巨竜に挑む1
巨竜を倒そうという特異者たちがその包囲網を次第に狭め始めた。
「これだけのリンドヴルムなら、ただ凶暴なだけなら縄張りを上の階層にも広げるとか街を襲うとかしそうなもの。
ここに居座っているのも……悪意があるとも思えない。
何か意図があって4階にいるんじゃないかしら?」
ミレーナ・フィルクレイはなんとかこの巨大なリンドヴルムとの戦闘を回避できないかと、一応説得を試みることにした。ふわりと舞い上がると、巨大な竜に声が聞こえるだろうと思われるぎりぎりの距離まで近づくと、声を張り上げた。
「ねぇ、ちょっとあなた。もしかして神様に言われて、ここ守ってるんじゃないの?
漆黒の巨竜は燃えるような目でミレーナを見つめた。何か思案するような表情が浮かぶ。攻撃はしてこない。ただ見つめ、何か思い出そうとするかのように瞳を半ば閉じる。
「ねえ。もしかしたら……神様がどうなったとか、なんで世界樹がこうなったかとか、なにか知らない?
……あと、出来たら通して貰えないかしら? 話し合えればそれで解決したいの!」
竜の顔からすべての思考が抜け落ちたように見えた。ぎらつく瞳が見開かれ、大きく羽ばたくと長い牙でいっぱいの口を開けて黒い炎を吹き出した。ミレーナは急降下してその攻撃を避けた。同時に
諏訪部 楓が突然ミレーナから注意をそらすような形で飛び出してきた。そしていきなり荒れ狂う竜に声をかける。
「ふははは!巨人が人を襲い、龍に乗った戦士が居る世界! 実に楽しいです!
そんな世界を改造人間である私が歩くというのもおかしな話ですけれど……。
新しい世界に降り立ったらアウトローとして一回は強敵と戦うことにしているのです!
とりあえず、あの黒いトカゲ野朗が悪いんですよね?! じゃあ倒してやりますよ!
邪魔するやつはとりあえず地べたで這い蹲ってもらいますよ! ちなみに邪魔したら反撃させてもらいます!」
周囲の制止と懸念の声をスルーし、楓は勢い良く助走をつけてダブルアクセルで跳躍し、低く舞う巨竜に飛びついた。そのままボクシングでワンツーの後、メガスマッシュの重い一撃を全体重乗せてぶつけてみる。だが、蚊に食われたほどのダメージもないらしい。爪で引っ掛けられかけ、武術の心得で素早く避けるが、なにしろしがみついたままでは体制が整わない。なんとか背中側に回り、首の付け根を狙って同様に叩くが、鱗が硬く、まるで手ごたえはなかった。
「クッ! 私の拳が通らないなんてッ!」
楓は仕方なく竜から飛び降りた。
「なんて無茶な……」
アーフィリカは楓の単独行動を目を丸くして見ていたが、すぐに大盾のルーンで仲間達の前に大盾を発動させて守護を図ると、すぐにラブを召還し、メンバーの身体能力を底上げする。
「ラブ! お願い、みんなを支援してね!」
ラブがすぐにそれに応じて姿を現し、支援の歌声を響かせる。それを確認してアーフィリカは万一誰か負傷したときの対策にと、癒しのルーンもすぐに使えるよう準備をする。ここまではオーケーだ。みなに声をかける。
「みんな! いくよっ! ……大盾のルーン! みんなを護ってっ!」
あわせてカラビンカ、
メナト・アジズが盾のルーンでさらに防御のアップを図った。カラビンカはその後すぐに応援のスキルでメンバーを元気付ける。茉由良は鋭刃のルーンで仲間の武器の切れ味をキープ・強化し、吉凶のルーンと雷のルーンで牽制するクロウとともにクールアシストで危険はないか観察も行う。チェーンは炎の召喚と霜のルーンで巨大な竜に隙を作ろうと波状攻撃を仕掛けた。
「炎は思ったより遠くまで届く、気をつけろ!」
クロウが叫んだ。メナトは万一の事態に対処すべく、俊足のルーンで全員の俊敏さを上げた。黒竜が飛行したまま首を伸ばす。ブレスが来る。メナトはすぐ他のメンバーから離れ、巨大な竜の顔めがけてフラッシュグレネードを打ち込んだ。薄闇の中に白光が閃き、黒い巨竜は視力を一時的に失った。翼を激しく羽ばたかせ、牙をかみ鳴らしながらめちゃくちゃに黒い炎を吹き付ける。攻撃メンバーは一時大きく前線から下がった。