クリエイティブRPG

ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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探査


 蒼峰 彗が4層の広い洞を見渡しながら言った。
「転空世界ユグドラシル……少しの間冒険してきたけど、まだまだ謎は多いね。
 ここのさらに下にあるという神々の世界アースガルド。ここに住む人々の悲願とされている地上への帰還……どちらも気になる。
 是非とも行ってみたいところだね。僕もその先を目指す旅に同行したいものだ」
「それもも気になりますけど、私は……3階にあれだけの悪霊がいたなら、この下にも更に亡くなられた方の悪霊がいるかもしれない事の方が気になるんですよね。
 巨大なリンドブルムがいる場所以外に、5階に行けそうな小さな穴とか……ないのかな? 早く、助けてあげたいんですよね……」
伊達 柚子が言った。彼らの護衛を引き受け、同行している神楽 春夜がダークマスクをつけ、油断のない目つきで警戒に当たる。
「何があるかわからないから、十分気をつけて進まないとだな。
 できる限り狂暴化したリンドヴルムには近づかない方向で行きたいが……遭遇する可能性は高い。
 大型のやつは他の連中が対処に行ってるから心配はなさそうだが、他にも住み着いてるって話だからな」
「ティンガネスルートの最前線。広い上に狂暴化したリンドヴルムが複数居るみたいだな。
 おまけに下に続かせる予定の位置には大ボスと言わんばかりに巨大リンドヴルムが鎮座してる、か。
 それにしても彼らがおかしくなっているのは、ギンヌンガガプの影響かなんかじゃないかって事なんだろう?
 片っ端から皆殺しってのもアレだし、僕は無力化を狙って行きたいところだ。
 死屍累々は後処理とか大変だし、リンドヴルムの恨みを買いかねないだろうからね……」
彗が言った。
「臨機応変ってとこだな」
言葉短かに春夜が応じた。彗がシーフの生還術をフルに生かして、最大限の警戒を発動する春夜と並んで進む。そのあとを柚子が進み、ときおり隙間が開いていそうな場所でセリアンの第六感を研ぎ澄ませた超直感で悪霊の気配がないか探る。また、線香花火を点し、煙の流れから下層に続きそうな場所を探ってゆく。時折ちいさな枝の裂け目などはあったものの、とてもそこを掘り進めることはできないような場所だった。柚子は宇宙樹ユグドラシルの太い幹に額を触れ、念じてみた。
(……お願いします、どうか道を教えていただけませんか? 更に下にいるかもしれない、亡くなられた方の魂を助けてあげたいんです……)
だが樹は何も答えてはくれなかった。柚子は再び、地道な調査に戻る。しばらく進んだところで、枝葉が硬く絡み合い、それ以上は進めなそうな場所に出た。引き返そうとしたそのとき、今通ってきた通路から、一体のリンドヴルムが姿を現した。漆黒の体、赤熱したように紅い、瞳のない目。それが憎悪と敵意に燃えて3人をねめつける。甲高い咆哮とともに、飛竜が翼を広げて襲ってきた。長い首をこちらにさし伸ばし、黒い炎の吐息を吹きかけてくる。
「危ないッ!」
彗が即座に柚子を抱えて横とびに跳んだ。春夜は即座にATDアシストユニットを起動し、スポーンの触手をブレードに変え、伸ばされたリンドヴルムの首目掛けて叩きつける。黒いうろこがむしれて飛び散り、傷口から黒い瘴気が噴出す。怒りの声をあげて黒い竜の目が春夜を捉えた。
「なんだこいつ……普通の竜の体じゃないのか……」
春夜が思わず声を上げた。彗が柚子を葉叢の影にそっと押しやり、ワイバーンダガーに氷結符を貼り付けて構えた。
「どうやら、体が変性してしまっているようだね」
竜が春夜目掛けて牙を鳴らして突っ込んでくる。彗がその前足の変化した翼目がけてワイバーンダガーを投げた。膜に突き立ったダガーから氷が張りつめ、リンドブルムはバランスを崩して前のめりによろけた。
「全力で殺るぞ! 生かしておくには危険すぎる!」
「だね、やむをえない」
彗が身軽さを生かして囮となってリンドブルムにフェイントをかける。黒い竜は頭部を巡らし、彗のほうに頭を向けた。春夜の目前に先ほど傷つけた頚部が晒される。ブレード化した触手を全身の力をこめて叩きつけると同時に、強者の塊剣からヴァルハラスラストを放つ。ガツンという鈍い感触とともに、竜の首に半分ほどまで刃が食い込む。漆黒のリンドブルムは全身を痙攣させ、その長い尾がのたうち死の舞踏を踊った。
(大丈夫そうだな……)
美剣 玲は物陰から様子を伺っていたが、柚子らの無事を確認し、そのまま通路の捜索を続けた。玲は隠し通路や利用できそうなアイテムがないか探すつもりでこの階層にやってきていた。リンドヴルムが多数いるということは、まだ全域を満足に調査しきってはいないだろうと考えたからだ。あの竜の様子を見るに、襲い掛かられれば殺すしかなさそうだと玲は考えた。彼女は普段から口数は少ないが、特にこういった任務にあるときは、無駄を省くためさらに口数が減る傾向にある。音を立てないよう、静かに玲は進んでゆく。しばらく行くと、少し広くなった場所に出た。床は一面の瓦礫で覆われている。天井に建物の基礎の痕跡があるところを見ると、ここには転空以前の建物があったのだろう。玲はリンドブルムに最大限警戒しながら、瓦礫の山を調べていく。かつて建物に飾られていたらしい壁画が数点、ばらばらになっているが見つかった。神々が鎮座し、その上に太陽が降り注いでいるのを見るに、描かれているのは樹冠であろう。だが驚いたことに、その神々の前に集まり、神と会話していると思しい者たちの中には、ドウェルグや巨人も描かれていた。また、宇宙樹の全体像の断面も描かれた壁画もあった。そこにはアースガルド、神々のいる場へと続く道――今はギンヌンガガプに埋もれかけているここが、描かれていた。

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