クリエイティブRPG

ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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露払いをするものたち2


 緋夜 朱零先読みとともに巨龍のいる場に向かいながら、エンジュ・レーヴェンハイムは感嘆の声を上げた。
 あぁ、できることならこの4階をすみずみまで探索し、過去の遺産を少しでも見てみたいですが……。
 しかし、リンドヴルムが多い上巨大化したものがいてゆく手を阻んでいるとは……そんな暇もありませんね……」
それを聞き、現在は緋來と名乗っている朱零が咎めるような目つきでエンジュを見た。
「な、なんですか緋來その目は! ……我慢すると言っているでしょう……まったく……。
 しかし……門番よろしく行く手を阻む黒きリンドヴルムに加えてさらに集く雑魚リンドヴルムですか……僕らは迷宮地5階へ行かねばなりません。
 通してもらわなくてはね……行きましょう、緋來」
緋來は自分の飛竜に声をかけた。
「――ああ、お前より大きな個体もいるようだが……そんなんで怯むお前じゃねぇよなぁ?」
長い首を軽く叩き、エンジュに言う。
「エンジュよ、防御は任せた。俺はリンドヴルムに間断なく攻撃を仕掛けるぜ。
 しかしまぁ、黒いでけぇのに、同じく黒い凶暴化したリンドヴルムの群れか……」
「ええ、片時も緋來と離れる気はありませんよ。戦っているのは僕らだけではない……。
 少しでも時間が惜しい今は、力を合わせて突破しますよ!」
緋來はエンジュに向かってにやっと笑いかけた。
「さぁ、いくぞエンジュ
 お前となら、どんな難関でも越えていけそうな気がするぜ……。
 ――頼んだぞ、相棒!」
集くリンドヴルムの群れに向かい、突っ込む緋來。
「お前らに恨みはねぇが……俺達はこの下に用があるんだ! 悪ィが通させてもらうぜ……!」
先の先、刻の見切りを用いて敵の爪や炎の攻撃を最小限の動きで避け、ウィスパードで翼の付け根、のど、目などを狙ってヴァルハラスラストを見舞う。片翼を失ったリンドブルムがきりきり舞をしながら落下するのを追撃し、紅く憎悪に燃えるリンドヴルムの目に剣先をつきたてる。エンジュは素早く目を走らせ、緋來の死角や、彼が狙う固体を素早く察し、脱力のルーンを使用する。先読みもまた、エンジュとともにひそやかに支援に入り、吉凶のルーンで緋來の攻撃力の増加を狙う。エンジュは緋來の気質や行動、攻撃間合い、全てを把握している。また緋來もエンジュの防御を確実なものと信じており、攻撃のみに集中する。
(彼が矛ならば僕は盾……緋來に向かう全ての攻撃を、大盾のルーンで受け止める気概で向かいます!
 ――鉄壁の護り手の名の下に、緋來だけは……絶対に、何があっても守り抜きます……!)
緋來が半ばはしゃいでいるような声を上げて、新たな一体に向き直る。
「俺の動体視力……舐めてもらっちゃ困るぜ! 行くぞ!!」

