クリエイティブRPG

ユグドラシル

闇に瞬く光 前編

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闇に瞬く光 前編
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出立


 ユグドラシル内の巨大な洞、第4層はガランとしてひどく薄暗い場所だった。時折遠方から竜の咆哮が虚ろに響く。住み着いているというリンドヴルムと進んできたものとの戦いのあとらしく荒れた場所で、そこここに頑丈なユグドラシルの枝や葉、過去の建造物の瓦礫などが積み重なったりしている。
「この奥に、アースガルドへの道があるのですね……」
アルベルティーナはこの階層の最奥部を目指すべく、奥の薄闇を見透かすようにして進むべき方向を確かめる。第4層を探索すべく、彼女より一足先にこの階層に到着していた影護 刃は、一緒だったはずのセレス・ラスフォルト月宮 千里の姿がないのに気づき、不吉な予感に囚われていた。
「千里とセレスのやつ……ついさっきまでいたのにどこへ行った……?
 ……あいつら、目を離すと何しでかすか分からないからな……早く見つけないと……ものすごく嫌な予感がする。
 まだそう遠くへは行っていないはず……」
件の千里は必死の形相で周辺を探し回る刃を尻目に、倒伏した枝の影でコソコソとアルベルティーナの方を見ながらセレスを相手になにやら打ち合わせの最中であった。
「アルベルティーナ……あの大きい胸と、無駄な部分が露出した鎧……怪しいわ、絶対怪しいッ!
 なにか裏でよからぬことを企んでいるに違いないわっ!
千里は三千界の異変や争いを、巨乳の女性達による権力争いだと激しい思い込みを持っていた。彼女にとってヴォーパルはテロリストに他ならない。元からある中に病的傾向が存分に生かされ(?)、巨乳に利用されている人々を解放するべく『まな板同盟』を結成し、色んな意味で絶望的な戦いに身を投じているのである。
「んー。千里には悪いけど、ボクは胸の大きさとかあんまり気にしないんだよね。
 ……でも、あの鎧はちょっとエッチかなぁ」
批判的なまなざしてアルベルティーナの服装を見やってセレスが呟く。
「さぁ、セレス! 今こそ私達『まな板同盟』の力を、邪悪な巨乳に教えてあげる時よっ!
 ……B級とはいえ、純粋な戦闘員のセレスならやってくれるはずッ!
 そして……アルベルティーナ討伐を巨乳に惑わされた被害者達が邪魔をしてくるかも知れない……哀れな犠牲者達は私が足止めするわッ!」
「いろいろ面倒だし、お兄ちゃんが来る前に倒しちゃおっか。それじゃ、いっくよーっ!」
二人は物陰から飛び出し、アルベルティーナの前に立ちふさがった。千里が目を吊り上げてわめく。
「待ちなさいっ! その胸で男たちは騙せるかもしれないけど、私はそう簡単には騙されないわよ。
 たった一人でアースガルドを目指すなんて疾しいことがある証拠! 
 いったい何を目論んでいるのか……力ずくで聞き出してあげるっ!」
言うなりヤマソガツを召還する。セレスは空中に舞い上がり、アルベルティーナの槍のリーチに対抗しようと召現の長剣をつま先に体現させ、華麗な身の捌きでアルベルティーナに向かって蹴りを放つ。
「な、なんですいきなり……! ……む、胸って……??」
アルベルティーナは突然の言いがかりに目をぱちくりさせながらも、セレスの剣を槍でそらし、素早く横に飛んで攻撃を避ける。
「むむっ、エッチな鎧着てるくせになかなかやるなっ」
「エッチな鎧ってなんですかっ!!」
セレスの言葉にアルベルティーナが顔を赤らめ、体を抱える。
「一筋縄では行かないみたいね。敵ながらさすが……。ふっ、こうなったら本気を出すしかないようだね」
セレスはヴァルキュリアの飛行能力、広角視野や戦場の舞を組み合わせた、三次元的な戦闘を得意とする。ただならぬ気配にアルベルティーナの護衛を引き受けた特異者たちも戦闘の構えを取ったときだった。
「何やってんだお前らはーーーーーーーーッ!!!!?」
雷のような大音声とともに、刃が巨大ハリセンでセレスと千里を連続してツッコミ……ようするに力いっぱい引っぱたいた。
「あたっ!! この巨乳が人々を惑わして……」
「アホかっ!!!」
もう一発、ハリセンが千里の頭で景気のいい音を立てた。
「いや、ほんとこいつらがご迷惑をおかけしまして……申し訳ないッ!!」
刃は深く頭を下げると、イノセントを召還し、片手でセレスを吊り下げるように引っつかみ、千里の運命の外套のすそをしっかりと握り締めた。そしておもむろに朝日のようなさわやかな笑顔を浮かべる。
「それじゃ、お邪魔しましたっ!」
瓦礫の中を駆け抜けるイノセントの後ろに千里を引きずって、アルベルティーナと他の特異者たちとのトラブルを避けるべく逃げ去ったのだった。
「……なん……だったのでしょう……ね?」
アルベルティーナの当然の疑問に答えられるものは誰一人としていなかった。

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