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ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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アルベルティーナ1


「アルベルティーナは他のヴァルキュリアとは違うお仕事をしてたのかも知れないけど……それでもオレ達よりはずっと色んな英雄の事知ってるんじゃないか?」
ミルドレッドは木刀を構えてフェンリスの動きを目で追いながら、アルベルティーナに問いかける。
「オレ、英雄になりたいんだ。アルベルティーナにとって英雄ってどういうもの? 転空以前はどんな英霊を導いてきたんだろう?」
「英雄……ですか……後の問いは……そのころの記憶がまだすべて戻っていないのでわからないのです。
 転空からしばらくの間は記憶を失っていて……この数十年で徐々に思い出してきた程度なのです」
「そ、そうか……悪いこと、聞いちゃったかな」
ミルドレッドは頭をかいた。
「カイルに同じ事聞いても『なろうと思ってなれるモンじゃねーだろ』って返されたんだ……。
 でもオレはリーダーのフェンリスみたいに、理不尽な大きな力から皆を守れるような強い英雄になりたい!」
アルベルティーナは考え深げにミルドレッドを見つめた。
「私個人としては……英雄というのは常に人のことも、自分のことも、器というものをきちんと考えて行動できる人を言うのではないか……。
 単純に強いことではなく、その方が死ぬまで守ろうとしていた、自分以外の何かがある方。そんな風に思います」
「器を……知る……」
考え込むミルドレッドの隣で、パートナーたちと一斉攻撃のタイミングを計っていた雫がアルベルティーナに尋ねる。
「アルベルティーナさん、貴女はフリッグ様とお会いになったたことがあるんですよね……?
 フリッグ様はこれから何が起きるのか知っていたようにも思えるのに……何故お逃げにならなかったのでしょう?
 もしも危険を顧みずにお残りになったということなら……命をかけても護るべき何かがあった様に思うんです。
 アルベルティーナさんはそれが一体何なのかご存知ありませんか?」
「……フリッグ様は、オーディン様と共に創造したこの世界を心から愛しておられました。それでお残りになられたのでしょう……。
 転空の瞬間、フリッグ様は私に世界を救うつもりならばアースガルドに向かうようにおっしゃいました……。
雫は考え込んだ。アースガルドに何かの鍵がきっとあるのだろう。
「ありがとうございます。もし……アルベルティーナさんさえ宜しければ、今後も協力させてくださいませんか?」
「ええ、喜んで」
アルベルティーナは短く返答し、微笑んだ。

 黒いリンドヴルムたちがある程度まとまってきたのを見計らい、アルベルティーナの身辺警護をすべく、周囲を哨戒していた金髪碧眼のヴァルキュリア、ティアナ・ニコルソンが、ともに護衛を担っているはずの空色の髪のカタリーナ・アーリー、銀色の流れるような髪の持ち主、ブレンダ・リアに声をかけた。
「そろそろころあいもいいようですわ。
 フェンリスさんに支援砲撃をします、ブレンダさん、カタリーナさん、準備はよろしいですか?
 ……ッ! またサボっておられましたね!!
 いつもと違って今回は戦場なんですのよ?! アルベルティーナさんをリンドヴルムからお守りするというのがお役目ですのに!!」
そう、なぜ『はず』かというと、カタリーナとブレンダはいつものように手が空いている今、酒場近くの菓子屋で購入した焼き菓子を食べながらおしゃべりしていたからだ。
「大丈夫、ちゃんと周辺チェックはしてますから!
 それに雫ちゃんがきっちりアルベルティーナさんにはついてるし。ね? ブレンダ? あ。よかったらティアナもこれ食べる?
 割合美味しいわよ、これ」
「そこそこあたりのお菓子ですね。もう少し甘さ控えめでも飽きが来ない気はしますけれど……。
 それにしても、ギンヌンカプの影響を受けてもリンドヴルムが生きていられるのでしたら、天上の神々もまだ生きておられるのかしら?
 そして虚空に飲み込まれたアースガルドのどこかにいらっしゃるとか?
 それを踏まえてのアルベルティーナさんへの指示なのでしょうか……?
 それに、アースガルドへの道を護っているのか、それとも、そこに至る道を邪魔しているのか……リンドブルムたちの意図も不明ですね」
ブレンダが話を逸らす。
「ギンヌンカプ、ではなく、ギンヌンガガプ、ですわ!」
ティアナが突っ込む。
「一文字くらい気にしない気にしない!
 あの黒いリンドヴルムってギンヌン何とかの影響かもとか聞いたけど、何だか虚空って言う本来の意味と違う影響受けてるよね……。
 傷とか見ても、普通の生き物って感じじゃぜんぜんないもの。
 目も怖いし、なんだか体の中からすべて変性しちゃっている感じ?
 そもそも、意図なんかあるのかな……?見てるとなんだか目に付くものを憎しみと怒りをこめて無差別に攻撃っていう感じよね。 」
カタリーナが言った。
「単に色が黒くなって凶暴化したというだけではなさそうですよね。
 何かもっと……不気味な感じです……」
ブレンダがあわせて感想を述べる。
「それは……そうですわね……」
ティアナは考え込みかけ、危うく当初の目的を思い出した。
「……ハッ、そ、そうですわ、界霊獣召還と一斉射撃の準備はよろしいかしら?!」
「準備はばっちりよ」
「用意できています」
カタリーナとブレンダが姿勢を正す。
「界霊獣、召還いたしますッ! イノセント召喚!!」
ティアナが叫ぶと、竜に似た姿のイノセントが姿を表わす。
「おいで、シンシア!」
「シンシア、いらっしゃい!」
2体のシンシアとイノセントがずらりと並ぶさまは壮観だ。
「お行きなさい!」
「行っくよー!」
「行きます!」
3人が叫ぶと、界霊獣たちが一斉に口を開け、フェンリスが誘導し、集めた漆黒のリンドヴルムたちめがけて光弾を掃射する。危害こそ及ばないが、光弾をさえぎってしまうため上空に素早く退避したフェンリスの足下で、光弾をもろに受け、リンドブルムたちの翼が裂け、尾がむしられ、肉体が裂ける。補佐としてティアナ、カタリーナ、ブレンダの3人があわせて俊足のルーンや盾のルーンも作動させ、アルベルティーナと自分たちの護衛をかねて補佐する。援護のルーンの保護を受けたカイルは起爆符を次々と投げつけて、黒いリンドブルムの周辺を駆け回り、傷口や咆哮する口の中を狙って爆破し、さらに魔銃で追撃を入れる。これでかなりの数のリンドブルムたちが戦闘不能に陥った。舞い戻ってきたフェンリスは勝利に喜ぶミルドレッドに向かい、自分の胸を軽く小突き、微笑む。
「――英雄の定義は語るに術は無く、また之を語るに及ばず。それこそが、英雄と云う事なのだから……答は在る……ここに。
 ……君なら、なれる」
「まだ油断はできないぞ。巨龍の攻撃をする人たちの邪魔をさせないよう、残っているリンドヴルムをマークしていかないとな」
カイルが釘をさす。
「そうですわね、新手がこないとも限りません」
ティアナも頷いた。

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