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≪GOE≫烈火の戦士と聖華の騎士・後編

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第一章―赤熱の猛虎・1―

 先んじて跳びかかるアンドレアを制した一撃。
 それを放った風間 那岐は、距離を保ちながらも『重子刀・弐式』の銃口を彼女から離すことはなかった。
 この状況を収束させるには、アスカロン奪還は必須。その結果を掴み取るために、彼が選んだのはアンドレアを引き付けること。

「――あいつか!」
(……補足されましたか。しかしこの場は、付き合ってもらいますよ)

 彼女に踏み込まれるよりも早く、那岐の両手で支える銃身を跳ねさせた。
 鈍い音と共に吐き出された弾丸は、重力を帯びてアンドレアへ迫る。しかしながら捉えた一撃を、彼女は挑戦的な笑みを浮かべて回避体勢を整える。
 十分に躱せる距離だった。
 それでも、那岐の『自動追尾:2nd』が弾丸の軌道を僅か変える。
 瞬時にその微細な変化に気づいたアンドレア。マグマを零す腕を振り上げ、叩きつけるように弾丸を叩き落とす。
 重力を纏う那岐の一撃は、鈍い音をたてて地面へと大きくめり込んだ。

「重いなぁ」

 アンドレアは拳を二、三払い、重々しい余韻を感じる。
 そして広げる掌を那岐へと傾けた。
 その刹那だ。
 彼女が開く五本の指先は、まるで銃口のように。マグマの塊が噴出し、那岐へと殺到する。
 その火力たるや、一介の銃撃ではない。
 迫る赤を瞳に映した那岐は、『サイクロン』による重力の竜巻で応じる。
 重力波は螺旋状に回転し、マグマの弾丸を飲み込むも、到底止めきれるものではなかった。熱波の余波が、那岐の全身に爆ぜるように叩き付けられる。
 それを見たアンドレアは獲物を狩る猛獣が如く、軸足を大きく地へ沈めると那岐へ跳びかかった。
 振り上げた拳から、真っ赤な熱の軌跡が迸る。
 それは那岐を確実に捉えていたが――彼もまたここで万策尽きる者ではない。
 負傷したとは思えない全力の俊敏さで側方へ跳び、距離を取りつつ銃身を大きく跳ねさせる。――纏う『ヘビィウォーマー』の耐火性が成せる業だった。

「……元気だなーーおい!!」
「ええ。まだまだ、相手をしてもらいますよ」

 再び那岐の放つ鈍重な弾丸は、綺麗な弧を描きアンドレアの右腕へ走る。
 既に攻撃態勢である彼女に、回避は不可能。しかしそれが決め手になるでもない。
 振り抜くマグマの剛腕で、那岐の銃撃を再び払うのだった。

「悪いな? お前だけと遊んでいる暇はない!!」

 アンドレアは尚も距離を計り、銃撃を放とうとする那岐へ再び掌を向けた。
 炸裂弾を放つ合図。
 那岐は再び構えるが、一切の負傷がないわけではない。
 何処まで拮抗できるか――彼の額より一筋冷たいものが流れた。
 しかしながら、その不意に那岐の瞳に何かが映った。
 それはアンドレアの背後、その上空より放たれた銃撃だった。
 
「……新手か!?」

 彼女は気配を察し、眼球を僅か動かす。
 瞬く間に迫る、水のマナを帯びる弾丸。だが、その軌道は随分と高かった。
 思わず、アンドレアの口元が歪む。

「おいおい、下手くそな狙撃だ――――なァ!!?」

 軽口を叩きかけたものの、すぐに表情が尖った。
 そして那岐へ向けていたはずの散弾攻撃の矛先が、僅か上部へ逸れ一気に爆ぜる。
 先に放たれた銃撃は、アンドレアを追い越し、『方向転換』によって大気を抉るように返ったのだ。
 間一髪、奇襲を逃れるが、前言撤回をせざるを得ない。
 殊更、彼女は狙撃に対して苦い経験をしているのだ。歯を軋ませそれらしい建物の影に瞳を向ける。
 
「……流石の反射神経ですね」

 その一つに、閃鈴 内名は身を潜めていた。
 未だ銃口より冷気の余韻を残す『GC:セージ・ライフル』を構え、内名はアンドレアの動向を注視する。
 既に探るアンドレアの首の傾きは、随分と限定されていた。
 それだけ内名の居所を捉え始めている証拠だ。――彼女は迷わず『スチームアーマーM型』の瞬発力を活かし、姿勢を低くさせたまま別の建物目がけ疾駆した。
 その隙に地上では、新たなる動きが始まっていた。
 狙撃に警戒するアンドレアは、開戦時と比較すれば隙が見える。それを突き、『辰狐槍』より迸る風が彼女目掛けて迸ったのだ。
 咄嗟に判断が遅れ、防御の形を余儀なくされたアンドレア。
 倒れるほどではなかったが、再び意識を目の前の脅威へ戻す。

