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Correct the Cosmos Archives 序章

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Correct the Cosmos Archives 序章
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不屈のアドウェルス




 まほろば分隊が抑える魔族を突破した特異者の中には、勇人と鍔姫の姿もあった。
 そして鍔姫の側には、将来の伴侶となる星川 潤也が侍る。
(再現された存在と言っても、この子は俺の大切な人なんだ)
 出会ったばかりの愛しい人の姿を見て、潤也は感慨深い想いが湧きあがる。
「任せてくれ、鍔姫。君とその杖は絶対に守って見せるよ」
 不安げに杖を抱き、アドウェルスを見据える鍔姫に、潤也は優しい笑顔でそう言う。
「え、えぇ……でも、見てるだけってわけには行かないわ!」
「ふん、まぁお膳立てはしてあげるわ。その時まで集中してなさい」
 やる気を見せる鍔姫に対してそう言うのはアリーチェ・ビブリオテカリオだ。いくら鍔姫にやる気があっても、無策でアドウェルスに向かわせるわけには行かない。傷付いていたとしても、現時点の鍔姫ではアドウェルスに勝ち目はない。
「そろそろ始めるわよ。『あちらさん』も準備完了みたいだし」
 アリーチェは仲間たちの準備が完了したことを確認し、戦闘開始を宣言する。
「待ちくたびれたぜええ……!!」
 ゴーサインを受けて真っ先に飛び出したのは、碧海 サリバンだった。サリバンは『ウルトラヒュージ“豪鬼包丁”』を構えると真っ直ぐにアドウェルスに肉薄する。その際に向けられた魔法は防具を信じ、ほぼ無視だ。
 狂戦士然としたサリバンの突撃に気圧されることなく、アドウェルスは冷静に防護魔術を展開。サリバンを弾き返そうとする。
 だが、サリバンは何らかの防壁を展開されることを初めから頭に入れていた。そのため、アドウェルスを射程に捉えるや否や、まずは『ディソルブマギア』を実行。防壁を打ち破った上で豪鬼包丁を振り下ろした。
「チィッ……!」
 その舌打ちは、アドウェルスとサリバン両者の口から放たれていた。アドウェルスは寸前のところで反応が間に合い、サリバンの斬撃を躱すとすぐに距離を取ろうと狼の姿に変身する。
 アドウェルスの厄介なところは、戦況のリセットを簡単に行えることだ。強力な魔力を誇りながら、危険域から躊躇なく逃げ出せるのはやりづらい。狼形態の素早さといい、『黒幻』という黒い霧を纏う隠蔽魔法といい、戦場での生存能力は極めて高い。
 そして何よりも、戦場の中で姿を隠せるというのは防衛対象を抱える戦況では何よりも危険だ。
「……大丈夫、動きは捉えています」
 そのため、風華・S・エルデノヴァは戦場全体を把握できる位置に立ち、更には『フェザードローン×3“羽空査×3”』を放ち、『タクティレーションⅠ』を実行することでアドウェルスの動きを追うことに注力していた。
「攻撃に転じるようです……潤也さん!」
「あぁ!」
 アドウェルスの狙いは、その素早さを活かした鍔姫への奇襲だ。後退したと見せかけ、一気に距離を詰めることでこちらの虚を突くつもりだったのだろうが、その動きは風華が完全に把握していた。
 潤也は向かってきたアドウェルスに対し、強化した『チリングブレード』を構えて真正面から迎撃。強力な斬撃を見舞い、更にアリーチェからも追撃の魔法を放つことでアドウェルスの奇襲を防いだ。
 アドウェルスは歯噛みしながら人型形態に戻り、距離を取る。
「皆殿、今の内に!」
 アドウェルスが様子を伺っている内に、高橋 凛音は風華が指定した地点に『フェザードローン×3“トリニティドローン”』を配置。『デルタヒーリング』を実行することで範囲内の、特にダメージを受けているサリバンを回復させた。
「助かるぜ。次は捕まえるからなぁ……!」
「うむ、妾も合わせるのじゃ……!」
