三千界のアバター

サルマティアグランプリ

リアクション公開中!

サルマティアグランプリ
リアクション
First Prev  11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21  Next Last

【毒霧の沼バトルロイヤル2】


「見付けた」
 いーさんこと青井 竜一がとある人物を見付けてそう仲間たちへという。彼が探していたのは黒薔薇リサーチのツバキとオニキスの2人。
 バトル開始時に2人を探していたことに関して竜一は考えていたことがあった。以前のことなどを考えさせるためにもこうして2人に戦いを挑むという憎まれ役をやろうとしている。
「わたくしがお守りいたしますわ、いーさん、カニンガム」
 タンクのみらりんことミラシファー・冴架・アテネメシアが前に立って、ツバキとオニキスの攻撃を受けるために竜眼の宝盾を構える。
「こっちも大丈夫よ」
 ミラシファーの後方に竜一と同じく追従するカニンガムことアリス・カニンガムがそう伝えた。
 相手の黒薔薇リサーチは2人ともアタッカーで構成されたチーム。しっかりと、タンクが攻撃を受け止め、そこからアタッカーのアリスが突貫。そして、後方からの竜一の援護攻撃をしていけば勝てるとはいかなくとも、いい勝負はできるはずだ。幸いにも相手にはタンクのような守る相手はいない。それならば相手のダメージを蓄積をさせていってジリ貧に追い込んでしまえばなんとかなるだろう。
「先制攻撃で一気に詰めていくぞ、いいな?」
 そう言って竜一はイクラボムを手に取るとミラシファーの後ろから2人に向けて投げつける。その爆発で竜一たち『しせんインポッシブル』の面々に気付いたツバキとオニキスはこちらへと一気に接近をしてくる。
「くっ……!」
 ツバキのコールドフレイムが先にタンクのミラシファーへと着弾する。流石のアタッカーの攻撃で気は抜けないが、防げない攻撃ではない。ヒーラーがいない3人なので、上手く立ち回らなければ逆にこちらのほうが被害が大きくなってくるだろう。
 ここでアリスがオニキスに向けてミラシファーを飛び越えてぶつかる。クラフターである竜一は回復手段も備えているので、ここでやらせるわけにはいかず、前衛としてミラシファーが守りつつ、アリスがオニキスへと攻撃。そして、後方から竜一が此世為銃を使用する。
「オニキスさん。アルテラの王剣戦争の厳しい戦いで、結果的にツバキさんを他の特異者に任せきりにしたことに、負い目と苛立ちがあるのではなくて?」
 ミラシファーがオニキスの攻撃を受け止め接近しているときにそう言う。その言葉に多少反応はするが、それを邪魔するかのようにツバキからの魔法が飛んでくる。
「ツバキさん! 長く一緒にやってきたからこそ、王剣を巡るアルテラの厳しい戦いで、自分を他の特異者に任せきりにされたこと。頭では仕方ないと思っていても、女の子としての気持ちで本当に割り切れてるの?」
 魔法を放ったツバキの邪魔をしようと接近したアリスが今度は彼女へとそう言う。
 前衛2人は黒薔薇リサーチの2人を言葉でもダメージを与えようと考えているようだ。しかし、2人の巧みな連携を崩すことはできず、倒しきることはできない。
「そんな攻撃!」
 オニキスの剣を盾で受けつつ、トリプルアサルトを放とうとするアリスだが、そこをツバキに邪魔をされてしまう。
 ソードマスターのオニキスは接近してくれるため、攻撃を受けたり返すことはそこまで難しくないが、魔法系アタッカーであるブラックマジシャンのツバキが距離を離して攻撃をしてくるので上手く攻め込むことができない。
「――それだけじゃないな。どうなっているんだ」
 そして、竜一はそれだけじゃない原因に気付く。
 攻め込むことができないとは言ってもダメージを与えることはできていた。しかし、黒薔薇リサーチの2人は誰かに回復されているかのように傷が治っていくのが分かる。
「……気付かれちゃいましたか」
 2人と共闘する形でヒーラーを買って出ていた閃鈴 内名が遮蔽物から顔をのぞかせる。
