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ヒロイックソングス!

ヒロイックアース・サミット

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ヒロイックアース・サミット
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■現れた妨害者(2)

 
 華乱葦原の出身者達は、みなリラックスした様子で、次に何が行われるか期待の表情を浮かべて無人のステージを眺めている。
 
 真蛇が、唐突にステージに舞い降りた。
「SHINJA様よ!」
「キャーッ!」
 彼が洗脳・混乱状態であることには気づかず、あちこちから黄色い声援があがる。
 真蛇は観客に見向きもせず、口元に指を押し当何かを詠唱し始めた。

「!?」
 ただならぬ殺気を感じ取った白森 涼姫が、迷わずステージに飛び出した。

 巨大ながしゃ髑髏が出現した。
 今しがたも、そして先ほどもステージにはがしゃ髑髏は現れていたが、それらとは比べ物にならないほど禍々しい怨念にまみれ、見るものに恐怖を与える――そんな凄まじいがしゃ髑髏だった。

 真蛇が掌に乗り込むと、がしゃ髑髏は客席を向き、大きく口を開いた。
 真蛇は、客席の華乱葦原の出身者を飲み込もうとしてきたのだ。

「させない」
 涼姫は光る足場を宙に出現させながら、一歩また一歩と空を駆け上がっていく。
 足場は涼姫が足を離すとキラキラとした光の粒になって消えゆく。
 人々はこれはただのライブだと疑っておらず、楽し気に拍手を送る。
 涼姫はイグニスの炎を噴出させる演出をかけながら、月光刀でがしゃ髑髏に切りかかった。
 演出を入れたのは、戦いをおおやけにせず、あくまでもライブとしておさめたいという、真蛇への優しい心づもりからだ。

「SHINJA様、頑張って!」
 などというとんでもない声援まで起きているが、事情を知らないゆえ致し方ない。
 
 真蛇は何かを口ずさみ、二本の指で涼姫を指し示す。
 鋭いカミソリのような羽をした黒い蝶の群れが涼姫に襲い掛かってきた。
 涼姫はそれらをイグニスの炎で焼き、焼き尽くせないものは月光刀で切り裂いた。
 踊るように次々と繰り出される攻撃は、美しく勇ましく、大きな拍手が起きる。 

「……紙?」
 焼かれ、切り刻まれ、、ひらひら落ちるのは、ただの紙の蝶だった。
 時間切れになってしまったがしゃ髑髏が消滅し、真蛇はステージへ飛び降りた。
 涼姫もまた、刀をしまって輝く足場から飛び降りる。
 
 剣が鞘におさめられていることで油断しているのか、真蛇は涼姫と間合いを離さない。
 もともと会話も説得もするつもりなどなかったが、間近でその顔を見た涼姫は、思わず口に出していた

「こんなことを望んでいるようには見えません」

 彼はこの状況を、楽しんでいるようには見えない。
 義務感や信念も感じない。
 かといって無感情で行っているとも見えない。
 ただただ、痛々しかった。

「望む、望まないは関係ない」
 真蛇が身をひるがえした。
「すべてが終わるだけだ」
 真蛇に術を使う暇も与えず、涼姫は月光刀を鞘から抜き、抜いた次の瞬間にはすでに真蛇に切りかかっていた。
 「きゃあ!」
 客席から悲鳴があがる。
 
 しかし涼姫は、手ごたえを感じていない。
「逃げられましたね」 
 すでにそこに真蛇の姿はなく、涼姫の目の前には、まっぷたつに切り裂かれた人型の紙がひらひらと舞い落ちている。
 イグニスの炎でその人型を焼くと、涼姫は月光刀を鞘に納めた。

 これが演技だと信じて疑わない客席からは、感心のため息と拍手が起きる。
 人々に恐怖を与えぬまま危険から守り抜いた涼姫に、感謝するように、世界の結晶は瞬いている。
 
 
 そして狛込 めじろ戌 千鳥がステージへ。
 めじろは客席最前列に輝いている世界の結晶に、ことさら思い入れのある視線を送る。
 そもそもあれをミツキから受け取ったのはめじろだった。
 
