・対空戦闘(晴山吹&その他)
三美は空を舞うルーンラプターやルーンファイターたちを観察する。
言うまでもなく、頭上を取られている以上地の利は敵に味方している。
「接近戦は挑むだけ無駄そうですね……。敵に応じる理由がそもそもありませんし。とはいえ、飛行している以上はこれが有効なはず」
抱える暴風神筒を構え、手近な個体に狙いを定めた。
しかし、俊敏に動くので中々発射できない。
「隙を作ってください。確実に当てたいです」
イオンに協力を頼み、大鐵神・野武士を向かわせてもらった。
「私も協力しましょう」
星宮 希凜が牽制攻撃を無数に放ち、三美やイオンに対する援護攻撃を行った。
正確な狙いをつけず、かわりに数を増した乱打が、上空のルーンラプターやルーンファイターへ襲いかかり、その注意を引いた。
ルーンラプターやルーンファイターたちが、希凜を狙って反撃してくる。
希凜は冷静に、マジックウォールによる魔法のバリアを張って防御した。
小鈴のかぶとぎうす号から、無数の浮遊機雷が放出される。
『故事に倣って曰く――『空戦は機動力』――。なればそれを封じるのが常道ーなのですねー』
無論浮遊機雷だけで機動力の全てを殺せるほど、ルーンラプターやルーンファイターも甘くはないが、小鈴が口にしたことは真理である。
暴風神筒の直撃を受け、飛行能力を失ったルーンファイターが落ちていく。
追撃を任せ、三美はひたすら空から敵を撃ち落とすべく、暴風神筒による攻撃を続ける。
そんな三美へ、ルーンラプターやルーンファイターたちが集まり小型ルーンガンやミラージュキャノンで攻撃を仕掛けてきた。
「やはり、狙われますか……!」
強引に攻撃を中断させられ、三美は降り注ぐ銃弾や砲弾の雨から逃げ回った。
『小癪な真似をしおる!』
気付いたイオンが戻ってきて、弩を撃ち三美の頭上からルーンラプターやルーンファイターたちを追い払う。
「助かります。効果的なのは間違いなさそうですが、好き放題撃たせてはもらえませんね。当たり前ですが」
『護衛につこう。少しは撃ちやすくなろう?』
大鐵神・野武士で攻撃から三美を庇い、イオンは攻撃を行いやすくした。
身を張ってイオンが三美を守ったお陰で、再び暴風神筒によりルーンラプターやルーンファイターが飛行能力を失ってゆく。
しかし、中には立て直し、再び襲い掛かってくる機体もある。暴風神筒で失わせられる飛行能力は一時ほどだからだ。
三美の護衛をしつつ、イオンは近くに飛行能力を失った敵に跳躍して圧し掛かり、押し潰した。
晴山吹の戦いは、いかに三美に効率的に攻撃させるかで、戦法が洗練されていく。
イオンと希凜に二人がかりで守られ、三美は安全に暴風神筒で攻撃を行うことができるようになった。
もちろんそれだけで倒せるほど簡単ではないものの、やはり飛行能力を強制的に失わせることができるのは、強力だ。
問題は、射程の問題で必然的にルーンラプターやルーンファイターから総攻撃を受けてしまうこと。
効果的な分、敵意も向きやすいのだ。
「お手数をおかけします。返礼になればよいのですが」
三美は魔力を練って札を作り、イオンの大鐵神・野武士に張り付けて損傷を修復させた。
「攻撃の手は緩めません。私が代行します」
その間は、希凜が石の散弾や火炎弾など、様々な種類の対空射撃を行い、ルーンラプターやルーンファイターへ攻撃する。
ふたりで連携して三美を助け、援護した。
援護を受けた三美は活き活きと攻撃し、地面に墜落する敵機を増やしていく。
パッシブソナーを使って新手が来ないか定期的に確認しつつ、小鈴はかぶとぎうす号から雷響を発射した。
『今こそ人見さんご謹製のー《雷響》の威力を示すときー。ぶっぱなせーなのですー』
雷を思わせる砲声が鳴り響き、放たれた砲弾がルーンラプターに直撃した。
