三千界のアバター

≪フェイタル・ゲーム≫蠍座の迷宮

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1.不落の難関(1)

 その空間に足を踏み入れた決闘者たちは、輝かしさに目を細め、しばらくの間不思議な景色に魅入った。
 清潔に磨き上げられた床やガラスで仕切られたオフィスビル内のような場所。
 その中にランダムに上に向かういくつもの階段とその周囲にいくつものエレベーターのような扉が並んでいる。
 途中までしかない階段や斜めに傾いた扉、歪んだ柱が混ざっている。
 事前に聞いていた、裏口と正面入り口の内容が夢の中で混ざり合ったような場所だった。
 仮設口から攻略しようとする決闘者は全体的に少なく、特にワールドホライゾンの特異者も少ないようだった。
 ここで使用できるのはスキルのみという制約でギミックを解除しながら上へ向かうというのは確かにどう攻略していいか難しい場所ではあった。
 
 決闘者らは皆戸惑うようにその風景を眺める。
 数少ないワールドホライゾンの特異者の一人であるアルヤァーガ・アベリアもその一人だった。しばらくの間無言で見つめ、息を吐いた。
「ほとんどなんのヒントもない。だが上に向かう装置を探すしかない……」

 ふいに、中央の空間に大きくコンパニオンのような女性の姿が映し出される。
『ようこそセクターHへ。本来は直接お目にかかってご挨拶するべきなのでしょうけれど、この姿で失礼いたします』
 清楚なスーツ姿で、企業ブースで説明をするような口調だった。
 セクターHでの生活風景や産業、医療施設の説明などを並べる。女性が多いセクターだけあって、清潔感が溢れる綺麗な街並みだった。

「品位と清潔のセクターねー。
自分らの居場所だけ綺麗にして高みの見物っつーのはちと楽をしすぎじゃねーのさー」
 そんな言葉を漏らしたのはイクリマ・オーだった。そんなイクリマの後ろに古城 偲が控える。
 今回偲は相棒のイクリマの意志でここに来ていた。それはここの当主に対するイクリマの強い不満があったからだ。
 イクリマは敵対心でこのゲームを制するつもりだった。

 他の決闘者らはコンパニオンの説明を聞くべきかどうかで悩む。どこにヒントがあるかわからないからだ。
『どうぞこちらへ』
 案内するようにコンパニオンが手を指し示す。

 すると機械音が響き、階段の一つが上へと流れ始めた。他の階段も人が近づくと動き出すようだった。
「エスカレーターだ! 楽ちん!」
 遠野 雫が無防備にその階段に近づく。
「待て、危険だぞ」
 アルヤァーガが思わず声をかけるが、雫は笑顔で階段に飛び乗った。
「だいじょーぶ! この先に何か宝物ありそうだもの」
 雫は目利きでこのルートを選んだのだった。上へと流れる階段の先に、台座があるのが見えた。
 だが、ガクンと階段が止まると下降を始めた。
「えっ」
 移動を早めた階段の先は床に地下へと向かうような穴が開き、その向こうへと流れて行く。
 雫はアーライルの羽を羽ばたかせてその階段から飛び降りようとするが、足が階段にくっついて離れなくなっていた。
「キャアアアア!」
 雫は悲鳴をあげた。階段の下の方に大きな口を開けたフェイルが迫っていた。——雫にはそう見えていた。
「どうした、早く離れろ!」
 アルヤァーガには雫が階段の上で何かに怯えるように必死にもがいているように見えて声をかけた。
(何か幻覚を見ているのか?)
「イヤあああ、雫は上に行きたいの!」
 ひときわ大きな声で叫ぶ。だが動けないままフェイルの口の中に落ち込んで行く感覚に意識が遠のく。
 雫は調律者として参加していたが、状態異常に備えたスキルを持ち合わせていなかった。初めてエデンでの冒険でフェイタル・ゲームの厳しさを予測できなかったのだろう。
 雫はそのまま階段の上で気を失いリタイヤとなった。

