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「誘爆しなかった? ミサイルは撃ち尽くしていたのか」
想定外だと、
“必的の狙撃手”世良 潤也が小さく舌打ちする。
ドゥニアの西、小高い砂丘の上にファルカタを腹ばいに配置し、長距離狙撃を試みたのだ。本来は、ミサイルランチャーの残弾を誘爆させて、頭部なりを吹き飛ばす予定だったのだが。
次弾を装填するも、スコープに映るズルフィカールはすでに肩の装甲が修復している。これでは、直接コックピットを狙うしかないが、さすがに二度目は難しい。
とはいえ、なんとしてもアディス・カウンターの暴虐を止めたいという強い意志はある。そもそも、オデソスでの会談の時に、対冥王同盟を提案したのは世良潤也自身だ。その提案がそのまま受け入れられてアディス・カウンターが設立されたとは思わないが、いや、思いたくないが、どうしてこんな組織になってしまったのだろうか。完全に歪んでいる。
「まあ、作ったのは潤也じゃないんだから、そこまで気に病む必要はないわよ」
ちょっと慰めるように
アリーチェ・ビブリオテカリオが言う。その通りなのであるが、世良潤也としては、どうにも割り切れないものがあるのだ。
「だから、そんな組織を叩き潰したって、気にすることはないんじゃないの?」
さらりと、怖いことをアリーチェ・ビブリオテカリオが言う。だが、もっともだ。
「奴を逃がさないように支援砲撃を頼む」
「まっかして♪」
世良潤也に頼まれて、アリーチェ・ビブリオテカリオが、二機のサイフォスキャノンに支援砲撃を命じた。
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「ふむ。スナイパーか、面倒な相手だな。カシムに飴をやる手前もある。もう少し引き離すか……」
ズルフィカールが、なぜか後退する。さすがに息切れでもしたのだろうか。それとも、一気に使いすぎたエネルギーのチャージか?
『攻撃の手を休めるな。追撃する! ――まだ動けるな、鬼刃よ』
無事な左手で大百足を拾いあげると、柊恭也は全員に追撃を命じた。アンタレスも双大剣を拾うと、ズルフィカールの後を追う。
市街地の建物を巧妙に使った射撃戦が繰り広げられ、戦場は街の中央東部から、東の外縁部近くにまで移動していった。アディス・カウンターが進行してきた方向だ。
どこからか砲撃がズルフィカールの退路を断つ形で落ちてくるが、建物の間を縫うように後退するズルフィカールにあたることはない。実際には、人しれず、何発もの弾丸がズルフィカールを掠めてはいるのだが、さすがに市街地を高速移動する敵には、建物が邪魔となって世良潤也でも直撃を与えることは難しかった。
どんどんと後退していくズルフィカールは、やがて町の東端まで到達した。
やはり味方と合流するつもりかと柊恭也たちが身構えたが、一向にその気配はない。むしろ、東側はすでに避難が完了しており、無人であった。ここであれば、全力で戦闘を行っても、建物の被害はあっても人的被害はないはずだ。
ついに、ズルフィカールが街を離れて街道に出た。
『今だ!』
柊恭也が切り札を切った。
「来たぜ。出番だ!」
柊恭也の通信を受け取ったツクモ・オウバージーンが、三好慶火に告げた。
「おっし、エネルギー充填120パーセント。準備完了!」
ドゥニアの北外縁部を密かに進んでいた指揮装甲車の中で、三好慶火が待ってましたとばかりに叫んだ。すでに、魔力充填は済ませている。
「ターゲットスコープ、オープン。ロックオン! 総員、対閃光耐ショック防御! フォースキャノン、発射!!」
