・自爆の脅威(全GA&その他)
ある程度ダメージを蓄積させると、クルースニクの状態が変化した。
クルースニクから観測できる熱量の増大に、オブザベイションでいち早く幸人が気付く。
『クルースニクの機体の熱量が上がってる! 離れた方がいい!』
焦った声で、味方に退避を促した。
自らも、急いでアーマードスレイヴ(突撃型)を離脱させようとする。
ヘビーマシンガンによる猛射をクルースニクたちに浴びせるスレイは、様子の変化に最新の注意を払っていた。
だからこそ、スレイもまたオブザベイションで自爆の兆候を感じ取る。
『こちらもクルースニクの機体熱量の上昇を確認しています。各自、警戒してください!』
退避を始める味方の様子を確認していたリズは、まずいことに気付く。
幸人のアーマードスレイヴ(突撃型)が、深入りしていた分爆発範囲から逃れられるか怪しいところなのだ。
「い、急ぐさー! 爆発まで時間がないさ!?」
『間に合わないなら、自爆される前に破壊するまでだ!』
正義が、自爆の兆候を見せたクルースニクを、バルドイーグル(連盟)の3連装グレネード・ランチャーを発射し、攻撃した。
爆炎に包まれ、クルースニクの姿が見えなくなる。
だが、正義のバルドイーグル(連盟)は、しっかりと熱量の増大位置からクルースニクの居場所を把握していた。
クルースニクの熱量増大が止まらない。
それどころか早まっていく。
一度自爆が始まると、止めるのは不可能なのか。
それとも、別のやり方が必要なのか。
確かなのは、急いで逃げなければ、正義まで巻き込まれるということだった。
『ここまでか……! 命には変えられん。退避する!』
破壊を諦め、正義がバルドイーグル(連盟)を後退させる。
『防壁を作ります! おそらく、ひとつでは足りません! ひとつでもふたつでもみっつでも、とにかく多く! 作れる方は、ご協力をお願いします!!』
シンシア・スターチスは、通信をオープンにして周囲の味方に声をかけつつ、ソイルウォールで土の壁を展開して自爆から幸人のアーマードスレイヴ(突撃型)を爆発から守ろうとする。
同時に、味方へ呼びかけた。
* * *
最悪なことに、同時進行でアサルトフォックスと戦っていたクルースニクにも自爆の兆候が出てきた。
オブザベイションで熱量の増大を察知して、シャーロットがようやく顔色を青くする。
『……なんか、ヤバいかも?』
急いで離脱を始めたシャーロットだったが、近接戦闘を行っていたので位置的に自爆範囲からの離脱が間に合わない。
背後を取ったところだった宵一も兆候に気付いた。
『いかん!」
急いで倒してしまおうとアサルトライフルによる銃撃を打ち込んだ結果、打ち込む前より熱量の増大速度が早まった。
どうやら、攻撃するのは逆に自爆を早めるだけらしい。
迂闊に手を出せない。
『位置が悪いが……仕方ないか!』
爆発範囲から逃れるため大きく後退することを余儀なくされ、他の面々と分断されてしまう。
『ああああ、あっちもこっちもとんでもないことになってるでふ!』
リイムはシンシア・スターチスの要請を聞いていたものの、ルルティーナを放ってはおけなかった。
土の壁を形成し、何が何でも、ルルティーナを守ろうとする。
しかし、足りない。
このままでは、ルルティーナは死ぬだろう。
自爆を止めるための攻撃に意味がないのなら、千尋にできることはない。
『退避するしかないね……! どうか、無事でいて!』
爆発に巻き込まれるであろうシャーロットやルルティーナたちの身を案じつつ、千尋もアーマードスレイヴ(汎用型)を後退させた。
『ガレオン型飛空艦の請求書は、きっちり申請しますからね!』
貫を下ろしたアリスのガレオン型飛空艦が飛び込んでくる。
シャーロットとルルティーナを庇ったアリスのガレオン型飛空艦に、クルースニクの自爆によって生じた爆風の熱と破壊エネルギーが直撃した。
大部分のダメージを遮断されたとはいえ、生身のルルティーナはかなりの被害を負う。
そしてアリスのガレオン型飛空艦は、自爆の直撃により爆沈していた。
* * *
アサルトフォックスでは、アリスがガレオン型飛空艦を犠牲にルルティーナを守り、事なきを得た。
まだまだ緊迫した状況は続き、バーゲスト連隊と戦っていたクルースニクへの対処が試される。
幸人の状況には、アルヤァーガも気付いていた。
『アリスの無事が気にかかりますが……味方の危機を黙って見ているわけにもいきません』
既に形成されているシンシア・スターチスの土壁の前に、新たに土壁を重ねる。
自爆した二体のクルースニクを中心に、嫌な茸雲が上がった。
自爆で生じた爆風は、展開された土壁を、いとも簡単に粉砕していく。
だが、二重に展開しておいたことが功を奏し、幸人のアーマードスレイヴ(突撃型)に到達する頃にはかなり威力を減じており、辛うじて機体が破壊されない程度の威力に留まった。
とはいえ修理が必要だろう。
『俺にできるのは、ここまでですね』
慌ただしく運ばれていく様子を確認し、アルヤァーガもアリスの状態を確認しにいった。
アリスは自爆の直前でガレオン型飛空艦より脱出しており、ルルティーナほどではないにせよ、中等傷を負いつつも生きていた。
リズが急いで格納庫に戻されたアーマードスレイヴ(突撃型)の状態を見る。
傍には幸人が立っていた。
「悪いね。完全じゃなくてもいいんだ。戦える程度でいい」
幸人は辛うじて怪我を負わずに済んだようだ。
その代わり、機体がこの有様だが。
「あー、これはちょっと、この場で直すのは……。でも、やるだけやってみるさ!」
機械油塗れになりながら修理と整備を始めたリズは、何とか辛うじて動く状態にまで、アーマードスレイヴ(突撃型)を回復させた。
「あくまで応急処置さー! 戦いが終わったら、即オーバーホールが必要さ! 絶対これ以上無茶しちゃ駄目さー!」
「分かってる! 行ってくるよ」
幸人が答え、再び乗り込み出撃していった。
「力付くでも、止めた方が良かったさ……?」
戦力を遊ばせておく余裕はないが、行かせた判断は正しかったか。
ちょっと自信がないリズだった。
一度自爆によって被害を受けた地形を見たスレイは、その爆発範囲がどれくらいか、おおよそを掴んだ。
『ふむ。このヘビーマシンガンの射程よりは短そうですか。となると、引き撃ちできますね』
とはいえ観測できた自爆の範囲は、目視の範囲とほぼ同じ距離。
目で見えるよりも遠くの距離から撃つことになるので大分狙いにくくなる。
『ですがまあ、弾幕ならあまり関係ありませんか』
精密狙撃を行っているわけでもないので、狙いは元から大雑把にしている。
変わらない調子で、スレイは射撃を続けた。
自爆に対する回答は、一機ずつ、自爆の範囲外から爆発させるというもの。
スレイにならそれができた。
味方の協力を得ながら、一機、また一機とクルースニクを撃墜していく。
ある程度数を減らしたところで、不利を悟ったのか残りのクルースニクが一斉に撤退を始める。
凄まじい速度で、追いつくことはできなかった。