【1-4】
イペタム、
【使徒AI】鬼姫(コピー)と一緒に静かな森の中を進む
納屋 タヱ子。
イペタムは得体の知らない森の中へ入るのを渋ったのだが【レリクス】アメノオハバリを着たタヱ子はスプリガンのパワーで無理やり引っ張ってきてしまったのだった。
中には【オルディアンパレオ】を着込んでいる。
イペタムはしばらく不満そうな様子を見せていたが、だんだん慣れてきた今となっては鬼姫と一緒に先陣を切って進んでいる。
「待ってください~もう少しゆっくり……」
森の中では何度もメガロブスターやイジリチキンに遭遇したが、タヱ子が【妖包丁・國幸】でどんどん食材に変化させていった。特にメガロブスターにはまず必殺の閃【星素】5【Rs】を一度食らわせてから食材にするので、取り扱いが楽だった。
鬼姫はイペタムと協力して食材を集め、ついでに木の実や虫までも捕獲を始めたが、匂いをかいでさすがに食べられないと判断したものは逃がしてやっている。作業は手当たり次第、機械的に見えるがちゃんと食べきれる分だけを採取し、乱獲はしないのが鬼姫だ。
どこからか逃げてきた腹いせなのか、突然襲いかかってきたイジリチキンの陰湿な弄りはまずタヱ子が【レイヤーオブアバターズ】で耐えてから、イペタムが怯みそうになると【チアリング】で応援してモチベーションをキープしようと努めた。
それから【食神降臨】で巨大化すると、
「この島で1番胸が大きいのはわたしです!!!」
最大級の自信を持ってイジリチキンに立ち向かう。数十人分の食料に匹敵するほどのイジリチキンを食材にしてしまったところへ、鬼姫とイペタムがキラキラと輝くものを持ってきた。
「……これって、ゴールデンミズギですかね?」
これは拠点に戻ってから、誰かにはいてもらえばいい。
ビキニパンツのように見えるゴールデンミズギを丁寧に畳んで、タヱ子たちは帰途につく。 ──暗い森の中で、光るゴールデンミズギはライトの代わりとなり、意外な使い道として活躍したのだった。
***
探索用であるにも関わらず、普通の水着よりもずっとセクシーに見える【サマーエンジェル】を着こなした
リーニャ・クラフレットは、REIKAこと天歌院玲花と二人でゴールデンミズギを求めてあちこちを歩き回っていた。不要な戦闘は避けつつ、体力の消耗を最低限におさえているためかなり長時間移動し続けている。
どうしても避けきれないメガロブスターとの戦闘時は、リーニャが【顔面国宝】で一瞬動きを止めてから【清き水龍】で水龍の幻影を飛ばしてそのまま逃げ切った。
小回りはあまりきかないが【ツバサレゾナンス】で飛ぶことによってメガロブスターからも逃れられ、更には木の上からもゴールデンミズギを探すことができる。これで一気に視界が広がり、今まで見えなかったものが見えるようになった。
「……あそこに光るものが見えますわ」
玲花が指差す方向には鳥の巣のようなものがあった。
その中にぴかぴかと光る「何か」が見える。リーニャがゆっくりと近づくと、輝く布が丸められて中にすっぽり収まっていた。
「ゴールデン……ミズギ?」
辺りを見回してからリーニャが布をつまんで取り出すと、それはワンピースタイプのゴールデンミズギだった。見つけてもらえてうれしそうにしている。
逃げるが勝ち──まさにそのとおりになったのだが、時には視点を変えてみることも必要なのだということをリーニャと玲花は改めて知ったのだった。
「あ、あのね、REIKAさん……探索も終わったし、最後に1個だけお願いがあって……」
「何ですの?」
「その、改めてなんだけど、私とお友達になって欲しいの!!
