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要塞鯱とミズギの怪

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要塞鯱とミズギの怪
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【1-1】

「これより! ゴールデンミズギ捜索作戦の概要を説明する!」

 この広い密林の中で効率よくゴールデンミズギを見つけ出すため、入念な計画を練った弥久 ウォークス。同行するのは桐島泰河、弥久 佳宵ティグリス・ブラック、そして桐島 風花だ。一連の流れを丁寧に説明してから、早速、捜索を開始。
 まずは【艦首回転衝角】と【艦首ドリルラム】がツインになった【鬼軍曹装甲車】をウォークスが運転して、碁盤のマスの様に密林の木をなぎ倒して道を作り、全体的に見通しをよくする。ウォークスの隣に座っているのは【サマーアドベンチャー】の水着を着た佳宵だ。
 車中はエアロシップ並みに空調が効いてるので、密林の中でも快適だった。

「ゴールデンミズギって、どんな感じなのでしょうね? 発光する水着だなんて想像もつかないのですが……危険物でしょうか……?」

「N界霊と同質のエネルギーを秘めているらしいが……。かなり角度の高いブーメランパンツかも知れないな」

「もしそうだったら、ウォークスさんがはきます?」

「如何に優れたエネルギーが有ろうとも、俺はそんな物は穿かないぞ!」

 もしも女性用で、露出度が高めのものであれば是非とも佳宵に着てほしいが、なぜかウォークスはなかなかそれを口に出すことはできなかった。
 拠点の構築にベストな地形を見つけた所で螺旋状に動くと、その周辺の木をドリルで薙ぎ倒していった。拠点は別の特異者たちが組み立ててくれることになっているので、後は任せておけば大丈夫だろう。

「だいたいにしてヌメヌメの両生類が、頑健な甲殻類の代表であるロブスターを名乗る事自体が烏滸がましいんですよ!!」

 後部座席に座っていたティグリスが、不意に過去を思い出したのか不満を口にし始めた。
 【レイス】マーメイドで尾鰭が付いた【オルディアンパレオ】の水着は今夏、人気のものだ。真っ先に流行を取り入れることは時代の最先端を読んで行動していることの表れだろう。

「少し前に僕がワールドホライゾンの街を散歩して、噴水の中の藻を食べたりしてたら、道中出会った子供に獰猛なロブスターと思われたのか、僕を見た瞬間逃げて行ったんですよ!
エビモドキの話が巷に出回った時期なのできっと奴のせいだ! 失礼極まりない話ですよほんとに!」

 車内でぶんぶんと鋏を振り回しながら熱弁も振るう様子を、皆は何も言わずに見守ってくれている。
 方向転換をして【トラストコマンダー】の安全運転で更に密林の奥へと突き進んでいくウォークス。やがて川にたどり着いたが、向こう岸までは【水蜘蛛】で簡単に移動が可能だ。
 川の上流を辿っていくと、突き当たりに滝があった。滝の裏側に入るため【生命感知】を発動する。ティグリスも【エネミーインファ】ですぐさま敵の位置を察知したようだ。

「……メガロブスターか!?」

 水浴びをしていたのか、こちらに気づいたメガロブスターの群れがおもむろに攻撃を仕掛けてきた。
 ウォークスは【トリンプオブテイン】でドリルを突き刺し、襲いかかってくるメガロブスターを次々と散らしてゆく。まだ回転しているドリルから飛び出したティグリスも戦闘態勢につく。
 佳宵はここが出番とばかりに、【領地:80人】楽市楽座と【触媒:1倍】十匁侍筒、【触媒:1倍】王者の器と【触媒:1倍】人徳、そして【触媒:4倍】王の冠を使って合計560人の亡霊兵を召喚する。【影武者】を使って全員がおそろいの水着姿は圧巻だった。
 亡霊兵は駆け足で出撃し、火縄銃でメガロブスターを次々と撃ち抜いてゆく。
 車両の屋根に仁王立ちして指揮を取りながら、佳宵は【天命の輝煌】も使う。
 【ホライゾンランス】を構えたティグリスは【影狼の眼】で急所を狙い、槍に闇を纏わせた【ES】ダークハウンドで、【ES】影の咆哮を上げて勇ましく攻撃を仕掛けた。 
 ──弱り果てたメガロブスターたちが守るようにしていた物。
 それこそが、まさにゴールデンミズギなのだった。