 サリバンが再びアドウェルスへの攻撃を開始すると同時に、凛音もドローンを動かし、アドウェルスの動きを逐一知らせる。
 アドウェルスは様々な魔法を放ち、目まぐるしく形態を変えながら戦闘を展開する。サリバンは今度こそ逃がさんとばかりに先ほどまでより一層執念深く追い回すが、なかなか捉え切れず、ダメージが蓄積される。が、凛音による回復や風華の指示によって適切な行動が取れるようになっており、徐々に旗色は良くなっていく。
 そして、何度目かの狼形態への変身に合わせ、サリバンは仕留めにかかる。
「テメエはもう、俺様の俎板の上だ……!」
 狼形態になってサリバンから大きく距離を取りつつ、鍔姫に狙いを定めたアドウェルスに対し、サリバンは『サイクロンスラスト』を実行。アドウェルスは吸い寄せられないよう踏ん張るが、それは同時に動きを完全に止めたことに他ならない。
「行けぇ、ビーシャ!!」
「了解ですよ……!」
 その瞬間、これまで戦況を伺い飛び込む瞬間を見計らっていたビーシャ・ウォルコットが即座に動く。素早くアドウェルスに近付いたビーシャは『チリングブレード』による『ソードドローイング』でアドウェルスに斬撃を見舞う。
「グゥゥッ!!」
 アドウェルスは最低限の防御姿勢を取りながらその場で踏ん張り続け、サイクロンスラストの不発を狙う。もう少しでサイクロンスラストの炸裂が始まり、大きなダメージを受けずに済むはずだった。
「もう一発だ……!」
 しかしそこへ、鍔姫の元から飛び出した潤也が追撃の『三刃』を見舞った。連続斬撃は全てアドウェルスの足を切り裂き、踏ん張る力を奪う。そして、アドウェルスはサイクロンスラストの中心部へと引き寄せられ、その炸裂によって大きく弾き飛ばされる。
「まだじゃ! どこへ飛ばされるかの予測は既にしてあるのじゃ!」
 更に、サイクロンスラストによってアドウェルスがどの程度飛ばされるかを予測していた凛音は落下地点に先回りし、『ディストスワンプ』を実行。泥沼にアドウェルスの身体を捉える。
「今よ、鍔姫!」
「わかってるわ!」
 完全に動きを止めたアドウェルスに対し、アリーチェは鍔姫と息を合わせて同時に魔法を放った。逃げることのできないアドウェルスは動けないまま何とか防御態勢を取り、必死に防護魔術を展開する。
「いい位置じゃ……!」
 だが、アリーチェの『ストリームライン』で強化した『ホーリーレイ』は、凛音の展開した『リフレクティブシールド』によって反射。その威力を増幅して、アドウェルスの防護魔術を破壊するのに十分な破壊力を以て襲い掛かった。
「ぐおおおおお……!!」
 アドウェルスは咆哮を上げる。苦し気なそれは、しかしまだ意識を保ち続けているという証左に他ならない。
「これだけやって、まだ浅いだって……?」
 このままでは泥沼から脱出されると判断したビーシャはすぐに『アクアドロップ』を実行。頭上から水塊を落とすことで仕留めにかかる、ないしは最低でも逃げ出さないように渾身の力を込める。
 しかし、水塊が落ちるよりも僅かに早く、アドウェルスは泥沼を脱出。真正面に構えていたビーシャに肉薄する。
「く……!」
 ビーシャは咄嗟に『アテニュエイトシールド』を展開し、アドウェルスとの激突を防ぐが、その圧力で弾き飛ばされる。一瞬で視界から消えたアドウェルスを目で追おうとするが、そこには既に黒い霧と化したアドウェルスの姿があった。
 これだけ追い詰めても、まだ逃げるのか。特異者たちの脳内に徒労の二文字が浮かんでしまうほど、アドウェルスはしぶとい。
「いいえ、もうアドウェルスに逃げ場はないわ。『あちらさん』も動き出したから」
 しかし、アリーチェは落ち着いてそう言う。その手には『コスモストランシーバー』が握られていた。
 その瞬間、どこからか『SC90』に乗った邑垣 舞花ノーン・スカイフラワーが現れる。
「アドウェルスの位置は捉えています。ご安心を」
 現れた舞花は戦場を走り回りながら、二機の『ウォッチドッグ』で索敵を行い、アドウェルスの位置を把握していた。そして『ルートガイダンス』を行うことで目くらましの黒い霧を払い、その中で後退しようとするアドウェルスの位置を暴き出した。
