三千界のアバター

≪GOE≫烈火の戦士と聖華の騎士・後編

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第一章―エピローグ―

 アンドレアは天を仰ぐ。
 動く余力すらなかった。
 苛烈な戦いなどに関せず緩やかに動く、薄汚れた雲を眺めながら、彼女は思った。
 那岐、内名、小太郎達、大和達――そして、一姫達。そのどれかが欠けていたのならば、自分は今高らかと勝利の雄叫びを上げていたのだろうと。
 しかし、これが“敗者の気持ち”なのだ。
 アンドレアが初めて味わった、次へ挑戦する者の想い。
 彼女が自嘲気味に笑みを浮かべた刹那、一姫のギアを弾き飛ばした腕が、より一層の音を立てて爆ぜた。

「……初めて、何かに囚われることなく戦った気がするなー」

 アンドレアは一姫、そして戦った全ての特異者へと、真っ直ぐ瞳を向けた。
 そして壊れた片腕へ、熱の流体を這わせる。
 正真正銘、最後に宿した力。
 赤き流体を眺め、アンドレアはきっと抱いてはいけないと分かっていながらも、哀しさを帯びた瞳を向けた。
 ――そして熱を帯びた腕が、自身の胸部を貫く。
 そこに迷いの類はない。
 ただ、一直線に命を、貫いた。
 
「じゃあな。――“アンドレア”。…………動けぬ者に、“次”はないってこと…………よ」

 赤く染まる心臓部の風穴を一瞥し、アンドレアは静かに倒れた。
 彼女が倒れる音だけが、周囲へ響き渡ったのであった。


■□■□■


「あーあ……堕剣……行っちゃったっスね」

 バルメは小さくなっていくアスカロンを捉え、大きく頭を掻いた。
 彼女は目の前の特異者達を相手取ってなお、大局を見ていた。
 目の前で全ての力を使い果たした彼らを殺める事は出来ずとも、彼女自身が撤退するには十分な力を残している。
 それでも、任務失敗には変わりはなかった。
 壊れたギアを躊躇なく捨てると、自決するアンドレアを瞳に映し、僅かながら悲哀の想を覗かせるのだった。

「んじゃ、自分は行くっス。撤退はできるっスからね」
 
 しかしそれも一瞬だった。
 ひらひらと手を振り、踵を返す。

「待って」
「なんスか、おねーさん」

 過ぎ去る瞬間、バルメを引き留めたのは美夜だった。
 しかしながら美夜もまた、満身創痍。この状況を覆せるカードを残してはいない。
 ――――それでも。

「何時までも“お嬢さん”に“お姉さん”ではデートの時に困るわね。私は美夜、宵街美夜。貴女の恋人の名前」

 美夜は諦めていなかった。敵へ向けるには、少々特異な意志を。
 思わずバルメは、表情を緩めた。
 髪を靡かせながら、バルメは美夜の眼前へ歩みを進める。

「ナディヤ・マイヒェルベック。――貴女のこと、ちょっと好きになった奴の名前」

 動きに反応できない美夜の乱れながらも綺麗な髪を、バルメはまるで子どもが戯れるように両手で掴む。
 そして雑に、唇を重ねた。
 大よそ接吻とは思えないほどに。

「でも、自分……“バルメ”っスから。――それは、危険要素を、排除する者の名前」

 ――次は始末する。“あのお方”のために。
 バルメは全ての特異者へそう言い残して、戦場を後にしたのだった。


■□■□■


 堕剣の魔性から解放されてもなお、ベルトランの周囲には闇の――否、憎悪のマナがこびりついて離れなかった。
 しかし手首より先を失い、全身に凄まじい痛みが走る彼に、反撃の類が出来るわけでもなかった。

「…………仲間……か」

 苦しみ、悶える中。
 彼は狂気に歪む瞳を、ふとアイン達へ向ける。
 かつて彼女が向けた台詞が、今にも狂いそうな脳内で反芻する。

「く……くく……アスカロン……か」

 そして目の前で膝を着く真奈美へと瞳を動かす。
 姿形は違えど《教会》の遺志を纏う、彼女の“レプリカ”アスカロンを見つめた。
 そしてベルトランは笑う。
 そこに鬱屈した、フィオーレに再三直せと言われた、薄気味悪いものはなかった。
 周囲には特異者達――撤退にせよ、ロンバルディアの外まで逃げ切れる余力はない。
 魔物達も、彼に残る闇の残痕へ縋るように、その気配を濃くしていた。

「ああ……思い出した」

 ぼそりと、ベルトランは呟く。
 はっきりと、一人の人間らしく。
 そして己が下肢に宿るギアへ、力強き風のマナを纏わせた。
 そこに、闇はない。

「くくく……俺は――――疾風のベルトランだッ!!」

 そう言ってベルトランは、特異者達の隙間を縫って疾走する。
 当然彼を相手取っていた者達はそれを止めようと動くが、彼の背後を狙う魔物達に阻まれる形を余儀なくされた。
 そしてまた、ベルトランは逃亡とは違った様にも見えたのだ。

「くく……感謝する守護者達よ。自分の運命は、自分で決める」

 いつからか傀儡となったベルトランは呟き、魔物達を引き連れて旧街区の一角を駆け抜けるのだった。

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