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機械帝国攻略戦 その後

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機械帝国攻略戦 その後
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あくまでも食材




 二体目のクラーケンは、大方の予想通り再び姿を現した。
 しかし、その動きは先ほどまでのものと違い、一気に海岸へ向かおうとする動きを見せていた。
「……へぇ、無視するなんて」
 強敵であるヴァイスを避けての行動に見えなくもないが、とにかくヴァイスは無視されたことに多少の怒りを覚えたようだ。彼女はすぐにクラーケンを追いかける。
「それ以上は来させん……!」
 そう言って海岸で構えていたのは四柱 狭間だった。狭間は『稲妻の矢“雷霆の魔弾”』が装填された『ライトフィールドマークⅡ“LFAC”』に『精霊剣・火』を付与し、猛然と向かって来るクラーケンに対して引き金を引いた。
 凄まじい電撃と炎がクラーケンの周囲に迸る。あまりの威力に流石のクラーケンもその進行を止めたが、まだ倒れてはいない。
 動きを止めたクラーケンの背後から、ヴァイスは容赦なく襲い掛かる。怒ってはいてもやはり攻撃力は抑え目のようで、先ほどまでと同程度のダメージしか与えられていない。それでもクラーケンはたまらず一度海中に沈み、触手を伸ばしての攻撃を敢行する。
 狭間はそのまま銃を構え続け、海面が飛び出す触手を狙い撃つが、触手は動きが素早い上に不規則なため、なかなか照準が合わないという状況だ。
「おや、苦戦してるみたいだねぇ。ちょっとだけ支援しようか」
 これまで海岸で戦況を見守るに留まっていたリーシアが動く。といっても、直接攻撃するわけではなく、アイリーンと同様に冒険者への支援だけのようだ。
「リーシアさんではないですか? こんなところでお会いできるとは」
 リーシアが動いたことに気付き、近付いたのは戒・クレイルだった。
「よろしければ、また以前のように共闘願えませんか?」
「構わないが、攻撃術式は得意じゃなくてね。私は前にはでないよ」
「えぇ、後ろから支えてくださるだけで結構です。彩、リーシアさんのことは任せましたよ」
「リーシア様、こちらへ」
 パートナーの志那都 彩は戒の指示を受けると、すぐに『オータスシェルター』を展開。リーシアとともに海岸にいる仲間たちを結界の中に入れ、防御を固めた。
「こりゃ、至れり尽くせりだね」
 気分を良くしたのか、リーシアは冒険者への支援を更に強める。戒はそんなリーシアの支援を一層強く受けると、その場から『機装:ライトニングランス“蒼爆のコンセンタ”』を振るい、『機導【蒼浸炎】』を実行。『CC:エルプトコア』と『機導式【衝撃波】』、そして『機導式【浸透Ⅰ】』が組み込まれたこの機導はクラーケンの触手の周囲で爆ぜ、その衝撃波と炎でダメージを与える。
 戒の攻撃で動きを多少鈍らせたところに、狭間の強烈な銃撃が触手を貫く。たまらずクラーケンが触手を海中に引っ込めるが、その動きを見て戒は海に飛び込み『海中戦闘』に移行する。
 クラーケンの耐久力的に、戦闘が進めば必ず海中での戦闘になると呼んでいた戒にとって、これは想定内の展開だ。クラーケンにとっては陸上生物である人間が不利な水中での勝負を仕掛けてくるとは思っていないだろう。そう言った不意を打つことも、狙いの一つだった。
 そしてその予想通り、クラーケンは海中で傷を癒すことに集中している様子だ。そこへ、蒼爆のコンセンタを構えた戒はクラーケンの側に接近すると、『機導【蒼水雷】』を実行。雷と炎による爆発を一点に集中させた強力な一撃を、クラーケンの胴体に見舞おうとする。
 だが、クラーケンは寸でのところで戒の接近に気付き、吸い込んだ海水を一気に噴出することで戒との距離を一気に開けることで戒の一撃を躱しつつ、凄まじい勢いの海流に戒を巻き込んだ。
(……やはり、ただのクラーケンではありませんね)
 一度態勢を立て直すべく海から出た戒は、再び海岸で迎撃態勢を取る。
 再び現れたクラーケンは未だ戦意を衰えさせることなく、海岸を目指そうとする。その前に立ちはだかるのはカリンとヴァイスだが、両者の連携は驚くほどギクシャクしたものだった。先ほどクロウと恐ろしく見事な連携を取ったヴァイスからは考えられないちぐはぐさだ。
 その理由は、ヴァイスにカリンと合わせる気がないからだ。桐ヶ谷 遥は一目でそのことに気付いた。
「一応危険な魔獣なんだから2人だけで張り合ってないで冒険者らしく少しは回りと連携したらどうなのよ。その上でどっちが倒したか競えばいいでしょう。というわけで、2人を援護させてもらっていいかしら?」
 遥は戦闘を繰り広げる二人に対し、強引に話を通そうとする。
「競っているのだから、協力しちゃったら勝負の結果が歪まない?」
「こんな小娘の協力なんかいらないっての!」
「小娘って、わたしの方がずっと年上よ!」
 ヴァイスは正論で、カリンは感情的に、各々が遥の申し出を断った。
「それじゃあこういうのはどう? わたし、これでもナイトロードを討った“剣聖”なんだけど、共闘してみたくならない?」
 遥はそう言うと、『真説・聖剣グロリアス』の力を解放。光の刃を表し、二人に見せる。
「それは面白そうね。いいわ、冒険者同士の連携ってヤツを見せてやるわよ」
「え!? そんな簡単に掌返すの!?」
 カリンは尚も納得がいかない様子だが、この場ではヴァイスさえ説得できればいい。恐らく、ヴァイスはカリンと遥と完璧に合わせて見せるだろう。
「オーケー、話は纏まったわね。わたしは防御を担当するから、二人は隙を突いて」
 短くそう言うと、遥は上陸する寸前まで迫っていたクラーケンへの攻撃を開始する。遥はすぐにクラーケンの触手による猛攻に苛まれるが、得意の防御態勢に『クローズプロテクション』を用い、剣技による反撃を同時に行っている。
 カリンとヴァイスは突然動き出した遥に合わせ、クラーケンの横合いから斬りかかる。狙いは、遥を攻撃する触手だ。
「なんや、案外連携取れてるやん! ちゅーことで戦いはリズムよ、リズム!」
 そう言うとロージィ・パラディースは『息吹の竪琴』を掻き鳴らし、『ラプソディア』で引用した『アクア・パルティータ』や『リチェルカ』を演奏し、仲間たちを支援する。
 ロージィの演奏は、その効果に加えて彼女の言う通り連携にリズムを生じさせる。どちらが合わせるでもなく自然と呼吸が合い始め、まるで演舞のような戦闘を繰り広げられている。