 真蛇との思い出、交わした言葉は、そして届けたい言葉は、めじろの小さな胸に収めきれぬほどたくさんだった。
 
 真蛇のがしゃ髑髏の後ではあったが、やはりめじろは、ステージに巨大ながしゃ髑髏を出現させる。
 這いまわるがしゃ髑髏の掌に乗り込むと、めじろは歌った。
 
 桜吹雪が舞う中、大小様々な草木が現れ、めじろに合わせて歌い踊り出す。
 ――桜は桜稜郭、草木は樹京。
 華乱葦原の出身者達は、共通のイメージを抱いている。
 
 ステージに残っている千鳥は、マイクを構えた。
「(上手くなくともいいから想いを込めるの!)」
 がしゃ髑髏の上から、めじろがこっそり檄を飛ばす。
 まだライブ慣れしていない千鳥だが、新人ならではの決意をこめて歌っていく。

 二人が歌うのは、華乱葦原の歌。
 めじろに出せない低音を中心に、千鳥は歌う。
 
(華乱葦原は俺の故郷
 正直、人と妖の間の子たる半妖への仕打ちは忘れがたいものがある。
 今更舞芸者と陰陽師による融和を説かれようと、まだ割り切れないものはある。

 だから、俺は生まれ故郷を捨てて地球に乗り出した。
 それでもやはり捨てられず、華乱葦原は今も俺の故郷。
 故郷なのだ)
 
 胸に秘めている故郷への熱い想いは、歌声にのって響き渡った。
 桜吹雪を纏いながら歌う姿や立ち居振る舞い、ちょっとした振り付けは、身軽で勇敢でどこか風格もある。
 千鳥のパフォーマンスは、観客達に好印象を与えている。
 ――めじろ、俺の故郷(華乱葦原)を助けよう。
 ひときわ強い思いで千鳥はがしゃ髑髏の掌の上のめじろを見上げる。
 
 そうはさせない。

 そんなタイミングで、ドンッという衝撃波がめじろのすぐ脇を通り抜けた。

スピカ君!!」
 
 客席の一番奥、出入り口の扉の前にスピカが立っており、
「遅くなってすみません、真蛇さん」
 客席の暗がりにいた真蛇に駆け寄った。
 ライブのていを保てなくなりそうなほどの展開だったが、
「めじろ、やってやれ」
 千鳥の声は堂々とした正義の味方のように響き、幸い人々は疑うことなく、この状況をショーの一環だと信じたままでいる。
 
 戦いになる――真蛇もスピカもそして千鳥も身構えた。が、
 
「真蛇さんもスピカくんもほんっと、男の子ですよね。
 自分のキャパもわかんないくせに自分がなんとかしなきゃって、自分が自分がって空回って。
 それで守りたい人を傷つけ、毀損してるんですからワケないですよ!
 もっとわたし達に頼ってください、もう何度言ったら覚えてくれるんですか」

 めじろは二人にお説教をした。
 冷静だった千鳥は真蛇とスピカの隙を見逃さず、目くらましの光を放った。
「めじろ!」
 千鳥の声に気づいためじろは、周囲の影をしゅるしゅると操り伸ばし、その影でスピカと真蛇を拘束した。

「ほんっとに、ばかぁ!」

 どん!
 
 真蛇とスピカの頭のはるか上から、鉄の小鳥(おそらくはメジロ)が何羽も降ってきた。
 拘束され重しをのせられた二人は、身動きが取れなくなっているようだ。
 これが演目だと思っている人々は(真蛇とかわいい少年がやっつけられたことは少し残念そうだけど)平和に拍手を送っている。
 
「妨害を受けない今のうちに、みんな、どんどんライブを――!」
 客席に聞こえぬよう配慮しながら、めじろがアイドル達に伝えた。


「私達にやらせて下さい」
 邑垣 舞花空花 凛菜が名乗りをあげた。
「ライトを工夫して、この二人を客席の皆さんから見えにくくしましょう」
 舞花が提案し、すぐに実行する。
 
 そして舞花は、凛菜に微笑みかけた。
「凛菜さん、後は私に任せてさあステージへ」
「舞花お姉様……」
 守られている安心感に包まれながら、凛菜は心穏やかにステージ中央に歩み出てる。
「皆さん、こんにちは。
 今日は華乱葦原の皆さんに少しでも元気になってもらえたら……そう願っています」
 ライトの効果で観客の華乱葦原の人々からは見えないが、すぐ間近にはいつ復活するとも判らない真蛇とスピカが今にも拘束から逃れようとしている。
 しかし凛菜はいつもの笑みを浮かべて続ける。
「私自身、華乱葦原には何度も訪れていてとても愛着があります。
 そんな華乱葦原への思いをライブで皆さんと共有出来ると良いな……」
 
 舞花は警戒を解かず、ステージの袖で裏方に徹し、真蛇とスピカを警戒している。
 いつでも対処できる準備は整っていた。

 凛菜は巫の舞を舞う。
 身に着けている千早(巫女が着用しているあの衣)をさらに風格あるものに見せるべく、桜吹雪が凛菜の周りを漂った。
 その様子を、華乱葦原の出身者は喜んで眺めている。
 
ミヤビさん……今、どこにいらっしゃるんですか? 
 また会いたいです……。私達はもう、友人ですよね?)
 
