三千界のアバター

≪GOE≫烈火の戦士と聖華の騎士・後編

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第一章―重風の阿修羅・キス・オブ・ファイア/圧し刈る重風を絶つために―

 アンドレアが特異者達と交戦を開始してほどなく、バルメもまた二人の特異者を相手取っていた。
 ドロテア・リドホルム、そして宵街 美夜
 襲い掛かる二人の挟撃に、双剣で応じるバルメ。
 
「今回はフーリア不在っスけど、大丈夫っスかね?」

 嘲笑するように言い放つ彼女には、余裕が窺える。
 しかしドロテアも美夜も、策をなくして挑んでいるわけではなかった。
 躍る風の双剣目掛け、ドロテアは抜刀した『天斬【ヒペリオン】』の切っ先を幾度もぶつける。小気味良い音は連なり、まるで一つの旋律を作り出すようだった。
 それでもバルメの双剣は、ドロテアを寄せない。
 ならばと、ドロテアは『雷晶【レグルス】』を振りかざす。
 『フルイドリム』によって刃を形成した雷電の流体が、バルメの双剣へ迸った。

「御機嫌よう、お嬢さん。貴女の為に佳いお店を見つけておいたの」

 次いで、口説き文句と共に美夜がドロテアの対面より『星導刀“ニゲルヴィクセン”』の切っ先を重ねた。

「ふんっ。相変わらずなおねーさんっス」
「あんな無粋な獣を嗾けて壊すには惜しいわ……そろそろデート、受けて頂けない?」

 『アクセル:3rd』によって加速する斬撃は、バルメの双剣が次に来る場所を先回りするように襲う。
 それだけでない。
 時折美夜の織り混ぜる『デトネーション』は脅威だった。しかしドロテアの加重にも気を張らねばならない。
 しかし見極め、応じる。
 対して二人もまた即席の連携ではない。計算された連続攻撃の嵐は、バルメにどちらか一方を薙ぎ払わせる機を与えなかった。
 いかに一対多数を得意とするバルメとはいえ、まるで十数もの剣を叩き落としているような感覚だ。無言のままに彼女は、集中力を高め尽くす。

「お断り……――っス!!」

 瞬間、バルメは二人の攻撃の隙間を縫い、美夜へ返答を吐くと飛翔した。
 そして双剣を連結――させようとするも。
 『夜翼“AbendAnfang”』によって短く飛ぶ美夜が、バルメを追従する。『伸縮機構』によって間合いを詰め、双剣の連結を弾く美夜。
 しかしバルメは弾かれた衝撃を利用し、反転ドロテアへ勢いのまま双剣を振り抜いた。

「――ッ!?」

 その表情が一瞬、強張る。
 ドロテアの位置が、認識し難いのだ。
 思わず目を擦りたくなるような虚を生み出したのは、彼女の『マナミラージコート』による迷彩効果だった。
 放った双剣は、虚空を斬った。
 それでもバルメは冷静さを欠くことなく、双剣を連結。長剣となったギアの切っ先より重力の波紋を広げる。
 
「堕剣を食い止め、みんなを守るわ。……“彼”が約束を果たせる、その時まで」

 それを目したドロテアは、決意の想いと共にバルメへ踏み込んだ。
 視覚の誤差が戻り切らぬ内に『スタンドイン』による分身を生み出すドロテアは、一気にバルメの懐まで攻め寄る。
 そして次の手を講じようとした――その刹那だった。

「――ッ」

 ドロテアの動きが止まった。
 否、止められた。
 重力と風を操作した――まるで風が凪ぐ、無風状態のような空間。それがバルメの周囲で展開され、ドロテアの動きを止め得体の知れぬ苦痛を与えるのだった。

『残念っス』

 バルメは唇を動かす。
 直後、美夜が風と重力の壁を叩き割るような、加速する凄まじい斬撃を叩き込む。
 しかし衝撃は空間に吸収されていったかのように消えた。
 自身が動けなることを代償に放つ、“無風”の防御。現状それを打ち崩せはしない。

「さよならっス」

 美夜が撃ち終えた瞬間を見計らい、バルメは空間を解除すると彼女の側方を抜け疾走する。
 まずは死守すべき、堕ちた剣の元へ。
 足を前に運ぶバルメだったが、すぐにその歩幅は小さくなった。

「……っと。忘れてたっス」

 目の前を、影が阻んだ。
 先陣に立つクラン・イノセンテ桐原 巧。二人が構えると同時、バルメも内に秘める闘争心が疼いた。
 そして双剣を大きく広げ、二人へ襲い掛かる。