「アリーチェ様方はそのままその方向からアドウェルスに圧をかけてください。そうすれば、そのまま挟撃となります」
「わかったわ! みんな、もうひと踏ん張りよ!」
 舞花の指示を受けたアリーチェは、全体に攻撃指示を出す。アリーチェと舞花は初めからアドウェルスを挟撃するつもりで構えており、特にアドウェルスがその場から逃げ出すタイミングで包囲しようと画策していた。この動きにより、アドウェルスは逃げ場を失うこととなる。
「では、こちらからの圧は私がかけましょう」
「ご武運を……!」
 舞花たちの方面から、砂原 秋良成神月 鈴奈を表し、アドウェルスの包囲に参加する。
 鈴奈は秋良に『マッスルバイタライズ』を施すと、自身は後退して『フェザードローン×3』を放ち、アドウェルスの動きを捉えることに注力する。素早く厄介に動き回るアドウェルスの動きを把握するために、『目』はいくらあっても余分ではない。
 対して秋良は強化を施されるや否や、一気にアドウェルスとの距離を詰める。そして間髪を入れず『ウルトラヒュージ“クリムゾンハート”』による『トライフラッシュ』を見舞った。
「くっ……!」
 逃げるのを諦め、迎撃する覚悟を決めたアドウェルスは魔法を乱射することで秋良を仕留めようとするが、先ほどのサリバンと同様にある程度のダメージは無視して突っ込んでくる。斬撃こそ躱したものの、アドウェルスにはもはや余裕などない。
「いいねぇ! どっちの刃がコイツを両断するか勝負だ!」
 反対からはそのサリバンが猛然と向かって来る。
「舐めおって……!!」
 アドウェルスはここで、近接戦闘に集中する。戦士としても強力なアドウェルスは、傷付いてもなお二人掛かりに対応してみせ、防御と回避に徹しつつも隙を見極めようとしている。サリバンと秋良の二人はそんなアドウェルスの動きに気付き、お互いの隙を埋めるように連携し始める。
 そこへ更に、アドウェルスの最も近くにドローンを放っていた鈴奈によるサポートも加えるが、なかなか戦況は動かない。
(アドウェルス……この耐久力は異常ですね)
 普通ならば、もう何度もアドウェルスを仕留める段に進んでいたはずだ。カオス化というものが想像を超えて、その人物を強化してしまうことに秋良は戦慄する。圧倒的に有利な立場にありながら、冷や汗が背中を伝っていくのを感じる。
 最早これ以上時間は掛けられない。アドウェルスは徐々にサリバンと秋良の動きに完全対応しつつあり、後衛の攻撃に気を遣う余裕や回復する余裕まで見せ始めた。
「ノーンちゃん、準備OKだよ」
 そのとき、舞花とともに移動していたノーンが『ストリームライン』による魔力の強化を終えた。
「わかりました。では、位置に……」
 舞花はノーンの準備完了を受け、先に見出しておいた位置にノーンを下ろし、自身はノーンとは反対側の位置に移動する。そして、移動しながら後衛として攻撃を行なっている面々に、攻撃をより一層激しくするよう指示する。
 アリーチェやビーシャ、は魔法攻撃の頻度を上げ、アドウェルスを執拗に攻撃する。少しでもアドウェルスの集中力を殺ぎ、仕留められる確率を上げられるように。
 そして、準備は全て整った。
「行くよ……!」
 そしてノーンは、極限まで高まった魔法攻撃力を以て、『ホーリーレイ』を放った。しかしそれは一見そっけなく、アリーチェやビーシャの乱射する魔法攻撃に紛れるような形でアドウェルスに向かい、当然のように回避された。
「跳ね返りなさい……!」
 その瞬間、舞花はアドウェルスに近付きながら『リフレクティブシールド』を実行。ノーンが威力を高めたホーリーレイの威力を、更に増幅させるように反射させた。
「な……!?」
 凄まじい威力と化したホーリーレイが、アドウェルスの背後で炸裂する。
 舞花とノーンは確かな手応えを覚え、炸裂した光を見遣る。
「お、のれぇ……!」
 しかし、その光の中から声がした。アドウェルスは、この強烈な一撃をまたしても耐え切ったのだ。



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