・白い悪魔との対峙(バーゲスト連隊&アサルトフォックス)
ガレオン型飛空艦と共に、幸人はアーマードスレイヴ(突撃型)を、クルースニク部隊と戦う味方とは少し離れた場所に待機させた。
『これからちょっと離れちゃうわけだけど、ひとりで大丈夫かな?』
『心配には及びません。私はアーマードスレイヴも飛空艦も両方操縦できますので、お気になさらずに行ってください。今のうちにデータ収集を行いますので』
アリスが幸人を快く送り出す。
ガレオン型飛空艦の護衛を中断して隠密行動に移った幸人のアーマードスレイヴ(突撃型)が、物陰に身を隠し完全に動きを停止させる。
稼働音から居場所がばれることのないように、機関部まで止める徹底ぶりだ。
針の穴に糸を通すような精度で放たれた幸人の狙撃が、クルースニクの関節部と機関部目掛け、たて続けに放たれた。
機敏に動いて機関部を狙うレーザーエッジアサルトガンの弾丸を弾くクルースニクだったが、その直後に飛来したビームピストルのビーム弾が、関節部に直撃する。
『よし、命中! 続いてくれ!』
味方に追撃を促し、幸人はすぐその場を離れる。
バルドイーグル(連盟)を駆る正義は、足を止めてヘビーマシンガンの狙いをクルースニクへ定めた。
『……そこだ!』
確かな操縦技術が、正確無比な命中精度を実現する。
放ったほぼ全ての弾が、吸い込まれるようにクルースニクへと着弾していった。
優たちと共に、シンシアも攻撃参加して援護を行う。
『さあ、参りますわよ!』
暴風神筒を発射し、空気の砲弾を直撃させてクルースニクをかまいたちのように切り刻む。
クルースニクたちは、クルースニクライフルを持つ個体が遠距離が銃撃を行って牽制し、その隙にクルースニクパイルを持つ個体が機体に接近し、操縦者がいる場所へ杭打ちを行おうとする戦術を取ってきた。
杭打ちを狙う敵機に対し、正義のバルドイーグル(連盟)が良い方向へ作用した。
ヘビーマシンガンの高いストッピングパワーを生かし、かなり押し留めることに成功したのだ。
『そう簡単には近付かせん……!』
リズは試しに、幸人がスモークを焚いたタイミングで、ソナーを妨害する超音波をクルースニク部隊へ向けて放ってみた。
しかし、何かが変わった様子はない。
「んー? あたしの思い違いさ?」
魔法のバリアを展開して、正義やスレイ、幸人らを援護しつつ、シンシア・スターチスはクルースニクたちをじっと観察した。
『……確かに、連盟で複製されたものに違いないようですね。ですが、誰が何のために……?』
謎は深まるばかりだ。
鹵獲はリスクが高過ぎると考えていたルージュは、最初から調査の方法を残骸の回収に絞っていた。
『となると、どう自爆をやり過ごすかが重要よね……。まあ、そもそもそこまで追い詰めるために、まずは戦わなきゃならないのだけれど!』
飛来してくるクルースニクライフルの弾丸を、クナール型飛空艦横に滑らせることで回避する。
サンダーカノンによる牽制砲撃を仕掛け、撃ってきたクルースニクへ反撃した。
油断すればクルースニクパイル持ちの機体が無理やり空中に飛びかかって打ち込んでくる可能性は無きにしもあらずなので、空中にいるとはいえど決して気は抜けなかった。
クルースニクの数は多い。
これが全て同時に爆発するといくらなんでも被害を抑えきれないため、一機ずつ自爆させることが重要だ。
『複数同時起爆でも厄介よね……。一発でも威力が洒落にならないし』
しかし完全にクルースニクの自爆をコントロールするためには、所属の垣根を越えた、緻密な連携を求められる。
一致団結する必要がありそうだ。
* * *
バーゲスト連隊と少し離れた場所では、アサルトフォックスが戦っていた。
まずは上空から、リイムがクルースニクたちを確認する。
『総数は僕たち全員を合わせたのと、ほぼ同じくらいでふ! 確認した限りでは、近接格闘タイプと遠距離銃撃タイプの二種類がいるでふね! アタッカーとその援護役といったところでふ! あのでっかいのの一撃を受けたら、きっと飛空艦だってひとたまりもないでふよ!』
リイムには、クルースニクパイルのいかつい形状が嫌でも目に入った。
刺突の剣先部分も、打ち込む杭の部分も、明らかに当たったらタダでは済まなさそうな剣呑さを醸しだしている。
睦月のキャラック型飛空艦からアーマードスレイヴ(汎用型)を出撃させた
渡会 千尋は、近接戦闘を仕掛けてくるであろうクルースニクに備えて身構えながら、アサルトライフルの照準を合わせ引き金を引いた。
吐き出された弾丸が、近付いてくるクルースニクたちを迎撃する。
『目潰しだよ! スモークディスチャージャー発射!』
煙幕を展開し、充満する煙で周囲が見えない中、千尋は睦月のパッシブソナーの助けを借りてクルースニクたちの位置を探知する。
常にショットアンドムーブを心がけ、一か所に留まる時間を少しでも減らそうと動く千尋は、煙幕の中を縦横無尽に駆け回る。
敵味方の位置把握は、記憶とパッシブソナーの反応が頼りだ。
『間違えると思った? 残念、きちんと覚えてるよ!』
誤射することなく、千尋のアーマードスレイヴ(汎用型)は、クルースニクたちを狙って銃撃を続ける。
とはいえ、クルースニクたちの反応を見るに、期待していたような効果は出ていないようだ。
