【1-3】
「界霊に狙われてるゴールデン水着か……早く見つけて、ワールドホライゾンを守らないとな」
そう言って、星川鍔姫と二人でメガロブスターとの戦闘に戦いを挑むのは【サマーアドベンチャー】を着て、いつもより二割増しでカッコ良く見える
星川 潤也。硬い甲羅目がけて繰り出した【フィアスラッシュ】と鍔姫の魔法が同時に決まると、潤也は思わず雄叫びを上げる。
「よし決まったァァ!」
「……バーベキュー用に皆で食べれるかも知れないわね、このロブスター。一応持っていきましょ」
ゴールデンミズギ捜索のついでに食材になりそうなものも採取して、二人は密林の奥へと更に進んでゆく。
二人の行く手を阻む次なる刺客はイジリチキンだ。
小柄であることを罵倒された鍔姫よりも、先に怒りを露わにしたのは潤也の方だった。
「俺は鍔姫が小柄でかわいいところも大好きなんだっ!」
湧き上がる感情に身を任せた【レイバーズオブハーキュリーズ】の十二連撃は、イジリチキンを瞬く間に弱らせてしまった。こちらも、食べれるかどうかはまた別の問題だ。
「鍔姫の水着姿、すごく素敵だよ。俺がこんなにドキドキするくらい……だから鍔姫には、もっと自信を持ってほしい」
鍔姫の肩をそっと抱き寄せて、高鳴る胸の鼓動を自ら伝える。
「べ、別に、自信がないなんて言った覚えないんだから……っ」
本当はうれしいはずなのに、素直に喜びを表さない鍔姫の表情も今日は一段とかわいく思えてしまう。
その時、何かを思いきり踏んづけたような気がして、潤也は足元を見た。
「……ゴールデン……ミズギ?」
鍔姫と二人でゆっくりとつまみ上げたものをまじまじと見つめる。
宝箱に入っているのを予想していたのだが、まさかこんな地面に落ちているとは予想外だった。【サマーアドベンチャー】の探索機能が働いた効果もあるのだろうが、何かの衝撃でここまで飛ばされてきたのだろうか?
「鍔姫が着てみる?」
「なんで私がっっ! 潤也が着てみせなさいよっ」
どういう理由でここに落ちていたのかは不明だが、潤也は促されるままにゴールデンミズギを装着してみることにした。はいた途端、目も当てられないくらいに輝き始めたゴールデンミズギ。似合っているかどうかもよく見えない。
「と、とりあえず……ミッション完了ってことでいいんじゃない?」
何だか腑に落ちないものはあったが、鍔姫に言われて納得した潤也。ゴールデンミズギを着た鍔姫の姿を想像したものの、肝心の部分は眩しすぎて頭の中でも何も見えなかったのは言うまでもない。
***
密林の中を颯爽と歩いていく
桐ヶ谷 遥と、彼女の後方を守る水元環。
水着を着たミューズのような二人は、ただ歩くだけでも一枚の絵画のように美しい。
手には【聖剣グロリアス】を携え、辺りに覆い茂るシダ植物を払いながら奥へ奥へと進んでいく。
密林には何が潜んでいるのか見当もつかなかったが、ここで恐怖を抱くことなく颯爽と突き進む遥の姿は、冷静沈着な環も思わず見惚れてしまうほどだ。
「遥、後ろだ!!」
後方からメガロブスターとイジリチキンが姿を現す。どんなに気配を消して近づいてこようとも、環の五感は敵を見逃さない。
遥は慌てずに【ジャストフィット】で冷静に対処しながらイジリチキンの罵倒を【流水円舞】によって受け流していく。カウンター狙いで攻撃を引き付け、機導式【輝刃】の光の刃で容赦なく斬った。刀身を伸ばすことで、間合いを見誤らせるのが狙いのコンボ技だ。
環も遥を援護するようにして、視界の悪い密林の中をゆっくりと移動する。
「──来るぞ!!」
今度は反対方向からイジリチキンが大量に沸いてくるのを見計らって、遥は【比翼の髪飾り】でタイミングを合わせてくれた環との同時攻撃を仕掛けた。二人の息はぴったりと合っている。更に【流水円舞】の後に【レイバーズオブハーキュリーズ】を組み合わせた連続斬りを仕掛けて、光の刃を華麗に振るい続けた。
