【対白いザフィーア2】
「銃を使えるくらいには腕が回復しちゃいました……!」
「普通ならあんな動きは出来ません。回避を徹底されてしまうと危険ですね」
白いザフィーアは大きなダメージを受けてから、こちらを牽制してくる攻撃をしてくるだけで、人が乗っているのであれば負荷がかかりすぎる動きをしながら回避をし続けていた。
その間にライフルを持っていた腕は引き金を引けるほど回復したようだ。
京・ハワードと
戒・クレイルは白いザフィーアの戦い方に驚いていた。
自動修復が出来、パイロットがいない無人機だからこそ出来る作戦であり、通常で出来る動きではない。白いザフィーアの撃破を狙うのはリュミエールの者達だけではないが決定打に駆けている。
それぞれ機動兵器を使って戦っている仲間の後方は飛空艦を操る
砂原 秋良と
セルヴァン・マティリアが援護射撃をしていた。
「こちらが有利な数なのにも関わらず、ここまで撃破が出来ないなんて」
銀輝艦は敵の動きを止めるための攻撃を狙いをつけてチャンスを窺っている。
「乙町さんからの情報から、この辺りは岩の起伏が激しい場所です。上手くそれを使えれば良いのですが……」
キャデラック型飛空艦の
砂原 秋良が先行して地形の把握をしてくれた空の情報を見ながら、どうするべきかを考えている。
左に回避をしている所に攻撃をすれば、強引にその飛行ユニットを使って方向転換をして攻撃を避けてしまう。虚をつきつつも、敵を大破させる一撃を与えなくてはいけない。
「一応こっちの攻撃は嫌がっているのか、高い位置までは飛ばなくなったな」
その時
ヤクモ・ミシバから通信が入る。
ウィンドマントで飛ぶことが出来るようになっているデモンズロアを操り、
ASに青春を捧げた少女と一緒に戦っていた。
前衛として戦っている京、戒や他の連隊の味方がいるため後方からマジックミサイルで牽制を行っていた。
デモンズロアには落ち着く香りが広まっており、ヤクモは冷静に白いザフィーアに狙いをつけていく。直撃はしなくても敵の動きを限定させる事が出来るのであればそれで良い。
「こっちはそのまま出来る事を続けましょう。ヤクモ、私達はこのまま援護を続けます。他の連隊とも連携をしつつ行きましょう」
「了解した。こちらも近づけるようなら一撃を当てるために前に出る」
秋良の通信にヤクモはそう答える。どこかで総攻撃を仕掛ける必要があるため、その時にはヤクモも前に出る算段でいた。
「更に……回復、してる」
敵の分析を行っている
志那都 彩がそう言う。
彼女はセルヴァンの飛空艦に乗っており、秋良や彼の飛空艦からの攻撃でザフィーアの動きが止まった時を狙いつつ敵機の観察を続けていた。
白いザフィーアはライフルを使えるようになり、一番近くにいるこちらの機体をトリッキーな動きで翻弄しながら攻撃をしてくる。
こちらの攻撃も当たってはいるのだが、軽微なダメージはすぐに修復されてしまうので敵が動きを止める事が出来ない。
「他の敵機からの接触は?」
セルヴァンは
癒しの巫女に尋ねると、横に首を振る。
彼女は敵よるパッシブソナーに備えてジャミングを行っており、こちらの場所を悟られないようにしていた。それに加えて敵の飛空艦は母艦のみのようであり、船からの砲撃でこちらを狙っている。
特定の誰かを狙っているというよりも、白いザフィーアを援護するように攻撃してくるので、こちらも攻めあぐねていた。
無理矢理な動きで回避するのであれば、こちらも考えがあると飛空艦組はすぐに行動を開始。
彩はその時のために暴風神筒を白いザフィーア向けて狙っている。
こちらの援護射撃を受けて回避している所に秋良がサンダーカノンを敵機へと放つ。が、それは回避されてしまう。しかし、それは狙い通りだ。
他の味方がそちらへ攻撃をするとやはり軌道を変えて反転。
「上手く動いてくれました」
防壁で使おうと考えていたソイルウォールを白いザフィーアが動いた先にセルヴァンが発現させた。壁に激突した敵機はすぐには動けず、そこを彩の圧縮空気砲が放たれた。
かまいたちで切り裂かれたザフィーアは徐々に高度を下げていく。飛行能力を奪う事に成功したのか、チャンスは今しかないだろう。
「戒さん!」
「ここです!」
戒は穂先を硬化させたマジックランスを構えると、ザフィーアへ向けて射出をする。そして、それを追いかけるようにして京が雷を纏った槍を持って突撃をしていった。
白い機体は自爆をする事があるため、距離には気を付ける必要があるが――この状態でそうは言っていられない。この一撃を与えて倒しておかなければ、必ず脅威になるだろう。
戒のマジックランスはザフィーアの腹部に、京の一撃は肘から下を吹き飛ばした。
「直撃は出来なかったけど当たった!」
手ごたえを感じながら京は振り返る。
これでザフィーアはロングソードを使うことは出来ないだろう。ライフルを使うことが出来るだろうが、この状態で先程の動きは難しい状態に見えた。
「一応距離を取っておきましょう」
戒の言葉を聞いて自爆をした時の対処のために、ザフィーアから距離を取ることにする。このまま動かないのであれば鹵獲や撃破も可能だが――。
『離れろ!』
そこにバルタザールからの通信が入る。それを受けて京と戒は距離を更に取る。それと同時に白いザフィーアは動き出し、こちらへ向けて貫通力の高い銃弾を放っていた。
自爆ではなかったのは良かったが、こちらを牽制しながらザフィーアは地面を蹴って下がり続ける。
このままでは逃げられてしまうとルミナス王朝側が追いかけるが――。
「飛べないように見せていただけだったか」
一気に飛び上がった白いザフィーアを見てバルタザールが呟き、ニヤリと笑った。
そして、白いザフィーアは勝てないと踏んだのかそのまま全速力で母艦へと向かう。ルミナス王朝側も深追いはこれ以上する事はなかった。
そして――。
『これが異世界の“特異者”の力ですか……計算し直さなければ』
白いザフィーアからこのように女性の声で呟かれたのは誰も気付くことはなかった。