・対空戦闘(四蓮独立連隊&Bloodlines)
戦場に到着した。
『投下しますに。準備はいいですかに?』
確認を取ってから、コミュニは格納庫を開き、舞花とノーンの機体を降下させた。
蓮華曲射砲をルーンラプターやルーンファイターへ向けて放ち、地上に到着するまでの時間を稼いだ。
『作戦を成功で終わらせて、祝杯と行きたいところじゃのぅ。吉報を待っておるぞ』
アッシュムーンも、小太郎の機体を出撃させる。
大鐵神・宮毘羅を操縦する
小山田 小太郎は、上空から射撃や砲撃を徹底するルーンラプターとルーンファイターを相手に、文字通り手も足も出せずにいた。
射程差で負けているため、遠方から一方的に狙い撃たれる状況になっている。
『構いません。自分の役割は、盾となることなのですから』
近接武装しか持ち込まなかった以上、不利は承知の上だ。
『大鐵神では戦い辛い相手ですが、やりようはあります……仲間たちの活路、切り拓く一助となりましょう』
どうしても被弾を免れない状況になるのを避けられないのなら、逆にそれを計算に入れた上で、囮になればいい。
そういうことだった。
とはいえある程度は脅威を演出しなければ、放置されるばかりで囮にすらなれない。
そのための、構えである。
今からお前を撃墜するぞと言わんばかりの必殺の意思を籠められた構えは、意識を攻撃に全振りであり、隙がが大きくどこからでも撃ってくれといわんばかりの超攻撃的なもの。
その構えから実際に遠距離からの拳や斬撃といった攻撃を食らう展開が各所で頻発しているせいもあるのか、小太郎の近くにいた数体が警戒する素振りを見せた。
『それでいいのです』
間合い外からの攻撃に、小太郎はただ耐えた。
舞花が放ったベリーボタンロケット砲が、小太郎を狙っていた敵機を意識外から強襲する。
無誘導でも、何とか当てることに成功し、爆炎を生じさせた。
炎と煙の中から、ダメージを受けた敵機が飛び出してくる。
敵機は小太郎から舞花に狙いを変えた。
『近付いてきますか。受けて立ちましょう』
指鉄砲に持ち替え、舞花はほぼ同距離での射撃戦を挑んだ。
射程ではベリーボタンロケット砲の方が優れているものの、はっきりと視認され、警戒もしているであろう敵が相手では、無誘導のミサイルなど避けてくれと言っているようなもの。
五連装の銃撃による対空攻撃を行った。
集中力を高めつつ、ノーンは敵の損耗状況を観察する。
『あっちの敵が弱ってるみたいだよ!』
『では、行ってみます』
通信で伝えて舞花に向かってもらい、必要と思われる場所に舞花を届ける役割を果たした。
機体の修理や弾薬の補充も、ノーンの仕事のひとつだ。
「お帰りなさい! さっそく作業始めるね!」
「ええ、お願いします」
艦内に戻ってきた舞花を出迎え、入れ替わりに格納庫に缶詰になって、サイフォスキャノン(皇国)の整備や補給を済ませた。
機械油まみれになりながらも作業を完了させ、再出撃可能になったことを舞花に伝える。
『ありがとうございます。行ってきますね』
「行ってらっしゃい!」
サイフォスキャノン(皇国)に乗り込む舞花に大きく手を振り、ノーンは再出撃を見送った。
舞花が出ていったあとも、新しい機体が格納庫に戻ってくる。
ノーンは続けて作業に取りかかった。
ソナーで敵の位置を把握しつつ、コミュニは火炎弾を放ち、近付いてくる敵機を牽制する。
『おっと、そっちにも行かせないに』
舞花やノーンの相手をし始めたのを見て、すかさず援護攻撃に移った。
精度よりも頻度を重視し、手早く砲撃して手数を稼ぐ。
『大雑把なら狙いでも、数打てば当たりますに』
ほとんど避けられていたものの、宣言どおり、たまに直撃していた。
四連スタンマインを設置したアッシュムーンだったが、正直これはあまり役に立っていなかった。
『まあ、地雷じゃしのう。当然か』
飛行している敵にあまり有効なものではない。
諦めて、クインクレイン(飛空艦)による援護射撃に集中した。
タイミングを見計らって、アッシュムーンは小太郎の機体を回収し、ライフリキッドで修復する。
『人体にも、機動兵器にも使えるとは……。調べてみたいが、今はそれどころではないのぅ』
再び、小太郎が出撃していくのを見送った。
その後も射撃を繰り返し、自らの可能な範囲で、アッシュムーンは前線で奮戦する小太郎を援護した。
* * *