一瞬動きを鈍らせたルーンラプターは、すぐに姿勢を復帰させる。
機能停止までには至らなかったようだ。
『えー、今のところ見えている敵だけみたいですー。新しい反応が出たら随時お伝えしますねー』
監視は続けつつ、三美とイオン、希凜に伝えた。
* * *
敦也のクナール型飛空艦から、火夜のオサフネ弐式(皇国)が出撃する。
鼎を援護するため、敦也たちが選択したのは、進路を限定しての強襲だった。
『まずはこいつをばらまくぜ!』
ルーンラプターやルーンファイターたちの進路を予測し、浮遊機雷を設置しておく。
引っかかっても動きを止めることはできないが、ダメージそのものは蓄積するし、避けて遠回りしてくれるのならそれはそれで好都合だ。
浮遊機雷の存在に気付いたルーンラプターやルーンファイターたちは、予想通り迂回する進路取りをした。
そのため、多少だが一方的に攻撃できる時間が生まれる。
『悪く思うなよ!』
タウルスカノンの轟音が鳴り響き、放たれた砲弾が敵機の群れに襲いかかる。
「これは神罰でちゅ」
ミルドレッドも光弾を発射し、敵機の群れに攻撃を加えた。
どちらも避けられるものの、問題ない。
これは全て見せ札だ。
本命は、火夜のオサフネ弐式(皇国)による攻撃。
『文字通り、蜂の巣にしちゃうんだから~』
試製蜂巣砲が唸りをあげ、大量の砲弾をばらまいた。
本来なら単発運用でもおかしくない大口径の砲弾が、弾幕を形成してルーンラプターやルーンファイターたちに叩きつけられる。
素早く連射し、さらなる砲弾の嵐で対空射撃を行う。
敦也とミルドレッドに気を取られていたルーンラプターやルーンファイターたちの何機かが、まともに斉射を受け、煙を噴きながら墜落していく。
* * *
覇道 鼎が乗る大鐵神・毘沙門は、近接戦闘型の機体だ。
戦闘機型ということで機動性も良好、かつ遠距離攻撃を多用するルーンラプターとルーンファイターを相手に、近接戦闘型の毘沙門で戦うというのは、いささか苦しいものがある。
本来ならば“雷霆砲”を持ち、遠近攻撃が可能な広目を使いたい鼎だったが、生憎仲間を守るために大破させてしまっている。
『とはいえ、毘沙門も至天神の一柱ですわ!』
苦戦を承知で戦いに臨んだ鼎だったものの、やはり相性の悪さから被弾を重ねる立ち上がりとなった。
そんな鼎を、
赤城 熱士が支える。
熱士の大鐵神・野武士が、鼎の大鐵神・毘沙門を襲うルーンラプターめがけ、破砕拳を放った。
射出され、勢いよく飛んでくる破砕拳をひらりと避けたルーンラプターは再度鼎を狙おうとして、戻ってきた熱士の破砕拳に背後から強襲され、直撃を受けて体勢を崩す。
『大丈夫です、大将! 俺がこいつで攻撃しますんで!』
帰還した破砕拳を前腕部に装着した熱士が、鼎を守るように前に出た。
必殺の意思と一緒に、必ず鼎を守り切ってみせるという意思も構えに籠めて、熱士は上空から降り注ぐ弾丸と砲撃の雨を、鼎を庇って受け止め、果敢に破砕拳で反撃した。
『守られるばかりのわたくしではありませんわ』
同じように、鼎も粉砕鉄槌拳を飛ばす。
熱士が使った破砕拳に超高速回転を加えた強化版とでもいうべき武装だ。
息を合わせて放たれた拳が、空中のルーンラプターを撃墜した。
* * *
無事なルーンラプターやルーンファイターたちが、小型ルーンガンやミラージュキャノンでようやく反撃を始めた。
狙われたのは、空中から援護射撃を行っていた敦也のクナール型飛空艦と、派手に弾丸をばらまいている火夜のオサフネ弐式(皇国)だ。
『簡単に当たるかよ!』
土の壁を作りだし、銃弾や砲弾の到達を遅らせ、回避するだけの時間を作り出すと、敦也はひらりと避けた。
『火夜ちゃんだって、負けないもんね!』
