【2-1】
「皆さん、こんにちは!」
多くの観客で埋め尽くされたライブ会場内に、【天下泰平の帝衣】を着て【スターオービットspec-2】を握りしめた
空花 凛菜の声が高らかに響き渡る。
「りんなちゃー──ん!! こっち向いてぇ──!!」
熱い歓声に優しく手を振って返した凛菜。
「今日は、警察のアイドル課の方々と合同で行う芸能演習です。とは言え、観客の皆さんには普通にステージを楽しんで貰えたら嬉しいです。今回は心地よいライブを目指してみようと思います。よろしくお願いします!」
今回はソロで挑むこのライブ。自分に出来ることを、出来る範囲で全力を尽くすつもりだ。
無理しすぎず、だがそつなく。そしてしめやかに、アイドルとしての気品を持って、淑やかに──【キラキラオーラ】を纏い、早速【天女の舞】を披露する。
美しくしなやかな動きに観客は釘付けだ。対する警官アイドルもソロのアクロバティックなダンスで対照的なステージを見せつけてくる。
「マイペース、マイペース……」
何を見ても動じないよう自分に言い聞かせてから、続いて凛菜は【空花の調べ】を歌いながら、ゆったりと、清楚で心安らぐ舞を丁寧に披露した。
警官とは全く対照的なステージで、観客はどちらも楽しんでいる様子。
凛菜は徐々に舞のテンポを早めて、静から動へと舞に変化をつけると終盤からは【#うちで歌おう】で観客たちの協力も得て、賑やかなラストへとつなげていく。
「一緒に、歌いましょう」
「え……何言ってるのあなた……?」
きょとんした顔の警官に手を差し伸べ、一緒に手をつないでライバル同士でありながらもやがて一つのステージへと融合させた凛菜のライブ。
これは芸能演習としての本来の目的以上のことを果たしたと言えるかも知れない。
「こんな戦い方もあるのね。今日は凛菜さんに教えてもらったわ……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
大きな拍手が2人に送られ、凛菜と警官が握手をしてからステージはゆっくりとフェードアウトした。
***
クロティア・ライハと
ナレッジ・ディアのライブはここまでとは打って変わって、ゲームミュージックを主体に進んでいく展開だ。
序盤からクロティアが【コンバートゲーマー】を使って「タッチ!」のマークを出現させ、テンポ良くタッチしていく。ナレッジも一緒になって【コンバートゲーマー】を発動した。
バトル系BGMメドレーが流れる中、【正義の鉄槌】を発動してスタントアクションを次々と披露するクロティア。【宝剣ディグニファイア】を振り、
「クロティア・ライハ……またの名をゲーマープライ、相棒のナレッジと共にいざライブ!」
ステージから声を上げると、観客たちが大きな拍手を送る。
「クロティアの従者でディーヴァのナレッジ! 誰が相手でも、最善を尽くしますよ!」
【U.ハーモナイズクエイク】でクロティアの周囲の地形を変形させ、スタントアピールがしやすくなるように早速サポートに努めるナレッジ。クロティアは地形に合わせて壁キックをしたり、壁キックからの一回転着地後にバク転を決めたりしながら観客を湧かせる。
呼応するようにして、ナレッジも【レーザーリズム】が浮遊する中、踊るように演奏しながら【コンバートゲーマー】のマークをタッチ。そのタッチの仕方がかわいらしく、タッチするたび観客たちから歓声が上がった。
続いて警官チームも負けてはいられないと隊列を組み、ダイナミックなラインダンスを披露してクロティアを圧倒するほどの拍手喝采を浴びたのだった。
再びクロティアのターンになると、今度は【スウィングラッシュプレイ】に切り替え、スピード感溢れる剣の舞を開始。【大殺陣回し】を使って力強さを前面に押し出し、迫力ある剣の力を見せる。
サビに差しかかり、ゲーム機を天に掲げるように持つ。そして【スタイル】イマジネイターの力で仮想体に変身し、二次元の体で更にキレのある剣の舞を舞ってみせた。
「力を貸して私であり、僕ではないもの……二次元の私、プライ!」
こちらの姿の方が、よりゲーマーらしさが出ている上にクロティアとしても剣を振るいやすい。その勢いのまま、ナレッジが【Dチップ】イリュージョニストの効果を乗せて【茨の森の不夜城】で城の舞台セットを展開した。
雰囲気がガラリと変わるだけで全く別のライブを観ている気になってしまう。
どよめきが起こる中、警官チームたちのターンとなったものの、観客の興味はもはや完全にクロティアとナレッジに向けられているようだ。
再びナレッジ登場し、【閃光キラーチューン】でバトル系メドレーのサビを更に盛り上げていく。クロティアが曲に合わせて激しい剣の舞を披露し、曲の終わりとタイミング良くぴったり合わせてラストを決めた。
