ティータイム
「まあ、本来であれば、積極的にゴールデンミズギを探すべきなのだろうがな。慌てることなく、この場でまずはお茶会というのはどうだろうか」
ほとんど素肌のような水着姿で密林に探索に出かけるなんて、常識から言ったらNGだと、
夏輝・リドホルムが肩をすくめた。
まして、一緒に来た
神野羽生嬢を連れてなどとは、言語道断である。
まあ、ハウ本人の方は、久しぶりに何かを吹き飛ばせるのであれば、ストレス解消にちょうどいいと思っていそうだが。
そして、そのハウの方はといえば、なぜかここでもメイド服姿である。とはいえ、セクシーなフレンチメイドに似た、やたらと丈が短いメイド服ではあるのだが……。おもわず、夏輝・リドホルムが、ハウのスタイルのよさに目を奪われる。
「失礼な、これは、れっきとした水着ですのよ」
なんだか、エロい格好のように言われて、ハウがちょっぴり頬を膨らませて言い返した。むすっとした顔もかわいい。
「
いや、あまりに羽生嬢の魅力を際立たせているので、つい目を奪われただけだ」
お詫びも兼ねつつ、夏輝・リドホルムが、海の家の屋外席の一つでお茶会の準備を進める。とはいえ、上品な物ではなく、海辺のキャンプという雰囲気の楽しくワイルドなお茶会だ。
その辺の石を組み合わせて作った竈の上には、夏輝・リドホルムがワールドホライゾンの金物屋から買ってきた雪平鍋がおかれている。氷炎で生み出した氷が鍋に入り、竈の炎でお湯へと沸かされていった。
まあ、ワイルドと言っても湯沸かしだけであって、肝心のお茶の方は高級ティーセットを使って用意されている。お茶のお供は、マドレーヌだ。
お茶に目のない、というよりは、お茶を飲んでいないと死んでしまうと豪語するハウは、優雅な仕草で嗜んでいる。
「ゴールデンミズギというのも、ハウ嬢が着れば趣があるとは思うんだが、いかんせん、この格好で密林に入って探せというのはな」
夏輝・リドホルムが、ゴールデンミズギを探しにいかない理由をハウに告げる。夏輝・リドホルムも、オーシャンウィスパー一丁なので、草木の茂っている密林に入れば、ひっかき傷などは免れないだろう。まして、ハウの肌にそんな傷をつけるわけにはいかない。
「まあ、気にならないと言えば嘘ですけれど、わたくしとしては、やはり海ですわね」
ティアマトを宿すハウとしては、やはり水のある場所の方が心地よい。
「そういえば、風の噂に聞いたんだが、家ではかなりラフな格好、
ズバリ、ジャージを愛用していると聞いたんだが」
何か話題はないかと、夏輝・リドホルムが切り出した。
「そういうところですわよ」
無粋ですわと言いたげに、ハウがごまかした。
「
いや、すまない。親しみやすいなと感じたんだが」
素早く弁解する夏輝・リドホルムに、噂の出所には後できっちりフルドレスの標的になってもらおうと考えるハウなのであった。
メガロブスターって
「ふう、食った食った」
「お粗末様でした」
用意した麻辣餃子と小玉すいかポンチを平らげた
王大鋸に、
月見里 迦耶がにっこりと微笑んで言った。
「さてと、腹ごしらえがすんだら、本命のお宝探しだぜえい」
愛用の血煙爪を引っ張り出しながら、王大鋸がフンスと身構える。
「わあ、格好いいです。王さんのその水着姿なら、きっとゴールデンミズギも見とれて近づいてくるに決まってます」
月見里迦耶としては、本心からのべた褒めであるのだが。なにせ、パラ実生の水着である。ブーメランパンツにプロテクターがついた実にワイルドな物だ。そのほかにも、足や腕に鋲のついたベルトを巻いている。