逃げ場を環の攻撃が防いでいるため、イジリチキンの群れはどこにも逃げることができない。
やがて辺り一帯が静かになると、吹き飛ばした藪の中からゴールデンミズギが姿を現した。ふるふると震えていたが、環が拾い上げるとしばらくして少し落ち着き始めた。
「……馴れ合うつもりはないが……着てみるか?」
少し見ただけでもかなりの露出の高さが予想できる。
「ま、まぁいいわ……どんなミズギでも着こなしてみせるわよ」
水着の華麗さを環にアピールしたかった遥。ややセクシーさが強めとなったものの、環には眩いくらいの魅力がストレートに刺さったことだろう。あいにく感想を聞くことはできなかったが、突然出てきた鼻血が環の心中のすべてを物語っていた。
──ミッション達成、だ。
***
「ジュリー、今年の水着も似合ってるよ!」
ジュリー・カルスの腕に、はにかみながら抱きつく
織羽・カルス。
そんな綾羽の水着は、砂漠地方ローランドの水着をアレンジしたものだ。おそろいのペンダント【双月のペンダント】が胸元で光り、腕に結んだ【ジュリーズバンダナ】は対になっていてかわいらしい。これで準備万端だ。
そして、何があるか分からない密林の中へ入る前に、地図を見ながら【土地鑑(森林)】と【インスピレーション】を使って進行方向に大体のあたりをつける。
「んー……バイナリアのスキルも有用そうよね……」
どこへ進むかはあくまで運任せ。閃きを感じてから、
「あっちかも!」
と、大体の方角を決めて探索を開始した。転ばないようにジュリーと手を繋ぎながら、堂々とモデル歩きで進んでいった。
「わー、おいしそうなエビだー! でっかい!」
バーベキューのいい具材になりそうなメガロブスターが突然現れた。
ジュリーが綾羽をかばうようにして剣を構える。【マーレ・アリア】を歌って周囲に青の元素を満たし、咄嗟にジュリーのフォローをする織羽。
メガロブスターはジュリーの剣技には勝てなかったが、
「新鮮さを保てるようにね」
と、倒される前に織羽が大量の氷をぶつけたことが命取りになったようである。二人の連携プレーが早速生かされた戦いとなった。
「どこもケガしてない?」
「うん、大丈夫……♪」
歩み寄った二人がキスをしようとしたその時、イジリチキンが「ンギャア」と変な声を出して鳴いた。
驚いた織羽をこれでもかと罵倒し続けるイジリチキンだったが、
「は??」
目をぱちくりとさせて、織羽には全く何の効果もない。【ジュリーズバンダナ】の精神耐性もあるだろうが、何を言われてもひるむことなどなかった。
「可哀想……そうやって、だれかを蔑まないと自分を保てないんだね……。大丈夫、生きてればきっと良いこともあるよ! 元気出して!!」
憐みの目でイジリチキンを見ていると、逆に混乱し始めたのか、またもや「ンギャア」と変な声で鳴き始め、そのまま藪の中へ何かを落として姿を消してしまった。
「僕たちの愛の前では恐れをなしたのかも?」
笑いながらジュリーが言う。
イジリチキンが落としていったものを見つけるべく、織羽はもしやとおそるおそる手を伸ばす。ぐにゃりとした感覚に思わず手を引っ込めたが、勇気を出してもう一度──
「ゴールデンミズギ、とったどー!!」
イジリチキンが持っていたと思われるゴールデンミズギは、広げるとふんどしのような形をしていた。織羽とジュリーは顔を見合わせてにこりと微笑むと、
「えーと、ワールドホライゾンに寄付かな」
「うん決定」
織羽とジュリーが見つけたゴールデンミズギは決して着用されることはなかったが、二人は握りしめたままそっとキスをかわす。なぜか照れるゴールデンミズギは、ばつが悪そうに小さく輝いた。