露払いをするものたち1
一方ところ変わってこちらは4層の別の一角、巨大なリンドヴルムが居座るエリアである。闇が固まって巨大な飛竜の姿をとったような生き物が、5層へのルート確保予定の場所に居座り、周囲を睥睨している。その周囲には多数の漆黒のリンドブルムが護衛のように集き、進路を阻んでいた。
ライオネル・バンダービルトは巨龍を見て呟いた。
「地下4階の主は巨大な黒き竜……いやはや 本格的にファンタジー一色だな、オイ。
……作戦目的復唱。地下4階の制圧と安全の確保っと……。俺の担当は遊撃かね、折角大部隊様がいる事だしな。
さてさて、せいぜい敵さんの数を削るお仕事を頑張りますかね」
銀髪を後ろに撫で付けながら、リンドヴルムたちを値踏みするように目を眇めて眺めると、普段から悪い目つきが、さらに険を含む。
「ボス格のでかぶつには十分に人が集まってるようだし、ボクもその邪魔になりそうな周りの凶暴化した竜の相手をしましょうかね。
武と舞は互いに相通ず。強く、華麗に、美しく☆ボクの舞闘を魅せてあげるよ♪」
片翼の衣をまとったヴァルキュリア、
鳴神 裁がライオネルの言葉を受けて軽い調子で言う。裁のパートナーでバトルジャンキーの
プラスキー・レッドキャップは、戦闘を前にして高ぶる気持ちを抑えられない様子だった。
「まあ、早いとこ行こうぜ」
プラスキーが言って、ハチェットを投げ上げて回転させる。ライオネルは召還したイノセントの上にヤソマガツとともに飛び乗ると、左右にジグザグ走行しながら、最前部のリンドブルムめがけてヤソマガツの弓とイノセントの光弾での攻撃を開始した。遠距離攻撃で狙うのはその翼と赤い目である。行動をまず鈍らせることが先決というのがライオネルの考えだった。一方プラスキーが荒々しく戦士の叫び―ウォークライを上げながら、両手に握るハチェットに狂戦撃を乗せて、破壊眼で弱点を見極めようとしながら、射撃で傷を受けたリンドブルムを猛烈な勢いで切りつける。
「はーはっはっはっはっはっは!聞かれてないが教えてやろう!
人は誰も呼ばないが、自称して愛と正義の小悪党! プラスキー・レッドキャップたー俺様のことよ!
ああ、覚える必要はないぜ。なんせ今から俺様にそのどたまをかち割られるんだからなー!
死んじまえば何も覚えちゃいられねーだろ?」
底抜けに陽気な声で叫びながら、リンドブルムに攻撃する姿はさながら鬼神そのものだ。裁も負けてはいない。俊足のルーンで移動速度を最大限に引き出し、高速でプラスキーのカバーに入り、時には先頭に踊り出る。戦乙女の楯によるアームディフィンスで手負いの怒れるリンドヴルムの噛みつき攻撃を受け流し、その隙を突いて頭部に天上剣で斬りかかる。すれ違いざまに術式反転の癒しのルーンでさらに傷口を広げた。
「ふっふーん、パルクールで鍛えた効率的な身体動作はこいうことにも応用が利くのさ☆
ごにゃ~ぽ☆ ボクは風。さあ、キミたち、風の動きを捉えきれるかな?」
プラスキーは狂ったような笑い声を上げながら、傷ついたリンドヴルムの反撃を避けながら、ハチェットで連打を繰り返している。
「くは、くはは、くわははははははははははは!」
ライオネルはちらと横目でプラスキーを見た。
「……ああいうやつもいるとは聞いていたが……すさまじいものだな」
無差別に叩いているように見えて、各々パートナーの動きの補完をしあい、反撃をきっちりかわしているいるようだ。とりあえず彼らに危険はなさそうだと踏み、ライオネルは自分の戦い方に戻る。イノセントの光弾を受けて怯んだリンドヴルムにすれ違いざま、虚霊の翻刃で切りつける。また任意に手元に戻せるという刃の特性を生かし、効果がありそうと見れば戦士の叫びをあげて刃を力の限りリンドヴルムめがけて投げつける。
「高い支払いして譲ってもらったんだ 料金分はしっかり働いてもらうぜ」
3人は戦い続ける。
「今日も頼んだぜ、ライトニング!」
水城 頼斗は騎乗する隻眼のリンドブルムに声をかけた。友の
佐倉 御月が奥にいる巨大なリンドヴルムに対抗するメンバーがたどり着くまでの戦力を温存してもらうべく、それに同様の思いを持つ特異者たちに協力したいと言う。ならば戦闘力のある自分は戦おう、頼斗はそう決めていた。
「私はみんなかこのミッションから無事に帰ってほしい。……私自身は支援しかできないけれど、それでもみんなが目的を達成出来るようカバーすることはできると思うの」
御月の真摯な瞳がまっすぐに頼斗を見た。彼女は普段戦闘にはあまり興味がないのだが、今回はこの世界の人々が騒乱に巻き込まれかねないと、行動することにしたようだった。
頼斗は裁、ライオネル、それにプラスキーらの後方をカバーしようとライトニングを駆って舞い上がった。御月は自分が襲われて他のメンバーの足を引っ張らぬよう十分注意しながら物陰を伝ってその後を追った。と、横手から頼斗目掛けて1体のリンドヴルムが黒い炎を吹きかけてきた。その動きを先読みしていた頼斗はライトニングを急降下させ、その攻撃を逃れた。そこに御月が雷のルーンで雷撃を浴びせ、リンドヴルムが物陰にいた御月に気づいて怒りの声を上げる。
「てめぇの相手はそっちじゃねえ、こっちだ!」
頼斗が2本の巨屠槍、―蒼龍―と―絢狼―を振りかざして挑戦の叫びを上げた。槍には御月が鋭刃のルーンを施して強化している。
「ほらほらどうしたぁ! この騎竜槍師とライトニングが怖いのか?!」
リンドヴルムの背中目掛けてライトニングもろとも体当たりせんばかりの勢いで突きかかる。御月はすぐに運命の外套とオートカウンターで防御を固め、頼斗を応援で激励する。
「大丈夫、水城なら行ける!! そいつを倒せるはずよ!!
私も……もう……もう……非力とは言わせないんだからっーー!」
叫ぶと再度雷のルーンを発動させる。リンドヴルムが硬直した。その隙を十二分に生かし、頼斗がその開いた口の中目掛けてヴァルハラストライクを炸裂させた。
「唸れ二槍! 食らえッ!! ヴァルハラ……レイドストライク!!」
槍が柔らかな口蓋を貫き、延髄に達すると、リンドヴルムはピクリと体を硬直させ、黒い瘴気を噴出しながらそのまま石のように落下した。
「あ、ありがとう……!」
「佐倉さん、もう少し下がってて。まだいるかも知れねぇかんな……。大丈夫、佐倉さんには指一本、かすり傷一つつけさせはしないさ! ……頼むぜ相棒!」
御月と頼斗もまた、戦場を進んでゆく。仲間たちのために。