嵐のような拍手──警官チームはとてもこの2人にはかなわないと、相手チームながらクロティアとナレッジを称える拍手を送る。お互いに拍手を送り合って、ライブは幕を閉じた。
***
次のライブは、
空莉・ヴィルトールと警察チームのソロ対決だ。
「普段警察のお仕事してるからって、ステージの上では我慢しなくてもいいんだよっ??」
空莉が発動した【痛みの渇望】は、観客だけでなく相手の警察官の心も丸裸にしてしまう勢いだ。セクシーな【ヘソダシグローリー】を身に着けた状態で踊るダンスは、刺激が強いためかステージによじ登ろうとする観客たちが多く詰め寄せてしまう始末。
「んふふ、早くも数名の欲望が叶えられちゃったかも?♪」
──想いの全ては眩しくっ、私の両腕に♪♪
【ツインパフォーマンス】を発動してから、【カーニバルクラウンロッド】を高々と掲げてくるくると回転させ、観客の視線を先端の王冠に注目させる。一呼吸置いてから隙を作り、
「――どっかーん!!! 花火発射──♪♪」
王冠が飛び出したかと思うと、場内に大きな花火が上がった。
対して警官のライブは刺激的な空莉のライブと比べるとどうしても地味で、盛り上がりには欠けてしまっている。
それも計算のうちだったのか、相手側のライブをフォローするようにして、【春嵐の酔扇子】を優雅に舞わせる空莉。辺り一面に花景色が広がると、
「お花見っていつだ? もちろん今だーーー♪♪♪」
観客を十分に煽ってから【月に跳ぶ兎】によってうさ耳アイドルに変身してしまった。
「魅惑のウサギさんタ~イム!!」
勢いよくステージの床を蹴って宙返りを決め、うさ耳に手を添えてウインクをしてみせた。
「今こそ顕現召しませ、あなたたちのための【我が王国】――」
もはや警官も取り込んで感情や欲望をもっと開放するようなダンスを見せ、
「欲望のテーマパーク? 夢と癒しの休憩所?
──ううん。呼び方も、感じ方も、全部全部自由なの。めいっぱい楽しんでいってね!!
今日が皆にとって最高の思い出になりますように♪」
──ラストは投げキッスをあちこちへ飛ばして、空莉は湧き立つ大きな喝采を欲しいままにした。警官が恥をかかないよう、一緒に手をつないで同じように歓声が起こるようにステージの端から端を移動する。
「……参りました……!」
警官は、丁寧に空莉へ敬礼をしてみせたが、
「そんなのいーから、もっと楽しもっ♪」
あくまでもマイペース。観客と一緒に自分も楽しむというスタイルを貫いた空莉。
芸能演習で貴重なステージマナーを学ぶことができたのは、むしろ警官の方だったと言えよう。
***
刺激的なライブの後は、
ノーラ・レツェルによるソロライブ。
警官による挑発的なロックライブのパフォーマンスが先だったため、ノーラとしてはやりにくくさが若干あったものの、
「──【#うちで歌おう】!」
と、何もないステージの上からたった一声かけただけで観客から大きな歓声が上がったのは、予想外にうれしい出来事だった。
歌う曲は【TRY-D!】
実は今回、初お披露目となる。原曲の【TRY-R】を知っている観客がいたため、場内は大きな盛り上がりを見せた。
歌詞に合わせて【導きの双華】で花びらを舞わせ、サビの部分では【ブライトレスポンス】で観客に拍子を求めた。温かい拍手の中、ノーラは一体感を感じながら歌い続ける。
再び警官のターンとなったが、ノーラのペースにすっかり魅せられていたこともあってか、せっかくのロックもだんだん盛り上がらなくなってしまってきていた。
負けを認めたくない警官は必死だったが、ノーラだって負けるわけにはいかない。
警官がいわゆる「がなり声」で歌うスタイルならば、ノーラはサビ以外の部分を【神風のララバイ】で優しげに歌って、緩急をつけて曲そのものをじっくり聴いてもらえるように心がける。
盛り上がりすぎて疲れが見える観客には、【月光鐘の杖】の光を当ていったん落ち着いてもらうことにした。
【月魄の睡装】を発動すると、気が緩み過ぎたのか、今度は眠ってしまう観客も出始めた。
「寝てしまうくらいつまらないってことなんじゃない?──あなたのライブ!」
警官に煽られても、ノーラは動じない。
「あれ、今回の目的なんだっけ? ファンとの交流会じゃなかったような……。
──あ! えっと、グランスタのみんなとまた違ったライブを見せられたかな? またの機会をお待ちしているねぇ」
拍手の中、ノーラは歓声に応えてステージの上から手を振り続ける。最後の最後まで、どんな挑発にもひるむことなく、アイドルとしての姿を貫き通した姿は立派だ。
観客の反応が、どちらが勝ったのかを明らかに表していた。