・対空戦闘(曼殊沙華)
戦場に到着したセシリアは、スループ型飛空艦の格納庫を解放する。
ユファラスは大鐵神・野武士を歩かせ、戦場の大地を踏んだ。
『援護するわね』
『助かる。頼んだぞ』
火炎弾を放ちルーンラプターやルーンファイターたちへ攻撃を仕掛け始めたセシリアに答え、ユファラスは大鐵神・野武士を前進させた。
用意してきた遠距離武装は、弩と飛去来器の二種類。
これらはルーンラプターやルーンファイターの武装とほぼ同じ射程であり、少しの間だがセシリアが攻撃する時間が続いた。
『曲線と直線の軌道を読み分けられるかしら?』
タウルスカノンの轟音が響き、放物線を描く砲弾がルーンラプターやルーンファイターたちを襲う。
そこは戦闘機、多少の被害を出しながらも、敵機の群れは確実に間合いを詰めてくる。
その速度は、決して遅いものではない。
『……来たな』
『バリアを張るわ。防御の足しにして』
セシリアがユファラスに魔法のバリアを提供する。
『有難い。活用させて貰おう』
防御面の援護を貰ったことで、多少の無理を利かせられるようになったユファラスは、射程内に入ったルーンラプターやルーンファイターに、片っ端から攻撃を仕掛けた。
連射できない弩の射撃と射撃の合間を縫って、飛去来器を投擲することで手数を補いつつ、接近戦を狙って攻撃しながら接近を試みる。
狙う部位は籠手打ちを応用して徹底して翼だ。機動力を殺せれば、付け入る隙が生まれるかもしれない。
しかし、ルーンラプターやルーンファイターたちは、ユファラスが近付けば同じ距離を後退し、中々一定以上の距離が埋まらない。
あまり、接近戦に拘る意味はなさそうだ。
『さすがに無理なようだな……』
諦めて、再び翼を狙っての射撃に集中した。
「さあ、私たちで艦を守るわよ!」
「了解だよ!」
ミラの号令と共に格納庫のハッチが開き、次々飛び出していく味方の機体を見送った涼姫とサリバンは、自分も暴風神筒を用いて、ミラを狙おうとするルーンラプターとルーンファイターの集団を迎え撃った。
敵の各機体の損耗状況を観測し、確実に消耗している個体を狙い、仲間たちと息を合わせて集中攻撃を行う。
「これでもくらいなさい!」
圧縮された空気の砲弾が、ルーンラプターに突き刺さった。
着弾箇所は、翼や機関部など、破損すると機動性が下がると一般的に予測される箇所。
とはいえ、これだけで倒れてくれるような敵ではない。
続けてティムキンも、同じように暴風神筒を撃って追撃をかけた。
「まずは、確実に一機落とそう」
軽快に回避を行うルーンラプターだったが、巧みなふたりの連携を全て避け切ることはできず、少しずつダメージを蓄積する。
無論、ルーンラプターもその間、ミラのキャラック型飛空艦へ小型ルーンガンを発射し猛攻を加えているのだが、ミラは涼姫とティムキンに援護攻撃を行う傍ら、自らも石の散弾を副砲として発射して牽制しつつ、よく耐えていた。
『コーティング様様だわさ! こいつでお返しだわさー!』
鈴姫がつけてくれたコーティングと、自ら展開した魔法のバリアを併用して凌ぎ切ったミラは、自分を狙ってきたルーンラプターへ、本命のサンダーカノンで苛烈に応射を行う。
発射された雷弾が直撃し、ルーンラプターを一時的に不調に陥らせた。
ロンデル試作型(皇国)を操縦する
星川 潤也は、試製蜂巣砲で弾幕を展開する。
『弾薬の補充があるのは安心だな! 思いきり撃ちまくれるぜ!』
上空のルーンラプターとルーンファイターは戦闘機形態の快速性を活かし、潤也の弾幕を回避しつつ小型ルーンガンやミラージュキャノンを発射して応戦してきた。
『ちぃっ!』
潤也は頭上から降り注ぐ弾丸や砲弾を避け、激しい射撃戦に突入した。
ルーンファイターを発見した焔子は、モノクルターゲットで狙いを定めると、瞬時に五指魔弾を発射した。
迫る対空射撃を、ルーンファイターはひらりと避ける。
『まだまだ、終わりませんわよ!』
上空から降ってくるミラージュキャノンの軌道を見切り、最小限の動きで避けると、さらに射撃を続ける。
焔子の狙いは徹底して、ルーンファイターの飛行能力を削ぐことだ。
アリーチェも、自らも焔子の援護を兼ねてルーンラプターとルーンファイターたちへ射撃戦を挑んだ。
烈風符による加速で機体の機動性を高めているアリーチェだが、小さめとはいえ輸送船としての機能を持つスループ型飛空艦と、純粋な戦闘機であるルーンラプターとルーンファイターでは、分が悪い。