えっとね、色んな時に呼んで、ライブしたり、遊んだりしてたけど……そういえばちゃんとお友達になって欲しいって言ってなかったなあって……どうかな?」
「……わたくし、あなたが思うよりもずっと以前から、お友達同士だって勝手に思っていたのですけど……違いましたの?」
「えっ、そ、そうなの? それなら、うん、ずっと、ずっと友達同士だったっていうこと?」
「そうですわ……もうずっと前から、わたくしたちとっくにお友達ですわ。むしろ──親友になっていただきたいのですけど? だめかしら」
ぶんぶんと顔を横に振って、リーニャは両手で顔を覆う。
「うれしい……ありがとうREIKAさん……」
「お礼を言うのはこちらですわ。今日はとっても楽しかったですし……まだまだこれから、バーベキューがわたくしたちを待っていますわよ♪」
二人は笑い合って、拠点を目指し再び飛び立っていく。途中、ゴールデンミズギをどちらが着るかという話題になったが、結局、どちらが着るのか決まらないまま到着したのだった。
***
戦戯嘘と結婚したばかりの
戦戯 シャーロット。
【ハイカラさん】でアレンジした【サマーアドベンチャー】を着こなしてセクシーさを演出しつつ、鍛えた腹部を大胆に見せることで嘘を悩殺しようと迫ってみせる。
「ボクの水着……どうかな? いつもよりセクシーっしょ♪
んふふ、ボクはうそちゃんのお嫁さんだからね。それ以外も好きにしていいんだよ?」
「んじゃあねぇ……お言葉に甘えて、おなかツンツンしちゃうんだもん♪」
「んぎゃー---やめてぇぇぇ」
腹部をつつくところから始まった二人のじゃれ合いは、やがて嘘がシャーロットの体をこちょこちょとくすぐる方向へ。
「まいりましたぁ~~! 降参!」
さんざん笑い合った二人。顔を見合わせると、また笑いがこみ上げてきてしまう。
「っていうか、うそちゃんの水着姿もすっごいかわいい~♪ 【サードダンス】でお揃いにしちゃいたいくらいだにゃー」
ようやく笑いがおさまったシャーロット。
「去年はうそちゃんが忙しくて海で遊べなかったけど、今年は一緒できて、ほんと幸せなんだよ?」
体を寄せて、嘘にぴったりとくっついてみせる。ここは周囲に誰もいない、もはや二人だけの世界──。
「ごめんね、そんなふうに思わせちゃって……」
「謝らなくていいよ。お互い売れっ子なのは仕方ないし、むしろアイドルたるもの、お互いの魅力で周りを魅了してまわるのにゃ~♪ でもでも、うそちゃんの一番はボクだかんね♪
そこは誰にも譲らないしあげないもん! 結構、ボク独占欲強いから覚悟してね!」
「……んふふ、それは私も同じだもん」
手をつないで、嘘とシャーロットが密林の中を歩いていくと待ち構えていたかのようにメガロブスターとイジリチキンが現れた。
二人は特に何の打ち合わせもしていなかったが、シャーロットが【トワイライトブレイカー】を使ってから嘘と共に【ロードフォアミー】を発動した。鬱蒼とした密林は、シャーロットが思い描いたお菓子の森へと姿を変えてしまう。
イジリチキンが精一杯の嫌がらせをしてみせるが、
「え? なぁに、ニワトリちゃん? 2人そろって胸がなくてガキっぽい?
ちっちっち、ボクらはこの妖精味がウリっての分かってないねぇ」
【レイヤーオブアバターズ】によって精神耐性が上がっているため、どんな戯言もシャーロットには届かない。更に【2人は☆アイドル♪】を歌うことで、嘘にも精神耐性を付与する。
「それはそうとして……ボクの旦那様なうそちゃんをバカにした報いは受けてもらうね♪」
極めつけの【ツリーオブライフ】を発動すると、蔓や根がたちまちイジリチキンを捕えたしまった。
「ボクらはアイドル、最強☆無敵♪ 女の子は守られてなきゃいけないなんてそんなの絶対つまんない! 受けろ、必殺のえくすかりばぁーー!」
再び、嘘と一緒に【ロードフォアミー】を仕掛けた。しばらくして、動けなくなったイジリチキンのどさりと落下する音が辺りに響き渡る。
「にゃははは♪ うそちゃんもほんと強くなったよね。
守るだけじゃなく、守ってもらえる……一緒に無茶できるの楽しくて幸せだよ」
「うん、だって私たち……家族だもん。一緒におばかさんになったり、色んなことをいっぱい協力したりするんだよ」
「分かった。これからもずっと一緒にいて欲しいな……約束……だよ!」
二人はかたい指切りをして、再び手をつないだ。
「──あれ、てゆか何しにここに来たんだっけ? えっと~、ん~? まぁいっか♪」
シャーロットは気絶したイジリチキンを捕獲すると、嘘と一緒に拠点まで持って帰ったのだが、そこで初めてゴールデンミズギの存在を二人で忘れていたことに気づいて爆笑したのだった。
「……うそちゃんとおさんぽすっごく楽しかったから、それでいーのだっ♪」
もちろん嘘も、シャーロットと同じ思いだ。
***
一方、ようやく完成した拠点では、
行坂 貫と
行坂 詩歌が真蛇とゴールデンミズギを捜索しに行く準備を始めていた。
「……ほら、海ではらしい格好しとけ」
と、【サマーアドベンチャー】を真蛇に放り投げる貫。口調はぶっきらぼうだが、この日のために時間をかけて装備を選んだに違いない。真蛇はお揃いの格好をした貫を見て、何か言おうとしたがあえて今は何も言わなかった。