「つっても、気は抜けねえ。万が一に備えて、オレはいつも通り守りを固めるぜ」
 同じく後方で構えるアルフレッド・エイガーは『オータスシェルター』を展開し、クラーケンが万が一こちらに攻撃してきた場合に備えている。
 回復も勿論、最も傷を負いやすい遥に『ヒーリングブレス』を準備しておき、念のため『守護光壁』を適時付与するなど、きめ細かな援護を絶えず行っている。
 アルフレッドの活躍は、アタッカーにとって気付きにくいものだ。しかし、ヴァイスは時折アルフレッドを横目で見ている。どうやら激闘の中でカリン、遥との連携を意識しながらも後方から飛んでくる支援の手にも気が付いているようだ。
 こうしてみると、ヴァイスは異常なまでに戦場を把握する能力に長けている。アルフレッドはその姿を頼もしく思う反面、仮に背後から不意を打ったとしても、上手く行かないだろうと戦慄する。
 だが、今は味方だ。アルフレッドはヴァイスに対しても支援の手を緩めず、支え続ける。
「ここまでは上手く連携が取れているな。このまま、やり切れるか……?」
 レベッカ・ベーレンドルフもまた、そんなヴァイスの動きを見ていたが、ヴァイスを仮想敵としてシミュレーションを行うほどの余裕は無かった。遥には『機導式【硬化Ⅱ】』や『機導式【魔力補給Ⅱ】』などの支援を行いつつ、全ての仲間たちには『レディオアラート』による機装のチェックを行っている。直接戦闘を行わないレベッカが、最も動き回っていると言っても過言ではない。
「ロワ、そろそろ狙い時だ。クラーケンが動きを鈍らせ始めたぞ」
「了解だ。あのタコ? イカ野郎を、鮮度そのままに凍らせてやる!」
 レベッカからの指示を受けたロワ・エレマンは『機装:ツァオバースタープ“氷雷の魔杖”』を振るうと、ヴァイスやカリンの攻撃で動きが鈍った触手を狙って『機導【氷結迅雷】』を放った。『機導式【氷結Ⅰ】』や『機導式【水雷】』、更には『機導式【砂牢】』などが組み込まれたロワの起動は、触手の一つに炸裂したかと思うと、その表面を凍結させる。
 しかし、本来ならば動きを完全に止められるほどの凍結効果を発揮するところなのだが、クラーケンに現れた効果は表面が少し凍った程度だ。
「チッ、流石に浅いか……! だが、十分だろ、サムライガール!」
「えぇ、十分よ……!」
 表面を凍らされた触手に対し、遥は一気に踏み込むと強烈な斬撃を見舞う。表面のぬめりが凍結によって無くなったため、遥の斬撃は容易にクラーケンの触手を切断した。
「よしっ!」
 この攻撃方法はクラーケンに対して十分に通用する。このまま地道に攻めれば、クラーケンを撃破ないし撃退できるはずだ。
 しかし、触手を一本失ったことでクラーケンは後退する。遥も海上や海中を行く準備が足りていないため、これ以上深くは攻め込めない。両者の決着は先送りとなってしまった。
「そう、その距離だ」
 ユファラス・ディア・ラナフィーネは『ドレッドノート・ライト』で距離を取ったクラーケンに追撃を加え始める。砲撃の威力は凄まじく、クラーケンはその巨体であっても受けるのは危険と判断したのか海中に潜る。
 だが、クラーケンは既にユファラスの『エイミングマーク』に捉えられており、海中に潜っていようがどの当たりにいるか把握されている。そしてその動きを追えば、クラーケンの狙いは一目瞭然だった。
「ユファ、来るぜ!」
 パートナーの精霊、レオーネ・オルダーニが警戒を促すとユファラスの前に立ちはだかり防御態勢を取る。
 しかしその狙いは身を挺してユファラスを守ることではなく、クラーケンが姿を現した瞬間に狙い撃つためだ。既に『コネクトスピリット』で魔力を活性化させているレオーネは『冷海の氷銃“グランディネ”』に『精霊剣・水』を付与して冷気を纏わせ、準備を整えていた。
 そして、予想通りクラーケンが海岸付近まで伸ばした触手を海中から現したその瞬間、レオーネはグランディネの引き金を引く。
 冷気を受けた弾丸を広範囲に浴びたクラーケンは、再びその動きを鈍らせる。
「爆ぜろ……!」
 そして動きを鈍らせたクラーケンに対し、ユファラスは容赦なくドレッドノート・ライトによる砲撃を加える。強烈な爆発によりクラーケンが伸ばした触手は吹き飛び、あまりのダメージにたまらずクラーケンが海中から現れ敵を直接目視する。そして、怒りに満ちた目でユファラスを捉えようと接近して来る。
「……あぁ、オレにはそれが一番キツいんだよな。ってことで、切り札だ!」
 ユファラスは近寄られれば終わりと判断していたため、瞬時に切り札を切る覚悟を決めると、『ダークスティンガー』を実行。クラーケンが強靭な身体を持ち、攻撃を受け流す性質の体表をしていたとしても、掠りさえすれば致命的な効果を与えられる大技だ。
 この一撃を、クラーケンはまともに受けた。身体が見る見る内に蝕まれていき、クラーケンは当たり構わず大暴れを始める。
「仕留めないと、危ういか」
 そう言って『紅き鳳凰』を構え、『セイクリッドアロー』を番えたのは遠近 千羽矢だ。千羽矢は乱れに乱れたクラーケンの魔力を『マギアビジョン』で感知し、より一層不規則になった動きを見極めることに集中する。その上で『ホークアサルト』を実行することである程度クラーケンの動きを縛り、コントロールする。
(解毒に、俺の炎は有効だろうか……いつもより少し力を込めよう)
 千羽矢は弓を引く手に力を籠め、『デッドマスター』を実行。炎を纏った千羽矢の矢はクラーケンの頭部を貫き、その身体を炎で包む。
「まだです! この火力では全ての毒は抜けていないはず!」
 千羽矢の一撃は明らかに致命的だったはずだが、ルキナ・クレマティスは更なる追撃を加えようと『機装:ジフィの書“熾機書クレマシオン”』を開き、『エクレスローブ』で術式の出力を上げる。そうした上で『機導式【火炎Ⅱ】』や『機導式【旋風Ⅱ】』を組み込んだ『機導【劫炎嵐】』を実行。もはや死に体となっていたクラーケンを、火炎の竜巻に閉ざす。
「これだけやれば……!」
「あぁ、きっとダークスティンガーの毒は抜けたはずだ」
 千羽矢とルキナの攻撃が異様に苛烈だったのは、倒したクラーケンを食料として回収することを考えていたためだ。
「なぁ、オレ、もしかして余計なことしたか?」
 ユファラスが申し訳なさそうに千羽矢とルキナに問う。
「いや、倒すなら有効な一撃だった」
「我々が行ったのは、単なる調理です」
 あれほど強力だったクラーケンは、最終的に冒険者の食い意地により撃破されてしまった。
 こうして、バカンスに現れた不運なクラーケンは冒険者によって退治されたのだった。

