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『俺は“退路潰し”ジェノ・サリスだ。ただのカシムくんよ。俺が倒せるかな? 何しろ、この機体は伝説のキャヴァルリィ、トランス・ファルカタだ!! あれ、あれれれ……?』
ふふんと鼻で笑いながら、ジェノ・サリスがカモンベイビーでカシムを挑発した。
「“キャヴァルリィ殺し”の異名か、悪くはない。悪くはないが……」
思わず功名心に駆られたカシムであったが、何か違和感を覚える。それほどのキャヴァルリィが、なぜぼろぼろになっているのだ。
直掩機からキャヴァルリィの存在は報告されているが、どれもかなりの手練れだ。だいたいにして、キャヴァルリィは自動修復機能がある。つまりは、損傷しているように見えても、実際はほとんどダメージが回復している場合があるのだ。
だが、カシムとしては、異名がほしい。“キャヴァルリィ殺し”……悪くないではないか。
カシムが、功名心に煽られる。今ならば勝てそうだ。同時に、キャヴァルリィがそんなに弱いはずがないという警鐘が頭の中で鳴り響いている。
『あれは、どう見てもおかしいですぞ。本当に壊れているのであれば、ハイサイフォス・ガンナーの攻撃で十分。最後に、隊長自らが首を取ればいいではありませんか。部下の手柄はすべて指揮官のものです』
ジャミングカットした直掩機が、カシムに進言した。
挑発はカシムにむけられたものなので、本人には絶大な効果があるが、別の者にはほとんどない。それゆえに、カシムの部下たちが冷静な判断を下していた。もともと異名持ちのパイロットもいるくらいだ、戦場の動きには敏感であった。
ハイサイフォス・ガンナーが、トランス・ファルカタにむかって砲撃を開始した。
「しくじったか……」
カシムが挑発に乗って単身かかってこなければ意味がない。かかってこないのであれば、こちらかかっていくだけである。
『ジェノ、今助けるよ!!』
リーゼ・アインのトムキャットが、正面から突破するを装った。すぐさま、コピスがフラッシュバズーカを放って、近づいてこられなくしようとする。
フィーリアス・ロードアルゼリアの乗る指揮装甲車からのプラズマウェイブの支援がほしいところだが、いくら射程が長くても、遮蔽物が多ければ届かない。それ以上に、カシム機との間に多数の味方機がいる状態では、放射状に広がる攻撃はフレンドリィファイアを恐れて打つことができなかった。
カシムの捕縛を狙う者はジェノ・サリスたちだけではない、カシム機を確認した七瀬永見たちの部隊も姿を現した。ルトガー宰相の血縁であるカシムを押さえてしまえば、部下たちも手を出せないとふんでのことだ。双方にとって無駄な消耗戦など、避けるに越したことはない。
東雲 那琴のずんぐりとした指揮装甲車アースモグラーを中心として、乗車している
桐嶋 水之江が大地母神の依代の力で仲間に力を与える範囲内に、部隊が集結している。
そこから、
ローザ・グラナティスのサシュワータ・グラナートが先行する。光沢のあるガーネットの機体は金で縁取られ、アダマンチウム製のスカート装甲が特徴だ。その左右にはスクラマサクスガードとスクラマサクスアサルトが隊列を組んでいる。
トランス・ファルカタとリーゼ・アインが多数のハイサイフォスに囲まれて善戦している所へ、ローザ・グラナティスが駆けつける。僚機と共に横一列にならぶと、エースオブブライドの陣形を取った。
『あたしたちはKSM確保部隊。あたしが隊長のローザ・グラナティスだ。さあ、かかってきな!』
当然のように、ローザ・グラナティスのサシュワータ・グラナートに攻撃が集中する。キャノンシールドを展開すると、ローザ・グラナティスは防蟻を体勢を取った。ビームショットガンの攻撃を首尾よく防ぐが、上空からハイサイフォス・ガンナーの砲弾が雨霰と降ってきた。他方優の攻撃を免れた小隊からの攻撃だ
