三千界のアバター

プロメテウス砲奪取戦!

リアクション公開中!

プロメテウス砲奪取戦!
リアクション
First Prev  3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13  Next Last

【見え始めた勝機】

 ラトーナの運搬艦隊がレクサルとの交戦空域脇を突破するという情報を耳にした時、アデル・今井は心底仰天した。
 あの怪物の如き火力を誇る敵第一旗艦のすぐ隣を、ほとんど防御力の無い空母クラスが通り抜けるというのは常人の考える戦術ではあり得ない。だがその非常識な戦術を取らなければ、この戦いに勝つことは出来ないという理屈も、アデルは一方で理解していた。
『鎮波号で運搬艦隊の突破ルートを隠しますじゃ。しかし一隻だけではどうにもならぬ故、フリートラントにも協力をお願いしますじゃ』
 第三旗艦鎮波号から、凛音が申し訳無さそうな声を飛ばしてきた。アデルはすぐさま艦内通信用のマイクを取り、ライトクルーザー級改『フリートラント』の甲板上で移動砲台の役割を担っているマカイラ『フラスニール』との連絡を付けた。
「姉様、運搬艦隊がすぐ隣を突破していきます」
『うん、聞いてた』
 フラスニールから、“戦場の故郷”今井 亜莉沙の飄々とした声が返ってきた。然程に驚いている様子も無い。こういう非常事態も生じ得るだろうという覚悟が、亜莉沙の腹の中では出来上がっていたのかも知れない。
『こっちの小隊を、鎮波号防衛から一時的に運搬艦隊防衛に切り替えるわ。フリートラントは鎮波号からの要請通り、運搬艦隊の突破軌道を隠す位置に移動して頂戴』
 アデルは流石だと舌を巻いた。艦長たる自分よりも、一介のMEC乗りに過ぎない亜莉沙の方が余程に戦局をよく理解している。こんなことでは駄目だと自身の頭を小さく小突いてから、アデルはフリートラントの舵を握り直した。
「フリートラント、一時の方向に転進。30秒後、臨時防衛地点での戦闘開始」
 艦内通信に朗々と声を響かせながら、アデルは凛音からの要請に従って新たな位置へと艦を走らせた。
 その間も、亜莉沙と彼女の率いるラインの守り小隊が飛び交う敵航空戦力を次々と叩き落としている。だが次なる任務はバトルシップ級レクサルの砲門をまともに向けられる危険性を孕んでいる。
 果たしてフリートラントとフラスニールは、どこまで耐えられるのか。
 アデルは漠然とした不安を抱きながらも、着実に艦を次なる防衛地点へと移動させていった。