「アガサ様、仕留めたクラーケンですが、浄化の必要があるでしょうか。必要でしたら浄化をお願いしたいのですが」
 戦いのあと、ルキナはアガサにクラーケンの浄化を依頼する。
「見たところ、そのクラーケンは浄化の炎によってよく焼けているようです。毒性もなくなってますし、そのまま食べられますよ」
「そうでしたか。よく焼いた甲斐があったというものです」
 ルキナはそう言うと、食べやすいサイズにクラーケンを切り分け始める。
「……この機会に、アガサ様のことを知れたらと思うのですが」
「構いません。答えられる範囲でお答えしましょう」
「ありがとうございます! それでは……アガサ様の見習い時代は、どのようなものだったのでしょうか? また、ウェール教国の風土や文化もお聞きできれば」
 ルキナは質問を許されたことで、物怖じせずに問う。
「修行の事は他言するなと先代から言われおりますので……」
 アガサは自身の修行については口を閉ざす。
「教国は全員が熱心な輝神教徒だと思われてますが、信仰心の篤さには結構な開きがあります……信仰心が篤くとも、教義を曲解して人道を踏み外すことも度々あるくらいですから。悪いところではないですよ。市民の生活環境はおそらく大陸でも最も良質だと言えます」
 続く言葉で、アガサはウェール聖国について語った。
「本家本元であるかの国でも、そういうことがあるのですね……ありがとうございます、アガサ様。この度はとても良いお話が聞けました」
 ルキナは丁寧にお辞儀をすると、その場を後にした。