 黒薔薇リサーチは2人の連携を持って戦い続けている。しかし、タンクもおらずヒーラーもいないツバキとオニキスはいつかダメージが蓄積されて気絶させられてしまうだろう。そのため、こうして内名がヒーラーとして共闘することで上手く機能させていたのだ。
 隠密行動で遮蔽物などに体を忍ばせ、2人の邪魔をしないように支援をしていた内名。こうしてツバキとオニキスを誰かが回復しているのではないか、と気付かれてしまっては隠れ続ける必要もなくなる。
 内名の仕事はヒーラーではあるが、2人の戦いを邪魔しないこと。2人は好きに戦ってもらい、それを完全にバックアップする形で動いていた。
 ただ、懸念材料はタンクという守る壁がいないということ。やはり、いるのといないのとでは差が出てくるだろう。内名自身の魔力にも限界があり、こうしてしっかり作戦を立ててくる皆と戦えば持久戦になってしまうことも当然ありうる。
 彼等を倒したとしても次があると考えるとやはり不味いかもしれないと内名を含め、竜一たちと戦う2人も考えていた。
「ボクたちも手伝うよ、黒薔薇リサーチさん!」
 そういってドラゴンスレイヤーを持って走っていくあねらこと蒼心院 響佑が内名の横を通り過ぎて、ミラシファーへと突撃をしていく。
「ヒーラーは……いないみたいだね」
 竜一がヒーラーではないことを確認して響佑がそう言う。しかし、後方にいるということはこの中でも回復手段を持っている人間だということが分かるので、優先的に倒したほうがいいだろうと判断し、ツバキの攻撃を受け止めた隙をついてアサシンの特性を生かした素早さで一気に距離を詰めていく。
 しかし、人数が多くなったというだけで倒しきるということができないのが対人戦。相手は人間であるので決まった行動をしてくれるとは限らないのだ。イクラボムをこちらに向けて放り投げてくるのを確認すると瀧舞を構えてどうにかダメージを軽減させる。しかし、このまま攻撃を受け続ければダメージが積み重なっていくのは分かり切っている。
「少し下がって、私が防ぐわ」
 そこへやってきたのはフィデスこと浅井 侑果。2つの盾を持つタンクの彼女は響佑と相手側へと割り込む形を取って攻撃を防いでいく。
 侑果がこうしてタンクとしてきたことで黒薔薇リサーチのアタッカー2人もまた守りを彼女に任せることで攻撃を仕掛けていくことが可能となる。
「いきなり共闘するってことで戸惑いはあるかもしれないけれど――」
「人数が少ないのなら、こうして共闘することで他のパーティーがいなくなるまで戦ったほうが得だと思うよ!」
 乱入をする形で入ってきた前衛の響佑と侑果がそう前にいるオニキスへとそう言う。疑わしいのであればいつでもこちらを攻撃してきてくれていいと考えている彼らは、こういう形を取ってでも優勝を考えていた。
「少し下がるわ、前線を下げてちょうだい」
 侑果が前衛にいる者たちへとそう言うと従うようにして気付かれないようにゆっくりと誘導を始める。
 相手は近接攻撃のアタッカー。クラフターからのイクラボムの攻撃はあるが、近接攻撃は遮蔽物などがあれば攻撃しにくくなると考えた。もちろん、オニキスや響佑は近接攻撃だがツバキという遠距離アタッカーがいることで機能させることができる作戦だ。
「霧のせいで毒になってしまった人はすぐに言ってください。すぐに治療いたします」
 響佑や侑果とやってきたヒーラー癒月こと柚月 紗依がそう皆へと伝えた。
 内名も黒薔薇リサーチの支援としてヒーラーをしていたが、こうして2人になれば分担作業で1人当たりの負担が減ることとなり互いの魔力消費を抑える効果もある。
 癒月は皆のダメージを見ながら、どの回復手段を取るかを考えながら治療を行っていく。パーティーが半壊し、危険なときのためにグレーターヒールも使えるようにしてはいるが、今は大丈夫なようだ。
 こうしてヒーラーは皆のダメージコントロールをしっかりしないとパーティーを危険に陥れてしまう可能性もあるので、やっていかなくてはいけない。タンクを中心として回復させることはもちろんだが、アタッカーの皆もしっかりと回復していかないと火力不足に陥ってしまうだろう。
 そして、そこへもう1つのチームが参戦。黒薔薇リサーチの共闘を始める。それは『シャンバラ遊撃隊』の面々であった。
