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ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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神殿を探索せよ2


 銀髪に赤い瞳のソルティ・アイザックは脱魂術を用いて探索を行う予定の半分壊れた神殿の正面扉を見上げた。友人の水無月 望がその際抜け殻となった肉体の保護を行うことになっている。ソルティとはヴァルキュリアであり飛行能力を持つ天城 夜々も同行する。
「恐ろしい敵の強さ……今の僕たちにはそれに対抗する術があまりに少なすぎる。
 今回ここの探索でやつらに対抗出来る力を得れたらいいなぁ」
ソルティが言った。
「神々の使っていた神殿です、きっと今後の戦いに役立つ物が見つかるに違いありませんっ!
 初級迷宮勘もありますし、私もアース神族の神殿を調べますっ!」
アルビノのソルティとは対照的な黒髪の少女、夜々が力をこめて返答した。
「確かに対抗出来る力が見つかれば、まともに渡り合えるに違いない。
 とはいえ、その力がどのような物なのかも、見つかるのかも皆目不明だろ……」
望が皮肉っぽく言った。彼は好奇心が強い割りにのんびり屋のソルティ1人では危険すぎると思い、今回の探索に同行すると決めていた。ソルティは脱魂術を使った際の己の体について、保護策など考えていなかったのである。神殿自体に何がいるかわからない上、4層には凶暴なリンドヴルムさえいるのである。プランを聞いた望は即座にソルティに突っ込みを入れた。
「ソルティ、お前……自分の体の保護は? 脱いだ服じゃないんだから、危険について少しは考えろよな……」
「ああ、そういうことは考えてなかったなぁ」
そのときのやり取りを思い返して、望は嘆息した。
「望ちゃん、眉間に皺寄せて、どうかしたか?」
のほほんと聞き返すソルティに、望はうなるように返事をした。
「なんでもねぇよ。行くんだろ? 保護については引き受けた、大船に乗ったつもりで行って来い」
ソルティが意識を集中し、己が魂を肉体から解き放った。同時に夜々が白鳥の衣の翼を羽ばたかせ、舞い上がる。望はソルティの抜け殻を抱えると、少し引っ込んだ位置のユグドラシルの硬い葉陰にそっと横たえた。ここなら正面からの敵を警戒すれば良い。聞き耳と残心を使い、敵襲に備える。襲ってくる可能性があるとしたらリンドヴルムだろう。望は古強者の剣をいつでも抜き放つことができるよう、構えた。抜刀からのヴァルハラストライクによるカマイタチなら、リンドヴルムの翼膜を引き裂くことくらいはできるだろう。こういった番は精神的にも肉体的にも持久戦である。望は待った。
 半ば壊れた正面扉を抜け、ソルティと夜々はそのまま神殿内へと入った。内部は薄暗く、上下反転した屋内は、元の石天井の上に飾ってあったらしい彫像や装飾品などの瓦礫と、数十年分の埃に覆われていた。
「わわわっ……! 転空の影響で中がひどいことになってますねっ」
夜々が空中をすべるように移動しながら言った。
「ひどいものだねぇ。みんな落っこちて壊れてしまっている……」
この地に住まう人々がしげしげと訪れる場だったのか、正面入り口入ってすぐのところは椅子の残骸が大量にたまっている。当時飾ってあったらしき神像なども、瓦礫と化してしまっていた。
「何かあるとしたら、もっと奥でしょうね」
ソルティが言うと、壁にしるしをつけて迷わぬよう対策しつつ進む夜々も頷いた。
「たぶん、何かあるとすれば皆と合流する、最奥部でしょうね」
落下物を調べながら、2人は迅速に奥へと進んでゆく。