「彼女達の邪魔はさせません……申し訳ありませんが、手合わせ願いましょう」

 凛々しい声色をぶつけるのは、先の突風を放った小山田 小太郎。“困っている人の力になる”――その信念(イノチ)を瞳に込め、アンドレアを真っ直ぐ捉えている。
 小太郎はクロエとも、決して小さくない縁がある。
 故に槍を構える彼の手にも殊更、イノチを込めた力が入る。
 一瞬の睨み合いの末、動いたのはアンドレアだ。
 下段から突き上げるような拳が、小太郎へ迫る。
 『無心無想』で心を律し、『無我の境地』にて気と想念を読むも、それは圧倒的暴力。
 柄で確実に受け切る小太郎だったが、拳より噴射する熱の塊に堪らず吹き飛んだ。

「…………ッ!」

 小太郎の表情が歪む。――しかし纏う『紅き断絶の衣』が、彼の機動力を奪い取らせはしなかった。
 すぐに突風で反撃。アンドレアに踏み込ませない。
 それでも彼女は、手を伸ばす。小太郎へ向く五本の指は、赤熱を帯びていた。

「……誰も、死なせない……皆で、生きるんだ……!」

 不意に、アンドレアの暴力を真っ向から受けるような言葉が、小太郎の後方から響いた。
 そして直後、『渦潮の水杖』より放たれる、輪を成した水の刃が疾走する。
 援護を行ったのは八代 優だ。
 彼女にも信念がある。
 故にここで小太郎を倒させることは、絶対に許さない気概を秘めたかのような援護だった。
 
「――チッ!! 邪魔すんじゃねーーーー!!」

 それでも言葉ごと捻じ伏せるように、アンドレアは熱塊の嵐を放った。
 機関銃から放たれたかのようなそれは、確実に小太郎と優を捉えていた。
 それにも関わらず、弾道は大きく逸れたのだ。
 
「誰だ!!?」

 思わず、アンドレアは猛虎の如く声を荒げた。
 確かに周囲、捉えられる範囲には何も障害はなかった。
 しかし彼女の手は大きく逸れたのだ。何者かが与えた斬撃によって。
 この的確な支援こそ、『クールアシスト』に他ならない。――しかしながら、姿形が捉えられないことは実に不気味だった。

(天狗の技法……ここに見せましょう)

 そのタネは『クロスオーバー』――『鏡花水月』にあった。
 アンドレアの意識が攻撃に転じているかつ、的確な支援の技があれば、音や気配の類は誤魔化しようもある。
 まさに天狗の所業か。
 容易に気配の察せぬ場所まで駆け抜けた術者、八葉 蓮花は再び機を計る。
 屈強なアンドレアとは言えど、潜む襲撃者にいつまでも意識を割いている余裕はなかった。
 彼女が瞳を巡らせる隙に、優は小太郎へ『ヒールオブマナ』を施す。
 先に受けた火傷と裂傷が、じわじわと癒されていく。

「……これが小太郎の信念なら……わたしは、それを支えます……」
「自分も……己が意思を通したい。そう思っています」

 小太郎は、別の場で戦うフィオーレやフーリアへ想いを向け、目の前の強敵に意識を集中させた。
 静かで、威風堂々としたその闘志に、アンドレアは己が二つの拳を叩きつけ向き合った。
 
「……――来いやーーーー!!」

 大きく吼える彼女の周囲から、間欠泉のように熱の流体が吹く。
 それに合わせ小太郎は、一歩を踏み込んだ。
 動き出すその背へ向け、優は祈るように見送る。
 激突まで、数秒だった。
 その僅かな隙に、消える蓮花は再び動き出す。
 今度は気づかれても構わない。蓮花は確実にアンドレアの死角から距離を詰めた。そして『震気浪』が、彼女の意識を僅か傾けさせる。

「消えてたのは、お前か!!」
「弟子の覚悟は、通させてもらうわよ」

 挟撃の形を成した二人ではあったものの、アンドレアは地より吹き上げる熱の矛先を蓮花へ殺到させる。
 次々と迫る苛烈なマグマに、蓮花はこれ以上接近を叶えられそうになかった。
 しかし、まだ手はある。
 弟子の覚悟を通す、それもまた信念なのかもしれない。
 蓮花は燃えるような痛みの中で、渾身の『ハッグシンドローム』を発動。アンドレアの軸を歪ませるような感覚を与える。
 それでもアンドレアは、半ば強引に掌底を小太郎へ潜らせた。
 小太郎とて軌道は読めている。
 しかしながら、接近戦はまるで彼女の独壇場かのようだった。加速するそれを受け止めるも、防御ごと押し通される。
 燃える、否――煮える。
 そんな感覚が、小太郎の『無心無想』すら歪ませるようだった。

