・戦闘開始1
曼殊沙華の
白森 涼姫は、
ミラ・ヴァンスのキャラック型飛空艦に耐久度を上げるためのシールドエンチャントによるコーティングを施す作業を行っていた。
「よし、作業終了よ」
涼姫と並行して、
ティムキン・サリバンもミラの好みに合わせてキャラック型飛空艦に香りや音楽などの精神的疲労を軽減する仕込みをした。
「気に入ってくれればいいな」
作業する涼姫とティムキンの様子を、ミラが見に来た。
「そろそろ終わったさー?」
「タイミングがいいわね。仕上げをして終わりよ」
「こっちもすぐに済むよ」
応えて最後の作業を行う鈴姫とティムキンの働きぶりを座って眺めたミラは、ふたりの作業が完了したのを確認して立ち上がる。
「それじゃあ、出発するさ! 皆、急いで乗り込むだわさ!」
ミラの呼びかけに応えて、涼姫もキャラック型飛空艦の艦内に乗り込んだ。
「あまり、シールドエンチャントの効果を過信し過ぎないでね。特に、効果時間には注意よ」
到着するまでの時間を活かし、ミラにシールドエンチャントの注意事項を伝えた。
「分かっただわさ。シールドエンチャントが切れたらいったん下がった方が良さそうだわさ?」
「えっと……匂いとか、音楽とか工夫してみたんだけど、どうかな」
「あたしの好みにばっちり合ってるだわさ。ありがとうわさ!」
「良かった」
涼姫に対して頷きを返すミラの様子を見て、ティムキンがほっとしてはにかむ。
烈風符による加速の補助を受けて、ミラがキャラック型飛空艦を加速させる。
艦内には他のもティムキンや潤也、
ライオネル・バンダービルトなど多くの曼殊沙華の面々が乗り込んでおり、道中賑やかに過ごした。
しかしそんな空気も、戦場に到着するや否や一変した。
『まずは偵察だわさ!』
『ええ、行ってくるわ』
松永 焔子のオウマ・ムラマサ改(皇国)が、
アリーチェ・ビブリオテカリオのスループ型飛空艦から出撃し、先行偵察を行う。
とはいえ深入りはできない。
既にルーンラプターやルーンファイターたちが上空を押さえ、布陣を完了させているからだ。
『単独での遭遇戦は、勘弁願いたいですわ……』
できる範囲で、地形の把握を行う。
上空に対して遮蔽を取れる地形を探した。
ユファラス・ディア・ラナフィーネは、戦いが始まるまでの時間を利用して、舞踏を舞い味方の士気を高めた。
ダンシング・オン・ザ・ステージである。
見ていた
セシリア・レーゼルからぱちぱちぱちと拍手が上がった。
「いいわね。ユファの新たな一面を見れた気がするわ」
「楽しんでもらえたのなら幸いだ」
最後に一礼し、ユファラスは踊り終える。
舞踏が終了したのを確認して、セシリアもスループ型飛空艦の操縦席に戻っていく。
戦場に着くまで敵はいないし、操船はほとんど自動化されているため、わりとセシリアにも余裕があった。
さすがに、戦いでは手動に切り替えた方が、回避運動を行いやすいだろうが。
* * *
カッキンチームの
レニ・ファルエは、クナール型飛空艦に積まれている大鐵神・宮毘羅へ仕込みを行っていた。
内容は、操縦者の嗜好に合わせた香りの匂い袋を置いておいたり、音楽をかけておくという事前準備だ。
「これでよし、と」
準備を済ませたレニは、以後クナール型飛空艦の中で待機し、戦場への到着を待つ。
烈風符を貼って快速性を増したスループ型飛空艦を、
守塚 桜花が操縦する。
格納庫に納めてある機体は、
フォーゼル・グラスランドのサイフォスキャノン(皇国)だ。
『到着までもうすぐです。手続きを開始します』
桜花はフォーゼルの出撃させるため、格納庫の扉を開く準備をするべく、機器に手を伸ばした。