上と前からの攻撃に、真っ先にスクラマサクスアサルトが吹っ飛んだ。敵の狙いは、かなり正確だ。桐嶋水之江がソルジャーデコイを送信しているはずだか、効果が感じられない。敵は、思った以上に練度が高いようだ。
「今だ! このイカレた火遊びを仕舞いにしてやりな!」
ローザ・グラナティスが突撃の号令をあげる。直後に、スクラマサクスガードが爆散し、爆風をもろに食らったサシュワータ・グラナートが大地の上を転がった。横の建物の中へ機体ごと突っ込む。
「くそ、うごかんか!?」
間接部が完全にいかれたらしく、サシュワータ・グラナートが動けなくなった。
だが、ローザ・グラナティスの号令に応じて、アースモグラーが先陣を切って突っ込んできた。本来はスカイファルコン隊のスカイライダー小隊が直掩につくはずなのだが、ズルフィカールの偵察に行ったきり戻ってこない。いったいどうしたのだろうか……。
東雲那琴は、車体の前方に回転するドリル剛天を起動し、簡易障壁を張りながらトラストコマンダーの見事な操縦で突っ込んでいく。桐嶋水之江もバリアオーブでアースモグラーを守る。
シュティリア・グラナティスがマジックチャフを散布したが、すでに視認できる範囲にまで近づいているので、ハイサイフォス・ガンナーのレーダー照準を若干狂わせられただけであった。
「あははは、右を見ても左を見ても最新鋭機のオンパレードじゃないの! 眼福だわ!」
大地母神の依代となった桐嶋水之江が、アースモグラーの中でちょっと変なハイテンションで叫んだ。
シュティリア・グラナティスが、索敵宝珠改で隠れているカッツバルゲルを炙り出すと、固定速射砲とキュベレー・レイを駆使して攻撃される前に打撃を与える。
桐嶋水之江がマジックミサイルポッドで前衛のハイサイフォスを攻撃する。
そこへ、東雲那琴がプラズマウェイブを放ち、剛天で突っ込んでいった。さすがに、カシムを守っていたハイサイフォスの小隊が崩れる。だが、同時に、直近からバスタード・ソードの攻撃を受けたアースモグラーが、駆動輪を破壊されて横転した。そのままの勢いで地面の上を滑っていき、近くの建物の中へと突っ込んでいった。
「ううっ……、すぐにサイフォスヒーラーを呼びます……」
半壊したアースモグラーの中で、桐嶋水之江と東雲那琴と変な格好で折り重なるように倒れてしまっているシュティリア・グラナティスが言った。
アースモグラーが開けた防御の穴に飛び込んでいくように七瀬永見のイーグルデザートRverベースの
ベイン・イーグルが、スラスターを全開にして突撃していく。メタルブラックの機体は、装甲各部に青白く発光するスリット状の部分があり、頭部はかなり恐ろしげなフェイスをしている。
『全力で、隊長機を押さえましょう』
七瀬永見が、ジェノ・サリスたちに呼びかけた。
シュナイダータイプのレイ・スレイブをランページ陣形で前方に集中して、ストラ、ベルグ、ディスの各機からビームを放ち、立ちはだかる敵を撃破しながら進んでいく。
それに追従するのは
鳳仙 奏の禍鬼だ。カッツバルゲルをベース機体とはしているが、鎧武者のように重装甲となり、ベース機のコンセプトとは真逆のイメージとなっている。ダークブルーの装甲には、金の縁取りがある。地面すれすれをハイジャンプの応用で飛び跳ねるようにして高速移動している。それに遅れるようにしてスクラマサクスペアがつき従っていた。結果的にランページ陣形となって先頭を進むベイン・イーグルを追いかける。
白峰 雪のムスタングRAとムスタングRVer二機が、ダッシュローラーを駆使してスクラマサクスペアの後に続く。ムスタングRAたちに囲まれるようにして、