 戒は戦闘のあと、すぐにリーシアと話をしていた。
「今回のクラーケン、普通ではなかったように思います。ヴァイスさんの影響と見ますが、リーシアさんはどう思いますか」
「クラーケンを引き付けたのが彼女かどうかはわからないね」
 リーシアは戒の質問に対し、すっぱりと答える。
「ただ、彼女は紛れもない異物で、人界と魔界に分かれたこの世界の現状を変え得る存在になることは確かだよ」
「……そこまでの存在ですか」
 ヴァイスに対するリーシアの印象、評価というものは、戒の想像を遥かに超えていた。だが、信じられないことではないと戒も考えている。
「変えた先が良い方向を向くか、悪い方向を向くかは……やっぱりわからないけどね。風向きによるとしか」
 リーシアであってもヴァイスという存在は読み切れない存在なのだ。底の深さを感じ、戒は漠然とした危機感を覚えるのだった。

 そんなヴァイスと話しているのは遥だ。
「ご苦労様。力を合わせるって言うのも、悪くはなかったでしょう?」
「まぁね。でも、仕留めたのはわたしでもあの子でもないし、これって勝負はお預けってこと?」
「力を合わせて戦えば、そういう時もあるわ」
 まるで幼子を嗜めるように、遥は言う。ヴァイスは遥のそんな態度が気にくわないようだ。
「……ねぇ、ヴァイス。あなたはこの世界で何をしたいの?」
 僅かに空いた会話の合間に、遥はそんな質問をした。
 恐らく、ヴァイスの実力は魔王に比肩する。彼女に野望があれば、成せないことのほうが少ないだろう。
 そんな彼女の、今の目的は知っておかねばならない。
「人界を滅ぼすとか、世界を支配するとか、そう言う気はないわよ。ナイトロードに乗ったのは面白そうと思ったってだけ」
 その言葉に、遥は少し安心した。世界をひっくり返すタイミングを狙い、教会に取り入ったのではないかという懸念があったからだ。もっとも、その言葉を完全に信用はできないが、表情を見るに嘘とは思えなかった。
「そうね……“助けたい奴がいる”って言われたから、そいつの手伝いかしら」
「……それは、誰なの?」
「話はここまで! クラーケンを食べ尽くすわよ!」
 最後の最後ではぐらかされてしまった遥だったが、それ以上追及する気になれなかった。恐らく、これ以上聞いても彼女は決して答えないだろう。

 ようやくバカンスを過ごせるようになった冒険者は、日々の忙しさを忘れ、海を楽しむのだった。

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