クリエイティブRPG

ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

リアクション公開中!

 0

闇に瞬く光 前編
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last


石巨人


「こちらです。――さっさと行きますよ、下僕共」
 中空を魂となって漂いながら、Agent・Eは対石巨人のために動いている仲間『石破』のメンバーを案内する。
「ハイドウェルグの残した石巨人、か」
 エリル・フレアはEのやや失礼な言葉も気にかけず、先を見る。
 エリルもEも共に、石巨人に興味を持っていた。
 暴走などしなければ、巨人に対抗する力になったのではないか。
 解析すれば、今後の役に立つのではないか――
「ぶっ壊して調べてみるか」
「うまい具合に材料が入手できれば、ドヴェルグなら作業用の石人形くらい作れるかもしれないしねぇ」
 柊 恭也の言葉に、メソスケール・スローテンポも同意する。
(まあ、面倒ですから私はいいですけどもね)
 Eはそう呟くと肩を竦め、再び案内に集中する。
 途中、通って来た道や分岐はパスケースの電子メモに記録しておく。
 後でこれは、八上 ひかりと海原 香のマッピングメモと合わせ、2階部分の解析にかなり役立つこととなる。
「――ん?」
 分岐していた道が大きな道へと合流した時だった。
 Eの案内に従っていたメソスケールは、自分達の他にも同様の目的の為動いているらしい集団を発見する。
「皆、こっち、こっちだよー」
「うん。あとはここの大きな道を真っ直ぐ……あれ?」
 中館 翼草薙 楓、そしてヴァルハラ崩れの案内でぞろぞろと進んでいる集団。
 しかしそれは石破のようにまとまった集団ではなく、それぞれ石巨人を倒そうと考えた面子が自然に集まってできた集団らしい。
(7……8人か。これは大きな戦力になるな)
「君達も石巨人を倒しに行く面子かなぁ? よかったら、一緒に向かわないかい?」
「ありがとうございます。是非」
「動く石造っていうのを、一目見てみたかったんだ」
 戒・クレイルと翼はありがたく申し出を受け入れる。
「案内はできるけど、罠とか不意打ちは苦手だから助かったぁ」
 楓もほっと胸をなでおろす。
(俺は最速で向かいたかったんだが……まぁ、いいか。向かうまでの間に他の奴を護るっていうのも重要だしな)
 初級迷宮勘を所持している水無瀬 徹二はやや残念そうにそれに同意した。

 ず……ん。
 ず……ずん。
 進むにつれ、腹に響く音が聞こえてきた。
 地響きのような、低い音。
「そうそう。こっちこっち。石巨人はこっちの方でいつも暴れてるって聞いたよ」
「数は5、6体らしいって」
 鷲宮 凛隼総 莉珠が同行している特異者たちに説明する。
 二人は、ティンガネスの街であらかじめ石巨人についての情報を集めていたのだ。
「大きさは6~8メートル程……なかなかだね」
「攻撃力は強いけど、動きはあまり早くないんだって!」
 石巨人と対峙した人はいるが、皆すぐに逃げ帰ってきていたためあまり多くの情報は集まらなかった。
 いや、すぐに逃げてきたからこそ、無事戻ってこれたのだろう。
 そんな僅かな情報から、二人は少しでも皆の役に立つようにと情報を聞き出していた。
「成程、石人形だから動きは遅いのではないかという先入観は止めようと思っていたが……その情報は大変ありがたい」
 凛たちの情報に、九曜 すばるは素直に礼を述べる。
「いいえ……これで、皆さんに役に立てれば」
「うん、皆でがんばろーね!」
 すばるの言葉に、凛は俯き莉珠は頬を紅潮させた。
 そうしている間にも、地響きの音はいよいよ近づいてくる。
「そろそろ……みたいだね」
「うん」
 翼の声に、楓がやや顔を強張らせる。
「――さっさと片付けて帰りますよ」
 Eは、仲間たちに鋭刃のルーンをかけて回る。
「さあ、出陣です」
 Eの声と同時に、石巨人の群れが現れた。