睦月は弥生のイーグルヴァンガードIF(連盟)にマジックウォールによる魔法のバリアを纏わせた。
『武装を見るに、魔法よりも物理偏重の様子……。気休め程度ですので、過信せぬように願います』
クルースニクライフルと、クルースニクパイルを見るに、魔法よりも物理攻撃の方が得意であることはまず間違いないだろう。
パッシブソナーをこまめに使用し、睦月は常にクルースニクたちの位置関係把握に務める。
主に弥生のイーグルヴァンガードIF(連盟)への援護を行っているキャラック型飛空艦へは、クルースニクライフルの牽制射撃が飛んでくる程度だ。
クルースニクたちは、明らかに弥生を狙っていた。
『確かに、地上からは杭打ちを行いにくいでしょうな。ですが、そう易々と弥生を倒せるとお思いですかな?』
ストーンアーバレストで岩の弾丸を発射し、イーグルヴァンガードIF(連盟)に近付こうとするクルースニクパイル持ちのクルースニクを牽制する。
端的に言って、近接戦闘を想定した機体の肩に生身の人間を乗せるのは、どう考えても危険な行為だ。
『念のため、煙幕を張って、と』
さすがにそれはシャーロットも分かっていたのか、スモークディスチャージャーに弾頭を換装した3連装グレネード・ランチャーを放ち、煙幕を展開してから突撃を開始する。
抜き放ったのは、ツインビームダガー。
ごりごりの、接近戦用武装である。
いざ煙幕の中に飛び込むと、ルルティーナは集中攻撃を受けた。
最前線に生身で出ているので、仕方のないことだ。
クルースニクライフルの弾丸を受けただけでも大ダメージは免れないだろうし、クルースニクパイルによる杭打ちが直撃でもした日には、原型を留めず消し飛んでもおかしくない。
真円を描く斬撃の軌道でクルースニクたちが眠らないか試したシャーロットだったが、効果はなさそうだった。
『こっちにも煙幕を展開する! 上手く使ってくれ!』
ルルティーナの苦戦ぶりを見た宵一が、弾頭をスモウク・キングに換装し、3連装グレネード・ランチャーを発射する。
クルースニクたちには当たらないものの、その周囲に着弾し、想定通りに煙でクルースニクたちの視界を覆った。
しかし、煙の中からは相変わらずクルースニクライフルによる銃撃が行われ、弾丸が飛来してくる。
『遠隔操作の線は薄そうか……?』
冷静に弾丸を避けつつ、宵一はバウンティ・スネークを潜ませ、隠れて移動し背後へ回り込みを狙った。
リムスのヴァルフェスから、乗機であるアイリスを出撃させた
藤原 経衡は、クルースニクたちを自分に引きつけるべく、正々堂々正面から戦いを挑んだ。
「連盟の人心の荒んだ様を、ベグライターの克己心と規範を敷く行動によって正していくため。この藤原 経衡が相手をしよう!」
朗々と名乗りを上げる経衡に対し、当然だが無人機であるクルースニクたちからの反応はない。
ただ、行動で敵意を示すのみ。
経衡も闘志を燃やし、向かってくるクルースニクパイル持ちのクルースニクたちへマジックミサイルを放ち迎え撃った。
キャラック型飛空艦から、次々に岩の弾丸が放たれる。
間隔の短い速射は、明らかに命中弾を出すことよりも牽制を目的とした威嚇を狙ってのものだった。
『さあ……参りましょう』
イーグルヴァンガードIF(連盟)を追い越していく岩の弾丸に追随させるように、弥生も3連装グレネード・ランチャーを発射する。
噴煙をなびかせて突き進む三つのグレネードが、真っ直ぐクルースニクたちへ向かって飛んでいった。
それらを避けたクルースニクたちのうち、何体かが前に出てくる。
明らかに、弥生のイーグルヴァンガードIF(連盟)の動きに対応してのものだ。
そのクルースニクたちは、クルースニクパイルを振りかざし、弥生のイーグルヴァンガードIF(連盟)目掛けて加速した。
『格闘戦ですか……! 望むところです!』
一機目の放つ杭打ちを限界まで身を屈めることでその下を潜り抜け、すれ違いざまに足を後ろから蹴り払う。
姿勢を崩して転倒するそのクルースニクの、クルースニクパイルを装着した方の腕を踏みつけると、弥生はイーグルヴァンガードIF(連盟)を操作し近距離からショットガンの散弾を二連射で浴びせた。
遅れて二機目、三機目がたて続けに突っ込んできたので、こちらもそれ以上の追撃は諦めて飛び退りつつ、牽制の散弾を放ち攻撃の機会を邪魔すると共に、強引に後退距離を伸ばした。
さらに睦月が土の壁を出現させ、弥生が体勢を整える猶予を作った。
何事もなかったかのように一機目のクルースニクが起き上がる。
この程度で自爆するほど柔な作りはしていないらしい。
穂先を形成したマジックランスを構え、経衡がアイリスを突撃させる。
魔法のバリアを前面に展開させると、バリアごとクルースニクたちに体当たりをかけ、マジックランスで先頭の個体を串刺しにしようとした。
そのクルースニクも負けじとクルースニクパイルを繰り出し、マジックランスの穂先とクルースニクの杭打機が激突して轟音を響かせた。
攻撃の勢いはほぼ互角か。
しかし、クルースニクには杭打機による刺突の後に、本命の杭打ちがある。
あっさりとバリアを貫通した杭が、アイリスの装甲に激突した。
『……ぐっ! この程度で倒れてたまるものか!』
辛うじてコックピットへの直撃を避けた経衡だったが、アイリスの損傷が激しい。
ライフリキッドを使い、急いで機体を修復していく。