 時雨 樹夜は単独で調べてみたいことがある、と他のメンバーに言い、危機回避と初級迷宮勘を駆使して神殿内を彷徨っていた。彼の目的は表向き神々に由来する品の探索だったが、真の意図は特にその一柱、オーディンに関係するものの探索だった。樹夜の望みは種族関係なく平和に仲良く共生する世界の実現にあった。神々を敬う神父として、一人の人間として、たとえその道が茨の道であろうとも、進んでゆくつもりでいた。隠し部屋などがないかを、外部から見た建物の構造と現在探索するエリアの壁の厚さなども考慮に入れて、丹念にチェックし、天井―当時の床だ―や、崩れ落ちている装飾品などを手早く調べてゆく。
「オーディン様、フリッグ様……。どうか無事で……」
呟いて連れてきた幸運を招くといわれる金のこねこの頭をそっと撫でる。今までの成果としてはオーディンの像はいくつか、他の神々の神像とともに大きく破損した状態で、また驚いたことに神々と人々、ドゥエルグや巨人とまで関わるレリーフなどは幾つか見つかりはしたものの、特別な力を持つ気配を有するものや、隠し部屋はなさそうだ。
「……やはり最奥部……みなの合流する地点に鍵があるのだろうか?」
樹夜は呟いて先へと進む。

 左ウイング側はジェノ・サリス東雲 奏白森 涼姫らが当たることとなっていた。飛行能力を持たない涼姫ははじめ、ハチェットにロープを結び付けて投げ上げ、うまく神殿内部に引っかかればそこから侵入をと考えていたが、奏がスカイボートで行くというので、同乗させてもらうことにした。ジェノはリンドヴルムのアーフィノルドに騎乗し、パートナーのフィーリアス・ロードアルゼリアラクスの唄姫は各々のもつ飛行機能を使って舞い上がった。
「やはり照明を持ってきてよかったです」
奏が白のケミカルライトを手にすると、ジェノが言った。
「先に俺の浮遊電飾を使おう。光源として派手だし、何か害意あるものがいるとしたらおそらくは奥のほうだろう。
 その場合、ケミカルライトのほうが目立たないし安全だと思うんだ」
「ああ、それはいい案ですね。そうしましょう。スカイボートの難点は主に私が引き受けますから、涼姫さん、調査をお願いします」
奏は言ってボートの櫂を握った。風のない神殿内の移動は、櫂を漕ぐことになる。同じ目的のメンバーがいるならサポートにまわり、重要そうなものがあればみなで調べればいいだろうと奏は思ったのだ。
「これでとりあえずはぼんやりとでも周囲のものを見ることができる。調査開始、だな」
ジェノが言った。
「戦闘に向かった人たちよりも、私達の方がなにか見つける可能性は高いわ。しっかり探索しないとね」
フィーリアスが言って、落下物の散らばる床を涼姫に任せることにし、自分は飛翔能力を生かして主にかつて床だった場所と壁面の調査を請け負う。ラクスの唄姫はフィーリアスの指示で彼女から借り受けたフィルムカメラを持って飛び回り、フィーリアス、ジェノ、涼姫が見つけたものを片っ端から撮影してゆく。
「とにかくデータだけでも取っておけば、今はわからなくても何かの役に立つかもしれないしね」
フィーリアスの言葉に、涼姫も頷いた。
「今後の戦いを見据えるならば、神々の遺産は必要になるはずだ。今回は、探索に専念させてもらおう。
 略奪術……これはもともとはヴァイキングの技術だが、宝物を探す技術としても利用できるようだしな。俺もフィーリアスも持っているスキルだ。協力して探そう」
「私も略奪術と、超直感が使えます。この際です、使えそうなスキルはすべて駆使して探索すべきでしょうね。
 うまく、何か見つかればいいのですが……」
ジェノの言葉に涼姫が床に散らばる遺物を調べながら言った。奏は周囲を注意深く見渡しながら、なるべく瓦礫の多い場所を探してスカイボートを漕ぎ進める。多数ある瓦礫だが、いずれも当時のお供え物らしい装飾品や、転空の際に落下し破損した神像や家具、調度品の壊れたもののようだ。
「一般的に人々が多数訪れて、お参りをするような場所だったんでしょうか……」
奏が意見を述べた。
「今までみた遺留品を見る限り、そんな感じね」
涼姫が幾つか完全な形の飾り物――特別な力はないがおそらく当時のお守りの類であろう――をボートに保管しながら言った。
「確かに、迷宮になっているわけでもないし、階層に分かれてる様子もないしな」
ジェノが壁などに空洞がないか調べながら言う。
「だとしたら、一番奥に何か重要なものが安置されている可能性が高いですよね」
とは、奏だ。
「そうね、みんなと合流まであと少し、それまではとにかくしらみつぶしに当たりましょ」
フィーリアスがふわりと舞い上がり、天井に逆さになった棚を覗きに行った。

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