 フリートラントが新たな防衛地点に到達したことで、ナハティグァル隊による運搬艦隊軌道の隠蔽はひとまず完了した。
 その間にもグラスキャット隊はレクサルに猛攻を仕掛けていたが、未だ撃沈には至っていない。つまりレクサルはメガフォースキャノン系の火力をナハティグァル隊砲華班はいつでも向けることが出来る、ということでもあった。
 ここからの勝負は気合の勝負、別のいい方をすれば自己の恐怖心との戦いでもあった。
(ナハティグァル隊への被害を最小限に抑える為、運搬艦隊には最大船速での突破が求められますね……)
 クロノミーティア隊“竜殺し”風間 那岐は、月光翼での短時間空中戦闘を終えてエルミヤ・フランドルが操艦するシールドクルーザー級の前方甲板に降り立った。
 オペレーターのアレナ・クレメントが転送してくる敵メタルキャヴァルリィの配置を再度確認すると、運搬艦隊の前方にはほとんど機影は見られない。突破するなら、まさに今が絶好機だ。
 艦の後方を見遣ると、丁度これからラトーナのキャリアー級が中央戦線の傍らを航行しようとしている。敵もこちらの意図に気づいたらしく、右翼側からも複数艦隊が急速接近しつつあった。
『二時の方角より敵航空戦力多数接近中……ネックブレイカー隊ね』
 アレナからの報告を受けるや、那岐はスクラマサクスOCを右舷側へ張り付かせた。艦長エルミヤも早速僚機のスカイライダー隊をその方角に出撃させたが、恐らくは突破を許すこととなるだろう。
 と、そこへシールドクルーザー級『四葉黎明』の艦影がぴたりと並走するような形でエルミヤ艦の脇に進み出てきた。
 その四葉黎明の艦橋では、“一点集中の砲手”風間 玲華がじっと考え込む様子で腕を組み、右手から押し寄せる敵艦隊を静かに睨み据えていた。
『マスター……これはちょっと、数が多い……』
 シルヴァーナ・テニエルの駆るブラックバードRverが四葉黎明の前方甲板に降り立ち、月光翼での次なる飛翔に備えてエネルギーを充填している。
 しかし玲華はシルヴァーなの泣き言には眉ひとつ動かさず、寧ろ冷然たる口調で通信用マイクに声を送り返した。
「大丈夫です。こちらの想定通りですので、引き続き敵を正面まで引っ張ってきて下さい」
 驚くシルヴァーナを尻目に、玲華は那岐とアレナに対して通信回線を開いた。その表情は依然として硬い。
 アレナが少しばかり心配して、ホログラム式モニターの向こう側で覗き込むような仕草を見せたほどだ。
『本当に、やるのですか』
「先ほどアストライアから、最終指示が届きました。このまま作戦通りに進めます」
 緊張した様子で、玲華は静かに答えた。すると那岐は、玲華が腹を固めているのならばと応諾し、アレナも従う旨を口にした。
 現在、右翼では紫緒莉のヴィラ・アイリスと麾下のプリテンダー艦隊が第四旗艦スリートを相手に廻して、必死の攻防を続けている。そのスリートから離れるようにして、数個艦隊が中央を突破しようとしているラトーナ艦に群がり寄ってきていた。
 このままでは運搬艦隊はプロメテウス砲に辿り着く前に撃沈されるのではないか──そんな危惧が多くの将兵の胸中に宿ったが、少なくとも那岐や玲華は全く異なった見方をしていた。
 右翼から複数艦隊がにじり寄ってきているこの時こそが、大きなチャンスに成り得るのだ。
 激しい砲火に耐えつつ、クロノミーティア隊の二隻のシールドクルーザー級は兎に角前へと進んだ。
 だが突如として、その二隻が上下に軌道を分けた。見るとラトーナの運搬艦隊もいつの間にか軌道を大きく外れて、左右に散っている。
 アディス・カウンター側はこの突然の艦体軌道の異変に動揺したらしいが、それでも突入軌道は変えようとはしなかった。これが、この戦いの第一のターニングポイントとなった。
 その数秒後、二本の膨大な熱量を孕んだ巨大な光条が連続して走り、つい今の今までクロノミーティア隊や運搬艦隊が突き進んでいた航路上を、破壊の嵐に巻き込んでいった。
 アストライアが、搭載している二門の試製メガフォースキャノンを立て続けに放ったのである。
 ここで漸く、敵味方の全員が理解した。
 レクサルの戦闘宙域脇を突破するという作戦は、ひとつはアディス・カウンターの背後に飛び出すという戦術もあったが、より大きな目的として、両翼の敵艦隊を中央に引き寄せて、アストライアの火力で一掃する為の囮作戦としての意味合いの方が強かったのだ。
 第四旗艦スリートはラトーナの運搬艦隊を追い詰めるどころか、逆に麾下の護衛艦隊の半数以上を失うという失態を犯したに過ぎなかった。