 世良 潤也の考えとしてツバキを守りたいという信念がある。それを踏まえた仲間たちもまた、それを考えて黒薔薇リサーチと戦うことは難しいと考え共闘をすることを了承する形となったチーム。もちろん、それはシャンバラ遊撃隊の皆が納得しているので潤也の独断というわけではない。
「皆サンヲオ守リシマス」
 チーム内のタンクDDM- 23が前衛へと飛び出る。23がタンクとして出てきたことで黒薔薇リサーチと共闘している者たちのタンクは2人となる。
 竜眼の宝盾とラージシールドを持っている23は相手側アタッカーを上手く防ぎ、共闘しているタンクと連携して上手く攻撃を捌いていく。
 そして、ここまで形勢逆転が起こってしまったことで竜一たち『しせんインポッシブル』の3人は戦えないと判断し、負けを認める形となった。
 しかし、ここで戦いは終わらなかった。
「あらやだぁ……いい男がいるじゃない!」
 黒薔薇リサーチや共闘しているシャンバラ遊撃隊の者たちを見付けたカニコロッケこと鮅 裸男がそう言って味方たちに敵がいることを伝える。
 裸男が所属しているチームは『導きの翼【フィデス】A』。ここまで上手く遮蔽物やワイヤーなどを避けつつ戦うべき相手を探していたときに、この戦場へとたどり着いたのだ。
「しっかりと陣形を守って動きましょう。相手の力量もまだ分かりません」
 裸男と同じくタンクの綾瀬 智也がそう皆へと伝えると、タンクを一番前とした陣形をしっかりと組んで戦闘準備へと入る。
 メインタンクとしての役割を持った智也はパーティーの一番前に立ち、ゆっくりと敵であるシャンバラ遊撃隊と黒薔薇リサーチの元へと距離を詰めていく。
 すでに裸男が大きな声で彼らのことを言ったせいか、向こうにもこちらの存在はばれているようだ。
「幸い俺らはそこまで消耗してない。アリーチェ、そっちは頼むぜ」
「ちょっと待ちなさいよ! もう、言われなくてもやるわよ!」
 潤也が遮蔽物へと向かっていくのを見ながらアリーチェ・ビブリオテカリオがそう言う。アサシンでありレイスの潤也はその素早さを生かしての奇襲を考えていることはアリーチェも分かっている。そうなれば、バルディッシュを持っているアリーチェが前衛アタッカーとして機能することで、それを成功させやすくしなくてはならない。
 潤也もアリーチェも金属融解液爆弾を持っているので、タンクと当たった際にはそれを投げつけて盾を使い物にならなくさせる事もできるだろう。だが、それは絶対そうできるというものではないので、保険程度に2人は考えていた。もちろん、金属であれば溶かすことができるので、決定打に欠けるときに使用することも考えている。
 最初に互いがぶつかったのはアリーチェと智也。彼女の戦斧をマグネシールドでしっかりと受け止めることで、仲間たちへの被害が及ばない様にしっかりと引きつける。
「ここを突破させるわけにはいきません」
「そうだとしても、負けるわけにはいかないのよ!」
 そう言って再び振り上げた戦斧を智也の盾へと叩きこむアリーチェ。盾で受けているとはいえ、その攻撃は智也自身へと伝わりダメージを受けることは変わりはない。
 お互い後方にヒーラーがいるので、回復してくれるのでまだダメージを自分自身で気にする必要はない状況だ。だからこそ今は全力で相手を叩いていかなくてはいけない。
 2人の攻防は続き、アリーチェは智也を突破できず相手のアタッカーやヒーラーなど守られている者へとたどり着くことができない。そうなればやることは1つ。金属溶解液爆弾を手に取ると、それを智也のマグネシールドに向けて投げつける。
 投げつけられた爆弾のダメージを減らそうと智也は受けるが、その液体によってマグネシールドが溶け始めていることが分かる。今ならば大きなダメージが与えられるとアリーチェは強力な3連撃で智也を戦闘不能にしようと試みる。
「どいてもらうからね!」
 その戦斧でマグネシールドは完全に破壊。その2撃目。
「盾がなくてもこれで守ります」
 シュートジャベリンを構えた智也。盾は破壊されてしまったが、その槍を構えることで可能な限りダメージを軽減させようと試みる。そして、アリーチェの攻撃を受け続けることになる智也。