「でも、そのお身体の傷、痛みませんか?」
王大鋸の全身に縦横に走る傷跡を見て、月見里迦耶が心配そうに訊ねた。
「はん、傷は男の勲章よ」
むしろ、箔がついて誇らしいと王大鋸が自慢した。
それに対して、月見里迦耶の
アニマルスイムウェアは、イルカをモチーフとした実にかわいらしいものだ。水着と言うには薄手のワンピースに近く、エンジェルスリープにはデルフィニウムの花の意匠があしらわれ、スカートの裾はイルカの尾のようにしなやかにのびていた。
「うーん、ゴールデンミズギが寄ってくるとしたら、オレより、オマエの方じゃねえのか?」
月見里迦耶の水着姿をしげしげと見て、王大鋸が言った。
「そうですか!? じゃあ、探してみますね」
嬉しそうに答えると、月見里迦耶はソーラーウイングを使って海の上を捜索しにいった。ゴールデンミズギと言うからには、海にいそうである。もしいれば、月見里迦耶の水着姿に誘われて寄ってくるかもしれない。たとえ自分には魅力がなくとも、王大鋸の水着姿には魅せられて寄ってくるに違いないとかたくなに信じている月見里迦耶であった。
「おーい、どうだあ?」
ビーチから、王大鋸が手を振る。
「うーん、ここにはいないみたいです……」
いったん諦めて戻ろうとしたときであった。月見里迦耶を追いかけるようにして波飛沫が海面に立ち、メガロブスターが姿を現したのだ。
『キシャー!!』
「ああ、ダメですよ、人を襲っては。みんな仲良く。どうです、お茶でも御一緒いたしませんか?」
争いを好まない月見里迦耶が、人心説得を試みる。だが、相手は所詮はモンスターである。月見里迦耶の言葉を無視すると、メガロブスターは襲いかかってきた。
「王さん、逃げてください!」
慌てて、月見里迦耶が陸の方へと飛んで逃げる。それを追うメガロブスターが、月見里迦耶の真夏のマーメイドの効果か、ふらっと体勢を崩した。
「よくやった。ヒャッハー! 獲物だぜ!」
月見里迦耶の言葉を無視して海に突っ込んできた王大鋸が、血煙爪を振り下ろす。ソニックブレードで浅瀬の水が真っ二つに割れ、その先にいるメガロブスターも真っ二つになった。
「よし、食材ゲットだぜ。大丈夫か?」
倒したメガロブスターを回収した王大鋸が、月見里迦耶に訊ねた。
月見里迦耶としては、メガロブスターはかわいそうだったが、王大鋸の格好いい姿を見られたのでよしとする。
食材と言ってはいた王大鋸だが、月見里迦耶と同じく、お腹はもう一杯だったので、そのまま田中是空に引き渡すことにした。
「まあ、海は奴みてえなのがいるようだし、しばらくは寝っ転がってお宝を待つとしようか」
そう言うと、月見里迦耶の側で、砂浜に寝っ転がる王大鋸であった。
初めての水着
「さあて、そろそろかな」
海の家のベンチで待ちくたびれていた
結笹 紗菜は、気もそぞろに更衣室の方へチラチラと目を遣っていた。
最愛の
奥莉緒が、現在更衣室で水着に着替えているのだ。結笹紗菜は、それを待っているのだった。
そんな結笹紗菜は、フェスタの学校指定水着をアレンジした
青いチェック柄のワンピース水着を着ていた。肩紐の胸元には白い薔薇の飾りがあしらわれ、同じく白のチェックとフリルとリボンが清楚さを醸し出している。左太もものチェック柄のガーターベルトだけは、ちょっと大人っぽい。頭には、リボンのついたひまわりの髪飾りを右横につけている。
自分と比べて、奥莉緒はどんな水着を着て姿を現すのだろうかと想像しようとして、結笹紗菜はハタと気がついた。自分は、未だに奥莉緒の水着姿を見たことがなかったのだ。
