★ ★ ★
不時着したサワーラ・イコギアフは、カシム機との強制通信を試みていた。その結果、カシムの退避命令を傍受する。
このままでは、カシムが爆弾の起爆スイッチを押すと考えたサワーラ・イコギアフが、強制通信でカシム機に通信介入してきた。
『街を爆破するだなんてお止め下さい!』
『誰だ!?』
突然の介入に、カシムが顔を顰める。
『ここには罪の無い大勢の人々が居るのです。冥王の使いは確かに脅威でございますが、守るべき命ごと焼き払ってしまっては本末転倒ではございませんか!!』
その言葉を聞いて、カシムは思わずこみあげてくる笑いを噛み殺した。
このプリテンダーは、なんとおめでたいのか。守るべき命だと? 冥王の使いを倒せるのであれば、人が何人死のうとおつりが来るではないか。それに、ドゥニアにしろ、今まで浄化してきた街にしろ、消えてしまったところで王国は少しもゆらがない。むしろ、無駄な労力をかけなければ維持できない地方都市など、いったんなくして再構築した方が合理的ではないか。そして、新しい秩序をアディス・カウンターが作るのだ。それによって、王国はゆるぎない者となる。冥王など、取るに足りない存在となるほどに。そして、その王国を支える一人となるのが、このカシムなのだ。輝ける異名を持って、いずれは宰相にさえなろうというものを、それを邪魔しようというのか、プリテンダーごときが!
なんのためらいもなく、カシムが起爆スイッチを押した。
何も起きない。
「どうした、なぜ起爆しない!?」
何度もスイッチを押すが、変化はなかった。代わりに、激しい衝撃と共にカシムの身体がコックピッの内壁に叩きつけられ、危険を知らせるレッドアラートの音が響き渡った。
★ ★ ★
『メインターゲット、トレース中。予測移動パターン、うん、変更なし。一分後に周回終了。直進に移るからね』
ホーネット・アサルトのコックピット内で、
フォルトゥナ・ベルリネッタが、索敵宝珠改から逐一入ってくる情報をファストオペレーションで的確に処理していた。
地上では二機のムスタングRVerが警戒に当たっているが、ここはドゥニア市街の西に位置する。さすがに、ここまで敵がやってくることはないだろう。だからこそ、唯一無二のポイントなのだ。
ホーネット・アサルトの機体の上では、ギガントマキアを構えたロンデルが、狙撃体勢でずっと待機している。
“白金の硝煙”フォーゼル・グラスランドは、いったいどれだけこの体勢を維持していただろうか。ホーネット・アサルトも、最小旋回半径で何周もしながらずっとこの場所に滞空している。
刻一刻と入ってくる戦闘の様子にも心を動かさず、無心を保ち続ける。言葉で言うのは簡単だが、精神力も体力も極限まで酷使される。それがスナイパーだ。
事前にフォルトゥナ・ベルリネッタがウェポンチューンしてくれたギガントマキアの状態はすこぶる良好だ。十分にこの位置から敵指揮官機を狙える。
罪無き人をも犠牲とする浄化など、認められるはずも、見過ごせるはずもない。ならばこそ、街を護るために全力を尽くそう。
味方は善戦しているようだが、どうしても決め手が掴めない。それほどまでに、アディス・カウンターは人材も装備も充実していると言うことか。
ずっと傍受している通信に、敵の撤退を命令するものと、サワーラ・イコギアフの悲鳴にも似た言葉が飛び込んできた。
時は来た。
近くが研ぎ澄まされ、
MECとフォーゼル・グラスランドの感覚が一体化していく。
引き金を引く。
気負いも、かけ声も何もない。ほんのわずか指先が動いただけだ。
爆音と共に、ギガントマキアから閃光が迸った。ホーネット・アサルトの機体が直後にガクンと減速して高度を落とす。慌てずに、すぐさまフォルトゥナ・ベルリネッタが機首を引き上げて立てなおした。
遙か彼方で、小爆発が起きる。
指揮官用のハイサイフォスが、ショルダーアーマーを貫かれ、そのまま左腕を破壊された閃光だ。コックピットへの直撃ではない。これであれば、誘爆までは、わずかな時間があるだろう。脱出は可能だ。
★ ★ ★
「ここまでなのか。覚えていろよ、プリテンダー共!!」
カシムが、緊急脱出装置でハイサイフォスを離脱した。それを受け取ったカッツバルゲルがすぐさま姿を消した。
「特ダネだあ!!」
その様子を、紫月幸人がしっかりと記録していく。ギリギリでカシムの姿は捉えられただろうか。どのみち、パイロットスーツのために、顔はバイザーに隠れて分からないだろうが。いずれにしても、アディス・カウンターの敗北は、全世界の人々に伝えられなくとも、プリテンダーのみんなの士気高揚には役に立つはずだった。