 その際に潤也は敵の陣形に切り込もうと奇襲を仕掛けようとしていた。しかし、それに気付いたのがタンクの裸男。
「見付けたわよぉ!」
「見付かった……!?」
 奇襲に関して気を付けていた裸男は潤也がこうして飛び出して奇襲を仕掛けてくるということを注意していた。もちろん、潤也でなくとも奇襲をされた時のことを考えて動いていたからこそ気付くことができたと言える。
 守護の大楯を構えた裸男は潤也の一撃をそれにて防ぐ。紅黒のカーマを持っている潤也であったが、攻撃を当てることができなければ敵の体力を吸い取ることもできない。
「あら……それでアタシの精力吸い取られちゃうのぉん!? いやぁん!」
「え、何言ってるんだこいつ……」
 確かに攻撃を当てることができた敵から体力を吸い取ることができる武器ではあるが、このようなリアクションを取った者が今までいなかったからか、潤也は戸惑ってしまう。
「さあ、どんどんきていいのよ。アタシの吸い取りたければ吸い取ってちょうだい! 良いオトコに吸い取られるなら本望よ!」
「……俺はツバキを守れればいいから、邪魔をしなければそれでいいさ!」
 そう言って再び潤也は剣を構えて裸男の方へと向かう。危ないことを言っているだけの相手であればいいが、相手はタンク。彼を突破しなければ敵を倒すことはできず、ツバキを守るということも果たすことはできない。
「ノーン様、回復をお願いします。魔力の回復は私が料理しますので、まだ持ちこたえられるはずです」
「了解したよ、舞花ちゃん! 頑張って回復するよ!」
 混戦の状況を確認しながら潤也やアリーチェ、他のアタッカーのことを考えて邑垣 舞花ノーン・スカイフラワーへとそう伝えると、ノーンは回復をメインとした行動へと切り替える。
 ここまで混戦となるとダメージを受けた際にダメージコントロールをするのが非常に難しい。こちらにはヒーラーがまだいるとはいっても、今までの戦いで消耗しているヒーラーもいるので皆が万全で回復をしてけるわけではない。そのために存在しているのがクラフターのコックである舞花だ。ブラックパウダーをヌードルマシーンに入れることで魔力を回復させるアイテムを作成。ヒーラーの中で魔力が尽きそうな者がいればそれを使ってもらう流れとなっている。
 ただ、ここまでで舞花のアイテムも数が減ってきており全員を補えるわけではない。基本的にはノーンに使ってもらい、消費の大きいグレーターヒールに備えてもらっている。
「ツースリーちゃんも他のタンクの人も結構ダメージ受けてるなぁ」
 ノーンが周囲を確認しながら皆の具合を確認する。タンクの者たちはもちろんだが、アタッカーの者たちも大分ダメージを受けている様子が見受けられる。
「舞花ちゃん、準備お願いね!」
「はい、分かりました。残りは少ないですが……皆さんがどうにかするのを信じています」
「うんうん、わたしもだよ! だから、少しみんな集まって!」
 ノーンの言葉にシャンバラ遊撃隊や黒薔薇リサーチなど共闘している者たちがノーンへと近づくと、そこでグレーターヒールを使って皆を大きく回復させる。これを使ったことで大きく魔力の消費をしてしまったが、舞花の料理を使うことで後1回か2回は使えるくらいの魔力残量。
(でも、こちらは消耗している人が多いですから……状況的には不利とも言えますね)
 冷静にこの状況を確認している舞花がどうしたらいいのかを考える。このままでは消耗が大きいこちらのほうがやられてしまう可能性は高い。彼女のクールアシストでノーンの回復先を教えているが、相手もダメージを受けっぱなしではないので押し切られる可能性も考えられる。
 黒薔薇リサーチの2人の連携は非常によく、敵へのダメージを上げていっているのが分かった。しかし、傍から見ればいい勝負にも見えるこの戦い。しかし、タンクが4人いる相手を突破するのはやはり難しい。
「ここはやらせません」
 ヒーラーを狙ってやってきたアタッカーを止めるようにしてルチルことルチル・アストライアが割り込んでくる。
 現状で前衛タンクの2人は上手くシャンバラ遊撃隊のアタッカーを止めてくれているので、ヒーラーを守ることを優先しているルチルが上手く機能している形となっている。
「相手も強い……ですが――」