「……まじで超光ってるな、ゴールデンミズギ……」

 倒れて積み重なったメガロブスターたちの中から、恐る恐るゴールデンミズギをつまみ上げた桐島泰河。

「噛みつかれたりしない……?」

 【矯正水着】の効果でいつもよりダイナマイトボディになった体の上から【超一流Tシャツ】を着た姿で、ぴったりと泰河にくっつきながら風花が覗き込む。

「とりあえずは大丈夫そうだな。エビと一緒に撃ち抜かれなかったのが奇跡だぜ」

 ゴールデンミズギは少し湿っていたものの、びろーんと伸ばしてみると心なしか輝きが増してきたように思える。 
 これを誰が着るかは後で考えるとして、泰河は風花の手を引っ張って岩の上に座らせてやった。自分も隣に座り、二人は頭上から流れ落ちてくる滝の流れをしばしの間見つめていた。
 風花が泰河の腕を自分の胸で挟むようにしてぎゅっと組んでみせると、泰河が柄もなく照れ始める。その反応が何だかものすごく新鮮で──風花は自然と笑みがこぼれてしまったのだった。
 そして大量のメガロブスターを携え拠点に戻ってからは、すでに設置されていた簡易キッチンで料理に精を出す。
 メガロブスターの他にイジリチキン、他にもここまで持ち込んだ調味料と、密林で見付けた香草などを手早く切り分けてゆく。
 【スタイル】食皇の効果で攻撃した部位は旨味が増すため【食神降臨】でいったん巨大化してから、【妖包丁・國幸】で【ゴッドベイン】を使い、更に【調理知識:和】できちんと包丁を入れてからきれいに捌いていった。
 キャンプの炎で豪快な丸焼きが出来上がると誰よりも先に泰河に食べてもらうため、皿へきれいに盛り付けると、

「風花、お疲れ様」

 フォークで突き刺した焼き立てのメガロブスターを、泰河が風花に食べさせてくれたのだった。そんな微笑ましい光景を見ていた佳宵も、隣にいたウォークスの口に容赦なく熱々のイジリチキンを詰め込んだ。

***

「ししょーの、健康に……あんしんを、届ける為にも……運動がてら……調査、しよ……?
別に私が、1人だとめんどーとか……そういうわけでは、ない……し……?うん……」

 別の場所では、シュナトゥ・ヴェルセリオスがメガロブスターの群れに攻撃を仕掛けていた。シュナトゥが「ししょー!」と呼ぶ相手はベルナデッタだ。竜族の血を引くサラマンドとほぼ互角の腕力を誇るため、メガロブスター相手であれば何頭でも連続でぶん投げることができる。
 シュナトゥは死角からの攻撃と通常の矢を使い分け、【狙い撃つ】。
 タイミングを合わせたところでベルナデッタと連携し、自分も攻撃に巻き込まれないよう一定の距離を保ってメガロブスターと対峙し続けた。
 囲まれると動きづらくなるため、【融和】周囲の元素や魔力を取り込み、【地急行くBernstein】で真下から矢を飛ばした。

「地急ぎ行きて、護り届け――Bernstein――!」

 矢に射貫かれたメガロブスターが次々と積み上がっていく。そこまで苦戦はしなかったものの、数が多いと殲滅するまでにどうしても時間を要する。
 【アルトルークの霊水】は最高級品だが、こんな時だからこそ使ってみるシュナトゥ。
 キャンプファイヤーの炎を見つめながら、しばし休息の時間を過ごした。
 獣耳フードのついた外套はさすがに暑そうなベルナデッタは、顔の前で手を仰いで風を起こしている。

「最近、ししょーとお話……できてなくて、お話したかったのは……本当だから……ね……
ランディスて人……竜……? うん、どちらにしても……あの人は、凄い人……だた……」

 ランディスはまだ黄の王にはなっていないようだったが、ベルナデッタのように皆から頼られる人で、いつか自分もあんな風に皆に安心を届けてあげられるくらいに強くなりたい──と、
シュナトゥは自分の思いをベルナデッタに伝えたのだった。

