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ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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2階 ――探索


 世界樹の迷宮、地下2階。
 まだ浅い階層であるこの場所はハイドヴェルグによって整備されており、ある程度の広さもある。
 しかしそこは複雑に入り組んでおり、さながら冒険者の侵入を阻む迷宮といった様相を呈している。

 その中を進む魂ひとつ。
(なるほど……ここは道が細かく分岐していますが、合流も多いみたいですのね。後でそれぞれの行き先をメモしておかなくては)
 脱魂術で迷宮を探索する海原 香だった。
 抜け殻となった本体は八上 ひかりツンデレヴァルキュリアに任せ、迷宮を彷徨う。
 頭の中で、その地形をメモしながら。
 彼女たちは、ここ地下2階をマッピングして地図を作成しようとしているのだ。
(ここは、行き止まり……? いえ、この岩は動かすことができそうですね)
 念のため罠がないか確認してから、そっと岩を押してみる。
(う……うーん、ここは一人では無理そうです……一旦戻るとしましょう)
 香は自分の体を守っているひかりたちと合流するため、引き返すのだった。
 そして。
「……結局、魂関係なかったですわね……」
「まあいいじゃん。留守番寂しかったし、皆で探索しよう!」
 香とひかりたちは揃って迷宮を歩いていた。
 魂とはいえ、物質を通過する事はできない。
 だとすれば、普通の肉体で歩いてマッピングするのと何ら変わる所がない。
 彼女たちがそう気付くのに時間はかからなかった。
 結果、彼女たちは3人で地下の探索を行うこととなった。