フォーゼルはサイフォスキャノン(皇国)にまずは味方を鼓舞する舞踏を舞わせた。
『これでよし。準備は万全だ』
舞い終わると、戦場に着くのを待った。
ウルズラ・バルシュミーデのクナール型飛空艦の格納庫で、サイフォスキャノン(皇国)に乗った
ミューレリア・ラングウェイは、覇道 鼎に通信を繋いだ。
『前回、皇国が攻め入ったなら鼎の機体は強敵としてマークされるかもな。敵エースが鼎を見つけたら狙ってくるかもしれない。だから孤立は避けて無理しないようにな』
『分かりましたわ。この毘沙門まで大破させられるわけには参りません。ここは歩調を合わせるとしましょう。皆様も、わたくしにお力を貸してくださいませ』
通信機越しに、鼎が複数の人間に語りかけている。
どうやら、鼎と共に行動している味方がいるようだ。
それならば、最悪の心配はしなくても大丈夫だろう。
『お、そっちに誰かいるのか。なら、任せたぜ』
誰がそこにいるのか知らないまま、ミューレリアは声をかけて通信を切った。
同時に、ウルズラから通信が入る。
『戦場が見えてきたわ。準備はできてる? できてるなら格納庫を解放するわよ』
『ああ、いいぜ。やってくれ』
ミューレリアから返事が返ってくる。
不意の出撃になったりしないことを確認してから、ウルズラはミューレリアのサイフォスキャノン(皇国)を戦場に送り出した。
『健闘を祈るわ。といっても、私も攻撃参加するんだけど』
『おう。互いに頑張ろうな』
ウルズラが見送る中、ミューレリアを乗せたサイフォスキャノン(皇国)が配置に着くべく移動していく。
暴風神筒を持つ
川上 一夫は、カッキンチームの切り札的存在だ。
己が操縦するキャラック型飛空艦の中で一夫は緊張を覚えていた。
「まさか、私がこのような重責を担うとは……」
格納庫からは、
弥久 ウォークスと
リリア・リルバーンの声が聞こえる。
ウォークスとの会話を終えたリリアのバルドイーグル(連盟)が、一夫の飛空艦から出撃していく。
『こっちだぜ』
『はいなのです』
既に到着していたミューレリアと合流すると、リリアも作戦どおり配置に着いた。
* * *
ライトニングが保有する飛空艦が、戦場に到着する。
キャラック型飛空艦の中で、
レベッカ・ベーレンドルフはじっとソナーの反応を見つめていた。
定期的に超音波が放たれ、障害物に当たって跳ね返る、その様子が画面には表示されている。
『反応はルーンラプターとルーンファイターのものばかりだ。母艦はずっと後方にいるようだな。こちらの飛空艦や、狙撃ができる機体を警戒しているのか』
レベッカが小さく唸る。
ソナーの音に気付いたルーンラプターとルーンファイターらが、動き出しつつあった。
『……しばらくは、静観が吉か。護衛を頼むぞ』
キャラック型飛空艦の格納庫を解放し、
桐ヶ谷 遥と
フィーア・シュナイデの機体を出撃させた。
格納庫を空にしたレベッカは魔法のバリアでキャラック型飛空艦の防御を固め、さらに前方に障害物として浮遊機雷を放出した。
『これでよし。出番はない方がいいだろうがな』
牽制射撃を行いながら、ソナーの反応を注視した。
随行していたクナール型飛空艦の操縦者である
馬謖 幼常も、レベッカらと一緒になって大型飛空艦を探した。
『少なくとも、見える範囲にはいないようだぜ。逃げたか隠れたかは分からんが』
『出してください。捜索を手伝うのです』
『そうだな。人手が必要か。頼むぜ』
格納庫からの
土方 伊織による通信に応え、幼常はハッチを開いた。
幼常のクナール型飛空艦から出撃した伊織は、己のアガートラム改二(皇国)を進ませ、敵の母艦であろう大型飛空艦を探した。