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要塞鯱とミズギの怪

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要塞鯱とミズギの怪
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【1-5】

 賑やかな拠点とは少し離れた場所に入江があり、そこはちょっとしたプライベートビーチのような空間になっている。他方 優とフィオナは誰にも邪魔されず、ゆっくり二人の時間を楽しんでいた。
 どんな要望にも応えるべく、優はフィオナのために【スイカ割りセット】や【ダイビングセット】を用意している。
 フィオナにとってはスイカ割りは珍しかったようで、優がやり方を説明してやるとすぐに興味を持ってくれたようだ。目隠しをして棒を持ち、そろそろとスイカに近づいてゆくと──さすがのカンを生かしてか、一発でスイカに命中。しかし力が入りすぎてしまったのか、スイカは一網打尽である。

「もう少しそっと叩けばよかったですわね……」

 食べるところはなくなってしまったが、もう一つ予備のスイカを冷やしている。

「食べる時はあっちのスイカを使えばいいよ。フィオナさんが楽しかったなら、それでOKだからさ!」

「……何だか……思い返してみますと、わたくしはいつも強いところばかり見せているような……そんな気がいたしますわ」

 ふうとため息をついて、目隠しを外すフィオナ。

「どんなフィオナさんでも、フィオナさんであることに変わりはないから。俺は気にしてないよ?」

「それは【友人】としての意見ですの? それとも」

「え?」

 ……と言いかけたところで、背後の岩陰から突如現れたイジリチキンとメガロブスターがフィオナに近づこうとしていた。

「フィオナさん後ろ!!」

 優は咄嗟に【エターナルブレイブ】を使うと、【安寧のヴェール】でイジリチキンの罵倒からフィオナを守る。
 メガロブスターの攻撃は【鋼の皮膚】を発動させてから【アラウンドガード】で弾き飛ばしてしまう。

「フィオナさんには指一本触れさせないぞ……!」

 【アームズマスタリー】を使うと、【天雷の魔槍】を振り回して互いに間合いを取る。

「大丈夫ですわ。素手でも十分に戦えます」

 自分がただ守られるだけのか弱い存在ではないということを、フィオナ自身の戦いぶりがはっきりと証明してくれている。さすがは女王国アルカサスの女王だ。戦う時の所作でさえも美しく、力強い。
 後は任せておこう──と、優はフィオナの実力を信じて、最後まで自由に振る舞ってもらった。

「……これで、【友人】から一歩、前進できるかも知れませんわね」

 フィオナが汗を拭ったのと同時に、メガロブスターとイジリチキンはどさりと地面に突っ伏した。
 ──今、フィオナに言われたことを優がちゃんと理解するまでにはもうしばらく時間が必要になりそうだが、今はただ、ゆったりとした時間が二人の間に流れていた。

***

 紫月 幸人もキョウ·サワギと二人でゴールデンミズギを探しに来ているのだが、キョウの水着姿がまともに見られなくて先ほどからずっと挙動不審な状態だ。
 幸人が想像していたとおり、ワンピースタイプの可愛らしい水着は背中が大きく開いており、背骨のラインがとてもきれいに見えている。日除けのためにかぶっている麦わら帽子も全身のトータルバランスを考えてもちょうどいい大きさで、幸人が挙動不審になるのも無理はないくらいのかわいらしさを誇るキョウ。

「そそそそそそうだだだ、水着といえば噂のゴールデンミズギ....最も水着姿に自信のある者の元に現れる……って言ってたよねぇ」

「そうだな……」

「つまり、それって俺じゃないかな!?」

「な、なぜそう思う?」

「なぜかって……そんなの決まり切っている。この水着はキョウちゃんが俺のために作ってくれた水着だよ? そんなの最高最強絶対、アルティメット無敵に決まってるじゃん!!」

 そこまで水着を気に入ってくれているのは、キョウにとってもうれしいことだ。

「キョウちゃんの愛情パワーに勝るモノ無し!!!」

「私の水着だけでは物足りないということか……」

「ええええええ!? まさかそんなわけないよ!」
 ……あ、ところで、今日はランチ用に焼きチーズとかチーズフォンデュとか簡単に楽しめる市販のキット持ってきたけど、キョウちゃんいかが?」

「食べたい。ランチなら、私も準備を手伝うとしよう」

「海鮮物には勿論、野菜やお肉にも合うから意外と万能だよねー。是空君にも食わせてあげたいけど……どこ行ったのかな?」

「……ねぇ」

「え?」

「そろそろ……名前で呼んでみたいが……どう思う? 何て呼ばれたい?」

「え?え?」

 幸人はキョウが何を言っているのかすぐに理解できなかったが、耳元で名前を呼び捨てされた途端、キョウの息遣いも間近で感じてその場でひっくり返りそうになってしまった。
 それを見ていたキョウは笑いがこみ上げてきたが、波打ち際でキラキラと輝くものを見つけた途端、二人は同時に大声を上げた。

