露払いをするものたち3
巨大リンドヴルムの周辺には、ビョルンの話しにあったように黒いリンドヴルムがそこここに散らばっていた。他の特異者たちがすでにその周囲で攻撃を行っている。
シルヴァ・グアイグネットはともに行動する
栗花落 乃愛に声をかけた。
「あのでかいのに行き着く連中の支援として、オレ達は周囲にいる竜を狙うとしようぜ。
後方支援は乃愛に任せた。 ……しかし竜VS竜か。面白そうだ。共闘ってやつも初めてだし、楽しませてもらおうか」
乃愛はリンドヴルムで飛行するシルヴァの横を飛行しながら頷いた。
「エインヘリアルが竜に騎乗して戦うときの弱点は把握してる。最大限のカバーをするように可能な限り支援するわ。
……でも、最終的には私も貴方も、共に無事に帰ることが一番大事だから……無理はしないで」
「ああ、深追いするつもりはないからな。そこは気をつけていくつもりだ」
奥に見える巨大リンドヴルムをちらりと見てシルヴァは言った。飛竜を駆って一番近い位置にいるリンドヴルムのほうへと向かう。飛竜はシルヴァに気づくとすぐにこちらに向かってきた。乃愛はすぐに盾のルーンを彼と彼の竜に施して防御を上げ。俊足のルーンで自分自身の速度を上げ、シルヴァの後方を油断なく飛行で追う。リンドヴルムが黒い炎を吹いて襲い掛かってくるのを、シルヴァは強者の塊剣のウェポンガードで逸らす。その真上から乃愛が金の天上剣を手に急降下して、抜刀斬りで首に切りつけると、かなりの傷をリンドヴルムは負った。乃愛がすぐに高く舞い上がると、リンドヴルムはその後を追おうとした。
「がらすきだぜ?! ……乃愛ありがとなッ!」
首をよじったリンドヴルムの喉もとめがけてシルヴァが強者の塊剣での渾身の突きを見舞う。喉もとの鱗がはげ、黒い皮膚に剣がめり込む。さらに召現の長剣できりつけるが、こちらは弾かれるような感触があった。軋るようなほえ声を上げてリンドヴルムが激しく羽ばたき、長い尾を鞭のように振り回す。
「おっと……」
シルヴァは素早く後退し、攻撃を逃れた。
「……思ったより敏捷だな……厄介だ」
乃愛が再度上空からリンドヴルムの目を狙って金の天上剣で切りつけ、片目を潰す。黒い竜は炎を吹きながらめちゃくちゃに暴れる。乃愛は瞬刻の見切りで黒い竜の動きを見切り、再び先ほど傷つけた首を狙って素早く切りつけて後退する。傷ついた竜は首から瘴気を吹き出しながら尾を振り回す。だいぶ弱ってきたと見て、シルヴァは強者の塊剣を構えて飛竜ごと勢いをつけてリンドヴルムの胸元を狙い、激しい突きを見舞った。苦し紛れに黒い竜がガリガリと強者の塊剣に激しく爪を立てたが、剣が体内にもぐりこむとうめき声を上げ、そのままずるりと剣から抜け落ち、落下してゆく。
フェンリス・ヴォルフもまた、彼と志を共にする仲間たち、
遠野 雫、
カイル・アークライトとそのパートナーたちを伴い、もう1グループの支援メンバーらとともにアルベルティーナを護衛しながら露払いをと考えてここにやってきていた。フェンリスは愛竜、レッサーリンドヴルムのショーグンとともに戦場となる場を見つめた。
「思ったよりもリンドヴルムたちの展開する範囲が広い……各員警戒態勢……此れより、戦闘を開始する。事前の打ち合わせ通りで行くぞ!」
フェンリスは単身飛び立った。カイルがすぐにラブを召還し、盾のルーンを使い、雫は俊足のルーンで全員の素早さを上げて能力の底上げと防御を図る。フェンリスはわざとゆっくり宙を舞い、正面から堂々と接近し敵の注意を引く。
「蒼穹の銀翼が盟主フェンリス……尋常に一騎打ちを申し込むっ!」
声を張り上げてリンドヴルムに宣戦する。周辺の黒竜たちが即座に反応し、咆哮をあげて飛び立ち、フェンリスに迫り、黒炎を吹きかける。
「フフン……このフェンリスを侮ってもらっては困るぞッ!!」
瞬刻の見切りで火炎をかわし、あえて敵の懐へと突っ込み、そのままウィスパードを構えて錐揉み旋転でリンドヴルムたちの体を切り裂こうとする。さして大きな傷は与えられぬものの、敵の注意を一身に引き付けるという彼の目的には十分に叶っている。カイルの援護で速度の上がったショーグンと英龍一体で文字通り己の体のごとく舞い、敵勢の攻撃を回避しながら時に切りつけ、笑いながら挑発する。
「始まったな」
カイルが言った。
ミルドレッド・リンドバーグはアルベルティーナの護衛をすると言い張り、雫とともに彼女のそばに控えている。カイルは木刀を構えるミルドレッドを小突いた。
「ったく、自分の事も片手落ちなくせに人を守れる気になるな。バカ」
そこでいったん言葉を切る。
(……まあ、当のアルベルティーナがミリーに守られるまでもない実力がある気はするが)
ミルドレッドは不満そうだった。
「せっかく英霊のアバターになったんだもん、オレも英雄を目指したいんだ!」
「ろくな武器も持たずに木刀を振り回してるだけじゃないか……折れたらどうするつもりなんだよ?!」
「ウェポンガードやアームディフェンスだってあるさ」
「いいか……一人なら何があっても自分一人の責任だ。無謀な行動も出来るがだろう。
だがな、人と行動を共にするならば、ましてや守るというのはそれは自分だけでなく他の者への責任も伴うという事だ。
そこを良く肝に銘じろ」
カイルはそう言ってフェンリスの支援に集中する。