【3】海辺でグミ作り―3
「さぁて、始めるとしますか!」
心美・フラウィアはレディー・スイーツ!で準備を整え、グミ作りを開始する。
ここは海の家のキッチン。周囲には他にもグミ作りをしている特異者の姿がある。
「味付けは何にするか決めているのか? 他の奴らはここで買える食べ物や飲み物を使っているようだが」
「もちろん準備済みだよ。ほら、コレ」
心美が取り出したのはマルムの果実。アルテラ産のフルーツだ。
「おお、マルムの果実か!」
「せっかくなら姉さんが好きな味で作ろうと思ってね。皮むき任せてもいいかい?」
「ああ、任せろ」
ルキア・フラウィアが皮むきをしている間に、心美は砂糖やゼラチンを必要な分量だけ量っておく。
皮をむいた果実を絞って果汁を集め、そこへゼラチンや砂糖を加えてグミを作成。
「姉さん、こんなもんでいいかな?」
「うむ、悪くない」
二人で味見をし、冷やして固めたらグミの完成だ。自分達で食べる分を取り分けると、残りへスイーツメイクHWでちょっとだけイタズラを仕掛ける。
浜辺へ向かった心美はグミ坊主へ作ったグミを差し出す。グミ坊主の先端が伸び、心美のグミを取り込むと色と味を変化させて分離し、小さなグミ坊主の姿を取る。
と、ふいに小さなグミ坊主の身体がうねる。内部で何かが破裂をしているかのように身体のあちこちが膨らんでは元に戻るのを繰り返している。
「ちょーっと刺激が強すぎたかな?」
心美が少し心配したものの、グミ坊主は特に気にした様子もなく近くの海上を漂っている。
「気に入ったのか気に入らんのか、よく分からんな。それにしても美味いな、このグミは」
爆発しないグミを食べながらルキアは満足げに呟く。心美も一つグミを摘まんで口へ。リンゴに似た優しい甘さと酸味が口の中に広がった。
「姉さん、グミ気にいってもらえた?」
「ああ。だがこれは今しか食べられないのか? 可能なら量産して持ち帰りたいのだが……」
「んーどうだろ。グミ坊主が気に入ってくれればもっと作れるみたいだけど……」
残念ながら自分たちの作ったグミ坊主はその後少し経つと消滅してしまい、量産は叶わなかった。仕方ないので、残りのグミをゆっくり味わいながら食べる。
これだけ喜んでもらえるなら、機会があればまたお菓子作りをするのも悪くないかもしれない。ぼんやりそんな事を考えながら、心美は楽しそうにグミを食べるルキアを眺めていた。
「今日は来てくださってありがとうございます、王さん。一緒にがんばりましょう」
「おぅよ!」
ハイタッチを交わす
月見里 迦耶と
王大鋸。
二人は海の家のキッチンを借りてグミ作りを開始する。まずは果物やかき氷のシロップを使って小さいグミを作り、それからラムネ味のグミを準備。固める前に小さなグミを中に入れ、ヨーヨー釣りの水風船のような見た目のグミを作る予定だ。
作業をしながら夏の思い出話に花を咲かせつつ、迦耶はふと気になった事を尋ねてみる。
「王さんはこの夏にやりたい事って何かありますか?」
「んーそうだな。夏と言えばやっぱりスイカ割りだよな!」
「スイカ割りですか……そういえば先程外で遊んでいる方々もいましたね。もしかしたらここで売ってるのかもしれません。後で聞いてみますね。他にやりたい事や食べたい物はありますか?」
「食べたい物ねぇ……ああそうだ、ソイツだ」
そう言って王が指さしたのは、グミの味付けに使おうと思って買った冷凍パインだ。
「ソイツ、オレのモヒカンと似てて何か親近感湧くんだよな。パイナップル使ったデザートとか食ってみたいぜ」
「なるほど、パイナップルですか……」
パイナップルを使ったデザート。どのような物を作れば王が喜んでくれるだろうかと、迦耶は思案する。
話している内にグミの基礎は完成。一度冷やして固まるのを待ち、しっかり固まったら表面に飾りつけをする。
白いグミで細い線を描きヨーヨーの模様を再現したかったのだが、いかんせん小さなグミが相手ではかなりの集中力と器用さが求められ、中々綺麗な模様が描けず。一つまた一つと失敗作が増えていく。
