・対空戦闘2(ライトニング)
囮役を務める遥の大鐵神・宮毘羅に対し、遊撃に動くシュヴァリエ・メイジは、
アルフレッド・エイガーが操縦している。
『遠距離攻撃には向かない機体だが……ま、ものはやり様だぜ』
アルフレッドに求められているのは、遥らに群がる敵機の掃討だ。
故に、求められているのは高い瞬間火力と、それを当てるために必要な命中精度の高さ。
しかし、マジックミサイルアックスのミサイルは直進しかしないため、不意を突いても撃破に確実性がない。
威力はともかく、命中率の信頼性には難があった。
『飛んで直接斬るしかないか? とはいえそれは危険が過ぎるよなぁ』
ぼやきながらも、魔力を籠めて牽制のミサイル射撃を続けつつ、エンブレムシールドに魔力を纏わせ、物理魔法双方に対しての防御を固めた。
飛んできた流れ弾を受け止める。
瞬間、刹那の砲撃が、アルフレッドと交戦していたルーンファイターの翼に突き刺さり、機体のバランスを著しく失わせた。
フィーアの攻撃だ。
錐揉み回転して急激に高度を下げたルーンファイターが、懸命に機首を上げて体勢を維持しようとする。
そればかりか、ミラージュキャノンを撃って反撃までしてきた。
『やるね。でも、無駄な努力だよ』
機体の手を刀に見立てて砲撃を逸らすと、フィーアはすかさず第二射を叩き込んだ。
後は味方に任せ、補給を受けにいく。
ルーンラプターとルーンファイターの集団が、一機の戦闘機を追い回している。
追われているのは、戦闘機形態のルーンセレスティアル・ノヴァ(皇国)だ。
操縦者であるジェノは、機体に試製電磁加速砲を装備させているせいもあってか、凄まじい物量攻撃を受けていた。
『いくらなんでも、数が多すぎるぞ……! こちらは一機なんだがな……!』
当たり前だが、飛行可能な機体の数が前提からして違いすぎるため、制空権は元から絶望的。
ライトニングが敵大型母艦を狙うことは難しく、逆にライトニングの飛空艦たちをルーンラプターやルーンファイターたちが狙うのは容易い状況にある。
地上からは猛烈な対空射撃や対空砲撃が行われているものの、敵が握る制空権を崩壊させるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
『だが、悪くない。俺にかまける敵が多いということは、その分飛空艦が自由に動けるということでもある』
空戦は一瞬の判断の遅れが未来を激変させる。
そのためジェノはもはや身体に染みつくほどの繰り返した訓練の動き通りに、敵機の背後を取って攻撃しては離脱する、お手本のようなショットアンドムーブを繰り返した。
* * *
一進一退の攻防を繰り広げつつも、少しずつライトニングは戦線をじりじりと押し上げていく。
合わせてレベッカが少しずつ前に出てソナーの範囲を広げ、地道に敵大型飛空艦の居場所を探っていた。
戦況を支えているのは、
クラリス・アーデット、
雪神 白羽を始めとする裏方たちの努力によるもの。
クラリスは忙しく機体修理に没頭していた。
「大丈夫です。これくらいならすぐ済みますよ」
魔力を練って札を作ると、機体にぺたりと張って損傷を修復させていく。
深い損傷にはまた別の手段が必要だが、これはこれで便利だった。
何せ貼るだけで効果が出るので、実際のクラリスの負担は札を作る分だけの消耗で済み、札という形を取る以上、使用の際には術者に負担をかけない。
札であることを利用して予め作り置きを備蓄しておく……みたいな使い方はさすがに難しいだろうが。
激しい撃ち合いを行っている以上、ある程度損傷度合いが深い機体も、それなりの数が運ばれてくる。
それは囮になっている機体であったり、守られている電磁加速砲を装備している機体であったり様々だが、クラリスは片っ端から修理していった。
「どんどん直して、前線に送り出していきましょう」
修理と平行して、補給を受けに戻ってきたフィーアの機体に対して補給用カートリッジで補充を済ませるクラリスだった。
高い集中力を発揮する白羽は、レニアのキャラック型飛空艦に同乗しつつ、損耗して戻ってくる大和とコロナの機体の応急修理や整備などを主に行っていた。