 ポリアナードの騎士盾を構えて攻撃を受け止めて、盾を振り払うようにして距離を空けさせる。そして、こちらへ向かってくるオニキスの後方からツバキの魔法が放ってくるのを確認して、盾ではなく無垢のガッダを旋回させるようにして防御することでどちらの攻撃も防ぐために防御力を固めていく。
「おっと、こっちは任せてください~」
 ルチルとオニキスの間に割って入ってきたのはコタンコロことクゥネル・レイスだった。
 コロボックルであるクゥネルはすばしこく動き回り、小さい体を上手く使って割り込むことに成功する。しかし、彼女自身はコロボックルという小柄の体型なのでメインタンクというスゴトは難しいということで、こうしてルチルと同じくヒーラーを守るサブタンクとして戦っていた。
「突撃ですぅ~」
 サモナーでもあるクゥネルはネズミを召喚させるとオニキスへと向けて突撃をさせる。それを回避している姿を確認しながら、次の行動をどうするかを考えていた。
 彼女がそうしている間にツバキの魔法攻撃をヒーラーに行かせまいとルチルは防ぎ続ける。近づくことができれば攻撃することも可能ではあるが、ヒーラーから離れることとなれば他に仲間を狙うものから守ることが難しくなるので持ち場を離れるわけにはいかない。
「大丈夫ですよぉ~。こうすれば――」
 ネズミの突撃から1度オニキスの攻撃を受け止めたクゥネルが距離を取ると、そこへファイアバードを召喚させてその範囲にツバキを巻き込ませる。
 相手のタンクがこちらのアタッカーをしっかり抑えてくれているということで、タンクから遠距離攻撃ができればダメージを与えることができるということだ。しかし、こんな攻撃も続けられるわけではなく、倒せるほどの威力ではないので相手ヒーラーの負担を増やすということになるだろう。
 幸いにも後方からの魔法攻撃をしているということで、敵が数人集まっているところへとファイアバードを放てたことで更に敵ヒーラーの負担を増やすことができたと考えられた。先程グレーターヒールを使って回復をしていたようだが、消費が大きいというのは把握している。連発ができないことを考えれば上手く嫌がらせをしていくことでジリ貧に追い込む事ができるだろう。
 その時敵へと切り込んでいく白い狼のような姿があった。それはホワイトこと白狼のレイスである狛守 眞白の姿である。
 奇襲のためにここまで上手く立ち回っており、ハイドマントを使って周囲の背景に溶け込ませていた。そうすることで接敵した際にアサシンとその種族の素早さを生かして一気に切り込むという奇襲を用いたのだ。
 ここまでの戦いでそこまでの余裕がなくなっていた黒薔薇リサーチとその共闘している者たちは、眞白の奇襲によって足並みを崩される事となる。
「……ここで負けてもらうよ……」
 そして、彼女が狙うのはヒーラーなどではなくアタッカーだ。ここで火力を削っておくことで相手側の持久戦を無意味なものにするためだ。
 しかし、こちら側の被害も徐々に大きくなっているので長い間敵陣にいることは良い事だとは言えないだろう。それが分かっている眞白は、アタッカーの1人を煉獄刀・罪華と煉獄刀・怨嗟の二刀を持ち敵の体力を一気に削って離脱することにする。
「……くらえ……双剣乱舞……っ」
 智也を狙っているアリーチェへとツインスパイラルにて攻撃。二刀の片方ずつを使って一撃を加えた後に身を翻しながらもう一撃を食らわせる。
 ここでアリーチェを狙ったのは、智也の盾が壊されているからだ。このまま押し切られれば智也はそのまま気絶させられ、戦闘不能になってしまうだろう。チームとしては、誰かが最後まで立っていてくれていればいいという考えではあるが、今ここで倒れられたら先がなくなってしまう。
「どうしましたらよろしいでしょうか……」
 ここでどう動こうかを考えているのは李 霞だ。
 敵タンクの妨害として金属溶解液爆弾を投げつけたり、ヒーラーが上手く動けないようにとネヴァームーブを使用したりと邪魔をし続けてきた霞。妨害をし続けることで敵タンクや敵ヒーラーの消耗を増やそうとし、自身もイクラボムで攻撃するなど支援を行っている。
