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≪GOE≫烈火の戦士と聖華の騎士・後編

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第一章―闇の鎖、堕ちた剣・2―

 ベルトランが堕剣の傀儡と化す様を見て、後方に位置するツクモ・オウバージーンが思わず声を漏らした。

「街だけじゃなくて、堕剣を持ってるヤツもひでぇことになってんじゃねぇか」

 目前で広がる光景を見ているだけで、その手に握る――『インクリーズ:2nd』によって調整を行う松永 焔子のギアへ、嫌な汗が滲むようだった。
 そして心が騒めく。有体に言ってしまえば、ツクモにとって不愉快この上なかった。

「……オーディオの野郎、やり方がいちいち汚ねぇんだよ」

「光は闇には屈しない」

 ツクモが言葉を紡ぎ終えると同じく、彼女の手からするりとギアが渡った。
 その先には、毅然とした眼差しをベルトランへ向ける、焔子とクロエの姿があった。

「クロエと共に聖剣を真の姿へ戻すことで、オーディオに私の信念を叩きつけてやりますわ!」

 焔子が気高く言い放つと、クロエも燃えるような瞳を僅か細め頷いた。
 そして一歩踏み出す二人。
 先制して、『ホライゾンホバーバイク』に跨り、アクセルを引き絞る焔子が突撃。
 『光竜骨』の刀身を傾け、闇を放出するベルトランのマナへ、『自動追尾:2nd』する。
 それに気づいたベルトランは首を異様な角度で傾け、野性の勢いで跳びかかる。そして正面衝突の形となった焔子の斬撃を、大きく払い退けた。
 堪らず傾く車体ではあったが、『エンハンス:ブラック』による耐性で巧みに立て直す焔子。
 ――速い。そして重い。
 すれ違うことさえ許されないような敵の速度に、思わず焔子は息を飲む。
 しかしながら、追尾機能は死んでいない。
 彼女すら意図しない形で刀身は傾き、ベルトランの腕へ光纏う一閃を掠めた。
 
「ォォォォ!!」

 反撃に、鼓膜を突き破るようなベルトランの叫びが放たれる。
 そして同時に大振りな闇の閃光が焔子へ駆けた。
 しかし直撃の寸前、後方より炎が幾重にも躍る。

「焔子! 訓練の成果、見せましょうか!」

 援護の銃撃を放ったのはクロエだ。
 彼女はツクモへ預けていたギアを受け取り疾駆する。
 それと同時に焔子がバイクの前輪を大きく切り返し、一度距離を取る。
 追従するベルトランではあったものの、堕剣を握る腕に一閃の紅蓮が駆け抜けた。

「よそ見厳禁、よ?」

 前衛を代わったクロエが一撃を沈め、ベルトランの視線を集める。
 その隙に焔子は再びバイクの車輪を大きく削り、光の軌跡を残して敵の腕目掛け最接近。今度こそすれ違い様の一閃を決める。
 瞬間、ベルトランは反射的に刀身を横薙ぎに振るうも、大きく遅れた。
 放つ『スロウ』が、より彼を蝕んでいたのだ。
 しかしながら剣より迸る闇の息吹が、二人をこれ以上寄せ付けない。

「……憎シミ……コソ……チカラ」

 ベルトランは迎撃の構えを整える。
 瞬間その後方より一つの影が躍った。――猿のような外見をした魔物だ。
 それは膨大な闇のマナに引き寄せられたのだ。
 危険ではあったが、想定内でもあった。接近より早く、弦が大きく弾ける音が響く。
 遅れて重力を纏う矢が魔物の足へ突き刺さり、その動きを大きく鈍らせた。

「姉貴ぃ! ここはあたしに!!」

 『望遠モノクルスコープ』より瞳を離さず、構える『悪亜蟲』より追撃するツクモが叫ぶ。
 再び一撃、魔物の下肢へ矢が刺さる。
 それでも堅牢な装甲を破るほどとは言えず、徐々に接近を始めていた。
 時間は、ない。
 呼吸が整い切らない焔子達に反して、ベルトランは無尽蔵な闇を吐き出し続けている。
 焦燥の波が一行を襲い来るが、その流れを断ち切るように一発の銃撃が闇へと襲い掛かった。

「この剣が魔物を呼んでるっての?」

 銃撃が纏う『ギアストーン:グラヴィディ』が、ベルトランの動きを殊更鈍くさせる。
 ベルトランへ新たに立ち向かうSAL0056145#ハロン・リグラッド}は慎重に敵との距離を計りつつ、再び拳に纏う『重力パンチグローブ』を振り抜く。
 再び重い弾丸が、ベルトランを襲った。
 応じて闇の刀身がそれを払い、切っ先を鋭くハロンへ向ける。