指揮装甲車に搭載されたフォースキャノンから、高出力のビームが放たれる。発射時の反動で指揮装甲車が後ろに吹っ飛びそうになるのを、随行していたサイフォスヒーラーが必死に押さえた。
ズルフィカールと対峙していた者たちは、急いで射線から外れると共に、ズルフィカールの拘束に全力を注いだ。
松永焔子が、再びサイコバインドを試みる。ダメ元で、少しでも動きを遅れさせればそれでいい。
ズルフィカールは動かなかった。フォースキャノンのエネルギー波が直撃する。目映い閃光に、ズルフィカールの機体がつつみ込まれた。
すかさず、リリアナ・ヘイズが、砲撃に遭わせてサイコビジュアルでズルフィカールに殴りかかろうとする。そのときだ、リリアナ・ヘイズの視界いっぱいに、苦悶の表情を浮かべる少女のビジュアルが飛び込んできた。耳を聾する悲鳴も響き渡る。
そのあまりに強いプレッシャーに、制御を崩したサイコビジュアルが空振りして消滅する。
後方では、B.B.の砲口を下にむけたまま、黒杉優がターゲットを捉えられずにうずくまっていた。なまじ、機体と身体がダイレクトにコネクトしている分、機体を動かすことができない。先ほどの少女の幻影が、攻撃する手をなぜか鈍らせる。
『間を開けるな! 第二射発射!!』
頭を押さえつつ、柊恭也が畳みかけた。突然の悲鳴は、ディッカの放ったプレッシャーだろうか。大半の者が、まったく予期しなかったショックに、動くことができなくなっていた。それは、離れた場所にいるライトニング部隊や、アディス・カウンター、オアシスにむかって避難していくドゥニアの市民たちも例外ではなかった。
逸早く立ちなおったミシャ・ルメイが、ニア・バレッドで全力攻撃を加える。
後方の指揮装甲車から、ラスティア・フェリオが中口径三連装魔力砲、エラルウェン・アモンスールがマジックミサイルポットで一斉攻撃を加える。
フォースキャノンだけでは、キャヴァルリィは耐えられると柊恭也たちは想定していた。ここが正念場。全力を出すべき時だ。
閃光と爆炎が一帯を支配する過剰な飽和攻撃の後、ゆっくりと煙が晴れていく。
そこには、虹色の光につつまれたズルフィカールの姿があった。バリアの外縁部の大地は抉れて溶解し、ぐつぐつと泡だっている。
『そろそろ潮時か。カシムに与える時間としては十分であったろう。――面白かったぞ、小僧共。実によい聲であった。だが、そこまでだ。お前たちがしたことの真の意味と、その返礼を受け取るがいい』
両腕を交差させるようにして頭部の前に構えていたズルフィカールが、腰からアルケブスガンを抜いて構えた。
回転するようにして、巨大な弾頭のエネルギー弾を全方向へとばらまく。綻び一つないマントが、優雅に翻った。
直撃すればひとたまりもない。全員が、急いで回避行動を取る。その隙を突いて、ディッカがサイコプレッシャーを放った。
『逃がしてはだめです!』
黒杉優が叫ぶ。
だが、ズルフィカールは砂漠にむかってアルケブスガンを放ち、爆発で盛大な砂の煙幕を巻きあげた。
砂塵が地上に落ちて視界が晴れると、いつの間に現れたのか、ミゼットサブマリンに掴まっているズルフィカールの姿が空中にあった。そのまま、その姿が消えていく。
「ひどくやられたものだ」
コックピットハッチを開いて外に出た柊恭也は、パイロットヘルメットを取って深く息を吐いた。
作戦に妥協はなかった。たとえ、相手がグラディウスだとしても、負ける要素はなかったはずだ。オリジナルのキャヴァルリィだとしても、限界はある。あるはずだ……。そもそも、ディッカが完全覚醒したサクセサーだと仮定しても、はたしてここまで強いものだろうか。まだ、見落としている何かがあるのかもしれない。
未だ耳に残る悲鳴とビジョンを思い起こしながら、柊恭也たちはズルフィカールの去っていた方角を見据えた。