神殿を探索せよ1
3層から4層への入り口から遠い一角のひとつに、アース神族の神殿はあった。転空以前の建造物であり、天井に張り付く白い石で作られた神殿は、天地が逆転しているため見ているとめまいがしてくるようだった。左右に翼を広げた白鳥のようなT字型の平屋作りの建造物で、非常に装飾的な外観を持ち、今はだいぶ壊れたり欠けたりしてはいるものの、周柱式の柱にも、回廊の内側の外壁にも細かな彫刻を施されている。正面入り口と思しき場所は、扉の片方が崩れて半ばなくなり、残った部分が天井に引っかかって現在の床に落下しないで済んでいるような状態だ。ぐるりと周回すると、左右に展開した翼になっている部分の壁にもそこここが崩れて穴が開いていた。神殿の探索を行うメンバーたちは、効率よく短時間でここを捜索すべく、正面、右ウイング、左ウイングからアプローチの3グループに分かれて進入することにした。
シフォン・オルソスが担当する右ウイング部分の片方を見上げて叫ぶように言った。
「わたくしには分かるであります!
ここにはスクープという輝かしい財宝が、わたくしに発見されるのを今か今かと待ちわびているであります!
『超直観』『トレジャーセンス』にてスクープ……もといお宝の匂いを第六感にてビビッと嗅ぎ付けてご覧に入れるでありますよ!
トラップマスターで、トラップ対策も万全でありますし!」
葛城 吹雪がそんなシフォンを横目で見て言う。
「……おぬし……なかなかやり手の様でありますな……」
「なにか似通ったニオイを感じるでありますが……」
シフォンも吹雪を観察しながら言った
「ヘンなとこで競争意識持たなくていいから! とにかくきちんと調べないと。何か今後につながる手がかりとか、あるかもしれないんだから」
吹雪のパートナー、
コルセア・ホーネットが宝物ゲット――もちろん個人的にである――にと勇む吹雪をたしなめるが、吹雪は聞いちゃいない。
「分け前が減ってしまうでありますがここは我慢であります……まあ最悪後で持ち逃げすれば良いでありますし」
コルセアは異常に目をぎらつかせブツブツと呟く吹雪を見てそっと嘆息した。
(ああ……また今回も吹雪の私利私欲に振り回される予感……)
常識人でクールな彼女は吹雪と行動を共にするたび、毎回トラブルに見舞われてきている。とはいえ、暴走しがちな吹雪には自分が抑止役としてついていなくてはという使命感が、毎回コルセアを突き動かすのである。そこに
多羅葉 あやめが破損箇所の偵察から戻ってきた。
「えーと、あぁす神族の神殿、だっけ。幸いあの割れ目から楽に入れそうよ。
あそこには今の姿……ヴぁるきりあ、だっけ? それの神様が祀られているっていうし、どういう場所かちょっと興味があるわね。
私たち天狗の奉じる山神様とはどう違うのかしらね?
いつものように天狗の姿じゃないけれど、この姿だと『白鳥の衣』っていうので空を飛べるらしいから、私が中心になって神殿内部の調査を行うわね」
ヴェルデ・モンタグナがあやめを見て言った。
「竜退治のほうは人手が足りていそうですし、その間に、探索はこちらできっちりとしませんとね。
そもそもここに皆さんが来たこと自体、先に進むのが目的で、戦うことそのものが目的ってわけでもありませんからね。
あやめさん、わたしも連れて行ってもらえそうですか?」
「大丈夫、天井も石造りだから、歩けそうよ。……壊れたものがいっぱい落ちてたり、穴の開いたところもあるから注意は必要だけど」
「それでしたら、『初級迷宮勘』『クールアシスト』があるので、パートナーさん達に対する指示はわたしがいたしましょう。
可能な限りは、あやめさんに任せきりにせず、わたしも神殿の中を拝んでみたいですしね」
ヴェルデが言った。
「欲の力に不可能は無いのでありますッ!
コルセア、自分を持ち上げて歩けるところまで連れていくでありますよ」
「……はいはい」
コルセアが翼を広げて舞い上がり、吹雪を吊り下げて開口部へと向かう。
「仲間は私が運ぶとして、探索するときは、私は元床の部分を主に担当することになるわね」
あやめがヴェルデを持ち上げて飛びながら言う。一足先に開口部につき、周囲を警戒していた
桂 ころがヴェルデを助けあげ、あやめはシフォンを連れに舞い降りてゆく。
「いちおーベルセルクになったおかげでついたお宝への嗅覚っていうか、それは働かしておくね。まー、ボクにできることといったら、戦うくらいだし……。
それくらいがボクにできる、せめてものお手伝いかなぁ。あと危ないことがあるかもしれないし、そういうときはキッチリヴェルデを護衛するよ」
「ありがとう、ころ、頼りにしています」
「まー、何もいなければそれがいちばんだけどねー」
ヴェルデに言われたころが照れたように笑った。全員がそろったところで、建物の中を調べてゆく。転空のときの衝撃も大きかったのだろう、かつて壮麗に飾られていたであろう神殿内は、過去置いてあった像や装飾品の瓦礫でいっぱいだった。ヴェルデはそういった彫刻の特徴などを仔細に調べている。あやめは一行の先頭を飛びながら天井に残る台座や作り付けの棚の中などを調べている。ころは瓦礫の影などに敵が潜んでいないかなど、自分を武術の心得で強化して探索にあたる。シフォンと吹雪は双方似た気配を感じ、相手には負けじと落ちた瓦礫の中にめぼしいものがないかなど、必死の形相であたっていた。
「ん? この燭台は……」
吹雪が美しい仕上げの燭台を拾い上げる。ヴェルデとシフォンがそれを覗き込んだ。
「美しい細工物ですね。特別な力はなさそうですが……」
「スクー……すごい力のお宝ではなさそうでありますね」
あやめが上に祭壇があるので、そこの備品ではないかと言う。ころは周辺を一足先に見て回ったが、ここにはリンドヴルムのような危険な生き物はいなそうだと見て、逆さ世界を楽しむ方針に変更したらしい。のんびりと散歩するような感じでそこここを歩き回っている。