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堕悪のメイプルランド・後編

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堕悪のメイプルランド・後編
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激闘の空中庭園 5


 人は油断する生き物だ。
 不意を突かれることには慣れていない。
 たとえどれだけ熟練の腕を持った戦闘員であっても。どれだけ腕の立つ暗殺者であっても。やはり――そこには意識というものが介在する。意識内で認識しているものはまだいいが、そうではないものがいきなり自らの意識に突然、現れた時――それは『不意』と呼ばれるものの正体なのだ。
 人には反応し、行動する過程がある。脳の中で意識と行動は繋がっている。発見し、考え、行動へと移す。それは時に数秒のタイムラグさえも生み出してしまうものだった。
 だから――
「見つけたっ……!」
 私 叫は決然とそう叫んだ。
 彼はヴィガの目の前にいた。
 その足下には――界霊獣サイレントの姿がある。
 そう。叫はサイレントを召喚し、その背に乗っているのだ。
(これならっ……!)
 界霊獣サイレントは周囲の音を喰らう。故に、召喚者の音を消し去ることもできる。
 むしろそれこそが――サイレント最大の利点だった。沈黙の獣によって無音を獲得した叫はヴィガへと接近している。
「音を消したのは良い心がけだ。だが、気配までは消していないようだな」
 ヴィガは叫の奇襲に反応していた。
 しかし――
「遅いのっ!」
 叫は眼前に迫った。
「――拘っ、束っ!」
 叫の手が魔法の輝きを放った。
 瞬間――光が放たれる。
 それはヴィガの身体を拘束して、動きを束縛した。
 すると――
「しゅわっちっ!」
 叫が右手を素早く動かしていた。
 と――その手にはいつの間にか、とある物体が掴まれている。
「貴様……」
「ふっふっふっ、お前の眼鏡は奪っちゃったよーん」
 そう――それはヴィガの掛けていた片眼鏡(モノクル)だった。
 叫は相手を拘束した隙に、彼の眼鏡を奪ったのだ。
「これでもう裸眼で戦わないといけないだろー」
 叫は片眼鏡をひらひらさせた。
 しかし――ヴィガは叫に接近してその身を横殴りした。
「!」
 驚愕の表情のまま吹き飛ぶ叫。
「残念だったな。俺の片眼鏡は、“ヴィガ・ラドクリフ”としての飾りだ。度など入ってはいない」
 ヴィガが鋭い視線を叫に送った。
「この俺の片眼鏡を奪って、何を考えていたんだ?」
 ヴィガは低い声音でそう問うた。
 瞬間――
「――何も考えてないと思う、よ」
 一人の少女がぼそりとそう答えた。
 千桜 一姫
 叫と同じリアン・インフィニティの一員にして、中距離攪乱役を任じられた少女である。
 その手には巨大な熱線砲があった。片腕に装着して使用するタイプのものだが、あまりにも威力と反動が大きすぎるため、もう一方の手で支えなくてはならないという――何というか、かなり取り扱いに癖のある武器であった。
 しかし――彼女はこれを今回、愛用していた。
 前回戦った時も、この武器でヴィガに太刀打ち出来た。
 ならば、今回も――
「ん、乱れ撃つ」
 一姫はバスターショットを撃ち込んだ。
 しかし――
「……っ!」
「残念だが、俺も貴様らの動きは見切らせてもらっている」
 ヴィガはバスターショットの一撃を相殺していた。
 それは――防御魔法であった。それもかなり高密度の。目の前の空中の一部にだけ生み出した盾のごとき防護障壁が、バスターショットの熱線を防いでいたのだ。
 しかもヴィガは、戸惑うような気配がない。
 今まで二度特異者たちと戦い、特異者たちの手の内を見ている。見切っているというのもあながちウソではないようだ。
 攪乱が効かない。
 ならば、どうすればいいのか。
 その時――
「オーナー、任せときな!」
 白銀 銭子が鋭い声でそう叫んだ。
 魔銃が火を噴いた。
 銭子の握るシルバーオーシャンである。
 スナイパーライフル型の機構は、あくまでも銃としての機能のみに焦点が絞り込まれていて、遠距離に向いているというわけではない。しかし、片手で取り回しの利く銃として銭子はこれを愛用していた。
 魔銃の弾がヴィガに防がれるのは――想定内だ。
 その間に、銭子は移動して再び銃を構えた。
 引き金を引く。銃弾が発射される。
 ヴィガはこれを防御障壁で防ぎ、銭子から視線を外さない。
 だが――
「今だぜ、オーナーっ!」
「――ん!」
 一姫が試製バスターショットを撃ち込んでいた。
 叩き込まれるそれは、ヴィガの防御障壁に防がれた。だが――それにもやはり限界はあるのだろう。障壁が突破されると、ヴィガは回避行動に移っていた。
 試製バスターショットの弾をかわすと、そのまま地面に杖を叩きつけた。
 すると――
「な、なんだっ……!?」
「これは――霧」
 一姫が見たのはヴィガの杖を起点として発生する霧だった。
 霧が周囲を取り囲んでいく。それはあたかも高地に迷い込み、薄暗い濃霧に包まれたかのようだった。
(まずい……!)
 と感じ、一姫は素早く跳躍してその場を離れる。
 これは前回の戦いの時にも見た攻撃だった。
 すなわち――悪夢の霧。この霧に包まれた者は、恐らく一種の催眠状態に陥るのだろう。悪夢を見てしまい、精神に異常をきたすのだ。