「じゃっ、さっさと奪還してフィオーレに渡せれば、万事OKってことだよね!」

 しかしながらハロンは臆さず、拳を顎の前へ構え視線を向ける。
 瞬間、闇の刃が彼女へ向けて三日月を描いた。
 凄まじい速度ではあったものの、開戦時と比べれば遅い。ハロンは拳を握り締めてガントレットを展開、削られるような痛みを覚えながらも確実に防御する。
 そして踵へ力を込め、身体を後方へ送ると再び牽制射撃。
 対してベルトランは、それを予期して刀身の面で弾くと、追撃に走り抜ける。
 怒涛の攻めではあったものの、あくまでも直情的だった。
 その隙を狙い、上空より一発の銃撃が駆け抜けた。
 それはベルトランの下肢目掛け炸裂する。――体勢を崩された敵は堪らず減速。その隙にハロンは側方へ跳び距離を取る。
 ベルトランの濁った瞳が、狙撃方向へと向いた。そこには狙撃手――邑垣 舞花が映る。

「皆さんのアスカロン奪還が叶うよう、援護射撃に努めさせていただきます」
 
 再び、舞花は構える『支援銃撃用ギア・ライフル』の引き金へ力を込めた。
 銃身が数度跳ねる。
 その衝撃に送り出されるように、弾丸はベルトランへ接近。彼は下肢より闇の息吹を放ち回避するも、銃撃は『自動追尾:2nd』によって軌道を変えた。

「……ガァッ!!」

 短く吼えたベルトランは初弾を受け、続く追撃を力任せな薙ぎ払いで破壊する。
 そして反撃一閃。迸る闇のマナが幾筋も重なる波動の筋となって、舞花の位置する上空へ向け駆け抜けた。
 しかしながら『スチームアビエイター』を備える彼女は、その身を大きく翻して回避。追従する闇は彼女を蝕むも、決定打を与えるほど追いつけはしなかった。

「敵の速力を少しずつでも削っていけば、勝機はあります」

 『気品』溢れる言葉を、仲間達へ贈る舞花。
 彼女の銃撃にも『スロウ』が含まれていた。ベルトランが受けた回数は徐々に、そして確かに重なっている。
 闇が如何に激しくとも、勝機は十分にあった。
 反撃と牽制を含めて一発、ベルトランへと銃撃を迸らせる舞花。そしてその身体を、大きく側方へ回転させた。
 舞花は次なる狙いへ向け、再び狙撃。――大きく弧を描いて迸る先は、ツクモが抑え込む魔物だった。
 徐々に足を前へ出していた魔物ではあったものの、舞花の『ロングレンジショット』が直撃、先の攻撃で姿勢を崩していた身体を大きく薙ぎ払う。
 助力に感謝の声を上げるツクモへ応じた舞花は、眼下――ベルトランへと再び視線を戻す。
 その瞳に、ベルトランへ正面より激突する成神月 真奈美が映った。
 真奈美は『GC:デトミネイショントリガー』による『アクセル:2nd』にて肉薄し、ベルトラン――否、堕剣アスカロンの懐へと迫る。

(アスカロン……わたしは感謝してます)

 淀み、濁り切ったかつての聖剣を初めてその眼で捉え、真奈美は握る『アスカロン』で撃つ。
 小気味良い音が響き、闇が周囲へ僅か飛散した。
 長剣である以上、決定機の薄い至近距離。互いに刃を重なるも、鍔迫り合いのような状態に陥る。

(あなたに導かれたおかげで、教会の“遺志(レガシー)”に触れ、共感し、大切な人も増えた……)

 二つのアスカロンがぶつかる。
 外見も、性能も、宿すマナも違う二つの剣。
 それでも――辿れば魂は同じ。《教会》の厳然たる遺志がある。
 故に真奈美の握るアスカロンこそ、目の前の堕剣自身が、聖剣と呼ばれる頃を思い起こさせるのだ。

(そして今は……街を護る為にアナタを止められる!)

 瞬間、想いを乗せた真奈美の刀身が、横薙ぎに吼える。
 受ける堕剣は闇を噴出してそれを受け止め、激流の如く漆黒のマナを放出し真奈美を弾き飛ばす。

「……苦しんでいるのは、“アスカロン”も同じなのですね」

 その最中、真奈美は感じた。
 闇に蠢く堕剣の叫びのような震えを。
 堕剣は今――――宿主を食い殺す魔障からの解放を望む。

「ォォォォォォッ!!」

 聖なる回帰へ反発するかのように、堕剣は闇のマナを無我夢中で放出した。
 凄まじい力が衝撃波となって、特異者達を襲う。
 汚染されるような苦痛。
 しかしその中ですら、一人として諦めない。
 上空より舞花が数弾、ベルトランへ追尾する銃撃を放つ。彼女自身、闇に撃たれながらの一撃。
 それでも撃った。
 狙いの精度は落ちていたものの、持てる術、その全てを果たし堕剣の刃へ直撃させる。
 視界を奪うほどの闇が、根源に衝撃を感じさせたことで、僅かながら晴れた。
 その隙間を縫うように焔子が、『光竜骨』をライフル形態へ変型させる。