「あんたの気持ち、よー分かったさ。人から頼られるようになるには、それなりに経験も必要さね。一朝一夕ではなかなか難しいけども、ランディスならいつか……」

「……きっと……」

 頷いて、シュナトゥは立ち上がるとスクール水着を取り出した。
 外套を脱いで着替えれば涼しく快適に過ごせるとベルナデッタに説明するが、納得させるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。ベルナデッタの水着姿か、キャンプファイヤーの薪がなくなるか、どちらが先になるかは予測が難しい──そんな状況がずっと続いていた。

***

 同じ頃。
 海に臨む南の島──と言うと聞こえはいいが正式なリゾート地ではないため、未開の場所にはどんな危険が潜んでいるか分からない。エリナ・アークライトをはじめ、この島へやって来た特異者たちがあちこちに分かれて、すでに探索を開始していた。
 数多彩 茉由良は、木花子、アシュトリィ・エィラスシードカラビンカ・ギーターベネディクティオ・アートマとともに「海の家」をイメージした探索の拠点の製作に取りかかっている。

「みつりんの いちぶを きりひらいて、きょてんを たてましょう。
 そのときに でた もくざいは、そのまま きょてんの メインざいりょうに。
 あるていど、ひらけた ところの ほうが、げんちの きょういに たいおう し やすい、でしょうし……さくで かこえば、たいしょも し やすく なりますしね。
 かべや やねが ある ほうが、きゅうけいも しやすい ですし、あんしん できます」

 できるだけ短時間で作れるように完成のイメージを全員で共有してから、茉由良がアンサンブルを発現した。大きな働きは期待できないが、ちゃんと動きを指示すれば精霊たちも何かしらの手伝いをしてくれるはずだ。
 花子も同様に精霊を召喚し、簡単な作業を依頼してくれている。作業の効率は予測以上に
上がるだろう。

「花子先輩、よろしくお願いしますわね。あの”海の家”の時以上の、納得いくものを今度は一緒に作るのでございますわ」

 誰よりも真っ先に取りかかったのはカラビンカだ。
 過去に同じような経験があるため、茉由良のイメージをすぐに理解して実行に移すことができるのは大きな強みだ。

「ここで みんなが すこしでも……やすんで くれると いいんですが」

「大丈夫ですよ。茉由良先輩が計画してくれた拠点が、必ず皆さんの癒しの場所になります」

 花子は木材をかき集めては次々と積み上げる。暑いところも大して気にならないのだろう、楽しそうに作業を進める花子を見て茉由良も負けじと木材を組んだ。
 まるで呼応し合うかのように、茉由良と花子の作業スピードは同じ調子で進んでいる。
 木材の運搬にはカラビンカが発動した【クラウドゴンドラ】が大活躍中だ。ゴンドラは一つにつき一人しか乗れないが、逆にそれが利点となって動きやすい。

「言い忘れていましたが……その水着、とってもよく似合ってます♪」

 花子に言われて、思わず面食らう茉由良。

「ひとに みられるのは はずかしい……です」

「アイドルなんですから……見られてナンボ!ですよ!
 でもここでは肌を露出すると虫に刺されたりしちゃいますから、気をつけてくださいね。
 はい、ラッシュガード貸してあげます」

「ありがとう ございます」

「さードンドンいくよ! ジャンジャン斬って、ジャンジャン運ぶよ~!!」

 ベネディクティオが【マイティパフォーマー】ならではのパワーを思う存分発揮し、【R・ガナシカリバー(フェスタ)】のレーザーブレードを使って木を根元から次々と斬り倒していく。【大殺陣回し】の後に【スウィングラッシュプレイ】、そして【『ディスマンタリング】を使えば、拠点設営予定地だった密林の一部はあっという間に切り開かれていった。
 【ブレイジングアイリス】で空中を歩いて木材を運搬し、必要な場所に固定する。

「私たちで、リゾート地の開発会社を立ち上げられそうですね」

 花子が笑いながらそんな提案をしてみせる。

「確かに、悪くないかも? 何か出てきてもやっつけられるし……なんか、自分たちで何でもできちゃいそうな気になってきた~!」

 モチベーションが上がったおかげもあってか、ベネディクティオの作業はみるみる進んでいく。
 確保した更地の周りをカラビンカが柵で囲い、出入口を限定することで襲撃対策に備える。拠点の1階部分は、過去に作った”海の家”のようなのんびりとしたスペースにしたい。組み上げた木材の上を板張りにし、2階は、寝泊りができるように天井から布を垂らして部屋を分けていった。複数の個室、相部屋、大部屋まであり、防音がわりに植物も設置した。
 この規模ではおそらく百人前後が収容可能できるはずだ、拠点は他の場所にも設置されているが、仮に全員がここへ集まってもゆったり過ごせそうだ。