極限にまで集中している白羽は、周りの状況が全く見えていない。
回避を捨てて自分の命もレニアに託すことで、白羽は限界まで己のサポート能力を高めていた。
「よし、こちらは終わったぞ。出せ!」
修理が終わり、大和を乗せて再出撃するサイフォスキャノンを見送りつつ、続けて白羽はコロナの大鐵神・野武士の点検に取りかかった。
まずは問題が発生している場所を調べて優先順位をつけ、放置してもよいもの、後回しにしてもよいもの、すぐに取りかかった方がよいものに分け、優先度をつけて作業していく。
機体に生じていた破損や不具合が、ひとつひとつかなりの勢いで修復されていった。
「完了じゃ、行け!」
こちらも、速やかにコロナごと大鐵神・野武士を再出撃させた。
再び交戦を始めた大和とコロナを、背後から白羽は見守る。
フィーリアスもまた、クナール型飛空艦からジェノを支えた。
被弾に備えて魔法のバリアを展開しつつ、頻繁にストーンアーバレストによる岩の弾丸を敵機目掛けて発射して、ジェノの奮戦を援護する。
「よく見ておかないといけませんね……」
フィーリアスはジェノが間違っても撃墜されないよう、ずっと注意を払っていた。
ぎりぎりを見極め、頃合いを見計らって一度帰投を促す。
「一度戻って、補給と整備を受けてください」
『……そうだな。その方が良さそうか』
機体の消耗状態を見たジェノも無理をすることはせず、フィーリアスの助言に従い、一時離脱を決めた。
着艦すると、ルーンセレスティアル・ノヴァ(皇国)にライフリキッドを使うフィーリアスを眺めつつ、応急修理完了までしばしの休息を取った。
* * *
ついに、レベッカのパッシブソナーに見慣れぬ反応が引っかかった。
今までの反応とは、明らかに違う大きさの何かが、敵後方の空に浮いている。
言うまでもなく、敵大型飛空艦だろう。
居場所を突き止めた。
『……いたぞ。座標データを送信する。至急確認してくれ』
レベッカが、情報を味方に共有させていく。
さらにタウルスカノンによる艦砲射撃をルーンラプターとルーンファイターの一群へ撃ち込み、反撃の狼煙を上げた。
一気に攻勢に転じたライトニングの勢いを止められず、次々にルーンラプターとルーンファイターが数を減らしていく。
砲撃戦、射撃戦を制し、敵が握っていた制空権を崩壊させたライトニングは、敵大型飛空艦への進路を抉じ開けることに成功した。
『今です! この千載一遇の好機を、逃してなるものですか!』
一番槍を果たして突入したビーシャは、敵大型飛空艦へ火炎弾を放つ。
さらに、試製電磁加速砲を装備している伊織機らの猛射が始まった。
風をマントのように纏い飛翔するアルフレッドのシュヴァリエ・メイジが、ここぞとばかりにマジックミサイルアックスを手に追撃する。
同時に殿のルーンラプターとルーンファイターが一機ずつ、おそらく敵大型飛空艦を離脱させるためなのだろうが逆にアルフレッドへ捨て身の特攻をかけてきた。
『望むところだぜ!』
放たれた小型ルーンガンやミラージュキャノンの弾丸、砲弾を目の前にしても怯まず、逆に加速し装甲を削らせながらも直撃を避けると、マジックミサイルアックスを薙ぎ払う。
真円を描くように放たれた回転斬りが、ルーンラプターとルーンファイターに直撃した。
『機関部を狙ってください。足を止めさせられるかも』
クラリスの助言に従い、伊織、フィーア、ジェノによる試製電磁加速砲の斉射が敵大型飛空艦に命中するも、撃破には至らず。
攻撃を受けるようになった敵大型飛空艦の判断は素早かった。
下手に撃ち合うようなことはせず、まだ無事な機体を収容すると、一方的に砲撃を受けて艦体が損傷するのも構わず、殿になった機体を捨て駒に全速力で戦場から離脱していったのだ。
追撃したい気持ちは山々だったが、殿となった敵に足止めとして時間を稼がれてしまったのでもう間に合わない。
戦闘による損耗も総合して考えると決して軽いものではなく、深追いして返り討ちに遭う危険性を考えると、追いかけることはできなかった。