クリエイティブRPG

ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

リアクション公開中!

 0

闇に瞬く光 前編
リアクション
First Prev  6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16  Next Last

リンドヴルムを探すものたち1


 千里らの騒ぎはちょっとしたアクシデントと処理され、アルベルティーナらと特異者たちは、おのおのの目的に従い、4層に散っていった。異空 カンナはこの層に住み着くという黒いリンドヴルムに興味を持っていた。
「ふむふむ、ここが黒いリンドヴルムの住み着く場所……なんだか面白いものありそうだね!!
 エインヘリアルすら手なずけられないという黒いリンドヴルム……。
 危なそうではあるけど、多数住み着いてるってことはリンドヴルムの巣? みたいなものもあるのかな?」
おそらく巨大な黒いリンドヴルムがいるほうは、成体が守護している場であろう。もし巣を構えるならば普通の生き物はあまり人も来ないような、静かな場所に営巣するだろうとカンナは考えた。
「……とすると、みんなが行かないほうに行ってみるのが得策よね」
アルベルティーナらが向かったのとは反対方向に進むと、複雑に枝葉の絡まったあたりに、通路のようなものができている。そっと入り込んでみると、巨大なアリの巣のように複雑な通り道ができている。枝道の一本から、一体の成体のリンドヴルムが這い出してきた。カンナはそっと大きな葉陰に隠れ、それをやり過ごすと、その奥へと進んだ。少し広くなった場所に、枝や葉を敷き詰めた場所があった。その中心部に小さな―といっても小柄な人間ほどはあるが―リンドブルムが蹲っていた。
「子供のリンドヴルム……か?」
不意に脇で声がした。雨宮 詩乃だ。やたら筋骨たくましい黒衣の中年ダンディなノルン、リチャード・クリケットもそのそばに控えている。
「あら可愛いお嬢さんねッ!」
渋い発声のおネエ言葉でカンナに流し目を送るリチャード。それをスルーして詩乃が眉間に皺を寄せる。
「なんか様子がおかしいな……苦しそうだ」
黒いリンドヴルムの子はどうやら負傷している様子で、呼吸が荒く、翼をだらりと横腹のほうに垂れ下げている。ゆっくりと両手を広げ、敵意がないことを表わしながら近寄る詩乃。思わずカンナが声を上げる。
「危ないわよ!」
「俺が安心させてあげなきゃ……大丈夫だよ……怪我してるのか? 安心しろ何もしないよ。なぁ……お前一緒に俺と来ないか?」
かまわず詩乃はゆっくりと黒いリンドヴルムに歩み寄る。だがその子竜から発せられる気は、純粋な悪意と敵意のみだ。瞳のない目は紅い赤熱した憎悪に燃えている。これほどの深手を負っているというのに、襲い掛かる気持ちしかこの子竜は持っていない。リチャードはすぐにそれを察し、慎重に詩乃に言う。
「これだけ弱ってれば普通のリンドヴルムはエインヘリアルに懐くはずだよ……普通のはね……。
 ……その子はもう無理だ。憎悪以外の感情を持ってないでしょ? あの目を見てごらんよ」
だが詩乃は危険をかえりみずリンドヴルムを抱きしめようとする。恐ろしい速さでリンドヴルムの首が伸ばされ、鋭い牙で詩乃の頚部に食いつこうとする。
(もはやこれまで。詩乃くんを止めよう! このままだと死んじまう。……悪いね青年よ)
リチャードは電光石火の早業で霜のルーンを発動させ、リンドヴルムを攻撃する。冷気に弾かれ、吹き飛ぶ子竜。重ねて攻撃魔法を放ちながら、リチャードは鋭刃のルーンで詩乃の攻撃力アップを図る。
「……!? ……おっさん! なにやってんだ!?」
「おバカ!……俺が攻撃してなかったらお前今死んだぞ!」
「そんなの……!」
子竜は牙を鳴らして息を呑んで成り行きを見守っていたカンナに食いつこうとする。もうやるしかない。詩乃は大剣を抜き放った。この一撃で終わらせよう。リチャードが霜のルーンに続いて炎の召還でスタンを狙う。一撃目はかわされたものの、続いて放たれたヴァルハラストライクが、黒い子竜の胸板を貫いた。黒いリンドヴルムの傷口から黒い瘴気のようなものが生命とともに流れ出し、黒いぐったりした塊となって剣からずるずると抜け落ちて崩れ落ちる。
「こんな結果になるなんて……俺はいったい何を……!」
嗚咽のような声を漏らし、動かなくなった子竜を抱きしめる詩乃。
「……次はきっと友達になってみせる……! 友達に……絶対……!」
「……その意気よ」
リチャードはそっと詩乃の肩に手を乗せた。

First Prev  6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16  Next Last