込むと、今度はアップルクレープの皿へと手を伸ばした。

「〆のスイーツも欠かせない。
 和の「広がり」を綺麗に結ぶからな」
「管理は煩雑になろうとも、それぞれの食材の産地は守り、生み出した環境に感謝しなくてはなりません。
 例え同じ品種だとしても、ひとつところで育てても産地が違えばそれは別物なのです」

 アップルクレープの材料は各世界から吟味してきたものだと、たまが明かした。
 これは、さまざまな世界の存在から成り立っているデザートなのだと。

「……」

 みんなのお腹が満たされるまで、【食神降臨】したタヱ子は、無言で腕を組んでいた。
 キョウの食レポには半信半疑といった様子だったマナPも、料理を口にして小さく頷いたように見えた。



 ステージの片付けが済んだら、お次は山内 リンドウの登場だ。

「朝食後の運動ですわ。
 皆様もどうぞご一緒に、わたくしと歌って踊りましょう!」

 『【スタイル】半妖』で妖怪の特徴をその身に宿し、怪しく微笑んだ。
 次第に、会場中が夕暮れのように赤く染まる。
 リンドウが【逢魔が時の鬼遊び】を発動したのだ。
 同時に【立枯レ蓮華】を次々と咲かせて、人質達とマナPを心地よいほろ酔い気分にさせる。
 大小さまざまな大量の鳥居をくぐり、あちらこちらへ渡り歩くリンドウ。
 笑ったり驚いたり、握手を求めてきたり、人質達の反応もさまざまだ。
 そのうち【朧月夜の御神渡り】を発動させて、月夜を呼び寄せる。
 煌々と輝く満月が、鏡のような水面に変化したステージへと映り込む。
 『≪星獣≫オカリナネズミ』のウタの旋律に載せて優雅に踊れば、波紋や小さな水しぶきが起こった。
 水しぶきは、そのまま【氷花招来】で氷の花となり、軌跡を刻む。
 満月が沈むと、黒と氷の花が残るばかりとなった。
 明るくなったステージに、リンドウは『RAIJIN神輿』を運び込む。
 現れた人影の幻影が、神輿をわっしょいわっしょい担いでステージ上を練り歩く。
 人質達も「わっしょい」に呼応し、人影と交互に、元気に叫んだ。

「マナP様。
 これらのパフォーマンスは、地球の文化だけではつくりえませんの。
 空を飛ぶのも、魔法を使うのも、地球では難しいのですわ。
 小世界を統合するとか、理由が推しへのプレゼントだとか、わたくしには分からない世界です。
 ですが、同じ言葉を話しているのですもの。
 きっとご理解いただけると、わたくしは信じておりますわ」

 スカートの裾を少し持ち上げて、リンドウは終演の挨拶をした。



 ステージへ上がるや否や、熱い曲が鳴り響く。

「ファンの皆もマナPさんも……推しを思う気持ちは本物で素敵!
 萌え……いえ、燃えちゃうわ!
 考えることが出来なくても、わたしの考えを聴くことはできるでしょう?
 だから……わたしの考えも聴いて欲しいの。
 世界が無数にあるからこそ……無数の輝きが待っているということを!」

 早花木 みゆは早速、とっておきの一曲を歌いあげる。
 徐々にテンションのあがってきた人質達は、みゆの歌に合わせて手を振った。

「夢の国から来たアイドル。早花木みゆです!
 今から少しの間、もしもの話、わたしの見る夢を一緒に見てくださいっ」

 『ハーモニーケーン』が、みゆの歌を幾重ものコーラスとして発する。
 重なる音は幻想的な雰囲気を演出し、人質達を夢見心地にさせた。


 ある所に少女がいました
 灰色の日常に埋もれている少女は
 異世界で自分が輝く夢を見ていました

 ある日、少女の夢は現実になりました
 色々な世界を旅する少女には
 灰色の日常に埋もれていた頃の面影はありませんでした

 十人十色という言葉のように
 一つひとつの世界が違う色を持っているからこそ
 様々な色に触れることが出来て
 色々な輝きを手にすることが出来るのです

 わたしも
 あなたも
 あなたの大切な人も


「……今あなた達が見たものは、わたしの紡いだ夢物語。
 【君に贈る白昼夢】でした」

 眼を伏せて、軽く会釈をするみゆ。

「でも、全てが夢という訳ではないのよ。
 わたしのこの想いも本物。
 異世界への憧れ、扉を開けた時のわくわく感……見て!
 わたしのこの大きな翼!
 キラキラ光る衣装!
 ひとつだけの世界じゃ決して手に入れられないモノ。
 特別だからこそ輝いて見える……このドキドキした感情を」

 そしてみゆは、感情を爆発させた。

「【フワリ・ハート】で、この想いを乗せてあなた達に届けるわ。
 さあ目を覚まして。
 わたしの気持ちに応えて」

 【許容のクラリティクライマックス】で、みゆは想像の自分を光の偶像として出現させた。
 いまは想像でしかない「小世界のスタイルになった、もしもの姿」に、いつかなれると信じて。

「これにてわたしのライブは終わり。
 皆、聴いてくれてありがとうっ」

 歓声や拍手が起こったのを見届け、みゆはステージをあとにした。

 アルカがスタイルの力を半減させてはいたものの、心の籠ったライブは観客たちの心には届いたようだ。
 正気を取り戻し始めた様子の者もちらほらと現れている。

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