『多少の性能差は、パイロットの腕で補うってものよ!』
急角度の旋回を行い、背後から自分を追い回していたルーンラプターの視界外から離脱したアリーチェは、その一瞬の時間を巧みに使い、焔子へ援護攻撃を行う。
一撃の威力よりも頻度を重視して速射を放ち、焔子と戦うルーンファイターを側面から奇襲し、牽制した。
『油断はしないわ!』
深入りせずに、すぐ離脱する。
遠ざかるアリーチェのスループ型飛空艦を、凄まじい速度でルーンラプターが翔け抜け追いかけていく。
放たれた弾丸を、展開していた魔法のバリアで受け止めた。
アリーチェとの撃ち合いで、隙を見せたルーンラプターを焔子は見逃さない。
天喰刃に持ち替えた焔子は、素早く斬撃を放ち、衝撃波を飛ばした。
体勢を崩していたルーンファイターは回避が間に合わず、直撃を受ける。
機体胴部を両断されたルーンファイターは、ふたつに別たれて爆発し、地上に墜落していく。
『次に備えますわ! 油断はしませんわよ!』
空中二段跳躍を行い元々相手をしていたルーンファイターからの砲撃を避けた焔子は、短距離ダッシュや高速旋回を多用して地上を走り、地形を利用して上空からの射線を切る。
回り込みを行い射線を通そうとする敵機と、激しく間合いの奪い合いを始める。
ライオネルは、己が搭乗しているサイフォスキャノン(皇国)の中で唸り声をあげた。
『……きなくせぇな、どうにも』
用意している武装は、試製蜂巣砲の一本のみ。
二発で弾切れという尖った武器なので、継戦能力に難のある武装だが、その分高い威力や命中精度を誇る。
今回のような戦闘機形態の敵相手には、高い連射性も頼りになる。
『まずは挨拶代わりに一発、くれてやるとするか』
一呼吸にも満たない速さで発砲し、ルーンラプターに不意の一撃を命中させた。
攻撃されたルーンラプターも、小型ルーンガンで反撃してくる。
機体の腕でなるべく受けるようにして防御し、損傷を最小限に抑えられるように努力するライオネルは、二撃目を発射し弾倉を空にした。
補給を受けに行かなければならない。
* * *
涼姫とティムキンの本当の役割は、弾薬補給と応急修理だ。
三本の補給用カートリッジを惜しみなく使って潤也やライオネルの試製蜂巣砲に対して再装填を行いつつ、順番に下がってもらって小さな損傷、動力系の不具合などを応急処置して戦線に戻す。
「次!」
ミラのキャラック型飛空艦も相応の損害を被っていたが、これにはティムキンが対応する。
「ぎりぎり中破の範疇かな……。うん、何とかなりそうだ」
修理が必要な箇所を見極めると、あまり時間をかけずに、修理を終わらせた。
それもティムキンの腕が成せる技だ。
ミラのキャラック型飛空艦に同乗している
クラウディア・エールリッヒも、整備要員として忙しく働いた。
クラウディアの周囲には、カンフォートパフュームの香りが漂っている。
精神をリラックスさせる目的で焚いたものだ。
「どれだけ速く修理を回せるかが勝負になりそうね……」
ヒアリングで損傷個所を聞き出す手間も惜しいため、クラウディアは自らつぶさに修理に運ばれてきた機体を観察し、消耗状況を分析し、修理が必要な箇所を割り出す。
「こことこことここと……あとは、補充用の弾薬も準備しなきゃ」
手を伸ばして補給用カートリッジを取り出し、修理作業の片手間補給を済ませた。
補給を行う武装は、そのほぼ全てが試製蜂巣砲だ。
クラウディアが補充したのは、ライオネルの機体のものだった。
簡単な動力系の不具合から、そこそこの損傷まで、片っ端から手を入れていく。
しばらくすると、戦闘前と同じとまでは言わなくとも、戦闘続行に支障はない程度にまで、サイフォスキャノン(皇国)の状態を復帰させた。
「補充できる弾薬にも数に限りがあるからね……。この一回、大切にしなさいよ」
『分かっているさ』
「ならいいわ。行ってきなさい!」
発破をかけ、クラウディアはライオネルを送り出した。
下がって弾薬の補給を受けつつ、時間短縮に自らライフリキッドで機体の簡易修復を済ませたライオネルは、敵機と同じ間合いで真正面から撃ち合ったというのに、案外自機の損害が低いことに気付く。
『……癪に障るぜ』
優先度の問題で敵機に破壊対象として後回しされていることに気付き、舌打ちした。