■プロローグ■
――“東方帝国”、とある田舎の村
田舎にある長閑な村。その村長邸では宴が催されていた。
「いやぁ、来訪者様には感謝してもしきれませぬ。本当にありがとうございました」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ、奪われた品々の全てを取り返せず、申し訳ない限りです……」
感謝の言葉と共にワインを注ぐ村長に対し、爽やかな印象を受ける青年は己の至らなさを恥じ入るばかり。しかし、そんな謙虚な姿勢が好ましく思われたのか、村長はさらに上機嫌となって振る舞われる料理を存分に食べるようにと勧めていく。
「そうじゃ! どうせなら我が村に住んではいかがですかな? 村人一同歓迎しますぞ! ちょうど、我が孫の結婚相手を探しておりところでしてな。来訪者様が婿に来てくだされば……」
相当に酔いが回っているのか、饒舌に喋る村長だったが、青年は苦笑を浮かべながらも落ち着いて欲しいと話を遮った。
「嬉しい申し出ですが、他の土地にも困っている方々がいらっしゃるでしょう。その方々を助けることが私の使命ですから、一か所に留まる訳にはいかないのです」
「なんと高潔な心構えじゃ! 惜しいですが、そういう事であれば仕方ありませぬな。であれば、せめてお名前だけでも伺えませぬか? 来訪者様のお名前をこの村で語り継がせて頂きたく」
「そんな。私など名乗るほどのものでもありません。ただの通りすがりとでも思ってください」
ここまでされて名乗らない青年は、部外者から見れば怪しいことこの上ないが、当事者である村人たちは盗賊から救われたという事実によって、青年を正義感が強く高潔な人物であると強く印象づけられたからか、その違和感を覚えることなく褒め讃え、すっかり夜が更けるまで感謝の宴で盛り上がるのだった。
■□■
翌朝、近くにあるドコカノ村が盗賊に襲われたらしいという情報を得た青年は、村人たちに爽やかな笑顔で別れを告げると、村を出てドコカノ村へと向かっていく。
「……待たせたなカシオラ。それで、戦利品は?」
「おっと、シャウユさん。へへへ……。連中、結構貯め込んでましたぜ」
村から見えなくなるところまで来た青年は、周囲を警戒するように見渡して誰もいないことを確認すると、道を逸れて森の中へと入っていった。
その中で待ち構えていた人物は、明らかに堅気ではないという気配を纏う
カシオラと呼ばれた男。
問いかけられたカシオラは、青年――
シャウユ・ノモセニに手元の袋や近くに置いていた箱を見せながら答える。
その袋の中に入っていた金貨や箱に仕舞われた武具は、先ほどシャウユが出てきた村を襲った盗賊が略奪した品々であった。
盗賊はシャウユの手によって退治され、奪われた品々は殆どが村へと返還されたのだが、一部の金や貴重品は既に盗賊が使い込んでいた。ということになっていたのだが、ここにある品々はその使い込まれたはずの品々である。
つまり、シャウユは盗賊と裏で繋がっており、盛大な自作自演を働いていたのだ。
「それで、次はドコカノ村だったか?」
「へい。他の盗賊団が既に仕掛けてんですが、上手く取り込むことができりゃ戦力アップ間違いなしですぜ。交渉に応じなきゃそいつらごと潰せばいい。ってことで、斥候を先に向かわしとりやす」
「分かった。じゃあ、その報告を待ってから動き出すとするか」
配下からの報告を聞いたシャウユは、次の標的と定めたドコカノ村がある方向を見て笑みを深めるが、その笑みは村人たちに向けていた爽やかなものとは、とてもではないが似ても似つかないほど邪悪に歪んでいたのであった。
■目次■
プロローグ・目次
【1】村人たちの護衛
火事場盗賊1
火事場盗賊2
火事場盗賊3
火事場盗賊4
【2】噂の来訪者を捕らえる
噂の来訪者の誘い
本性を見せる来訪者
噂の真実
激闘の決着
エピローグ