「闇を……貫きますわ!」

 『ホライゾンオプティカルサイト』より狙いを定める彼女は、引き金へ想いを乗せ、力を込める。
 放たれる銃撃、その狙いはベルトランの手だ。
 周囲のマナが防御壁として護ろうとも、『パーフォレート』を備える一撃が貫通する。
 濃霧の如き黒を穿ち、突き進んだ先は堕剣握るベルトランの手掌。
 直撃。
 一瞬激しく刀身が揺れるも、未だ彼の手からそれが離れることはなかった。
 しかしながら生じたその隙を狙い、ハロンが拳を掲げ距離を詰める。

「アタシは平和が好きなんだ」

 きっぱりと、竹を割ったように、彼女は言い放った。
 ベルトランは跳ねた腕を強引に振り下ろし、ハロンへ向け鋭い迎撃を見舞う。その一撃は灯火が消え入る瞬間に爆ぜるように、巨大な力を秘めている。
 躱し切れない。
 それは誰の目から見ても明白ではあったが、ハロン自身の瞳は真っ直ぐと堕剣を捉えている。
 激しく、そして静かに。
 『紅炎の生存本能』と『蒼炎の生存本能』が彼女の身体を突き動かした。
 
「取り戻させてもらうよ」

 振り抜かれる漆黒を鼻先寸前で、完全回避するハロン。
 そして天高く掲げた拳を、力の限り振り下ろす。
 鈍い音が、ベルトランの手首を中心に響く。それは先に焔子が一撃を沈めた場所。
 再び、力強く堕剣が揺れる。――が、未だ闇のマナは暴れ、ハロンを後方へ吹き飛ばした。
 まだ、足りない。
 堕剣にこびりついた悪しき憎しみの念を払うには。
 それでも、喰らいつく。
 もう一本の――――複製されたアスカロンが。

「聖剣だった頃を……平穏の為に光放った日々を……今日まで紡がれてきた願いを……。思い出してもらいます!」

 ベルトランの眼前へ突如として現れた真奈美。
 『ヒートアクセラレーション』を駆使し、更に己が限界値『アクセル:3rd』で加速、最後の猛追へ躍り出た。
 『アスカロン』の刃をチェーンソーの如く動かし、ベルトランの腕に刻まれた傷を重ねて削る。
 しかしながら彼女の全身へ、闇が襲い掛かった。
 それは斬撃であり、マナの塊であり、憎しみの叫びだ。
 どこに喰らったかも分からぬような怒涛の痛みが、真奈美を弾き飛ばそうと幾度となくぶつかる。
 声にならない悲痛が、真奈美の口から漏れる。
 死ぬかもしれない――死神がその首根に鎌を突き立てる感覚が襲う。
 それでも彼女は顎を引き続け、更に前傾姿勢を取り、刀身をベルトランの腕へ難度も沈め続けた。
 
「わたしには死ねない理由がある……この命は“踊りが好きな大切な人”から貰った……超特別な命だから!」

 特別な想い、それは『生への執着』を呼び起こす。
 瞬間、真奈美の『アスカロン』に込められる力が限界を超え、先よりも苛烈な一撃を叩き込んだ。
 ベルトランの手首ごと吹き飛ばす一撃。
 それを受け、遂に堕剣は金属音を奏で地へと転がった。
 同時に真奈美も前傾姿勢のまま倒れる。
 息はある。――が、目の前の剣をどうにかする力は残っていない。
 しかしながら代わってハロンが、死力を尽くして滑り込むように接近。叫びと共に堕剣を蹴り抜いた。

「クロエ!! 後は任せた!!」

 漆黒の軌跡を残し、向かう先はクロエそして焔子の足元。
 それを迷わず、クロエがその手に収めた。
 一瞬焔子が直での接触を止めるような素振りを見せたが、クロエは小さく首を振る。

「ダメよ、焔子。……これは生半可じゃ抑えられない。でも……策はある……信じて」

 言葉を紡ぎながら、クロエの半身は既に汚染されていた。
 情熱の色をした髪も、不気味に黒く濁る。
 ――策はある。クロエの言葉を信じ、彼女の苦痛に唇を噛みながらも、焔子はバイクに跨る。

「…………信じますわ!」
「ありがとう。さぁ、急ぎましょう――“彼女”の元へ」

 クロエを乗せたバイクは、黒き軌跡を残し駆る。
 勝利を願う多くの特異者の想いと共に。
 そして堕剣はこの場から消えた。
 ロンバルディア殲滅戦における大きな鍵の一つは、守護者達へと渡ったのだった。
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