「障害(お前)を断って、この旧街区を護ってみせる!」

 応じてクランは、『迸光《レイド・ライトニング》』の幅広の刀身を振るい迎撃。
 幾つもの金属音が重なり、連続攻撃をいなす。

「前回倒し損ねた借り、まとめて返すよ!」

 直後、巧がバルメの懐へ踏み込んだ。
 『白光剣・穿風』の刀身を彼女の腹部へ滑らせる。――が、バルメの返す刃が勢い良く、巧の一撃を弾いた。
 その後も、十数合いにも渡る応酬が続く。
 仕掛け、惑わし、苛烈な音が重なり合う。
 二人の巧みな連携にも、バルメは涼しい顔で受け続けた。
 
「っ、は……相変わらず、一人でよくやりやがる……ッ!」
「そりゃ、どもっス」

 クランの力強い振り抜きを躱すバルメは、飄々と笑うと双剣に鎌鼬を纏わせた。
 それはすぐに水平に駆け抜け、クランへと迸る。
 大気を裂くような強烈な風に対し、彼は『ギアスラッシュ』の斬撃を浴びせ相殺。
 
「もう一本っ!」

 しかしバルメは残る一本の刀身から、再び鎌鼬を放った。
 刃を返せないクランではあったものの、代わって巧が己がギアでそれを受ける。
 衝撃に巧の下肢は地より離れ、後方へと退けられる。
 その機を狙いバルメは、前へ身体を傾けた。

「みんなと一緒に――今度こそ倒してみせるよ!」

 一歩を踏み込んだバルメだったが、突如として声と共に『シャドウハンズ』が彼女の足を絡め取った。
 バルメの冷えた、殺気立つ瞳が動く。術者である、平原 静乃へ。
 妨害は成功。
 しかし、その代償はあった。
 静かなる殺気を湛えるバルメの瞳が静乃へと射抜くように向けられ、追撃の矛先は彼女へ。
 強烈な竜巻が、まるで押し潰すように静乃へと襲い掛かる。
 地面を削り駆け抜ける一撃ではあったが、『BlackArmleT』を身につける静乃はすぐに側方へ跳び、足を削られはしたが致命傷は避ける。
 直後、再びクランと巧――二つの刃がバルメを挟み込む形で迫った。
 双剣を順手に持ち替えるバルメは、強烈な音を響かせそれを受け止める。
 そして身体を大きく捻り、絡めるように二人の刀身を弾くと、彼女は素早く長剣へと連結させた。

「そろそろ終わりっス」

 バルメは剣を振りかぶる。
 重力の波動を放つ体勢。その危険度は、この場にいる者は周知のこと。
 それを撃たせぬため、鎖鎌が鈍い音をたててバルメの長剣へ迫る。――『翠舞姫・穿』だ。
 突風を放つそれは長剣の動きを制限し、波動は虚空を穿った。
 変型の瞬間。それを狙ったのは、『観察眼』を駆使したミラ・ビィエーラだ。
 真正面からの攻撃に効果が薄いことは分かっていながらも、ミラは次いで銃撃を放ちバルメの動きを牽制する。

「……マスター、巧様。ここはお任せを」

 肩で息をし始めていたクランと巧は、ミラの声に応じて一歩後方へ跳ぶ。
 二人が離脱するに、肉体の疲弊だけが理由ではない。一時でも退かざるを得なかったのだ。ギアは整備されていたとはいえ、随分と痛みを抱えている。
 この場を保つべく、ミラは『戒心』を忘れず鎖鎌を翻し追撃する。
 それを横薙ぎで弾くバルメ。
 三日月を描いた一閃の後には、鋭い衝撃波が走った。それは真っ直ぐミラを狙うも、彼女は『ギアスラッシュ』で応戦し何とか凌ぐ。
 
「十秒っス」
「マスターの因縁の決着……僭越ながら、力添えさせて頂きます」

 バルメは姿勢を低くすると、長剣を分離させミラへ肉薄する。
 しかしながらミラは『ギアストーン:ガスト』の風を駆使、その身体を後方へ飛ばして中距離を保持。
 鎖鎌をまるで舞うかのように躍らせると、その先端に備える銃口より『リニア:2nd』を駆使した強烈な弾丸を放つ。
 風を穿つ弾丸に応じ、バルメは双剣を重ねて叩き落とす。
 そして返す刃の切っ先をミラへ向け、強烈な旋風を解き放った。
 嵐の如き風は、彼女の身体を飲み込む。――それは幾重にも皮膚を裂いた。
 痛覚がひどくミラの身体を鈍らせた。それでも彼女の瞳は、死んでいない。
 対峙するバルメは目を細め、纏う殺気をより濃くしていく。