激しい撃ち合いにも引かず、火夜のオサフネ弐式(皇国)が猛射して痛撃を加えていく。
あっという間にオサフネ弐式(皇国)が持つ試製蜂巣砲の弾倉が空になり、弾切れになった。
『ミルちゃん次の弾ちょうだい~』
『ないでちゅよ。使い切りでちゅ』
ミルドレッドが無い袖を振るかのように手を動かして、補給に必要な補給用カートリッジも予備弾倉も持っていないことを火夜に知らせた。
『え?』
『マジか』
火夜はきょとんとし、クナール型飛空艦にいる敦也も驚きの表情を見せた。
『ないものは仕方ねぇ。一度戻ってこい』
『は~い』
敦也の指示を受け、火夜がクナール型飛空艦にオサフネ弐式(皇国)を帰還させる。
「時間を稼ぐでちゅよ」
ミルドレッドが攻撃を続け、安全に火夜が後退できる余裕を作り出した。
オサフネ弐式(皇国)の格納を完了させ、敦也も砲撃を再開する。
壬生 杏樹の砲艦“千鳥”から、霊装騎“守護刀”が出撃する。
『接近戦は無理そうだね。これもまだ届く間合いじゃないから、いったん待ちかな』
腕部固定式連弩を手に、
水瀬 茜が敵機の群れの出方を観察した。
先に杏樹が天ノ臼砲で艦砲射撃を行う。
放物線を描いて魔力の砲弾が飛び、ルーンラプターやルーンファイターたちが跋扈する真っ只中に飛び込んだ。
しかし寸前で一斉に散開したため、惜しくも直撃はしなかった。
『ふむ。ちょっと右に流れたかな。次は当てよう』
砲弾の軌道を観測した杏樹は、細かい照準の微調整を行いながら、次の砲撃を急ぐ。
『それまでは、これで時間稼ぎをしようか』
石の散弾をばらまき、小型ルーンガンやミラージュキャノンの射程に入りこもうとするルーンラプターやルーンファイターたちを牽制した。
ルーンラプターやルーンファイターたちが接近してきて、互いの射撃武器の間合いに入る。
茜は霊装騎“守護刀”の腕部固定式連弩で、ルーンラプターやルーンファイターはそれぞれの武装で本格的に撃ち合い始めた。
互いに射程はほぼ同じ。よって常に回避も平行して行う必要がある。
付与する属性を土と火で切り替えて感触を確かめながら、茜は飛来する銃弾や砲弾を避けていく。
ふたつの属性を付与して放った射撃の手応えはほぼ同じ。
どちらかがより有利というわけではないようだ。
『なるほど、なるほど』
杏樹の砲撃と交互になるタイミングで、茜も射撃を行った。
回避なんて知りませんとばかりに、真正面から砲撃で殴り合っている砲艦“千鳥”を、拡大した魔法の盾で守り、援護した。
大鐵神・野武士を操縦する
風間 瑛心は弩で上空の敵機に狙いを定め、射撃を浴びせる。
上空にはあちこちにルーンラプターやルーンファイターが飛んでいるため、狙う対象に困ることはない。
『……これは確かに、……近接戦闘一辺倒では……どうにもならんな』
敵機は頭上を取り、撃ち下ろしてくる状況で、瑛心は上空へ向けて射撃しなければならない。
それだけでもある程度の不利を背負うのだから、射程差がある状況では同じ土俵にすら上がれない。
戦いは長期戦の様相を挺した。
杏樹や茜も、ルーンラプターやルーンファイターたちも、互いに命中弾を出しはしても、決定打となる被弾を許してはいない。
『一度戻っておいで。体勢を整えよう』
『はーい』
茜を呼び寄せ、杏樹は霊装騎“守護刀”を砲艦“千鳥”に格納した。
格納庫に向かい、機体から出てきた茜を出迎える。
艦内は、カンフォートパフュームのよい香りが漂っていた。
腕部固定式連弩をひたすら撃ち続けていた茜は、ごっそり魔力を減らし少し疲れた様子だった。
くんくんと何かを嗅ぐ仕草をし、その表情に、笑顔が浮かべる。
「いい匂い~」
「私の魔力を分けてあげる。これも食べて? お腹空いてるでしょ」
「空いてる~」
保存食を食べた茜は、ほっと一息した。