 しかし、まだ決着はつかないとはいってもこちらが押し始めているのは分かっていた。もちろん、逃げるという手もあるのだが、向こうは引く様子はない。そうなれば敵に降参をさせるために動くほうがいいのだが、自身の持っている術ではやはり決定打に欠ける。
「地形的にはこちらの不利にはなりませんし、わたくしはわたくしが出来ることを精一杯やるしかありませんね」
 オートマッピングでここまで歩いてきた地形を把握している霞。毒霧に加えてワイヤーや遮蔽物などがあるこの場所では、戦いにくいところというのは出て来てしまう。そこで、霞はしっかりと自分が踏破してきたところを把握しておき、味方が戦いやすい場所の把握を行っていた。
 このまま押し切れるのであれば支援職である自分は支援を続けるだけだと霞はヒーラーの邪魔をするようにしてネヴァームーブを再び敵へと放っていく。
「よし、これで……!」
 ケイこと京・ハワードが弓からの一撃を黒薔薇リサーチへの共闘を持ち掛けた響佑たちの最後の1人だった侑果を気絶に追い込むことに成功。残るはシャンバラ遊撃隊の面々と黒薔薇リサーチの2人だ。
「ケイ、体力は大丈夫かい?」
 京つきのヒーラーであるコロンことコロン・アフェランドラがそう尋ねると、京は頷いて大丈夫だということを伝える。
 これまでの毒霧による状態異常はコロンの持つアンティドーターでどうにかなっていた。それを考えると、毒霧からの毒は強い物ではなく、スキルやこの杖で解除できるほどのものだと考えて良いようだ。しかし、毒霧は常に撒かれているので注意を続けなくてはならない。
「こっちも少し危険だね」
 コロンは前衛にいるタンクの智也を見ながらそう言う。流石に盾がなくなった状態でみんなを守っていた智也であったが、それではダメージが蓄積されていく量が増えていくのは当然だ。そのせいで回復が追い付かなくなってきており、その時点で皆は智也の回復を止めていた。
「ごめんなさい、絶対に勝ち上がりますから……!」
 京は矢を放ちながら智也へとそう言う。
 『導きの翼【フィデス】A』というチームは最後に誰かが立っていることが重要だと考えているチームだった。回復が間に合わなかったりなどの優先順位を決めて置き、こうなった場合はここから切り捨てていくという作戦を取っていた。そうすることでヒーラーの負担などを減らし、確実に誰かが残っていくようにとしている。
「距離を詰めます」
「ボクはこのままの方が良さそうだね」
 コロンは京専属として動いているヒーラーではあるが、一緒に敵へと向かってしまっては危険なためここに残ることにする。京自身がアタッカーという立場なので、ヒーラーであるコロンを守り切るというタンクのようなことはできないからだ。
 京は緋想剣と紅黒のカーマへと武器を持ち替えると敵へと距離を詰めていく。
 現在は前衛としてのアタッカーが懸命に戦っており、敵アタッカーの数が徐々に減りつつある。こちらも、タンクである智也を戦闘不能にされてしまったが、皆が無事に勝てるとは思っていないので想定内とも言える。
 ブロウクンポイントをしっかりと見きわめて確実に敵を攻撃していかなければ降参をしてくれないだろう。シャンバラ遊撃隊の者たちは黒薔薇リサーチと自分たちどちらかが勝てればいいと考えているようだ。
 ある意味自分たちのチームのような動きをするシャンバラ遊撃隊と黒薔薇リサーチの者たちは戦い続ける。
「消費が大きいけどタイミングを見てクシャトを使ったほうがよさそうだ」
 前衛へと行った京を見ながらそうコロンは呟く。上手く攻撃を当てることができれば京や他のアタッカーが敵を気絶へと追い込んでくれるあろう。
 前衛アタッカーが攻撃している少し後ろではヨシノリこと柳生 由紀がレージを使って敵タンクを牽制及び妨害をしていく。
「ナイフは……残り3本ですか」
 持っているレイドナイフの数を確認する由紀。レイドナイフは4本のセットとなっており、敵のヒーラーが回復をしようとしたときの妨害として持ってきたものだ。それが1本なくなっているということは1度だけ妨害を試みたのだが、それは防がれてしまったのだ。
