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ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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世界樹の中で


「ないかなー、ないかなー」
「いないわねぇ……」
「いないようねえ」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
 祭夜 雅シェルライア・オルシーニ、そしてシスター・マグダリアは、探していた。
「やっぱり、迷宮といえば財宝でしょ!」
 雅はお宝を。
「一つ目がいるってことだけど、希少種かしらね?」
 シェルライアは、ヌクティフニャットを。
「私は悪霊さんを昇華させてあげたいわ」
 マグダリアは、悪霊を。
「んじゃ、がんばってねー」
「あなたもね」
「健闘を祈るわ」
 雅と別れ、シェルライアたちは探索に精を出す。
 そんな二人の前に、いきなりお目当てが現れた!
(アァアアアア……)
 悪霊と。
 ゆらゆらゆらゆらゆら。
 ヌクティフニャットだ。
「あらあらあら、早速説得させてもらいましょう。ちゃ~んと説得すればわかってくれると思うの」
「お願いね。私は護衛もするけど……」
 シェルライアの目はヌクティフニャットに釘づけだ。
「それじゃあ……仲介、お願いね」
 シェルライアはフェローのヌクティフニャットに手を合わせる。
 ヌクティフニャットはゆらゆら揺れながら、ヌクティフニャットに近づいていく。
 しばらくの間、対話しているかのようにヌクティフニャットたちはゆらゆらと揺れる。
 その間シスターは。
(ギャァアアアア……)
「つらかったわね……みんなの無念はきっと晴らしてみせるわ……」
 悪霊たちと対話中だった。
 しかし。
「ね、話してみて。あなたの苦しみを……」
(アァア……落チル、チルチル……)
「落ちる?」
「一つ目のヌクティフニャットって、いないのかなー?」
 ゆらゆらゆらゆらゆら。
 ふらふらふらふらふら。
(ウ……ギャァアアア!)
「あらあらあら……」
 すぐ隣ではシェルライアとヌクティフニャットの交流(?)が行われているため、なかなか集中して話を聞き出すことができない。
 悪霊たちも、次第に自分勝手に暴れはじめた。
(ヒャァアアアアア!)
 ぶちっ。
「ぅふふふふ……」
 鈍い断裂音と共に、低い笑い声が響き始めた。
「聞き分けのない悪霊さんたちですね……よし!」
 とてもとてもいい笑顔で、マグダリアは言った。
「こ・れ・は、説・得が必要ですね……んふふふふ」
「はっ!?」
 シェルライアが危機に気付いた時にはもう遅かった。
「ふふふふふふふ……悪霊さん、わかって・く・だ・さ・い・ま・す・よ・ね?」
(……イヤァアアアア!)
 マグダリアの笑顔と共に、悪霊の最大級の悲鳴が響き渡った。
 更に。
 ゆらゆら……ゆらっ。
「あっ」
 騒ぎに恐れをなしたのか、ヌクティフニャットは逃げ出してしまった。
「あー……」
 マグダリアがやっとのことで『説得』を終えた時には、そこにはもう迷宮に群れるヌクティフニャットの姿はなかった。
「さっき、一つ目のヌクティフニャットがいたような気がしたんだけどなあ……」

   ◇◇◇

「ん? 今、何か悲鳴のようなものが聞こえたような……まっ、いいか」
 雅は遠くから聞こえた謎の声に首を傾げるが、すぐ気を取り直して財宝探索に精を出す。
 悪霊もヌクティフニャットもリンドヴルムも、全部誰かにお任せ! もとい、誰かを信じて!
「さぁー、何があるかなぁ。魔法関連のグッズとか、何かキレイな物があるといいなー。あと、値打ちのありそうなもの!」
 夢は大きく膨らんでいく。
「だって、洒落た魔法道具のひとつやふたつ、あってもおかしくないよね。魔法大好きな私としてはこれは探さざるを得ないよ」
 腐りかけたわんだ道を歩く。
「あとはキレイな宝石とか、樹液の塊みたいな何かもあったらいいなぁ……」
 頭上の木々の枝を見上げる。
 悪霊が出たら、昇華してあげればいい。
 ヌクティフニャットが出たら、もみじまんじゅうでもあげよう。
 準備万端、あとは財宝を見つけるだけ!
「……とはいえ、なかなか見つからないなあ……」
 朽ちた木々の中、雅が求めているようなものは見つからなかった。
「うわっ!?」
 ばきばきばきっ。
 雅の足元に突然穴が開いた。
 腐った部分が抜けたらしい。
 落とし穴のように、中途半端にお尻がひっかかる雅。
「……あーもう、こういう時は、落ちた先に財宝が……っていうのがセオリーなのに!」
 ひとしきり愚痴る雅だった。
「だ……大丈夫ですか?」
 そんな雅を見つけ、手を差し伸べたのは、空燕 みあニキータ・ノルマンディ
「あ、うん……」
「ここら辺は、腐食が進んでいるようですね」
「どれどれ……うわっ!?」
(ヒィイイイイイ!)
 ニキータが覗き込んだ腐敗した樹の隙間から、悪霊が飛び出して来た。
「悪霊さんか……こっち、こっちに。ね、ちょっとお話を聞かせてもらえないかな?」
 ニキータは悪霊に話しかける。
 今からみあが行うことを邪魔されないように。
 そして純粋に、悪霊の話を聞いてみたいから。
「もし良かったら、先人の知恵とか、そんなお話が聞けないかなーと思って……」
(転空……転空イヤァアア! 落チル落チタアァアアアア痛イ痛イグシャァアアアア……)
「あー……」
 ニキータは小さくため息をつく。
 とても、落ち着いてもらって話を聞けるような状態ではないようだ。
「色々興味深いお話が聞けたらなーと思ったんだけど……仕方ないか」
 分かったことといえば、この悪霊は転空の際に落とされ死亡したということくらいだろうか。
「それならせめて、しっかり昇華してあげなきゃ!」
 ニキータは悪霊の話に耳を傾けるのだった。
 そして、ニキータが悪霊を引きつけている間に……
「ラブさん、お願いします」
 みあは、ラブを召喚した。
 ラブが歌い始めると、みあの体に力が漲る。
「私も……」
 その歌に合わせ、みあも歌いだす。
 癒しの唄が、ラブの歌声に共鳴していく。
(元気になって……ください)
 みあが癒そうとしているもの。
 それは、世界樹だった。
 悪霊は樹の腐敗部分から侵入してくる。
 ならば、そこを塞げばいいと考えたのだ。
 樹の元気な部分が腐敗部分を押し出してくれれば……
 そう考え、みあは歌う。
 世界樹に、ラブとみあの歌声が響き渡る。
「あ……」
 みあの目の前、樹の腐敗部分がほんの僅か小さくなったような気がした。
 しかしそれ以上、樹に変化はないようだ。
「あまり力になれなくて、ごめんなさい……」
 みあはそっと樹の幹に触れた。
「悪霊は……まだ、入ってくるでしょうか……」
 それでも、みあの触れている樹の部分は瑞々しさを取り戻ているような気がする。
 少しだけ。
 ほんの少しだけ、みあの歌声は届いたようだ。


 ――そんなみあたちを見ている『一つの目』があった。
 一つ目のヌクティフニャットは、ゆらりと蠢くと樹の奥へと消えて行った。

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