 それを知っているからこそ、一姫は距離を取る。
 すると――
「ローズっ、大変そうウサね!」
 ふいに一姫の身に付ける鎧から、快活な少女の声が聞こえてきた。
「ラヴィ、生きてた?」
「ひどいっ!? 生きてるウサよっ!」
 鎧――ラヴィ・パンキッシュはそう言って喚いた。
 彼女は一姫の鎧に憑依するサーヴァントである。普段はウサミミを生やしたバニーガール姿のいかにもコミカルな格好をしているが、今はクリムゾンローズドレスνと呼ばれる鎧に憑依する意識体である。
 まあ、それはともかくとして――彼女が話しかけてきたからには、何か理由があるのだろう。
「朔霧を使うウサよ!」
 と、ラヴィ。
(なるほど……)
 一姫は小さく頷いて、空を見た。
「朔霧!」
 一姫の呼びかけに応じて、背中から月の如き透き通った翼が広がる。
 翼はばさりとはためき、一姫を空中へと運んだ。おかげで、霧には包まれずに済む。しかも朔霧には光を屈折させる能力があり、一時的にではあるが――ヴィガの目から逃れることが出来た。
「と――シルバーは?」
 一姫は周囲に目をやる。
 シルバーこと銭子の姿は――少し離れた位置に、同じく月の如き翼を背中に広げて空に浮かんでいた。
「おーっ、オーナー、無事だったかー!」
 どうやら、向こうも翼で空に逃れたらしい。
 ほっと一姫は安堵の息をついた。
 しかし――
「ローズっ、来るウサよっ!」
「!?」
 一姫はラヴィの声で振り返った。
 その目に映ったのは――暗黒竜。
 一姫が銭子の姿を確認している間に、ヴィガが召喚していたのだ。
 暗黒竜はアジ・ダハーカほどの大きさではないが、それでも竜という個体の強さはその身に宿している。一姫の動きについていくように、追ってくる影。あたかも追尾弾のようであった。
「くっ!」
 とっさに、一姫は試製バスター・ショットを構えた。
 だが――
「速いっ……!」
 暗黒竜はすぐ目の前まで迫っていた。
 開かれる顎。邪悪な炎が一姫を包み込もうとする。
 しかし――
「……っ!」
 一姫は炎の軌道をとっさに見切り、かろうじてこれを避けていた。
 舐めるように炎が頬を通り過ぎていく。すかさず、一姫は半回転して距離を取る。試製バスターショットの銃口で暗黒竜に狙い定めるが――
「!」
 暗黒竜はその前に、轟然と上空に舞い上がっていた。
 顎が再び開かれる。今度は逃げるのが間に合わない。
(どうすればっ……!)
 その時――
「ローズさんっ!」
 ローズの目の前に一人の少女が飛び出してきた。
「シャノンさんっ……!」
「ここは、私に任せてください!」
 シャノン・ティアクォーツは叫んで二つの盾を構えた。
 『坤舞』と『煌舞』。その二つの盾はまさしく双盾であった。どちらもシャノンの愛用するもので、暗黒竜の炎を防ぐのには十分な防御力を誇っている。
 だから――
「くあああああぁぁぁぁっ!」
 気合いを入れ込みながら、シャノンは盾を押し込んだ。
 炎が盾とぶつかり合って火の粉を巻き上げた。だが――盾は貫通しない。このまま炎を相殺させ、一気に畳みかける。
 それが――シャノンの考えた作戦だった。
「行って! お願いします!」
「わ、わかったっ……」
 一姫がその場を離れた。
 すると――
「やるな、シャノン。そのまま持ちこたえてくれ」
 一匹の蒼い獅子が、シャノンの頭上を飛び越えていった。
 いや、違う。あれは単なる獅子ではない。小型の獣のようにも見えたが――その正体は蒼心院 響佑である。
 響佑はミニマスコット化してSサイズの身体になっているのだ。
 だから――姿形も獅子のように変容している。
(今のうちに、この俺が!)
 響佑はヴィガをその視界に捉えた。
 シャノンが暗黒竜を抑え込んでいる間に、彼はヴィガに一矢報いるつもりだった。
 どうやら――ヴィガもそれに気づいたようだ。京介の姿をその視界に捉えると、すかさず杖を横薙ぎに振るった。
 すると――
「……またこいつか!」
 前回の戦いでも邪魔になった吹雪が巻き起こった。
 これを響佑は――しかし、今回は盾の魔力で防いだ。
 空中に浮遊する盾の瀧舞は、水と冷気に強い耐性を持っている。これに守られる響佑は吹雪を諸ともしないのだ。
「行くぞ、ヴィガ! 俺が相手だっ!」
 響佑はでぃばいん☆ソードで斬りかかった。
 しかし――それはヴィガに受け止められる。杖にぶつかり、刀身は火花を散らした。
(くっ、こいつ……!)
 さすがに魔法を使う相手とはいえ、身体能力も並ではないのだろう。
 いや――それどころか。相手は神話級アバターのアンリ・マンユを使う相手だ。その反応速度は想像を絶していて、響佑に杖の先端が突きつけられた。
 しかし――
「このっ!」
 響佑は上部に弾いた。
 跳ね上げられた杖。がら空きになった懐に響佑は潜り込む。
 そして――
「くらえ……シューティングスター!!」
 響佑は光の流星を巻き起こす魔法を至近距離で放った。
 その威力たるや――凄絶なことを言うまでもない。ましてや彼は、ヴィガに斬りかかる前にマジカルチャージを唱えていた。
 体内の魔力は活性化され、極限まで高まる。
 その溜め込んだ魔力を一気に放出するように、シューティングスターを放ったのだ。
「やるな!」
 ヴィガは流星群の直撃を受けつつも、響佑と相対し続けている。
 それを――流星の光が収まったとき、響佑が整然と佇んで見つめていた。

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