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ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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ヌクティフニャット


「ねーこーさーーん!」
 黒山 羊は白くてひらひらしたものを発見して、そこに向かって駆けだした。
「ヌクティ……ぬ? ええと、ふしぎなねこさーん! おともだちになろー!」
 きちんとつけ耳つけしっぽで猫らしくして、準備は完璧!
 会えたらいいなーと思っていたが、姿が見えたら思わず飛びついてしまった。
 一緒に遊べたらいいな、と。
「ふぎゃ!?」
 意外な事に、羊が飛びついたものから変な声が漏れた。
「あれー?」
 話に聞いていた真っ白な布のような姿。
 それに、ちゃんと杭らしきものも刺さっている。
「まちがいない、よね……?」
 羊の猫耳が揺れる。
 と、ふいにその布がばあっと跳ね上がった。
「の……のぞみだよ!」
「えー!」
 中から出てきたのは枢木 のぞみ
 彼女はヌクティフニャットの仲間になれるように、同じような恰好で彼らに近づこうとしていたのだ。
 ティンガネスで白い布を調達して被り、ルーンの杭はないのでルーンスタッフを代用。
 もちろん体には刺せないので布に刺して、準備完了!
 ばっちりヌクティフニャットに化けられたと思ったら、羊に間違えられ飛びつかれてしまったのだった。
「きみも、にゃんことお友達になりたいの?」
「うん!」
 大きく頷いた羊に、のぞみは少し先を行く人々の集団を指差した。
「あそこの人たちもそうみたいだから…… ついてってみようよ」

「よーし、アリエルさんお願い!」
「はい、これを」
「こうして、カツブシコークの蓋を開けて、と……」
 フィン・ファルストアリエル・フロストベルクは3階の少し開けた場所でヌクティフニャットに近づくための準備をしていた。
 先程ここでヌクティフニャットの集団を見つけた。
 だから、ここに仕掛けておけば確実、なはず。
 アリエルが持参したカツオブシコークの蓋をあけて置いておく。
 魚のダシの効いた独特な香りが周囲に充満する。
「ホントにこんなので来るのかい?」
「しっ、ほら」
 様子を見ていた風祭 七生の呟きを、ノナメ・ノバデが制して指差す。
 ふらり、ゆらり。
 見れば1体また1体と、ヌクティフニャットがカツオブシコークの香りに釣られて集まってきていた。
「やった……!」
 フィンは興奮を押し殺した声をあげる。
 しかし、ヌクティフニャットたちはやや警戒するようにフィンたちを見ている。
「ここは私と……この子に任せてください」
 そう言うと、ノナメはフェローのヌクティフニャットと共に前に出る。
 このヌクティフニャットに、自分達は害意のない事を伝えてもらおうというのだ。
 ヌクティフニャットはゆらゆらと体を揺らし、何事か説明している様子だ。
 次第に、群れたヌクティフニャットたちの緊張が解けて行くように見える。
 そしてノナメは手荷物や装飾品を外してその場に置いた。
 敵意がないというのを証明するらしい。
「なるほどな……うちも、ほら」
 七生もまた、手に持っていた剣を外して傍らに置く。
「それならわたしも、更に……」
 ノナメは更に身に纏っていた服も脱ごうとする。
「えっ、待ってちょっと待って!」
「そこまでは……いいと思います」
 慌ててそれを制するフィンとアリエル。
「えーと……とりあえず、いいかな? アンタ達の場所を荒らしに来たのは謝る。ただ、うちは会話しに来たんだ」
 そう言うと七生はその場にどっかと胡坐をかき、笑顔を浮かべた。
「よ……よろしければ、一緒にコークを飲みません、か?」
 アリエルがカツオブシコークを進めると、ヌクティフニャット達は無表情なまま、わらわらとそれを飲み始めた。
「よかった! じゃあ、あたしもかんぱーい!」
 アリエルから自分はローズコークを受け取って飲み干すフィン。
「うちが持ってきたねこチョコも食べるかい?」
 七生がねこチョコを差し出すと、これも無言で口にするヌクティフニャット。
 いずれも言葉を話さないので、コミュニケーションがとれているのかどうか心もとない。