 凛菜は心の片隅で、会場にミヤビの姿がないことを危惧していた。
 
 客席最前列では、世界の結晶が輝いている。
 何度も訪れたあの地の景色たち、人々のことを思いだすと、心なしか結晶は輝きを増すように思える。

 舞うことに夢中の凛菜は、もはや足元の二人のことなど気になっていない。
 
(凛菜さん、輝いてる。本当の巫女さんみたいです。
 お客さん皆、すごく凛菜さんに集中してますよ……)
 
 舞花は瞳を輝かせながら、ステージ上の凛菜を見つめている。

 凛菜の舞いは最高潮。
 しなやかに美しく舞ううちに、天からは神々しい光が差し込んでくる。
 
(私の舞いを通して、皆さんに故郷を見てもらえたら……
 故郷……それは、私やミヤビさん、そして華乱葦原の方々の心の中に在る“華乱葦原の風景”)

 故郷を離れてアイドル活動を頑張っている凛菜は、客席にいる華乱葦原の出身者達の郷愁の気持ちを十分理解できている。
 こめる想いはことさらだった。

(復興を遂げた樹京の街並、桜稜郭の賑わい、人々の力強い営みと活気それと熱気。
 現地の方々と、私達アイドルたちの、思い出の数々。
 生魚。焼き魚。炊いた雑穀の香り。
 夜の気配、桜の香り、木々のざわめき、小川のせせらぎ、歌、舞い、笑い声……)

 凛菜の舞いに引き込まれていた客席の華乱葦原の出身者は、景色が一変していることに気づく。
 いつの間にか周りはフェスタのステージではなく、故郷のあの景色になっている。
 映像というよりも、「そのもの」だった。
 観客達は、凛菜が見せた故郷を味わい、楽しみ、同時にそれを取り戻したい気持ちをさらに強いものにしていく。
 
「ミヤビさんは確か、生魚をよく召し上がるんですよね? ふふっ」
 
 凛菜がそんなことを思い出し呟いた。
 すると、人々の見ている葦原の景色の中に、ミヤビの姿が映りこんだ。
 街並みの、ほんの一角、小さな場所だが、それは確かにミヤビに見えた。
 
「「「ミヤビ様……!?」」」
 
 観客達が口々につぶやく。

 キラキラと輝いていた世界の結晶から、まばゆい光が一筋放たれた。

「!!!」
 真蛇がカッと目を開け、瞬時に拘束を解いてその光に反応する。
 続いてスピカも目覚め、真蛇の後に続こうとした。
 
「邪魔はダメ、です!!!」
 
 舞花が頭上に待機させていたドローンで二人の上に雷を落とす。
 二人ともその雷をそれぞれガードする。が、思ったような行動は取れなかったようで、
「遅かったか」
 真蛇は落胆しつつ呟くと、スピカと共にその場から消えてしまった。
 
 世界の結晶から放たれた一筋の光は、人の姿を形作っていく。
 やがて光は消え、そこには一人の少女が立っている。
 今しがた、皆でその姿を共有したばかりの、

「ミヤビさん!」
「あぁ、凛菜さん……」

 ミヤビはふらふらと凛菜の腕に倒れこんだ。
 客席がどよめき、そして歓声が沸く。
「そうです、生魚です」
「えっ!?」
「凛菜さんの声、聞こえてました」
 弱弱しくそれだけ言って微笑むと、ミヤビは気を失ってしまった。
 
◆◇◆

 
 真蛇とスピカは客席の暗がりに身を潜めている。
 
「早急に体力を回復して、対処せねば」
「そうですね、真蛇さん」
 
 ――まさかあそこから人が復活して出てくるとは……
 
 そんな展開を想像もしていなかったスピカは、驚きを隠せない顔でステージを見つめている。
 
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