あまり時間をかけて王を待たせるのも良くないと考え、迦耶は表面の飾りつけは諦める。と、ふいに失敗したグミの一つを王が摘まんで口に運ぶ。
「美味いな! 噛んでると色んな味がしてくる、もう少し貰っていいか?」
「ええ、勿論。それと、こちらもどうぞ」
迦耶が差し出したのはラムネではなく、パイナップルが主体となった黄色のグミ。王の話を聞いて思い付きで作った物だ。
「デザートというよりはお菓子ですけれど、よければ食べて下さい」
「おお、ありがてぇ! ……ん、これいいな。なんつーか、夏っぽい味がするぜ!」
王はパイナップル味のグミを気に入った様子で、すぐに食べきる。残りのグミは海坊主に食べさせたり、自分達で分け合いながら、二人は陽が落ちるまで談笑して過ごした。
ノーラ・レツェルと
咲田 茉莉花はキッチンで配信を行っていた。手元にはグミの材料と、いくつかのジュースが準備されている。
「今日はいつもとちょっと趣向を変えて、みんなで新しいグミを作ってみようと思ってるんだ。ゲストは……お友達の茉莉花ちゃん。みんな、一緒に楽しく作ろうねぇ」
#うちで歌おうでファンの心へ呼びかけ、一緒に歌を歌う。今回の配信は視聴しているファンが選んだ材料を使ってグミを作る予定となっている。呼びかけに応じたファンの姿が代わる代わるノーラの周囲に現れ、使ってほしい材料を文字や実物で表現している。
「それじゃあ一番希望者の多かったリンゴジュースと、茉莉花ちゃんは何がいい?」
「そうねぇ……グレープフルーツジュースとかどうかしら? ほんのり苦みのある大人っぽい味を目指して、ね?」
「大人っぽい味かぁ。それじゃあ僕は香りの良いジャスミンティーを入れようかな。ゲストの茉莉花ちゃんの名前に因んで、ねぇ」
「あら! 嬉しいわね、ありがとう」
どんな味にするか決まれば、すぐに調理開始だ。ノーラはお菓子作り初心者である茉莉花に説明しながら、手際よく進めていく。
「ゼラチンと味の素になるジュースを入れて温めつつ砂糖などの調味料を加えて混ぜていくんだよぉ。ゼラチンが完全に溶けたら、味を軽く確認して型に入れた後冷やすっていう流れだよぉ」
「へぇ、グミってこうやって作るのね……」
型入れまで終わると、最後に王国の休息を溶かして混ぜて自分なりのアレンジを施す。
「お菓子は試食するまで終わりじゃないから、できるまで雑談して待とう?」
冷やして固めている間は二人のトークタイムだ。この夏の思い出、好きなお菓子、ちょっとしたお悩み相談などなど。話している内に時間は過ぎていき、グミの様子を見てみればしっかりと固まっていた。
「待ちに待った試食タイムだねぇ。それじゃ、頂きまーす」
二人一緒にグミを口へ。リンゴの甘さにグレープフルーツの酸味と苦み。そして口の中に広がるジャスミンの香り。
「ん、美味しいねぇ」
「ジュースの味もジャスミンの香りも、しっかり感じられるわね。お菓子作りってもっと難しい物だと思っていたけれど、手軽に作れる物もあるのね……」
「もしまた時間が合えば、だけど。今度はもう少し難しいお菓子に挑戦してみる?」
「そうね、中々スケジュールに空きを作るのは難しいけれど……でも、ぜひ作ってみたいわ」
作ったグミを食べながら今後の事を話す二人。その配信はグミが無くなるまで続くのだった。
「夏織はグミって食べたことある?」
「グミ……って海に広がっているあれよね? 正直、今回見たのが初めてよ」
グミを食べたことが無いという
二階堂 夏織 キャロラインへ、
火屋守 壱星はスイカソーダグミを差し出す。
「はい、あーん」
「……その、他にも調理している人が近くに居るのだけれど?」
「ほら、グミ坊主も『カップルでグミを食べさせあう事』って言ってたしこれもイベントだから! ね?」
「それとこれとは話が……ああもう!」
観念して口を開く夏織。そっと口に放られたグミを噛み始めると、赤く染まっていた顔が徐々に驚きの表情へ変わっていく。