「うわあ……みてみて! ねこさんたちがいーっぱい!」
「わわわ、のぞみも、お話したい!」
 集まって来たヌクティフニャットたちを見て、羊とのぞみも寄ってくる。
「だいじょーぶだよ? こわいことしないからねー」
「さっきの人みたいに、服を脱げばいいのかな?」
 若干変な方向に感化されながら、ヌクティフニャットに近づいていく。
「あのね、お友達になりたいの! お友達になってくれたら、仲良しの印にこの飴ちゃんあげる!」
 そう言うと、スターキャンディを差し出すのぞみ。
 しかしヌクティフニャットはのぞみの言葉を理解しているのかいないのか、遠巻きに彼女の周囲をうろつくだけ。
 積極的に『お友達』になろうとする様子は見られない。
「いっしょにあそぼー!」
 遠慮なく近寄ってくる羊を見て、ふらりと逃げようとするヌクティフニャットもいる。

「あのさ、聞きたいことがあるんだ」
 ねこチョコがなくなったところで、七生は気になっていたことを質問してみることにする。
「ここの迷宮にあるものについて。知ってる限りのことを教えてくれる? 気を付けたい所、大切な物、危険な物。もちろん、他の階のことは知らないかもしれないとは思ってるけど……」
 七生の問いに、ヌクティフニャットは体を揺らすだけ。
 答えようという意志があるのかどうかも定かではない。
「やはり、言葉が通じないのは厳しいですね……ヌクティフニャットさん、お願いします」
 ノナメはヌクティフニャットに通訳を頼んでみた。
 相手に自分の聞きたいことを伝えてもらい、相手の言っていることをメモに書いてもらおうというのだ。
「私が聞きたいことは二つ。一つは、この場所にいる悪霊はヌクティフニャットさん達が連れてきたのでしょうか?」
 ヌクティフニャットたちは答えない。
 しかし、その問いにどこか心外そうに体を揺らしている。
「違うのでしょうか……」
 表情を曇らせるノナメに、フィンとアリエルがそっと横から口を出す。
「えっとね、ここの悪霊さんってたまたまここの樹が腐ってて、その隙間から入り込んでるだけじゃないの?」
「ですから……その、ヌクティフニャットさんとは関係ないのでは……」
「そうなの?」
 そうだ、というように揺れるヌクティフニャット。
「……ごめんなさい!」
 大きく頭を下げ謝罪するノナメ。
「……それで、もうひとつ聞きたいことがあるの。ここに来た目的って、何かな? もしかしたらお手伝いできることがあるかもしれません」
「それは、うちも知りたいな。何か手伝えることはあるかい?」
 ノナメの言葉に七生も口を添える。
 しかしヌクティフニャットはただゆらゆらと揺れるだけ。
 フェローに彼らの意志をメモで書いてもらおうとしたが、そもそもメモは書けないらしい。
 見た所、特別な意味を持ってここにいるようではないらしいが……
「ヌクティフニャットは色々な所にいるっていうから……ここにいるのも、もしかしたらたまたま、とか?」
 ふと思いついて行ったフィンの言葉に、その通りという様子で揺れるヌクティフニャットたち。
「どうやら……そのようですね」
 アリエルもそれを見てフィンに同意する。
「うーん、迷宮に詳しそうな彼らから情報が欲しいと思ったんだけどなあ……」
 七生は当てが外れたように頭をかく。
「特にここにいる意味もないということですか……」
 ノナメもはあとため息をつく。
「いみなら、あるよ!」
「うん、あるよ!」
 沈んだ空気を吹き飛ばすかのように、羊とのぞみが元気よく声をあげた。
「ここにいるから、ぼくはねこさんたちとあえたんだもん!」
「のぞみも、にゃんことお友達に……なれたかどうかは分からないけど、よろしくできて嬉しいよ!」
 そう言うと、再びヌクティフニャットと交流しようとする羊とのぞみ。
 言葉を交わすことはできない。
 しかし食べ物や動作を通じて、ほんの少しだけヌクティフニャットとの距離が縮まったかもしれない。
「……ん?」
 ヌクティフニャットを追いかけていた羊がふと顔をあげた。
「どうしたの?」
「んー、なんか、だれかがみているようなきがしたんだ」
「そういえば、のぞみも……」
 きょろきょろと見回すが、誰もいない。
「おっかしいなあ……」

 そんな彼らを。
 羊を、のぞみを、フィンを、アリエルを、ノナメを、七生を、そしてヌクティフニャットたちの集団を……
 少し離れた所から一つ目のヌクティフニャットが覗いていた。

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