 雫の様子を青ざめた表情で見ていたアルヤァーガは、この異塔で展開するフェイタル・ゲームに厳しく向き合う必要を感じた。
「俺達の道を阻むなら……否だと断じ否定するだけだ!」
 不意に肩を掴まれて我に返った。
「大丈夫ですか、アル」
 強く信頼する仲間の声にアルヤァーガは頷く。
 戒・クレイルが偉人のパートナーのニエベ・D・パラシオを伴い、周囲の様子を伺っていた。
「もう始まっているみたいだな」
 戒と感覚共有をしているニエベも、この空間に漂う違和感を強く感じていた。
「いざ罠にかかったら逃げ場はないという感じですね」
「そういうことですから、よろしく頼みますよ、アル」
 アルヤァーガも頷くと戒たちと手分けをしてギミックの解析に取り掛かる。
 時間は限られていた。

「本当に、良い趣味だなー」
 イクリマも偲と装置探しを開始した。
 上に行く装置探しは皆慎重だったが罠によっての混乱はすでに始まっていた。
 だがある意味この得体の知れない魔改造された塔の「仮設口」に挑戦しようとする決闘者はある意味怖いもの知らずだろう。

 反発者の飛鷹 シンは単に時間を消費させられそうだったのでコンパニオンの言葉は途中から無視して捜索を始めた。
 シンにはエデンやシヴァについての情報を掴みたいという強い意志があった。
 塔を攻略して直接ゾフィーから聞きたい。
 ブービートラップの知識で罠かどうか判別する。
「これに乗ってみるか……」
 あまり時間はかけられず、罠がなさそうと感じた扉の脇のスイッチを押す。すると問題なく左右に開いた。中はエレベーターの個室のようになっている。
 シンが乗り込むと扉が閉まり、ガクンと揺れて上へと移動する。
 すぐに扉が開くと同じような空間があったが、どうやら少し上の階層らしかった。
 シンが降りるとすぐに扉は閉じてもう開かなかった。
「これを繰り返さないといけないのか……やれやれ、全くとんでもないルールになりやがったな」
 戦場の匂いでこの空間に立つ。
「ヤバい匂いしかないな」
 思わず苦笑する。
 いくつもある階段やエレベーターの脇にコンパニオンの女性の画像が浮かび上がり、ニコニコしてこちらを見ている。
 誰もがそれぞれの階段や扉を指し示す。
 他の決闘者からの不意打ちやギミックによる攻撃に気を付ける。

 他の決闘者も安全そうなエレベーターやエスカレーターで上への移動を始めていた。安全そうな扉の前では争いも起こっている。
「頼むぞディア、お前の超直感が頼りだ」
 反発者のジェノ・サリスにそう言われて異端者ディア・アルマは主であるジェノに頷く。
「ディアがサポートしないといけないですね!
ガッツと勇気があれば何とかなるもんです!」
 ディアは今回のために特訓してきた超直感で張り切って上に上がるための装置を探す。
 制限に従いジェノたちの方針はシンプルで超直感で正しいギミックを見つけブービートラップで解除して進む、ただそれだけだった。
 それに対しディアは若干の不満があった。エデンの世界でのスキルに罠を判別するためのものがないように感じたからだ。だから他世界のスキルに頼らざるを得なかった。
「まあ、仕方がないさ」
 ジェノはあまり気にしていないようだった。
 そうして選んだエレベーターに乗り込むと、内部にもモニターがありコンパニオンが解説をしていた。
「サービス過剰だな……ん?」
 モニターの上の部分の壁の模様と思われたが、そこに剣がはめ込まれていた。
 ジェノはそれをまず観察する。
「ただの装飾品ではなさそうだな」
 自身のブービートラップによる罠解除技術を利用して回収する。手にとるとそれはズシリと重みを増した。かなり能力のある栄具に違いなかった。
 エレベーターが止まり、次の階層に出る。同じような空間に多くの扉と階段がある。
「ここまでは順調だが、次はどうか」
 階段の一つを前に、動作を確かめながらの罠の解除を行う。
 
 他の決闘者らも上に向かう方法を見つけながら上がっていく中で、ブービートラップで次の階層で装置を探していたシンは、扉が開く音で振り返った。
 扉が開き出て来たジェノとディアは——狂戦士化していた。
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