「これで、リゾートの会社設立確定だねっ!」

 ベネディクティオが花子に向かってウィンクをすると、花子は大きく頷いた。
 彼女たちは、新たな可能性をまだまだ無数に秘めている。一人では限界があることも、このようにお互い協力することで大きな成果を生み出していけるのだ。

「木材以外の必要材料がありましたら、言って下さいませ。大量は無理ですけれど……ある程度は、何とかしますわ」

 アシュトリィが【オルガノレウム・イミテーション】を使った。これでアダプターのスキルが使えるようになったはずだ。
 【アライブクリエイトEX】を軸にして【インクリメントⅠ】と【フルフィル】のコンボを発動する。木材が少しでも壊れにくいよう、強度を高めて皆の安全を守るのだ。
 だが、さすがに対象が大きすぎることもあってか、効果を定着させるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。最終的にはアシュトリィの体力次第ということになるだろうが、無理しすぎないように花子も彼女を気にかけている。

「みんなが来るまでにはまだまだ時間がかかるでしょうから……急がなくても大丈夫ですよ。間に合わなければ木陰で待ってもらうという手もありますし!」

「はい……できる限り、がんばります……!」

 皆がここへやって来た後のことも考えると、この作業だけに全力を尽くすわけにもいかないのは確かだ。途中で作業を止めて空を仰ぎ、いつの間にかアシュトリィの額に滲んでいた汗を拭う。

「でも、こんな苦労が実はちょっと楽しかったりするのですよね……」

 ここでくつろぐ皆の顔が見れるのを楽しみに、アシュトリィはもう一息、作業に精を出したのだった。
 建物から少し離れた場所で、バーベキュー用のスペースを作ったカラビンカはアシュトリィたちに向かって手を振る。
 キャンプファイヤーができるように木材を運んだり、グランピングができるように布を張ったり、まるでリゾート地を思わせる拠点になったことにカラビンカは満足そうな笑みを浮かべた。
 グランピングの場所をもう少し充実させるため、イドラの騎士と協力して作業を進めているのはアーヴェント・S・エルデノヴァだ。
 【土地鑑(森林)】を活かしてテントを設営し、必要な資材を確保する。
 道に迷った人がここを見つけやすいように、【アナウンスツリー】を立てた。これで準備は完了だ。
 ここからの作業はアーヴェントの個人的な趣味のようなものだ。【木工技術】を使った落ちている木や枝を使って、家具の製作に取りかかる。家具製作に必要な道具は【アライブクリエイトEX】で作り出した。

「そういえば……君は闇堕ち美少女アイドルが好きだと思ってるんだが、どういうところに魅力を感じるんだ?」

「……いきなり単刀直入な質問だな」

「アイドルの端くれとして色んなジャンルを学びたいし……何より、君が好きなものをもっと知りたい」

「それは相手を口説く時に使うセリフだと思うのだが……深読みはしないでおこう」

 イドラの騎士はアーヴェントが作り出した金づちを持つと、おもむろに釘を打ち始める。

「アイドルは何度見ても飽きないからな。いつ見ても新たな発見がある──そこが一番魅力を感じる部分かも知れない……とでも言っておこうか」

「なるほど。なかなか核心をついてるな……ありがとう。それにしても、暑いだろそれ」

 アーヴェントに指摘されて、イドラの騎士は自分の胸や腕に手を当てる。
 言われてみればこの炎天下、コートにフードは確かに暑い。

「……なあ、自分と二人きりの時は、フードを外すのはどうだろう?」

「だからそういう台詞は口説く時に使うものだと何度も」

「ある意味そうかも知れない。イドラ教団のイドラの騎士である君とじゃなくて、友達として話したいんだ。もちろん嫌なら無理に外させたりはしない……でも一つだけ知っていて欲しい。
もし君がよければ、友人になりたいんだ」

 イドラの騎士は何も言わず、フードを外した。──それが、すべての答えなのだろう。

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