そのままカシム機まで一直線かと思われたとき、突然左右から拡散するビームが雨霰と浴びせかけられた。サイコバリアで防ぐものの、攻撃は間断なく襲ってくる。その間隙を突くように、突然姿を現したカッツバルゲルがソードブレーカーで斬りかかってきた。防ぎきれなかった鳳仙奏のスクラマサクスペアが撃破される。
爆弾を設置に言っていた部隊が、役目を終えて戻ってきたのだ。それによって、カシム機を目指していた各機は、包囲される形となってしまった。
ズルフィカールのおかげで、設置を邪魔されなかったため、予定よりも早く作業が完了したのだろう。七瀬永見たちにとってはよくない状況だが、爆弾の解除にいったリチャードたちにとっては、無駄な遭遇戦を回避できる結果となるかもしれない。とにかく、今は、ここを乗りきり、カシムと共にアディス・カウンターを無力化するだけのことだ。
もはや大百足の原形をとどめず、剣とは呼べない形状のグラインドキャリバーを縦横に振り回し、ブレイドタンスで文字通り敵機を粉砕していく。
鳳仙奏の禍鬼は、ハイジャンプで敵射線を飛び越えて難を逃れると、長大な斬騎刀を振り回した。コピスを上下真っ二つに切断するものの、その次にいたハイサイフォスがショルダーシールドで見事に受け流す。そうそう楽はさせてくれない。
速度的に少し遅れることで運良く難を逃れた白峰雪らは、スレットショット陣形で鳳仙奏たちをサポートした。だが、すぐに敵がやってくる。接近してきたハイサイフォスが、ショルダーシールドでメックアサルトライフルの銃弾を防ぎつつ、ムスタングRVerをバスタード・ソードで斬り倒した。即座に、ムスタングRAと残るムスタングRVerがニアパレットで前後からハイサイフォスをつつみ込む。さすがにこれには耐えきれず、蜂の巣にされたハイサイフォスが崩れ落ちた。
『今だ、突っ込め!』
ジェノ・サリスが、今度こそとトランス・ファルカタで突進する。
『アディス・カウンターのプライドにかけて、隊長機に傷一つつけさせるな!』
中衛のコピスが、カシム機の前に出てきた。ここに至っても、敵の士気は少しも衰えない。
その機体性能でジェノ・サリスが敵を圧倒するも、なおもカシスには届かない。
『逃がすか!』
ジェノ・サリスがビームウィップを振った。直撃するかに伸びたビームウィップを、直掩のハイサイフォスがバスタード・ソードで絡めとる。即座に長剣をトランス・ファルカタにむけて投げ捨てた。ジェノ・サリスがシュナイダーでバスタード・ソードを撃ち落とす間に、ビームショットガンに持ち替えたハイサイフォスが撃ってくる。
だが、トランス・ファルカタが目立ちすぎた隙に、光学迷彩で姿を消していた禍鬼が敵の間をすり抜けて、斬騎刀でカシム機の脚部を狙った。しかし、同様に忽然と現れたカッツバルゲルが、二本のソードブレーカーで斬騎刀を受けとめた。そのまま、刀身を砕こうとするかのようにソードブレーカーを捻る。
「その程度で、わたくしの勢いは止まりませんわ!」
ソードブレーカーを二本とも粉砕して、鳳仙奏が斬騎刀を振り抜いた。だが、その切っ先が深々と大地に突き刺さり、反動で禍鬼の手から離れる。カッツバルゲルは、斬騎刀を折るのではなく、角度を変えさせて大地に突き立てて無力化したのだ。
直掩のハイサイフォスが、カシムをさらに下がらせた。敵の狙いが明確であるのならば、わざわざそれに乗ってやる必要はない。もはや自分が部隊の最大のネックになっていると自覚して、カシムは噴飯やるかたない状態だったが、ここで自分がやられて作戦が失敗する方が不名誉だと自覚するほどの分別はあった。
このままでは埒があかない。自分の手でけりをつけるのだ。
『これ以上の戦闘は無意味だ。全軍、市内から避難しろ。仕掛けた爆薬を爆発させる!』
カシムが、アディス・カウンターの全機にむかって命令を発した。