そんな中。フラフラと4層を彷徨っている男が一人。紫月 幸人だ。
「さーて~。お宝お宝っと、どこにあるかなー?」
幸人は特異者とはいえ、戦闘技能は一切無し、身体能力も普通。すなわちザ・一般人! ただし彼は『超巻き込まれ体質』。すなわち動けば棒にあたり、何もしてなくてもトラブルの方からやってくるという違った意味での特異者なのである。
「お? 何かここらへんって手付かず? こ、これはお宝発見の予感?? 
 って……なんか羽ばたきの音っていうか呼吸音って言うか、動物っぽい臭いがしない?」
くるりと振り返った目の前に、漆黒のリンドヴルムが品定めでもするように幸人を見ている。幸人は素っ頓狂な声を上げた。
「さあここで選択です!!
 1・死んだ振りで乗り切れ!
 2・餌をあげて懐柔!
 3・ソッコ逃げる!
 さあ俺! 生き残るにはどうする!?
 って2って俺が餌で喰われるよね? ね!? と、言うわけで……サイナラーーーーーッ!!」
半泣きで全力ダッシュで逃げる幸人。途中何か見たことのない場所や、光っているものもあったようだが……。
「ああああソコの綺麗なヴァルキュリアさああんっ! たーすーけーてえええぇぇぇっ!!」
呼びかけられたのは、巨龍の周辺に集くリンドヴルム討伐にとやってきていた千桜 一姫である。
「んっ、確かに……自分は……ヴァルキュリア……しかしながら……男だ」
幼少から美少女のような外見を持ち、いつしか女装趣味に陥ってしまった一姫がボソっと応える。
「ちなみに……そっち行くと、ボス竜ダネッ☆」
一姫 モドキが共闘する相川 小夜と一姫の武器に鋭刃のルーンで攻撃強化を施しながら幸人に言った。
「ハイ邪魔にならないよう隅にいますッ」
幸人は瓦礫の隅にそそくさともぐりこんだ。
「この世界には、まだ来たばかり、リンドヴルムには、悪いけど……こんな所で足止めを食うわけには行かない。
 ……最低でも、一匹、全力で倒す気で、頑張る」
一姫が小夜に言った。
「僕も一姫を援護しながら戦うよ。僕の槍捌き、篤とご覧あれ! だよ」
「二人共、ガンバルヨー……!」
モドキが2人にエールを送る。小夜がラブを召還し、支援の歌で能力の底上げを図る。モドキはラブの支援効果が途切れぬよう、その護衛に回りながら杖を手にして神に祈る奉納の舞に似た、だがクラゲが踊っているかのような奇妙な舞を舞い始める。オーバードライブと小夜が召喚したラブの支援を受けて一姫が奔る。目標は至近距離のリンドヴルムの1体だ。首を伸ばして噴射された黒い炎を大きく跳躍して避けると、その頭部を踏みつけて横とびに飛ぶ。その際に短剣で首筋に切りつけるのも忘れない。小夜は一姫に盾のルーンを使って防御を上げ、効果が切れぬよう慎重に見守りながら、一姫が動きで翻弄するリンドヴルムに啖呵を切る。
「ここから先、そう簡単に通れるとは思わないことだね!」
広角視野と戦場の舞いを組み合わせて一姫を追おうとしたリンドヴルムの尾を戦乙女の槍で突く。いらだって振り返った飛竜のわき腹を、今度は一姫が短剣で傷つける。
ギイイイイイイーーーーーーーーッ!!
リンドヴルムがきしむようないらだちの咆哮とともにすさまじい黒炎を吹き上げる。
「ラブ……おいで! こっち!」
リンドヴルムが炎を吹きながら、同時に長い尾を振り回して周囲を叩く。飛行しながらの尾の打撃は勢いが乗っており、その上に家屋を建造できるほど硬いユグドラシルの葉の表面が砕けて飛び散るほどだ。小夜がラブを自分の後方に位置するように呼び、モドキがその後方をカバーする。今回人手がたらなそうだから手伝ってほしいと一姫に頼まれて、モドキは特に張り切っていた。ラブの護衛をきっちりとこなしながら、周囲を見渡して安全を確保した後、精神を集中させて吉凶のルーンを発動する。
「カズヒーガンバルヨー! サヨもガンバルヨー!
 応援……応援スルヨー……大吉デルヨー……デルヨー……エーイ!!
 ……エエー吉ジャナカッタヨー……?」
それでも着実に小夜と一姫の攻撃を受け、リンドヴルムの生傷はその数をどんどん増やしていた。剥がれた表皮の下から瘴気を漂わせながら、苛立ちも頂点に達しようとしていた。戦闘でも喧嘩でも、頭に血が上ればもはや負けは決まったようなものである。一姫がイノセントを発動し、さらに己の動く速度を上げる。すれ違いざま目にも留まらぬ速さで反転した癒しのルーンをリンドヴルムに刻む。
「もっと、もっと、速く、斬る……傷よ………広がれ………もっと………」
一姫が呟く。リンドヴルムの傷口が一気に広がり、傷口から漏れ出す瘴気がいちだんと増え、吸い込まれるような闇色の体組織が覗く。
「プニプニー!! 大吉ーーー!!」
モドキが叫んだ。小夜がさらに胴にあいた傷口を槍でこじ開け、反対方向から接近した一姫が頚部の傷を狙って魔力を溜め込んだ虚数魔銃の弾丸を何発も撃ち込んだ。リンドヴルムの首に大穴が開き、飛竜は飛行の勢いを乗せたまま瓦礫の山に突っ込んで息絶えた。
「やったね!! でも油断しないで一姫! まだ敵はいっぱいいる」
小夜の言葉に一姫が言った。
「うまく行った……けど……暫く休んでからじゃないと……厳しいかも……」
「あっちで少しヤスモー」
モドキが物陰に2人を誘導する。体力をすべて一気に使いきることはできない。戦いはまだまだ続くのだから。


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