落下
「よし、僕らも行くぞ、頼んだよビフレスト!」
草薙 大和はリンドヴルム、ビフレストの首を叩いた。今回大和がビフレストを操り、パートナーの
コロナ・ブライトが、同乗して攻撃を担うという作戦を立てたのだ。人と竜、三位一体となることで、一人乗りよりもはるかに高い戦力を得られるのではと考えたのだ。彼らもまた、イルファンとの協力で、彼らの攻撃から気を逸らすため、椛と陽子同様に右の翼を狙うことになっている。
「大型リンドヴルム、ですか……。手強そうですけど、相手にとって不足なしですね。
これだけたくさんの特異者が集まれば、どんな敵でもきっと倒せるです。頑張るですよ!
今のわたしはししょーの剣です。弟子としての誇りにかけて、その役割を全うしてみせるですよ!
無論防御もウェポンガードでばっちりです!」
コロナが言った。
「ああ、頼むよ。僕自身は『英竜一体』と『風読み』を駆使してビフレストの操縦に集中するから、攻撃と防御は任せる!」
大和は竜の前方に回った。イルファンらが攻撃をしやすくなるよう、敵の注意を引く役目も兼ねているため、なるべく相手の視界に映るように飛ぶのが得策と考えたのだ。敵の攻撃――主に黒炎のブレスだろうが――には十分警戒せねばならない。自身だけでなく、同乗するコロナの命も預かっているのだ。回避の失敗は許されない。もしも、敵が大きな隙を見せたら、コロナと同時に、いわば師弟一体の『ヴァルハラスラスト』も狙ってみようかと大和は考えていた。ビフレストは舞い上がり、大和の指示に従って黒竜の前方へと飛翔してゆく。だが、様子がおかしい。速度が思ったほど上がらないのである。
「ん?どうしたビフレスト?」
大和はビフレストに声をかけた。ビフレストは指示通り、懸命に翼を羽ばたかせているが、大和一人のときと違い、コロナもいるために一人乗りのときと違い、重心の位置が変わり浮力も思ったほど得られず苦戦している。この速度では敵の攻撃を素早くかわすのは無理だ。だがすでにビフレストは巨龍の正面に達し、リンドヴルムに捕捉されてしまっていた。黒竜の巨大なあぎとがガッと開いた。
「危ない! ……天輪の光は輝く」
雪華がすぐビフレストから気を逸らすために白の鳥で突進し、逃れる時間を作る。ビフレストは必死で羽ばたき、黒竜の攻撃範囲から逃れた。大和とコロナは無念の思いを噛み締めて巨竜から離れた。
隼人がこれを機として動いた。白の鳥を解除し、他のメンバーとの打ち合わせどおりフラッシュグレネードを巨竜の顔めがけて投げつける。凄まじい閃光と耳を劈く爆発音にはさしもの巨竜も一時的に視界と聴力を同時に閉ざされた。隼人は影守の力を解放し。スタンガンで刀身に電気を流しながら左の翼の根元に切りつける。
「操雷の名の由縁、その身に刻み込め!」
「“竜殺し”の名に懸けて、貴様は倒す……!」
イルファンが同時にラブを召還し、自身とリコの能力を大幅に底上げする。
「後は手筈通りに。任せたぞ、リコ」
「ん、任された……切れ味、良く、しておくべき……」
リコがそう言って、イルファンの界霊獣ヤソマガツが変化した『虚ろう碧の太刀』に鋭刃のルーンを使う。
「よし……ばっちり……もともと高い切れ味……さらに強く……」
界霊獣イノセントで竜の周囲を飛び回っていたイルファンが隼人の攻撃を機と見て、死角から接近し、そのまま巨大な黒いリンドヴルムにイノセントを体当たりさせた。激突と同時に跳躍するイルファンとリコ。イノセントは軽く身を翻して飛び離れ、イルファンらを待機して周囲の空を駆ける。同時に椛が白の鳥へと変化した。光の尾を引きながら、右の翼膜めがけて体当たりをする。鋭い一撃でヴェンタの効果でややもろくなっていた翼膜がバリバリと裂ける。陽子は反対方向から接近し、双頭の竜で回転しながら翼の付け根近い位置に特攻をかけた。
イルファンは虚ろう碧の太刀の力を解放し、駆け上がった勢いとその刀のパワーである攻撃力上昇の効果を生かし、刃渡り3メートルにも及ぶ巨大な気の刃による薙ぎ払いを、黒いリンドヴルムの左の翼に叩き込む。
「我が一撃は必断必殺、この世に断てぬものなし―――黒き竜よ! その翼を奪われ、地へと落ちるがいい!」
小柄なリコは身軽に竜の背に駆け上がると、虚数魔銃に自身の魔力を全て注ぎ込み、イルファンと同じ位置に向けて銃撃を放った。
「この、一撃で……!ワンショット……ブレイク……ッ!」
左の翼が根元から裂けた。
バランスを失い、巨竜は切断されかけた翼を力いっぱい羽ばたかせえるが、浮力を生じさせるだけの力はもうない。たちまちのうちに高度を落とし、脚が地面に触れる。切断された尾の残りと後肢で体を支え、必死で羽ばたく。透乃は竜の背後から切断されているとはいえ、パワーを有する尾に気をつけながらそっと忍び寄り、パートナーたちが狙う右の翼とは反対側の左脚に戦士の叫びで力をこめて戦斧で狂戦撃を見舞った。
「はぁああああああああああ!!」
大和とコロナもビフレストから降り、武器を手にして駆けつけた。
「行くぞコロナ、仕掛けるぞ!」
「わたしとししょーの絆の強さ、息ぴったりの戦いぶりを、しかと見せてあげるですよ!」
2人は同時に右の翼に渾身のヴァルハラスラストを見舞った。
翼と脚を同時に攻撃され、竜はバランスを崩して大地に転等した。地震かと思うほどの重い衝撃波が周囲を震わせる。そのまま透乃は脚の間を駆け抜け、椛達が攻撃していた右の翼の付け根へさらに狂戦撃を叩き込んだ。同時にイルファン、隼人、大和らも左の翼を激しく切りつけた。度重なる攻撃に翼は2枚とも切り落とされ、巨竜は完全に飛行能力を失った。