「……真蛇は国宝顔面持ってるくらいだから、2割増しセクシーに見えればゴールデンミズギもその気になって出てくるかも知れんしな……あ、でも詩歌の水着姿はあんま見んなよ。詩歌は俺のだからな」
「一緒にいて見るなって言う方が無理あるんだけど……な、なるべく見ないようにするよ!」
詩歌が着ているのも同じ【サマーアドベンチャー】なのだが、【花蘇芳】といった貫がプレゼントしたものだ。
かわいらしいフリルがあしらわれており、細い体にとてもよく似合っている。
「ていうか、むしろ見てくれなきゃダメなの! 意味がないっていうか……ゴールデンミズギ発見のためにも! な・の・で! 今の水着詩歌には自信しかないよ! こういう気持ちでいればきっと、ゴールデンミズギも自分から来てくれるよ!」
「じゃあ……3秒だけなら見ても大丈夫?」
「ダメだ! 特別に0.3秒だけだっっ!! 真蛇ならそのくらいの動体視力あるだろ!?」
「……いや、機械レベルだよそんなの……」
そんな軽口を叩き合いながら、密林の中へと入っていく三人。
【サマーアドベンチャー】の機能で、バーベキューに最適な食材になりそうなメガロブスターやイジリチキンはすぐに発見できた。
真蛇の術は発動に時間がかかるため、可能な限り貫が前衛となって敵を引き付ける。【飾り包丁・渦潮】でメガロブスターの群れを一閃し、【流水円舞】の後に【レイヤーオブアバターズ】を使っていつもより防御が手薄な状態でも何とか対処していった。詩歌も貫が動きやすくなるよう【昼】パワーオブラブを歌う。
そして貫が狙った部分に【宵の明星】でマーカーをつけて、捕獲しやすいようにサポートしていった。
【八感学】専攻「喜び(興奮)」も使って、捕獲した獲物が逃走しないよう足止めもしておく。イジリチキンが何やら罵声を浴びせてきたが、今日の詩歌は貫と真蛇がいることもあってメンタルはほぼ無敵状態のようだった。
三人の協力態勢が功を奏し、結果的に食べきれないほどの食材を手に入れたのだが、今度は拠点まで持って帰るのにも一苦労だった。
しかしここで活躍したのは、詩歌がはいている【オーサカランウェイ】の力だ。
食材の中に埋もれていたゴールデンミズギ(恐らく自ら寄ってきた)を手に入れた詩歌は、満面の笑みを浮かべて貫と真蛇とともに拠点へ戻ってきたのだった。今は、疲労すらも快適に感じてしまう。
拠点では、貫が簡易キッチンで【旅人の智慧】の刃渡りを捕獲してきた獲物のサイズに合わせて変えながら食べやすい大きさに捌いてゆき、再び【飾り包丁・渦潮】を使って見た目も整えてから【スタイル】御饌司で火を入れる。
「──なあ真蛇」
「なに?」
「以前、俺は特異者はそう簡単に死なないと言ったが……お前ももう特異者なんだよな。
だからきっと、かつてお前が言ったように、俺はどれだけ長生きしてもお前より長くは生きられないだろう。だから……これは詩歌の受け売りになるんだが、物でも思い出でも、お前が寂しい思いをしないようにこれからもたくさん残していく。その水着もこの料理も、そんな多くのうちの一つだ。俺に巻き込まれてきた日々は、寂しさなんて吹き飛ばしてくれるぞ」
【スープストック】も使えば、時短しながら皆がおなかいっぱい食べられる十分な量を作ることができる。
「……なんかこれ、ちょっとしょっぱくない?」
真蛇が、鼻をすすりながら味見をする。
味には絶対の自信があった貫は、「そんなはずないだろう」と自分でも味を確かめてみる。
そこまで塩気は感じなかったが、ごしごしと目をこする真蛇を見ると黙ってナプキンを渡してやった。
「さっきは言えなかったけどさ」
ありがとう、と真蛇が言いかけたところで、「あぢー----っ!!」と火の粉がかかって思わず声を上げる貫。
途端に二人は笑い転げる。
そして、焼けたばかりのメガロブスターを躊躇うことなく頬張る詩歌。
調理する前はどんな味がするのか、毒は大丈夫なのかと色々気にはなったが、貫が一度調理してくれたものであれば何でも食べられた。
「詩歌……今回も一緒に来てくれてありがとう。その……水着、似合ってるし可愛いぞ。
そうやって自信満々に着こなしてくれると選んだ甲斐があったよ。俺が先に死んでも、詩歌が寂しくないようにたくさんの物を贈ってるけど──詩歌が以前言ってくれたよな。
俺は無意識だったが、詩歌が俺の無意識にいつも気付かせてくれる」
「ううん、貰ってばかりなのは、感謝するべきなのは詩歌の方で……今も水着を貰ってるし、詩歌自身が当たり前すぎて忘れていた詩歌の言葉を、1つも忘れずに大切にしてくれてる」
「ああ……だから今日も詩歌と一緒に過ごして、また贈り物を増やせればなんて思ったんだ」
「そうだね、此の時間そのものが詩歌の宝物だよ……」
二人の顔が近づいたその時、今度は真蛇が「あづー----っ!!」とヤケドをしたような声を上げた。びっくりした詩歌と貫が額をぶつけ合い、思わず苦笑いになる。
──ゴールデンミズギは、今日の二人に敬意を表した真蛇が着ることになるのだが、それはもう少しだけ時間が経過してからのこと。三人はメガロブスターが真っ黒に焦げていることにも気づかず、ずっと笑い続けていた。