ラストバトル2
怒り心頭に発した黒いリンドヴルムはまっすぐに刃架めがけて突っ込んできた。だがバランスをとる尾を半分失い、翼をも無くした竜の動きは鈍い。刃架は宣言どおり素早い身のこなしで横とびに攻撃を避ける。巨竜は素早い方向転換ができず、たたらを踏んだ。
「今です!」
アルベルティーナの澄んだ声が鞭のように響いた。エーファがリボルバーの銃弾を喉に近い頚部に撃ち込む。たちまちそこからとめどなく瘴気が流れ出して目印となる。遥はヴィルトールの背に立ち上がり、静かに目を閉じ意識を集中した。ATDアシストユニットを起動し、に霊技【イノセント】の力を解放する。全身に力が満ちてゆく。彼女は目を見開いた。白銀の髪は燃え立つ黄金色となり、瞳は燃えるような紅に変わっている。
「さあ……全力で行くわよ、ヴェルトール!」
風の衣を纏い。錐揉み旋転、そのまま加速しながら虚刀“叢雲”の能力を開放し巨大な気の刃を形成し、黒いリンドブルムの首目掛けて突き進む。チェーリアは自由の焔で舞い上がった。
「力を貸して……イノセントッ! そこだぁあああああああああああッ!!」
同時に霊技【イノセント】を発動して身体能力を強化し、撃巨槍・金を構えて飛行の勢いをつけたまままっすぐにエーファの弾丸跡が示す目印めがけて彗星のように飛んでゆく。
「今が絶好の機!」
刃架がハチェットを両手に構え、双頭の竜を発動した。潤也も飛竜の背に立ち上がり、斜め上方から加速度を乗せて巨屠槍を構えたまま突っ込んでゆく。アルベルティーナは手にした槍を戦場の舞いで叩き込む。全員のすべての力をこめた刃は深々と竜の首に突き立った。
「……ごめんなさい」
アルベルティーナがその瞬間、小さく呟いた。
グウウウウウウウーーーーーー……
アルフレッドはいつでもパリエスを使えるよう、攻撃者全員を固唾を呑んで見つめていた。黒竜の瞳がカッと見開かれた。頚動脈、骨もろとも全員の剣が切り裂いてゆくと、竜はゴロゴロという振動のような音を立てた。紅く燃える瞳が見る見る光を失い、半眼のまま闇の色に閉ざされる。
黒竜の頭部がズシンと重い振動を伴って転げ落ちた。胴体は力を失ってそのまま横倒しになる。体の下敷きとなった瓦礫の山からもうもうたる土埃がたち、死にあたってもなお、その尾は長くそこここを叩き、瓦礫をさらに粉砕し続けていた。第4層でその下への道を塞いでいた漆黒の巨竜は死んだ。
「お腹すいた………ドラゴン、って、美味しいのかな……?」
「……こいつはやめとけ。腹を壊す」
イルファンがリコを諌める。
「そこのお美しいお嬢さん? 怪我はないかい?」
アルフレッドが軽口を叩きながら、碧の癒しはいらないか尋ねて回る。遥がそんな彼を小突く。
「……慎みなさいな」
「あ、あ、はい……せっかくの機会なのにな……」
「アルフレッド? ……何か言った?」
「あ、いえ、何も言ってませんとも。ハハハ……」
5層入り口を守護していたと思しき巨大リンドブルムは討伐された。
全員が調査の結果を持ち寄り、その報告から、ここがかつてはアースガルドへの入口として設けられた場所らしいこと。往年は人間だけではなく、ドウェルグや巨人も普通にやってきていたらしいことが判明した。
また、神殿にはめぼしい宝物などはなかったが、なぜか悪霊たちがフリッグのレリーフを護っているらしいことも解った。
果たして5層には何があるのか。そして巨大なリンドヴルムは一体何を守護していたのだろうか……。