「見つけたー-------!!」

 幸運は、思いもよらぬタイミングで舞い込んでくるものだ。

***

 浜辺ではカガミ・クアールとD.Dがスイカ割りの準備を進めていた。
 カガミが着ている撮影用の水着セットは事務所が用意してくれたものだが、既製品ゆえに露出度が高めの三角ビキニで今にもほどけてしまいそうだ。四神の4色がモチーフになっているチャイナドレス風のラッシュガードも着ているが、気休め程度でしかない。

「改めまして~、カガミ・クアールと申します~。お好きな様にお呼び下さい~。前回はご一緒に料理をお作りさせて頂きましたけれど、今日はゆっくりと過ごしましょう~」

「よろしくお願いしまーす♪」

 カガミと浜辺でのんびりできるのは、D.Dにとっても非日常的な体験でいい気分転換になっているようだ。スイカを並べて鼻歌を歌い、砂の上を歩く足取りも軽やか。

「D.Dちゃんさまは、日焼け止め等は塗られていますか~?」

「もちろん、ママはばっちり対策済みですよ~」

「背中にぬりぬりしてもらってもいいですか~? 届かなくって……」

「もちろんです☆ ママにまっかせなさーい!」

 D.Dが日焼け止めを塗ろうとしたところへ、招かれざる客が登場した。
 ──イジリチキンだ。
 カガミとD.Dに何やら罵詈雑言を浴びせているが、二人ともいまひとつピンときていない模様。
むしろ、カガミに至っては【よしよし】であやそうとすらしている。

「この子~、機嫌が悪いのでしょうか~」

「おなかが空いているのかしらね~?」

 ハムスターの【ムース】は必死で危険度を告げているが、カガミもD.Dもそれほど恐怖は感じていないようだった。それほどどころではなく「全く」と言った方が適切だ。
 イジリチキンはバサバサと羽を広げて威嚇してみせるが、カガミは困ったような表情を浮かべている。

「んー、鳥用のエサは今は持ってないんですよ。スイカ食べますう~?」

 ──と、振り返った瞬間。
 緩んだ三角ビキニの紐がほどけて、カガミの上半身がイジリチキンの目の前で露わになる。

「あらあら~……困りましたね~、替えの水着を用意しませんと~」

「ママのスペア水着ならありますよ?……って、鳥さん大丈夫……?」

 何の攻撃もしていないのに、イジリチキンは静止したまま動かなくなってしまった。
 死んではいないようだが、何か衝撃的なものを見てしまったかのように硬直している。

「不思議ですねぇ~?」

 カガミはD.Dが貸してくれた水着を着て、再びスイカ割りの準備を始めた。
 ──イジリチキンはしばらくの間動けず、仕方なく浜辺に数時間放置されたのだった。

***

「……なんか、コイツ全然動かないんだけど……?」

 心美・フラウィアとルキア・フラウィアが水着姿で浜辺を歩いていると、なぜか全く動かないイジリチキンに遭遇した。心美は剣を構えたままゆっくりと近づき、カッコよくポーズを決めてみせる。だが、イジリチキンは動かない。今のうちに【ウィース・インカント】で魔力を強化しておく。
 ルキアが近づいた途端、イジリチキンは急に羽根を広げて二人を威嚇し始めた。
 心美が【イグニス・インカント】を自分とルキアの武器に付与して、炎の剣技で連携攻撃を仕掛ける。真紅の姉妹が織り成す炎の剣舞、この美しさを前にイジリチキンはひとたまりもないはず。

「もともと弱ってたのか、案外、あっさりやられてしまったな」

 苦戦しなかったことを逆に残念がるルキア。もう少し戦いを楽しみたかったが、食材にできるようなモンスターの強さはこの程度が限界なのだろう。
 その後も、油断することなく周囲の状況を【情況予測】で警戒する心美。念のため、【神格】ヤタガラスを飛ばして拠点周辺の捜索も行った。
拠点防衛と害敵駆逐に最も効率のいい立ち回りをその場その場で分析して、随時対応していこう。
 さきほどのイジリチキンとは違う別の個体とも戦ったが、どんなに罵詈雑言を浴びせられても【戦士の直感】で敵の実力とハッタリを確実に見抜き、決して取り乱すことなく対処していった。辺りが静かになった頃、ヤタガラスが何やら布のようなものをくわえて戻ってきた。

「……なんだこれ? タオルか?」

 ルキアが布のようなものを広げると、端に紐状のものがついていることに気がつく。

「ふんどし?──まさかこれがゴールデンミズギ……?」

 すぐには信じられなかったが、不自然なくらい金色に輝いているところを見ると、どうやらゴールデンミズギである可能性が高い。拠点に戻ってから確認することにして、いったん畳んでしまっておくことにした。こんなにあっさりと、しかもヤタガラスが持ち帰ったことに多少の違和感を感じつつ、心美とルキアは顔を見合わせて苦笑した。
 心美とルキアが協力すれば、たった二人だけでこの地域一帯のモンスターを全て狩ってしまいそうな、そんな余力さえ感じられるくらい今は自信に満ち溢れていた。