由梨のカリバーンⅡ(皇国)が、鈴奈に見送られて出撃していく。
予定通り、囮作戦は決行されることとなった。
狙撃手として、由梨はカリバーンⅡ(皇国)を配置に着かせ、試製電磁加速砲を手に射撃姿勢を取らせる。
その射程は視界範囲を軽々と凌駕しているので、由梨はモノクルターゲットを通信機兼照準器として用い、少しでも命中率を上げようと努力した。
『存在がばれたら、きっと今度は私が狙われるのだわ……。だから、安全に不意をつけるのは、初撃だけ。最大の戦果を上げたいのだわ』
無人機とはいえ、馬鹿ではない。
後方から好き放題狙撃する由梨を放って、囮役にかまけてはくれまい。
『今のうちに、作業を進めるとしましょうかのう』
ヒルデガルドと明日香が敵機の群れを引き連れてくるまでの時間を利用し、凛音は浮遊機雷の設置を行う。
浮遊機雷は、ちょうど設定しているキルゾーンへの最短距離のコースから、外れないよう両翼ぎりぎりをカバーするように展開している。
これにより、突入してくるであろうルーンラプターやルーンファイターたちに対し、壁のような役割を果たしてくれるはずだ。
当初の予測通り、ヒルデガルドたちを追いかけ続けてくれるならばよし、そうでなくとも、浮遊機雷に引っかかることを避けて通ろうとしてくれるのなら、足止めになるだろう。
回り込みを警戒して、後方にも設置しておいた。
ソナーを使用すれば、明日香にははっきりと分かった。
空を舞う、無数のルーンラプターとルーンファイターたちの位置が。
明日香のスループ型飛空艦に気付いたのか、それぞれ別の方角を向いて飛んでいた前方のルーンラプターやルーンファイターたちが、一斉に明日香のスループ型飛空艦の方へ向き直り、距離を詰め始める。
『あそこね。タイミングを合わせるわよ』
ヒルデガルドからの通信が来て、明日香の肝も据わった。
『ああ……もう! OK! バリア展開。さあ、いくわよ!』
加速したスループ型飛空艦が、突撃を開始する。
たちまち小型ルーンガンやミラージュキャノンの銃撃や砲撃に晒された明日香は、それでも強引に突っ切って投下地点に到達すると、ヒルデガルドの大鐵神・宮毘羅を地上に解き放った。
腕組みしながら落下した大鐵神・宮毘羅が、着地と同時に朗々と名乗りを上げる。
『降魔折伏! 天元降臨! 玄天夜叉見参!』
新刀を片手に指鉄砲を発砲し、対空射撃を行った。
明日香も石の散弾を放射状にばらまき、ヒルデガルドを援護する。
そのまま、由梨たちのもとへ群れを引き連れていく。
戦闘空域に凛音のソナーが走り、さらに敵のソナーを妨害する鈴奈の超音波が放たれる。
轟音が鳴り響き、試製電磁加速砲の直撃を受けた敵機が吹き飛んだ。
ヒルデガルドと明日香を襲っていたルーンラプターやルーンファイターが由梨の存在に気付き、間合いに捉えようと、ヒルデガルドに地上から攻撃されないよう高度を維持しながら一斉に前進を開始した。
『気付かれたのだわ!』
即座に由梨は離脱を開始する。
今の由梨には、特に狙撃を有利にする技術があるわけでもないので、狙われている現状で狙撃を続行するのは、リスクが大きい。
待ち伏せに気付いた敵機の群れが、ブレーキをかけて急激に飛行速度を減衰させるのを、アヤメははっきりと感じ取った。
『立て直す隙など、与えません』
ヘビーマシンガンの猛射を放ち、銃弾の嵐によるストッピングパワーでその場に釘付けにする。
照準を敵機の群れに固定したまま移動し、先頭の個体から順番に二連続射撃で確実に動きを止めた。
誘導されていたことに気付いたルーンラプターやルーンファイターたちが、一斉に散開しようとして浮遊機雷の感知範囲に引っかかり、電撃を浴びる。
感電効果はないため、被害を覚悟で強引に突破された形だ。
しかし、程よくダメージを負った個体が増えたので、展開としては悪くない。
射程の関係上、必要はなさそうだが念のため冷気を纏った突風を放ち、それ以上の接近を拒否すると、凛音は目前のルーンラプターやルーンファイターたちを睥睨する。
『空はお主らだけの空では無いし、幸い罠を張り巻き込む友軍機も居らぬ……。全力で行かせて貰うぞぃ……』
ファイアーカノンを発砲し、敵機の群れを薙ぎ払った。
『決して逃しませんよ……』
続けて放たれたアヤメの3連装グレネード・ランチャーが、次々敵機に直撃して空中に爆炎の華を咲かせる。