「……わたしの霊力、全部託す……小太郎は、その信念を貫いて……」

 しかしながら、局面を大きく変えるのは祈るように見守る優だ。
 マージナルとしての力、『クロスオーバー』――『起死回生』。
 その力は小太郎へと流れ込み、彼自身の『不屈不撓』を重ねてアンドレアの一撃から踏み止まる。
 
「…………馬鹿な……!」
「自分はこれより熱い炎を知っています……倒れる訳には、いきません……!」

 かつて巡った世界、赤き力を持つ男にして、友の炎が小太郎の脳裏に過る。
 そして後方へ傾けていた体勢を前へ。
 小太郎は『クロスオーバー』――『フォーティテュード』を以って、かつてない膂力でアンドレアへ肉薄する。
 その力たるや、彼が通常時に放つ一撃の数倍以上に達している。
 しかしながらアンドレアも屈しない。
 追い詰められる状況にも関わらず歯を覗かせ、大きく水平に拳を振りかぶった。

「やっぱり、戦いはこうでなくちゃな?」

 言い終えて、アンドレアの拳と小太郎の穂先が激突する。
 優と蓮花を吹き飛ばすほどの熱と風の衝撃波が迸り、遅れて熱波が炎となって周囲を焼いた。
 数度激突の余波が吹き荒れても、二人は均衡を崩さなかった。
 互いに一歩も引かず、地面には明確に踏み込む痕が二つ、痛々しいほどに刻まれている。
 ――が、数十秒としない内に、小太郎の体勢が後ろに傾く。
 これが接近戦でなければ、勝敗は分からなかった。
 小太郎が一歩、また一歩と後退していく。

「……はぁ、はぁ。おいおい、これが序盤戦とか言わねーよな」

 しかしながら、アンドレアも相応の消耗を余儀なくされている。
 今までの経験則から言っても、これで戦いが終わりとは思えない。
 故に小太郎は勝てずとも、大誤算を与えたのは確実だった。
 それを証明するかのように、攻撃は続く。
 疲弊する彼女の背から、那岐の『ワイヤーロープ』が絡められたのだ。

「私もいることを、お忘れなく」

 小太郎が瀕死の代償に得た、狭き狭き一本の活路。
 それを那岐も、そして内名もまた、決して逃しはしない。
 咄嗟のこと、そして大技を打ち終えた直後のアンドレアに、迅速な対処は望めなかった。那岐に拘束される彼女を目視し、建物の屋上に身を潜める内名が再び照準を合わせる。
 しかしながら時間はない。
 絡まるロープは赤熱を帯びて、今にも消し炭になろうとしている。
 それでも内名は、己が切り札を間に合わせる。
 
「一撃必殺です! ――シャープストライク!!」

 多少障害物に接触するような位置取りではあったものの、拘束されるアンドレア目がけ、上方で潜む内名が一撃を投じた。
 『アクセル:3rd』によって加速する弾丸は、まるで大気を裂くように疾走する。
 障害は纏う『ギアストーン:ガスト』の突風に払われ、その意味を成さない。
 そして瞬く間にアンドレアの瞳に映る弾丸は、大きくなっていった。
 
「うおおおおおおーーーー!!」

 内名の弾丸が胸部を貫く寸前、アンドレアは吼え、そして炎を滾らせ、上体を逸らす。
 弾丸は熱波に飲まれ、彼女を掠める形で着弾した。
 ロープもまた、原型をとどめず周囲へ散る。
 競り勝った。――アンドレアが確信した刹那だ。
 反して地表から瞳を逸らさない内名の表情から、失意の類は感じない。まだ勝負を投げていない者の目だ。
 それを感じたアンドレアは、目を細めると視線を地へ向ける。
 映ったのは、『リコシェ』で跳弾する弾丸が、今にも自身を貫こうとしていた光景だった。
 再び身体を逸らすも、『方向転換』がまるで蛇のように食らいつく。
 勝敗を分かつ一瞬の後。――しかしてアンドレアは、未だ二本の脚を地へ着けている。
 
「……へへ。……いってー」

 弾丸は上空へと疾走していった。間一髪、アンドレアは貫通を避けたのだ。
 ――が、彼女の腹部にはまるで斬撃を受けたかのような、鋭く抉れた痕跡が刻まれている。

「しかも『スロウ』か……やってくれるじゃねーの」

 痛みだけでない、身体中に迸る鈍さがアンドレアを支配していた。――那岐、そして内名の『スロウ』はじわじわと蝕んでいたのだ。
 それでもマグマは、噴きこぼれることを止めない。
 戦いは、まだ終わっていないからだ。
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