***

 ──【インスピレーション】による直感で他の特異者たちと協力して捜索を進めていた土方 伊織。 

「ん? 今何か聞こえた??」

 何やら歓声が聞こえたような気がして、アケルナルも耳を澄ましてみる。

「誰かがゴールデンミズギが見つかったのかも知れませんね……?」

「そんな簡単に見つかるといいんだけど」

 ゴールデンミズギは自分の水着姿に自信を持っていれば見つかりやすいと言われているが、確かなことは分からない。
 伊織はそこまで捜索にこだわってはいないものの、捜索自体をアケルナルに楽しんで貰って、そのついでに運良く見つかればラッキーかも知れないというくらいに考えているようだ。

「アケルナルお姉さまはすっごく、かっこよくってきれいさんなので~いつも通りに過ごして貰えれば、ゴールデンミズギの方から出てきてくれちゃうかも~なのですよ」

「伊織さんこそ、自分の水着姿に自信持ってね?」

 【水着】アカデミー男子用は派手には欠けるが、シンプルなデザインは伊織にとてもよく似合っている。
 二人はそのまま浅瀬で泳ぎ始めると、伊織は見事な【水泳法】をアケルナルの前で披露してみせた。持ってきた【釣り道具一式】でどちらが多くの魚を釣れるか競争もしてみる。結果はアケルナルの勝利。伊織は負けても今日はちっとも悔しくなかった。
 釣った魚は【家庭料理】や【調理知識:和】を使って伊織がその場で調理し、新鮮な魚をアケルナルと一緒にいただく。
 拠点への帰り道、メガロブスターやイジリチキンとも遭遇したが、伊織が【ピーシュチャラ】を使って振り払ったところへアケルナルがとどめを刺し、協力プレーで次々となぎ倒していった。

「さてそろそろ戻ろうか? これだけあれば大勢でバーベキューできるよね」

「そうですね……っていうかお姉さま、ハサミに気をつけてください」

 食べきれない量の食材を得た二人。捕えた一頭のメガロブスターのハサミの内側に光り輝くゴールデンミズギがはさまっているのに、伊織もアケルナルもまったくその存在に気づいていない。そのことは拠点に戻ってから判明するのだが、それほどまでに今日の二人の時間は充実していたのだった。

***

 等身大サイズの大きな凧が二つ、青空の中でゆらゆらと風で揺れているのを眩しそうに見上げるローラ・ペローとリズ・ロビィ
 デフォルメされた水着姿のローラが描かれている凧は、リズのものだ。【木工技術】と【トライアルツールセット】を駆使して、組み立てるとかなりの大きさになったが何とか空へ上げることができたのだった。
 ローラの凧にはおいしそうなケーキや果物の絵柄にビビッドなカラーが塗られていて、どこから見ても目立つ。ちょうどいい浜風が凧を空の大海へと導いてくれたため、時間はかかったが二人の満足いく結果が得られたようだ。

「なんか、久しぶりに二人の時間を過ごせたねー!」

「もしかして、クリスマスの時以来かも知れませんわね? リズさんとこんなにのんびりできているのは……」

「そ、そうかも? いやー時間が経つのって早いねぇ」

「ほんとに……」

 穏やかで心地良い空気が二人の間に流れている。
 ──凧揚げで汗をかいた後は、アロマを使ったリラックスタイムだ。
 【ギャザリングヘクスアビス】で作った天然の露天薬湯風呂を用意して、海を眺めながら少しの間だけ現実を忘れるリズとローラ。
 二人同時に「ふう」とため息をついたので、思わず笑い合ってしまった。

「わたくしたちって、何でもタイミングが同じになりますわね。凧も一緒に上がりましたし、お風呂で一息つくのも……」

「そうだねー、色々と似てくるのかな?」

「ふふ、親友とはそういうものなのかも知れませんわ」

 ローラの口からさらっと「親友」という言葉が出て、リズは少し照れたが、そのうち顔が緩みっぱなしになってしまった。

「はぁ~芸術家としての道は遠いさー……」

「ゆっくり進めばいいのですわ。急いでもよいことはありませんし」

 多くを語らずとも、近くで自分を理解してくれる親友がいる、仲間と思える人がいる。
 それだけで無敵になったようなこの不思議な感覚を、リズはこれからも決して忘れないだろう。
 お風呂でいい気分になった後は、腹ごしらえだ。浮遊サメのヒレを使ったスープをローラと一緒にいただく。
 食べて飲み込むタイミングまで同じで、二人の呼吸はこんなところでもピッタリだ。

「んー---うまいっ♪」

 天国に「飛べる」くらいの味に舌鼓を打って、リズとローラはリラックスした時間をいつまでも楽しんだのだった。
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