     * * *


『中央突破艦隊、右翼へ転進ッ! 敵第四旗艦スリートを叩くッ!』
 セナリアの号令がプリテンダーの中央突破艦隊と右翼艦隊の双方に、共通無線チャネルを通じて高らかに響き渡った。
 士気が著しく低下し、艦隊運動がすっかり及び腰となっているスリート艦隊とは対照的に、紫緒莉のヴィラ・アイリスが中心となってアディス・カウンターの猛攻を食い止めていたプリテンダー右翼艦隊はにわかに活気づき、中央突破艦隊との合流を果たした。
 この時点で右翼戦線は、プリテンダーがアディス・カウンターに対して倍以上の艦隊戦力で襲い掛かるという図式が形成されていた。
「よぉっし、きたきたッ! きたよコレーッ!」
 ヴィラ・アイリスの艦橋で、紫緒莉は喜び勇みながらもフィアに振り向いて、メガフォースキャノンの発射準備を口早に指示した。同時に甲板上のアークには、逃げ惑う敵航空戦力は無視して、スリートの対空銃座に対してのみ攻撃を加えるよう命令を下す。
「アーちゃんッ! 至近距離から一発ぶちかますから、それまできっちり守ってよねッ!」
『おう任せろぉ。奴らの鼻っ柱をへし折ってやろうぜぇ』
 一方、ビーネ隊とクロノミーティア隊も揃って右翼戦線へと殺到し、第四旗艦スリート麾下の、残り少ない護衛艦に容赦ない砲撃を加え始めた。
「一点砲火で敵旗艦の横っ腹に中四葉式連装砲を集中ッ! エルミヤさん、対空砲火は任せますッ!」
 玲華は手早くスリート撃破に向けての戦闘行動に突入した。その玲華に対空砲火を任されたエルミヤは、シールドクルーザー級の防御力を活かして四葉黎明やヴィラ・アイリスを守りつつ、残存する敵航空戦力の駆逐に全火力を集中した。
 そして無数の対空砲火が飛び交う中を、那岐とシルヴァーナの機体がスリート右舷側の宙を滑空し、瞬く間に前方甲板上に張り付いた。こうなると砲塔や固定銃座ではどうにもならない。スリート側も狙撃部隊として周辺に散らしていたハイサイフォス・ガンナーを呼び戻すしかなかった。
(攻撃は最大の防御とは、よくいったものですね。これでわざわざカウンタースナイプなどせずとも、向こうから勝手に狙撃を諦めてくれるという訳で)
 苦笑しながら、那岐はスリート艦上で破壊の嵐を巻き起こした。
 だがスリートの敵は、まだまだ増殖中だ。
 更にビーネ隊がスリートの真下に潜り込み、天雷駆とカイン艦の双方がスリート艦底に向けて烈火の如き砲撃を叩き込む。両艦から上方向に延びる弾幕は、遠目から見ればオレンジ色に輝く砲弾の林が屹立しているようにも見えた。
 そんな中で。
『あ~~~ッ! もう、全然駄目ッ! 固定銃座の威力じゃ、艦底の装甲なんか撃ち抜けないようッ!』
 詩穂の絶望に満ちた悲鳴の如き悪態が、凛や綺朔の鼓膜を衝いた。
 艦は違えど、凜も綺朔も、ホログラム式モニター越しに苦笑を交え合う他は無かった。
 更にそこへルイーザ医局の力で戦線に復帰したしずの艦が突入してきた。だが、しずの目的は自艦による突撃ではなく、後続のある艦をスリートの砲火から守ることであった。
 しずの艦の後に続いていたのは、ゾフィーの艦だった。その艦首には、艦首回転衝角が回転している。その甲板上には経衡の機体が仁王立ちとなっていた。
 ゾフィー艦がスリートの横っ腹に穴を開けると同時に、艦内に突入して内側から破壊の限り尽くさんとの構えである。
 果たして、敵第四旗艦スリートは四方八方からの猛攻をひたすらに浴び続け、戦線維持どころか、航続不能状態寸前にまで陥っていた。
First Prev  3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13  Next Last