「……柔らかいような硬いような、不思議な食感ね。ゼリーともまた違う……へぇ、これがグミなのね」
「もしかして気に入った?」
「まだ何とも言えないわね。とりあえず悪くは無い、って感じかしら。壱星は何を作るつもりなの?」
「考えてるのはグミをチョコで包んだグミチョコかな? その為の材料は色々持ってきてるんだ」
壱星は一織流弐ノ型・紅刃で両手を赤熱させてから鍋を持つ。そこへ夏織があらかじめ切り取っておいたグミ坊主の一部を投入。さらにシナモンドロップを入れ高熱で溶かし混ぜる。綺麗に混ざった所へシュークリームSSのクリームを入れ、シナモンドロップの辛さをクリームの甘さで上書き。最後は成型したグミの表面を板貯古の呼び符で召喚したチョコレートで覆って完成だ。
試しに一つずつ食べてみる。予定通り、シナモンドロップの辛さは消滅し香りだけが残っていた。が、代わりに口の中に暫く残るほどの強烈な甘さが追加されている。
「結構人を選びそうな味ね……けど、これはこれで悪くないわね」
グミを食べ終わった二人は浜辺を散歩する。闘技場から離れた静かな場所で、手を繋いでゆっくりと歩きながら今年の夏の思い出を語り合う。
「今年は一緒に海に来てくれてありがとう。水遊びに付き合ってくれて嬉しかったし、その……夏織の水着姿も見れたし……眩しくて言いそびれちゃってたけど、すごく似合ってるよ!」
「面と向かって言われると照れるわね……けど、お礼を言いたいのは私も同じ。今年の夏はとても楽しかったわ。あなたのお陰で、ね」
二人顔を見合わせ、どちらからともなくクスクスと笑い始める。ひとしきり笑った後、壱星は夏織の瞳を見つめながら屈託のない笑顔を浮かべて言った。
「夏織、大好きだよ」
時が流れて季節が移ろう度に、想う強さもまた増していく。これまでも、そしてこれからも、ずっと。
藤原 経衡は
ミサキ・ウツミと共にグミ作りに取り掛かっていた。
場所はキッチンカーの中。壁には火を起こすための赤翼猫斧が立てかけられている。
「一緒に料理するなんて機会は滅多にありませんからね。今日は楽しんでやりましょう」
「そうだね。と言ってもグミの作り方なんて私は知らないんだけど、君は詳しいのかい?」
「ええ、最低限の知識はあるので問題ありません。ただ、味をどうするかだけは考えなければいけませんね。ミサキさんは何かこの味が良い、という物はありませんか? 甘味系なら大抵の物は使えると思いますので、折角の機会ですし好きな物を教えて頂ければそれを使いますよ」
「うーん……私は合成食が多いゼストで育ったから、甘味には縁が無くてね……」
「っと、そうでしたね……」
困った様子のミサキに、それならばと経衡は提案をする。
「参考にもってきたグミがいくつかありますので、これを食べて考えましょうか。近くに食べ物や飲み物を売っている所があるので、その中から選ぶのが良いかもしれませんね」
経衡が取り出したのはエナジーマンゴーグミとスイカソーダグミ。二人でそれらを食べながら、やはり果物系が一番合うのではないかとの結論になり数種のジュースを買って戻ってくる。
材料を溶かして、ジュースで味をつけて。界霊獣ラブにバックミュージックを任せ楽しい雰囲気の中で調理する。細かい作業をミサキに手伝ってもらいながらグミの元は完成し、後は固まるのを待つだけだ。
ちなみにジュース以外にも隠し味としてほんの少し、お酒を入れてある。洋酒の入ったチョコレートはよく見かけるので、グミに入れても案外いけるのではないかと予想していた。
しっかり固まったグミを二人で試食。甘酸っぱい味と共に僅かにアルコールの風味がする。それにちょっと顔が火照る感覚もあった。
「少しお酒を入れ過ぎましたかね……?」
「いいんじゃないかな? こういうの食べる機会は今まで無かったし、私は面白くて好きだよ」
ミサキはお酒入りグミを気に入ってくれたようで、経衡はほっと胸を撫でおろす。
その後は道具類を片付け、残りのグミを摘まみながら談笑して過ごす。ミサキにとっても今回のグミ作りは良い息抜きになったようだ。