「どこー! ここどこー!?」
「俺は……どこへ向かって進もうとしているのだろうか」
 そしてひかりたちは、アクア・フィーリス信道 正義と出会うこととなる。
「もーう、ティンガネスに来てたのに、いつの間にかこんな所に来ちゃったよー」
 アクアは、道に迷っていた。
「俺はずっと、世界と大切な仲間達を守るために命を懸けて戦って来た。だが、ここ最近、色々とわからなくなってきた…… 死んでも構わないと思っていた俺が、今になって、死ぬのが堪らなく怖く感じるようになってな……」
 正義は、人生に迷っていた。
 その答えを探し、そして仲間のため探索すべく彼はここにいた。
「こういう所には、何かいい物が隠されてたりしてー!」
 更に、アクアはお宝を探していた。
「……それじゃあ、一緒に探索しよっか」
「うん!」
「……ああ」
 大きな道は一緒に、細い道は各々で進んで。
 彼らが合流して探索することで、2階の把握は進んでいった。
「お宝は……ないなあ。でもトラップとか隠し扉なんか、あるんじゃないかなあ」
 何かないかと期待して、そこらの壁をとんとんと叩きながら進むアクア。
「そう簡単には見つからないだろう……」
「あった!」
 正義の声が終わる前に、アクアの歓声が響いた。
 岩壁と壁の小さな隙間。
 そこに不自然に生えていた草を引っ張った時、僅かな音がした。
 隙間に指を入れ引っ張ってみると、そこは新しい通路が。
「隠し扉!」
「すごい……」
「お宝!」
「いや……この仕掛けはどこか新しいようだ。気をつけたほうがいい」
 興奮するひかりと香、そしてアクアに冷静に声をかける正義。
 新しいということは、この扉を利用している存在がいるということ。
 それは……
 しゅん!
 意気揚々と扉を潜り抜けようとしたアクアの真横を、黒い物体がかすめた。
 それは、土塊。
「危ない!」
 それを確認すると同時に身構える正義。
「へっへっへ、お嬢ちゃんたち、迷子かい?」
「そこは関係者以外立ち入り禁止だぜぇ?」
 嘲るような口調と下卑た笑い声。
「――誰だ」
 その存在が何なのかはもう分かっていた。
 この2階に拠点とする野盗だ。
 しかし、相手の人数と場所を確認するために正義はあえて問う。
「あーっ、おじさんたち、何か盗もうとしてる悪い人でしょー!」
 しかし答えたのはアクアだった。
「悪い人ってこたねぇだろ?」
「そうそう、相手が勝手に置いてってくれるだけで」
「たまーに、勝手に動かなくなった相手からいただくこともあるがな!」
「わたしはあげるものなんてないけど、なにもあげないもんねー!」
「あるじゃねえか……命が」
 アクアの台詞に、再び聞こえる笑い声。
 結果オーライ。
 野盗たちは5人。相手にできない数じゃない。
 そう確認した正義が、声のする方に仕掛けようとしたその時だった。
「助太刀――いたす!」
 そんな大声と共に、雄叫びをあげ斧を振り回しながら少年が1人、こちらに向かって走って来た。
「おぉおおおおお!」
「うわっ!?」
 その攻撃が向けられた先は、正義。
「な……何のつもりだ!」
「助けてもらった恩に報いるため、俺はベルセルクの彼らに協力する!」
「そうです! 一宿一飯……ということもないですが……恩義は、このアルテミス、騎士として、きちんと返させていただきます!」
 斧を持ったゼウス・オリュンポスアルテミス・カリストは、そう宣言すると特異者たちの前に立ちはだかる。
「なんだと……」
「そんな……」
 唇を噛む正義たち。
「へ……?」
「あ、そう……?」
 唖然とした顔をする野盗たち。
 どうやら二人の攻撃は、彼らにとっても意外なものだったらしい。
 何故こんなことになったのか。
 ゼウスたちは迷宮を探索中、道に迷ってしまったのだ。
 そんな彼らをいいカモだとばかりに襲い掛かる野盗たち。
 しかし、そこでゼウスたちは勘違いしてしまった。
「助けが来た!」
「ああっ、親切な方々ありがとうございます!」
 捕虜になったのにも気が付かず、素直に野盗たちに引き立てられる二人。
 その最中に、野盗がひかりたちを見つけて襲撃を行ったのだ。
 よし恩返しのチャンスだとばかりに、野盗の側に立ち攻撃を行うゼウスとアルテミス。
「え、何やってんのコイツら」
「まあ……攻撃するんならしてくれや」
 野盗の方もその行動が理解できず、それでもやるなら勝手にしてくれればいいと二人を放置し、改めて特異者たちに襲い掛かろうとする。
「ふははははははは! さあ行け、我が部下アルテミスよ!」
「受けてください、必殺技、オリュンポススライト!」
 ゼウスの指示を受け、アルテミスはヴァルハラストライクを放つ。
「ぐ……っ!」
 その攻撃を構えた剣で受け止める正義。
「さあ、僕の右腕に封じられし邪炎龍よ。 今こそ封印から解き放たれ、我が前に立ちふさがりし愚か者どもに裁きを与えるのだ!」
 二人の力が拮抗したと見たゼウスは、怪しげな呪文を唱える。
 呼び出したのは、幻獣。
 それが、アクアたちに襲い掛かる。
 更にゼウスが攻撃を仕掛けようとしたその時――
「むおっ!?」
 突如、ゼウスの悲鳴が響き渡る。
 声に驚いてみてみれば、ゼウスは逆さに宙づりになっていた。
「のー!?」
「これは……」
 ゼウスの足に、触手が巻き付いていた。
 触手はゼウスを振り回すと、投げ飛ばす。
「うぉお!?」
 絡めた触手を引っ込めると、出てきたのは闇野 名無し
「あ……ありがとう!」
「……特異者を殺すのは、わたし。こんなところで死んでもらっては困る」
 礼を言って駆け寄ったアクアの方を見向きもせず、名無しは吐き捨てるように呟く。
「んー、なんだかわかんないけど、それでも、助かったよ!」
「よくもゼウス様をっ!」
「余所見をしてる暇はないぞ」
「あうっ!」
 名無しを見て歯切しりをするアルテミスに、正義が更に攻撃を仕掛ける。
 それをギリギリでかわすアルテミス。
(そうだ……余所見も、立ち止まっている暇も、俺にはない)
 戦いながら正義は、自分がどこかクリアになって行くのを感じていた。
 それは探していた答えではないかもしれない。
 しかし……
「本当に……情けない。それでも、特異者……?」
「てへ」
 文句を言いながら、それでも野盗との戦いに加わる名無し。
 素早い動きで野盗たちを翻弄し、触手でダメージを与えていく。
 ひかりは銃剣を振り回し、香が符でそれを援護する。
「これで……終わりだ」
 名無しは白鳥の衣で高く舞い上がる。
 そして、触手を硬質化させ鋭い武器にする。
 その攻撃が、野盗を切り裂く。
「うわぁああああ!」
「ちっ、これまでか……」
「おぼえてろよ!」
 捨て台詞を吐いて逃げていく野盗。
 当然、ゼウスたちは置き去りだ。
「え、あれ? もう行っちゃうの? 置いてかないでー!」
 それを見たゼウスたちは慌てて撤退準備を始める。
「貴様の技は僕の右目の邪眼が見切った! 次は負けんぞ!」
 特異者に向かうと、尊大な捨て台詞。
 そして急いで野盗の後を追う。
「くっ、勝負は預けますっ! 待ってください、ゼウス様~!」
 アルテミスも正義の剣をはじくと、ゼウスの後を追う。
 そのまま、野盗を見失ったゼウスたちは再び迷子になるのだが……それはまた別の話。
「よし……」
「やったー!」
「なんとか、野盗たちを退けましたね」
「ありがとう……ん?」
 ほっと息をつくひかりたち。
 そしてアクアが名無し礼を言おうとした時には、そこには既に彼女の姿はなかった。

 再び、お宝探し……もとい、探索が始まった。
 ひかりが持つマップはある程度埋まったが、結局お宝は見つからなかった。

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