「マスターに……勝利の栄光を」
「前言撤回っス。――確実に葬る!!」

 ミラが何とかバルメをその場に留める一方で、巧とクランはトウカ・クオンズリーフの元へ後退していた。
 トウカは戦いの前、『GT:シャープネスⅡ』を駆使して仲間達のギアへ、『ギア・チューニング』を行っていた。
 しかしながら二人のギアは、強敵との削り合いに随分と消耗している。

「……任せて」

 短く言い放つトウカは、体得する『プレシジョンワーク』を用いてギアを確かめる。
 精密な作業を可能にする技術力は、いつ拮抗が崩れるかも分からない戦場で実に有効だった。
 しかしながら、ギアの損傷は予想より激しい。損傷する二人のギアが、バルメの実力を物語っていると言い換えても良い。
 それでもトウカは『ギアリペア』を用いて、手早く応急処置を完了させる。
 最後にミラが凌いでいる状況を確認した彼女は、『インクリーズ:3rd』にてエネルギー効率の上昇を行った。
 そして力強く、二人へとギアを差し出す。

「私の分まで……徹底的にやってちょうだい!」

 頷く二人が再びギアを持ち前線へ疾走したと同時。バルメと対峙するミラは、既に片膝を着いていた。
 そんなミラへ、長剣へ変型した切っ先が向いている。

「さぁ――まずは一人」

 バルメの表情が、機械のような無機質に変貌する。
 そして一撃。重力を纏う光線が迸る。
 周囲を削り、真っ直ぐに伸びる重力波。それを受け止めたのは、『ギアストーン:プラズマ』の力によって障壁を生み出すクランだった。
 あえて突撃の姿勢で挑んだ彼は、膨大なエネルギーで真正面から受けた。
 そこから更に一歩を踏み込みたい局面。
 しかしバルメ必殺の一撃は、容易に相殺し切れない。

「…………くっ……!!」

 歪むクランの表情。
 死力を果たして善戦し、蹲るミラを背にする彼は、ここで折れるわけにはいかなかった。
 予定とは異なる展開ではあったが、ギアのリミッターを解除――『ブーストチャージ』する。
 それに呼応して爆発的に光と熱を強くする障壁は、バルメの重力波を遂に飲み込んだ。
 
「まだまだっス!!」

 しかしバルメは、クランとミラへ狙いを定め、疾駆していた。
 長剣の切っ先が再び妖しい光を宿し、空間を歪ませている。
 二人にとって危機ではあったが、反転して好機でもあった。彼女が二人を注視していることは、誰の目から見ても明白だからだ。
 その隙に静乃が前へ出た。
 先の激突で舞い上がった粉塵を『スモーク・ザ・リッパー』の力で隠れ蓑に、バルメから目して二時の方向より忍び寄る。
 肝要なのは機を計ること。
 全てはここで止められるか、否かだ。――静乃は『レオナルドの加護』を得て、己の力を高める。
 
(ここが……勝負の賭けどころだよ!)

 そしてバルメが完全に肘を伸ばし、長剣を前に送りだした瞬間。
 静乃が放つ渾身の『ブロンタイド』が炸裂する。
 マナが揺らぎバルメの周囲にはまるで、局地的な地震のような振動が襲い掛かる。
 バルメの構える切っ先も、大きく乱れた。
 しかしながら彼女は括目し、不安定ながらも重力の波動で静乃を後方へ押し退ける。
 その直後だった。
 チャージ効果が切れる直前で、クランが満身創痍の中でバルメへと圏内まで接近。
 振りかぶる刃に応じ、重力を帯びる長剣も同じく動くが。
 クランは笑みを浮かべていた。
 血の滲む口元が三日月を描く。――次の瞬間、『フラッシュライト』による目晦ましが光った。

「……――ッ!!」

 視界を奪われたバルメへ、跳び込んだのは巧だ。
 『フェイタルアサルト』にて迸る横薙ぎの一撃は、バルメの上下を分かつように迫る。
 その膂力は、彼が出し得る限界値をとうに超えていた。『ブーストチャージ』によってギアの力を一段と引き出された一閃。
 