「はぁああああっ!」
 石破の面子から飛び出したのは、納屋 タヱ子だった。
 不可視の翼を広げると空を舞い、ガントリングガンを打ち出した。
 弾幕を張り、味方の攻撃の援護をしようというのだ。
「行くぞ――フリス!」
 その間にエリルはリンドヴルムに跨って飛翔する。
 石巨人の間を飛び回り、攻撃を見切って避け攪乱する。
 天井の高さは10メートルほど。
 なんとか飛行が可能な空間だ。
 メソスケールもイノセントとラブを召喚。
「まずは様子見といこうかねぇ」
 イノセントに乗り、ラブと共に歌う。
「そうだな――奴等の弱点、見切ってやる!」
 石巨人の注意がタヱ子やエリルたちに向いている間に、恭也はアナライズを発動させ、石巨人の弱点を解析しようとする。
「む――」
 恭也はやや眉をしかめる。
 どうやら、石巨人に取り立てて弱点のような物はないらしい。
「核も、脆い部分もないってことか――まあ、それはそれでやり様があるぜ」
「膝を!」
 他の石巨人と戦っていた翼の声が聞こえてきた。
「石でできているなら、重い上半身を支える膝を一斉攻撃しよう!」
「そうだな、下半身への攻撃が有効だろう」
「ああ。まずは動きを止めるのが先決だ。なら、足への集中攻撃がセオリーか」
 翼と共に戦っている徹二と、すばるが同意する。
「皆さんのご意見に従います……っ!」
 タヱ子は攻撃の手を微塵も緩めない。
 そのまま、攻撃の先を膝へと集中させる。
「危ない!」
「む――うああっ!」
 タヱ子の後方に別の石巨人が迫る。
 楓が慌てて大盾のルーンを発動するが、間に合わなかった。
 大きな拳で横殴りに殴られ、タヱ子は地面に叩きつけられる。
「……っ、ぐぅう……っ」
「だ……大丈夫っ!?」
 倒れたタヱ子に、楓は慌てて駆け寄る。
 更に追撃しようとする石巨人に弓を構え牽制する。
「……へっちゃら、です。唾でもつけておけば治りますから」
「そ、そんなわけないよね!?」
「それより、弾幕を……皆さんの、支援をしなければ……」
「もうっ! ちょっと待ってよ!」
 楓を押しのけ巨人の下へ進もうとするタヱ子。
 そんなタヱ子を、楓は慌てて押し留める。
 そして、癒しのルーン。
「……ありがとうございます」
「ううん! あたしは、やっぱりこうやって人を助けてあげることのが性に合ってるみたい」
 楓は、石巨人の足元に盾を出現させて巨人を転ばせようと考えていた。
 しかし、盾のルーンは物理的に盾が出現するわけではないのでそれは不可能だったのだ。
 自分の失敗を思いだしえへ、と舌を出す楓にタヱ子は僅かに首を傾げると、次の瞬間再び走り出す。
「では……行ってきます」
「うん、頑張って!」
 楓はタヱ子を見送ると、再び自分の支援が必要な人はいないかと目を配るのだった。
「はぁあああっ!」
 再び攻撃に移るタヱ子。
 その横で恭也は、鉄の鎖を構え唇を噛んでいた。
(拘束しようと考えてたが……それよりも、一斉攻撃の方が効果がありそうだな)
「ああ、小難しい事は抜きだ。あの木偶野郎の膝に全力でぶち込む!」
「押し込め、フリス!」
 リンドヴルムに乗ったエリルは急降下する。
 石巨人が動く前に、メソスケールはイノセントでそこに近づきあえて上半身、肘を攻撃する。
「皆さんの攻撃、邪魔はさせませんよぉ。――今です!」
 タヱ子の弾丸。
 エリルの膝への突撃。
 恭也のヴァルハラスラスト。
 それが同時に石巨人の膝に決まる。
 ぴし――
 鋭い音が響いた。
 がら。
 がらがらがら……
 膝が砕け、自身の重みを支えきれなくなった石巨人は石塊となった。
 後にメソスケールと恭也はこの石を持ち帰って調査してみた。
 何か通常の石とは違うモノのようではあったが、新たな石巨人を作ったりすることはできなかった。