これは、単にそのチャンスがなかったということなのだろうか。いや、海に遊びにいったことは何度かあったはずだ。奥莉緒の性格を考えると、単に恥ずかしがっているだけかもしれないが。あるいは、自分の水着姿に自信がないのだろうか。それを言ったら、結笹紗菜の方だって、他人に自慢できるほどのスタイルというわけではない。
ゴールデンミズギは自信を持つ者の前にしか現れないようだけれど、まあ、別にどうでもいい。水着に着られてもしょうがないことだ。肝心なのは、水着よりも中身の方だ。
だからこそ、奥莉緒の水着姿は見てみたい。そして、いつか、自分がデザインした水着を着てもらいたい。そう思う、結笹紗菜であった。
「お待たせ~」
やっと更衣室から出てきた奥莉緒の声に、物思いにふけっていた結笹紗菜は、顔を上げてそちらを振り返った。
スイカ割り
「ビーチで遊ぶ前には、しっかり準備運動しないとね!」
高原瀬蓮と組んでしっかり準備運動をしながら、
小鳥遊 美羽が言った。海に入ったり、砂浜を走ったりするには、十分なストレッチで身体をほぐしておかないと、思わぬ怪我に繋がることもある。やはり、事前準備は重要だ。
小鳥遊美羽は蒼空学園の指定水着を着て来ていた。白地にスカイブルーのラインがおしゃれで、胸元でクロスするチューブトップに、V字型のボトムという、結構スタイリッシュな水着でもある。
高橋瀬蓮は、百合園女学院の指定水着だ。白に紺のワンピースで、胸元のフリルや腰にあしらわれたリボンが、清楚なお嬢様感を表している。
「瀬蓮ちゃんの水着姿、すっごくかわいいよ! これならゴールデンミズギが瀬蓮ちゃんの所に来ちゃうかも♪」
いかにも学生らしいかわいさをにじませる高橋瀬蓮の水着姿を、小鳥遊美羽がべた褒めした。
「えへへ、そうかなあ」
褒めちぎられて、まんざらでもなさそうに高橋瀬蓮が笑った。それを見て、うん、いい笑顔で笑えるようになったねと、小鳥遊美羽は感慨深い。ここにいる間は、パラミタでの大変だったことは忘れて楽しんでほしい。
さて、準備運動も終われば、後は遊ぶだけだ。
ひとしきり波打ち際で波と追いかけっこした後は、お楽しみのスイカ割りだ。
「こっちだよー♪」
「そっちねー♪ スイカ、スイカ、スイカ……星断ノ太刀!!」
高原瀬蓮の誘導で、目隠しした小鳥遊美羽がスイカに精神を集中して、光条兵器を目にもとまらない速さで振り下ろす。
「どうだった?」
目隠しをとった小鳥遊美羽が、ターゲットだったスイカを確かめた。
丸い。なんだか、変化がない。
外した?
残念と思った次の瞬間、スイカが綺麗に真っ二つに割れた。光条兵器が、あまりに薄い太刀筋で切断したため、スイカが切られたことに気づいていなかった……らしい。
次は、高橋瀬蓮の番だ。
「大丈夫だよ、私がちゃんと瀬蓮ちゃんを誘導するからね」
小鳥遊美羽の誘導で、高原瀬蓮が木の棒を打ち下ろす。
パーンという音と共に、スイカが六つに砕け散った。粉砕である。
「うん、これはこれで食べやすい大きさ」
小鳥遊美羽がフォローしようとする間にも、光の速さで田中是空が破片を拾って回収していった。
「ああ、こら!」
小鳥遊美羽たちが怒るが、すでに手遅れだ。
「拾った物は、俺の物だな。――さあ、今ならバーベキューにスイカサービス中だ!」
商魂たくましい田中是空に、「関わっちゃいけない、関わっちゃいけない」と、呪文のようにつぶやく小鳥遊美羽たちであった。