 シャンバラ遊撃隊を大きく回復させたグレーターヒールを妨害しようと由紀はナイフを投擲したのだが、それは敵タンクに阻まれる形で妨害することができなかったのだ。これを邪魔することができたならば、大きく貢献することもできたのだが、終わったことを悔やんでいても仕方がない。
「また使う時があれば、ですかね――くっ、近づかれていましたか」
 由紀が気付いたのはオニキスとツバキがこちらへと攻撃を仕掛けようとしているところだった。こちらのタンクが1人減った事によって突破できる隙ができてしまったからなのかもしれない。味方のタンクは別のアタッカーなどの相手をしているので、こちらを守りには来れないだろう。
「ならば、できることは1つですね」
 そう言って紅黒のカーマとドラゴンスレイヤーを構えた由紀はオニキスと対峙をする。
 こちらを狙ってきたということは、こちらの方向に隙ができたということ。そして、由紀を攻撃してきたのは1人でもアタッカーを減らそうということなのだろう。2人の連携は目を見張るものがある。そんな2人に1人では勝てないと分かっている由紀はここで時間を稼ぐことに決める。そうすることで、味方が他の場所の対処が終わったときに黒薔薇リサーチを攻撃してもらおうと考えたのだ。
「シロさん、流石にこちらも被害が大きくなってきましたね」
「……うん……」
 皆を回復しているエレナ・フォックスとシロことひかる・アベリアが状況を確認してそう話している。
 自分たちはサブタンクの2人が守ってくれているので大きな被害は出ていないが、前に出ているタンクである智也がいなくなったことで裸男の負担も増えている。それによってサブタンクの1人がカバーとして入って止めている状態。それに加えて由紀が危険だということも2人は分かっていた。
(あーうん、ヨシノリは時間稼ぎしてるってことは捨ててくれって感じだね。まあ、まだこっちは魔力残ってるし大丈夫な人を回復させれば大丈夫だよね)
 ひかるはこの世界で無口ではあるが、脳内会議は非常にノリの軽い感じで行われていた。しかし、しっかりと状況を確認して考えているので軽いのはノリだけである。
「わたしはこのまま回復を配っていきます。シロさんはグレーターヒールを使えるだけの魔力はありますか?」
「…………」
「それじゃあ、何かあったときはお願いします」
 コクンとひかるは頷いて答えると、それに対してエレナは笑顔になりそう言う。まだこれからの戦いを考えるとヒーラーは重要な位置づけであり、極論逃げ続けて回復していればどうにかなる可能性もなくもない。
 可能な限りヒーラーの消耗を減らすために様々な作戦を立てているのだが、やはり考えている通りにはことは進まない。気付けば導きの翼【フィデス】Aの者たちもまた数を減らしながらもシャンバラ遊撃隊の面々も少なくなり、黒薔薇リサーチのツバキとオニキスは危険な状態にあった。
(んー、向こうは魔力尽きそうなのかな? よーし、それじゃあ、パーッといっちゃおう!)
 ひかるはそう考えるとグレーターヒールを味方全員を回復するために使用。パーティー全体のダメージが大きくなっている状態で使うことで上手く立て直すことに成功する。それに加えて元々消耗している状態で戦っていた向こうは、パーティー全体を回復させられるような魔力は残っていなかった。
「こっちも数が減ってしまいましたけど、これでどうにかなりそうですね」
 エレナは立て直すことに成功し、攻撃をし続けている仲間の様子を見ながらそう呟く。
 そこから黒薔薇リサーチ及び、一緒に共闘していた者たちが気絶し、降参するまで大きく時間が掛かる事はなかった。しかし、導きの翼【フィデス】Aもシャンバラ遊撃隊や響佑たち、黒薔薇リサーチが健闘したことで消耗させられた魔力などは小さくはない。それに加えて気絶させられてしまった仲間を考えると、全力を持って戦うことは難しく、同じ力量のチームと当たった場合はしっかりと対策をしなければならないだろう。
 こうして、この場所での勝利チームは導きの翼【フィデス】Aとなった。しかし、まだ戦いは続いているので油断はできない。最後まで残るのはどのチームなのだろうか。
 
 
First Prev  11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21  Next Last