 タヱ子が石巨人に真っ先に突撃していたのと同時期に。
「なんで、この世界にはデカいのしかいねぇんだろうなぁ」
 徹二もまた、別の個体の石巨人の前に陣取っていた。
「お前等は攻撃を頼む。こちらは、死んでも耐えきってやるよ」
 他の特異者に攻撃が集中しないよう、自らが攻撃を受けようというのだ。
「お……おぁっ!?」
 しかし、石巨人の攻撃は徹二の思いの外重かった。
 何とか受け流したものの、体が自由に動かない。
 そんな徹二に、石巨人が攻撃を仕掛けようとする。
「く……っ」
「ほら、こっちよこっち!」
 その時、大きな声が響いた。
 今まで大人しく他の特異者たちに同行していた凛。
 彼女が、今までの様子からは想像もつかない程大きな声を出して石巨人の気を引こうとしていた。
「貴方の相手はこの私よ! 倒せるかしら?」
 石巨人が凛へと向き直る。
 拳を握りしめ振り下ろそうとしたその時。
 石巨人の足に、衝撃が走った。
「へへーん。この莉珠ちゃんにかかれば、巨人相手でも楽勝なんだから!」
 別方向から莉珠が声をかける。
 そして同時に石巨人の足に猛撃を加えたのだ。
 石巨人の意識が莉珠に向いた瞬間、凛がヴァルハラストライクを足に加える。
 どちらも石巨人を倒すには至らなかったが、石巨人を混乱させるには十分な攻撃だった。
 その様子を戒は冷静に眺めていた。
「頼むよ、イノセント」
 イノセントを召喚し、空中へ舞い上がる。
 その間も、石巨人から目は離さない。
(たしかに攻撃力は高いが、動きは遅い……彼女たちのように連携した動きで翻弄すれば、十分に攪乱できる)
「はっ!」
 戒は自由の焔を放出し、自身も自由に空を舞う。
 イノセントと連携し動けるように。
「奴等、物理攻撃は強いけど魔法攻撃には弱いようだ」
 今まで様子を見ていたすばるがそう結論付ける。
「だが……」
 すばるは同行する仲間たちを見回すと、うーんと頭をかく。
 同行している仲間達は皆、物理攻撃専門。
 魔法攻撃を得意とする者はほとんどいなかったのだ。
 おまけに、彼が攻撃しようと考えていた核となる部分も存在しないようだ。
「膝を!」
 翼が叫んだのはその時だった。
 翼の言葉で、一同の攻撃の方向性が決まった。
 まずは自分が率先して、と翼は石巨人の膝を攻撃する。
 しかしそれは大したダメージにならなかったらしく、石巨人は攻撃の矛先を翼に向ける。
「うわっ!」
「こっちだ!」
 石巨人の後方に回り込んだすばるが、背中から斬り付け注意を引きつける。
「膝か……いくぜマガツ! 斬撃の演舞を見せてやれ」
 徹二はマガツを召喚するとあえて頭を攻撃させる。
 背中に、そして頭上に攻撃を受けた石巨人。
 意外な場所からの攻撃に、石巨人の注意が下半身から逸れる。
「今だ、頼んだ!」
「承りました……イノセント!」
 戒は界霊獣イノセントと同化する。
 その身に、界霊獣の力がみなぎって来るのを感じる。
「私たちも、行くよっ!」
「うん!」
 凛と莉珠も、再び足に攻撃の狙いを定める。
「狙うなら……先に仲間が攻撃した箇所だ」
 すばるが皆に声をかけ、自身も走り出す。
 敵の懐へ。
 すばるのヴァルハラスラスト!
 それと同時に凛たちの攻撃。
 そして戒の渾身の一撃が、石巨人の膝に集中する。
 がごり。
 がらがらがら……っ。
 全員の攻撃を一斉に受けた石巨人は膝から崩れて行った。
「……今は眠って貰います」
 戒は小さく呟いた。
 すばるは石巨人が暴れた周辺を確認したが、特にめぼしいアイテム等は見つからなかった。

 他の石巨人たちも同様にして倒され、無事3階までの道は開いた。

First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last