「前と同じと思うなよ……今度こそ、終わらせる!」

 確実に捉えた死力の攻撃ではあったものの――巧の手応えはあまりにも薄かった。
 刀身は、バルメへ届いていない。
 先と、かつて戦った時と同じように、無風状態が展開され身体を動かすことさえできなかったのだ。

『お見事っス』

 バルメの唇が動く。その瞳は、戦士への称賛が浮かんでいた。
 巧は術の特性上、隙だらけに他ならない。
 しかしながら、バルメの術もまた解除無くして攻撃には転じられなかった。
 故に無風状態を解除し、長剣の切っ先より重力を揺らがせる。
 大技の射出、確実に葬り去る一手。その瞬間こそ、隙を呼んだ。
 ――まだ、この場にいる特異者達は、一人たりとも諦めてはいない。
 そこへ飛び込んだのは、ドロテアだ。
 闘志に燃える彼女の瞳が、バルメの視線とぶつかる。そして有無を言わさず凍結の術、『アブソリュート・ゼロ』を叩き込んだ。
 徐々に体温は奪われ、バルメのギアは一時的にその機能を落とす。
 そうなれば物理。
 バルメは長剣を横薙ぎに滑らせ、ドロテアを狙う。
 しかし同時に間合いを詰めた美夜が、『ブーストチャージ』を作動させた強烈な一撃を叩き込んだ。
 長剣は揺れ、ドロテアには届かない。
 バルメはすぐに返す刃で美夜へ応じるも、伸縮する斬撃の間合いを捉えきれなかった。

(呆れる程シンプルな手だけれど、これが私の……たった一つの冴えたやり方)

 美夜の斬撃が、バルメへ届く。
 直後ドロテアより放たれた雷が、追撃として重なる。

「まだ……っス!!!」

 それでもバルメはおおよそ出会ってより初めて、猛々しい声を轟かせた。
 そして先に燻ぶっていた重力の波動を天高く放出。直後長剣を強引に分かつと、ギアの耐久も無視して二対の重力波を吐き出した。
 その先に立つドロテアと美夜は、消耗により回避間に合わず。致命傷には至らずとも大きく地を転がる。
 バルメは壊れかけた双剣を、続いて巧とクランへ向け大きく振りかぶった。

『Abbi fiducia in me!』

 瞬間――声が聞こえた気がした。
 もう一人、【圧し刈る重風を絶つために】戦う――エレナ・アイゼンベルトの声が。
 同時にバルメは背後より熱いものを感じる。
 咄嗟に瞳を向けると、そこには爆炎轟く一発の矢が差し迫っていた。
 その遥か後方、真っ赤な熱の軌跡を辿ると『《焔命》キール・カーディナル』が未だ火花を散らせている。
 『望遠モノクルスコープ』を覗き込み、エレナはこの機を待っていたのだ。
 たった一発、それに賭けた。
 特異者全体で見れば、アスカロンを取り返してフィオーレに届ければ良かった。故にわざわざバルメを倒す必要もないのかもしれない。
 エレナは静かに後方で待機し続ける中でも、それを理解していた。
 しかしながら――“理解”と“答え”は違う。

(ワタシの命が、心が、炎が、ここでやらなくちゃいけないって突き動かすの。
 だから、今度こそ完璧に決着つけよっか!)

 その想いが、『ブーストチャージ』によって力を高める爆炎に込められていた。
 またそれを即座に理解するバルメも、その意思ごと叩き潰すように、瞬時双剣の矛先を変えた。

「……決着をつけるっス!!」

 風が、巨大な嵐のように暴れ狂い、エレナの矢と衝突する。
 『エンハンス:レッド』によって劫火のように燃え盛る炎は、『デトネーション』による衝撃波を伴いバルメを喰らい尽くさんと大きく爆ぜる。
 しかしながらそれを飛散させるように、風が竜巻を広げていった。
 十数秒もの拮抗の末、炎は消える。
 その場に立っていたのは、風と重力の使い手だった。
 周囲の特異者は、エレナを除き総じて膝を着いている。
 “この場”を制したのは、バルメだった。

「…………はぁ。始末できず……っスね」

 バルメはチャージ後の機能不全により、追撃を不可能とさせたエレナを見やり笑った。
 そしてその直後のことだ。
 彼女の手に握る双剣が、音を立てて崩れ去った。
 虚無感を煽るような、金属音の重なりが戦場へ響く。
 特異者を始末する。バルメの撃破こそ不可能だったものの、彼女の目的そのものはこの瞬間に潰えたのだった。
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